第51話:ライア庄
今俺は、ドラッデエンヘイルまたの名をライア庄にいる。
着いた時にはここの何処が村なんだと思うほど市場には人が集まっていた。
リザードマン達を助けてから4日間移動した、はっきり言って遠い、魔法の絨毯が無ければもっと日数がかかるのだろう。
初期状態のマップからは出ていた、ブルグント大国周辺の地域をダウンロードしてあって良かった。
船の定期便が出ているのでこれに乗ると1週間でライア庄からランスまでいけるようだが領主の許可が無ければ乗れないようだ。
で俺達はライア庄に付いてから兵舎に行きザリガニの化け物を倒した報酬を受け取ると同時に、リザードマン親子を引き渡した。
兵士にリザードマンがいて、知り合いだったのでスムーズに話が進んだ。
久々のベットだ、しかも、少し奮発したのでふかふかのベット、休憩していると屈強なリザードマンがやって来た。
ステータスを確認すると、怪物レベル2・戦士レベル3を持っていた。
他のリザードマンも確認したが、成人のリザードマンは怪物レベル2を始めから持っているので強い。
肉体的にも厚い外皮や、牙や爪、強靭な肉体を持っているのでレベル1補正があり総合計レベル6だった。
ちょっとした町なら兵士長や署長のレベルだ。
「偉大なるゾ・デスの息子ゾ・ルガわが部族の者の保護感謝する。」
「リクですよろしく。」
「良ければ、この地を治めている貴族を紹介したい。」
「あれ?ここって、ノーマジン女史じゃなくてバイオレットさんが村長でしたよね。まだランスにいるような気がするけど。」
「バイオレット殿はサウザンド卿がここに滞在してない時の代わりの村長です。」
サウザンドは殆ど村にいないため普段はバイオレットが治めているようだ。
少しビッキーの説明やライア庄の話をする。
「ビッキーの師匠バイオレットさんの仕えている御仁か一度挨拶をさせて頂こうかな。」
「バイオレット殿の弟子でしたか、これは知らずと失礼しました。」
村長の家というより、役所に連れて行かれる。
ちょっと歩くと分かるのだが、何処を見ても村ではなく町というレベルに発展している。
ただ、珍しい種族が多い、ノームにダークエルフまでいる。
ダークエルフの女性は肌が露な格好なのに聖職者とか、性職者じゃないのかこれ。
『全ての解放者』の僧侶、俺も入信しようかな。
「リクさんちょっと見すぎです。」
ガン見しているのをラントに指摘されてしまった。
「ダークエルフってめちゃくちゃ美人なのにあんな格好の衣装を着てたら男なら見ちゃうよな。」
「はい、でも目が合うと笑顔で返されるので恥ずかしいです。」
「ちょっと寄付してこいよ。」
適当に貨幣を包んでラントに渡す。
「嫌です。」
「そんな事を言うな何事も経験だ。」
嫌がるラントを無理やり引っ張って寄付させる、ラントはずっと下を向いたままだ。
ちょっと驚いているお姉さん。
「これは、奴隷などを開放する為の神への賛同として頂けばよろしかったでしょうか、私達を辱める為のものならば神の冒涜です受け取れません。」
「実を言いますと少しはその美しい体を近くで見たいのも有りますが、『全ての解放者』の僧侶でもあるバイオレット殿に俺のパーティメンバーがお世話に成っているので感謝を込めてのお布施です。」
「それならばありがたく頂きます。」
なにか、祝詞みたいな物を唱えられる。
「いくら寄付してきたんですか。」
「怪物を倒した報酬の1割かな。」
「金貨60枚も渡したんですか。」
「白金貨6枚だよ。」
「価値は一緒です。」
確か報酬を5人で割ったら金貨585枚になったので、俺は白金貨58枚と金貨5枚もらった。
マリーヌにあきれられたがまあいいだろう。
「寄付するのも信仰も自由だ。」
メルカバが見かねて助け舟を出してきた。
味方してくれるのは有りがたいが、後から肩に乳を乗せるのを止めてくれ純粋に重い。
その後ザウザンド卿と面会した。
貴族と言われて緊張したが、会ってみると意外とフレンドリーな感じだった。
ただ、上級職の影使いレベル3が非常に気になった。
ステータスも非常に高く盗賊レベル8を持っているので総合レベル11だ、俺では勝てないな。
「おう、適当に座ってくれ。」
「失礼します。」
「元々貴族じゃないんだ、畏まらないでくれ。」
元々アルトシュタイン公の腹心の将軍の下で諜報活動をやっていたが、その戦士が『赤の邪教団』の魔術師の罠で異世界に飛ばされてからはサウザンドの所属するパーティの重要度が増し、数多くの功績を挙げた事から貴族に取り立てられ今はこの地を治めている。
現在の将軍はサウザンドのパーティの戦士のドライクが警備や軍を指揮していると教えられた。
「実を言いますと異世界に興味があります。」
