第53話:帰還後
宿に帰るとラッシーが尻尾を振って飛び掛ってきた。
「よしよし、すまんな1週間以上空けてしまったな。」
犬に散歩をせがまれたのでそのまま散歩に出かける。
裏手に回るとコンパネが高く組まれていた。
ドワーフ建築家のカザードと作業員が数名いる。
「リク殿、ご無事でしたか。」
「ちょっと人助けでライア庄まで送って行ったら帰りが遅くなりました。」
「ライア庄まで行ったんですか、そりゃ時間がかかる。」
「1階までコンクリートを打設してありますね。」
ちょっと基礎を教えただけでここまで出来るとはドワーフ侮り難し。
ちょっと気になる所を指摘しただけで2階も出来てしまいそうだ。
「最初の施工方法でやっているのですね。」
「新しい図面がなかったからじゃが、問題だったか。」
「いえ、作るのが難しそうなので、柱だけにしようとしたのですが、ここまで出来るなら問題ないでしょう。」
カザートは胸を撫で下ろす。
勝手に仕事を進めたのを気にしていたようだ。
「このセメントという物は面白い性質をもっているな。」
「そうでしょ、好きな形の石を作れると思えば有用性が高いですね。」
「こいつの作り方を教えてくれんか。」
話を変えてきた、かなり緊張しているように聞こえる。
まあそうだろうな、今までにない技術をいきなり教えろと言っているのだから。
「石灰石、粘土、珪石を乾燥させて混ぜるだけですよ。」
「そんなに簡単に教えても良いのか。」
「石灰と火山灰を使う方法もあります。」
「こちらで研究しても良いか。」
「どうぞどうぞ。購入していただけるならサンプルで持って行ってください。」
「値段を聞くのが怖いがどのくらいで売ってくれるのか。」
頭の中でそろばんを弾く10%以上粗利があれば良いがもっと高めに設定した。
「1袋で銀貨1枚かな。」
「安っす。」
カザード思わず口に手を当てた。
「今の無しじゃ。」
思わず笑ってしまった。
セメントの材料の粘土と珪石は錬金機器の取り外した入口を持って行けば採集場所でほぼ無限に手に入れることが出来る。
石灰石も高くない。
それを合成するだけで最大5倍に増やす事ができるので大儲けだ。
「まあ、出来るだけ安く販売できるよう努力しますので当店をご贔屓にしてください。」
本当は銅1枚でも良かったのだが、店が銅貨だらけになると困るので止めた。
研究されてもこっちは燃料費や運賃が必要ないので、低価格を武器に販売を独占するつもりだ。
「そうか、10袋購入させて頂こうかの。」
「10袋以上お買い上げのお客様にはもう10袋プレゼントしますね。」
「おい、おかしいだろそれ!どんな販売方法だ。」
そんなやり取りをして宿に戻る。
ラッシーを離すと馬小屋の中の自分の小屋に走っていく。
実に利口な犬だ、預かった馬の見張りもしてくれるし今度はこいつの装備を作ろうかな。
宿に入ると皆が集まっていた。
「お帰りなさい。」
「ちょっと遅くなったね。」
ほぼ全員がそろっている。
話を聞いたところ皆は相当心配したようだ。
皆にごめんとごめんと何度も謝りながら椅子に座る。
建物の施工を完成するまで監督する予定だったので、それ以外は特にやる事はない。
スカーレットとマリーヌに従業員の女性とベニーのレベルアップをお願いした。
全従業員のレベルを最低でも3レベルまで上げようかと思っていた。
レベルが上がるとスキルや特技、能力値が増えるので従業員の能力を上げようと思っていた。
死なれると困るので、レベルが高いスカーレットとマリーヌに連れて行ってもらおうと思ったのだ。
「私は戦いたくないわ。」
従業員の中でもベニーが一番嫌がった。
無理強いもいけないので、了承する。
『グゥー』
派手にお腹が鳴る、ここ1週間近く保存食ばかり食べてきたからだ。
スカーレットが俺のマントを受け取りながら。
「ご飯にします、それとも桶に湯を用意しましょうか。」
「温かい食事をお願いします。」
どうせなら「それともわ・た・し。」と言って欲しかったな。
スカーレットの後姿(特にお尻)を見送りながら、こんな夫婦生活も良いかなと思う。
「「何処を見てるのですか。」」
女性陣が非難の声をあげる。
1週間以上息子をいじってなければムラムラするのが健康な男子でしょ。
「すいません、お尻を見ていました。」
ここは素直に謝っておこう。
何故かがっかり感を出している女性陣。
そういえば、今日はミニスカート率が多いな。
小声で、フレデリックに聞いてみる。
「なあ、フレデリック今日ミニスカートが多くないか。」
「マリーヌの太ももにかぶりついただろ、お前がミニスカート好きだと思ってわざわざ丈を短くしてるんだよ。」
「おれ、ミニスカート好きって言ってないけど。」
「お前の気を引こうと思ってるんだよ、モテモテじゃないか。」
「そ、そうかな。」
最近魔法のアイテムでそこそこお金を儲けているので、それ目当てなら嫌だな。
食事が来たので適当に話を切り上げる。
普段がっつかないラントでさえバクバク食べている、温かいご飯は美味いな。
食後にスカーレットを連れて新築の所に行く。
フル装備でお願いした。
「だいぶ建ってきましたね。」
「そうだね、人数を集めてもらって作業しているから早い早い。ドワーフは優秀だな。」
こんな話しをしながら隅にあるコンパネを解体する。
1mのコンクリートキューブが出来上がっていた。
「これを破壊できますか。」
「破壊しても良いのですか。」
「ちょっとした耐久力の実験だと思ってくれれば良いです。無理ならメルカバを呼びます。」
スカーレットはコンクリートをコンコン叩く。
「石のようで石では無いですね、やってみます。」
呼吸と整えると『ガッ』軽く殴る、そのまま肘、膝、回し蹴りと攻撃の回転速度を上げていく。
『ゴッ、ガッ、バゴ』
最後に頭突きで盛大にコンクリートが破壊されて終了、『コォー』息を吐き出すスカーレット。
武道家すげーな、コンクリートの塊は所々欠けて一部は鉄筋まで見えている。
「以前に師匠が大岩を頭突きで割ったのを真似てみました。」
「頭で岩が割れるんだね。」
「本物の岩ならまだ無理でしょうね。このコンクリートは岩よりも柔らかいので割れました。」
「それでも驚きだけどね。」
コンクリートの破片や本体を確認する。
破片は体積が軽くなり軽石のように所々穴空き状態になった。
本体のコンクリートは状態が変わってなかった。
もし少しの傷で本体が軽石のようになったのなら、そのようなセメントは基礎には使用できない。
破片だけは壊れたと認識して、何らかの物質が抜けたようだ。
「リク、この破片こんなに脆かったかしら。」
「錬金機械で作成して量が増えている分が戻るみたいなんです。」
その後は何処まで破壊すると元に戻るか実験をした、基礎から剥離した物は元の物質量に戻るようだ。
スカーレットにはお礼を言って、建築工事の監督をする事にした。
床を敷く作業を行う、すでに資材置き場に波鉄板デッキプレートを置いてあるのでそれを使用する。
レッカーは無いが、ドワーフ達は見事に鉄板を引き上げて敷きこむ。
人力で石の橋を作る種族に難しい作業では無かったのだろう。
「素晴らしい技術力ですね。」
「お前に言われると一族の皆も喜ぶじゃろう。」
カザードと共に床の敷き込みを行い本日の作業を終了した。
流石に頑張りすぎたのでへとへとだった。
夕食後に部屋に戻りベットに潜り込む。
ベニーがやってくる。
「空いているぞ。」
「本当に鍵をかけないんですね。」
「我が家で部屋に鍵をかけるやつがいるか。」
「お疲れですか。」
「マッサージしてくれると嬉しいな。」
ベニーにマッサージをしてもらう。
実に気持ちが良い、夜も頑張っちゃいたいなと思いながら気が付いたら朝だった。
異世界冒険日68目
週に2度更新をしていましたが、話のストックが無くなりました。
申し訳ございませんが1週間に1度の更新を目指して頑張りたいと思います。