「なら、俺のパーティメンバーのサロックが詳しいだろう。地下ノームと気が合って今は引きこもり研究に明け暮れる生活をしている。尋ねるといい。」
「ありがとうございます。」
色々話したいが忙しそうだったので又にする、「早くバイオレット帰って来い。」とつぶやいたのを俺は聞き逃さなかった。
宿に戻りゆっくり休む、ラントと同室だ。
「ここ一番いい部屋ですよね。」
「ああ、ここの宿ではな。」
「僕の分まで出してもらって良いんですか。」
「逆に一緒に泊まってくれ、ゆっくり休みたい。」
メルカバに襲われないかひやひやしていた。
「即席要塞でも一緒に寝てましたもんね。」
「あいつ俺に胸を乗せてくるんだぜ、メロンみたいな大きい胸なんてただの肉塊だよ欲情なんてしないよ。」
「僕はあんな美人に好かれて羨ましいです。」
「お前にはあいつの恐ろしさがまだ分からんよ、ただラントがいると襲われないから助かる。」
どうやらラントがいるとメルカバも自重して襲わないので今日は身の危険を感じない。
「それに、マリーヌとメルカバを一緒にしたかったんだ。」
どうもマリーヌはメルカバを避けているようでこの旅で仲良くなってもらいたかった。
出来ればビッキーを連れて来たくなかったが緩衝となる人も必要かもしれないので連れて来た。
「先に寝てろ、あいつらに酒と肴の差し入れをしてくる。」
その後・・・
上手い酒と肴を差し入れし多少でも親交を深める事が出来たと思うがそれはまた別の話だ。
次の日にスクロールなどアイテム屋を周った後にサロックの元を尋ねる事にした。
小さな町レベルと思ったが変わったアイテムが多く揃っていた。
スクロールと地下の変わった素材のアイテムを購入した。
午後にサロックの元を訪れると寝ていた、どやら完全に昼夜逆転しているようで夜に再び訪れる事にした。
夜にサロックの住居のある地下に行くと昼間以上に人が溢れていた。
「凄いな、昼の町より人が多いな。」
ノームやドワーフ、ダークエルフの兵士までいる。
昨日のダークエルフの僧侶がいる。
「こんばんは、朝も夜も良く働きますね。」
「助けが必要な者がいれば何処にでも行きます。」
「眠くならないんですか。」
「あら、エルフは寝ないんですよ。知らないんですか。」
「え!、いつも起きてるんですか。」
「眠る代わりに瞑想をします、それでも人の睡眠の半分ぐらいですかね。」
驚く事にエルフは寝ることが無く、睡眠の呪文にも耐性があるようだ。
今後の冒険は安全に休息を取れる所ばかりではない、ぜひ1人はパーティに欲しい。
「お姉さんみたいな人をパーティに向かえたいですね。」
「あら、嬉しい事を」
両耳が引っ張られる。
「何言ってる。」
「そうですよ、エロい目で見すぎです。」
「痛ででで、違うって僧侶がパーティに欲しいなとか寝ない人が居ると便利と思ってさ。」
マリーヌとメルカバは息の合った連携プレイで俺はダークエルフから引きずり離された。
「2人とも止めて、マジ耳が伸びるって。」
何でうちのメンバーは耳を引っ張るのか、ひょっとしてこの世界の住人は耳を引っ張るのが好きなのか。
俺はダークエルフのお姉さんに手を振りながら引きずられていった。
サロックの元を尋ねると、中からサロック本人が出てきた。
何で分かるかって、それはステータス欄の名前にサロックとなっているからだ。
種族はノームで魔術師レベル11とかなり高い。
「初めまして、領主より紹介を頂きました。」
「ああ、サウザンドからか、まあ立ち話もなんだし、お入りな。」
半地下の家に通される。
意外と涼しい、地下の温度は年中一定だからか、でも土圧とかどうしているか気になるな。
問題は、家の天井の高さが低い事だ。
俺でも首を下げなければ当たる、2m越えのメルカバなんかは窮屈そうだ。
「興味が無ければ買い物とかに行ってもいいぞ。」
「私はライア庄の夜の市場に興味があります。」
「私は難しい話は苦手だ。」
マリーヌとメルカバは買い物に出かける事になった。
お小遣いあげようかと言ったら必要ないと断られた。
座るとサロックは怪しげなガラス器具から飲み物を抽出している。
昔の喫茶店でよくあったコーヒーサイフォンってやつだ、問題はコップがどう見てもビーカーな事だ。
味はコーヒーとはちょっと違うが豆の香りが効いた飲み物だな。
「久々にサイフォン式の器具を見ました。」
「へー、これ知ってるんだ。」
「前の世界ではこれで入れたコーヒーを良く飲んでいました。」
「異世界から来たと言う事で良いのかな。」
「そうですね。」
本題に入る、異世界の事を聞くと本を持ってきて図を見せてくれる。
「大きく分けるとここが今いる物質世界、外にエレメンタル界、さらに外に地獄や天国かな。」
説明では、物質界を中心に火風水土の世界が外にあり、さらに外には属性に分かれた強烈な世界があると教えてくれる。。
「まあ、物質界もエーテル界や影界が重なっているから実際には何層にもなっている。と言っても分からないよね。」
「詳しく教えてください。」
物質界の裏に影界があり影の世界を渡る呪文が有る、サウザンドのような影使いはクラスの能力で影界を移動したりその世界の力を使ったり出来るようだ。
物質界の影の世界で、偽物が魔力で実在化したような世界だとか。
エーテル界は物質界の精神的な世界で、幽霊の世界と言えば分かり易いらしい。
エーテル界から物質界に移動して攻撃してくるゴーストなどのモンスターも居るので気をつけるようにと言われた。
逆にエーテル界から物質界に移動手段を持っていなければ触る事も出来ないので無害だとか。
「何となく分かりました。」
「結構理解力が良いね。じゃあ、エレメンタル界の話をしようか。」
エレメンタル界は火、水、風、土、負、正に分かれていて物質界に力を与えている。
火の影響が強い所では火山や砂漠、水の影響が強い所では海や雨季が多いなど。
「でも行くのはお勧めしない、その世界は純粋にそれしかないから生物は生きるのが難しい。」
火の世界は灼熱地獄、水の世界は全てが水これでは生物は生きられない。
「さらに外の世界の話をしよう。」
天国や地獄と呼ぶに相応しい場所が最外装部にあるようだ。
善の属性が強い所では天使、悪の属性が強い所では悪魔が住み。
混沌の属性が強い所では様々な特性が混じった生物、秩序の属性が強い所では機械の様な生物が住んでいる。
神も自分の属性に合わせた世界に住んでいる、エルフなどは自分の信仰する神と暮らすため理想郷として移住する者も居るとか。
「これは持論ですが、我々が死ぬと魂はその属性に合わせた外の世界に吸収されるんじゃないかな。大体分かりましたか。」
「他の次元界と言っても俺が住んでいた世界とはどれも違う気がします。」
「次元界は水に浮いている玉みたいな物で物質界も沢山あるんだよ。何かの拍子で隣の玉と接触した時に次元の扉が開く事もある。」
「じゃあ、俺のいた世界はお隣さんなのかな。」
「うーん、何を基準に隣と言うか分からないね。月の満ち欠けでも次元の扉が開く事もあるから。」
「じゃあ帰る方法は無いのか。」
「いや、元の世界さえ特定できれば呪文で行けると思う。」
ビッキーと顔を見合わせ軽くガッツポーズを取る。
「でも僕には特定する手段がない。」
「どうしてですか。」
「無限に広がった箱から1個のボールを捜すのに近い。」
「超弦理論か。」
「それは何だい。」
「この世界は10次元+1つの時間軸で11次元で出来ていてるって事さ。」
「僕に分かるように説明してくれないか。」
「俺も詳しくないけど、一般相対性理論と量子理論を整合性するには計算上でベクトルが10本必要だという内容だったかな。」
「相対性理論とはなんだい、量子理論も教えて欲しいな。」
だらだら冷や汗を流しながら説明する。
物理学者じゃないから詳しくは説明できないが何とかサロックを納得させる事ができた。
説明と質問攻めで疲れて机に突っ伏している俺に向かって。
「凄いなリクは、ぜひ元の世界に行くときは同行したいな。」
「そんな知識を持っているなんて驚きました。」
「特に次元界1つを内側に折曲げたチューブの中と仮定している所が面白い。」
サロックとビッキーに褒められるが本当に合っているかは自信がない。
「でも可能性が無いわけではない、二次元的に見ると無理でも、多次元的にみると竜巻のようにすり鉢に成っていて、その根元に行けば全ての次元に通じている場所が有ると言われている。」
「そんな所が有るのですか。」
「その場所はとても大きな都市で手に入らない物は無いとこの書物には書かれている。」
ページを捲りながら。
「2つの次元同士をつなげる次元の鍵を売っている。」
全部の世界が繋がっている場所なら帰れる鍵も売っているだろう。
「どうやって行くんですか。」
「魔術師呪文では僕もまだ使えないな。史跡調査学会のクレリック「ビショップ」なら異世界に行く呪文が使えたな。」
「遺跡調査学会?」
「ああ、ごめんパーティメンバーのビショップって男だよ。」
「紹介してもらっても良いですかか。」
「良いけど今はアルトシュタインに戻っているかな。」
アルトシュタインか、ランスに戻らなければいけないので今回は諦めよう。
サロックにお礼を言って家を出るとマリーヌ達は外で待っていた。
「収穫は有ったかしら。」
「いろいろ有ったから一度ランスに戻ろう。」
深夜でも人が絶えない市場を抜けて宿に戻る。
異世界冒険日61目




