第1話:蘇生
不覚にも薬草の採取に気を取られゴブリンに囲まれてしまったスプモーニ。
彼は素手でもモンスターを倒すことができる武道家であるが囲まれるのは危険だ。
すでに3匹のゴブリンは彼を等間隔に包囲していた。
スプモーニは包囲網を崩すように駆け出し1体を攻撃する。
抜き手で急所を攻撃し上段蹴りを浴びせると、コミカルに転がって動かなくなった。
それでも残り2匹のゴブリンは息を合わせ、スプモーニを挟み攻撃する。
「ちっ、良く訓練されていやがる。」
彼は木の茂みにリーダらしき気配を察知していた。
そちらの攻撃にも注意を向けていたため後ろから一撃を受ける。
クリティカルヒットを受けながらも倒れないように耐える。
左肩の骨が折れたが今はそれどころではなく前方のゴブリンの攻撃を避ける。
そのとき目も眩むような光が一点に集まる。
光が物質へと変わり細い糸から太い糸を紡ぎ出していく、糸は繭のように集まる。
よく見ると糸ではなく血管であり、繭ではなく人の形だった。
気色悪い血管の人型に筋肉が付き皮膚が付き人間の形に成った。
天から青い光が人の中に入り、その後みるみると血色が良くなり目が開く。
あまりの事に誰1人動けずにいる。
蘇生した櫃間 陸彼も動けずにいる。
蘇生後有利な場所=すぐに稼げる薬草群生地
蘇生後有利な展開=人を助けてこの国にコネを作る
ということなのだろうが、いきなりモンスター倒せは無茶振り過ぎませんか。
俺武器を持ってないどころか裸なんですが。
ゆっくりとした動作で足元に転がっている石を2つ拾いゴブリンに走り出す。
「助太刀するぜ」
ゴブリンの気を引くように挑発する。
本当はフルチンだぜとプルプルしたかったのだがそこを攻撃されたら泣いちゃうから止めた。
スプモーニは口を開けてアホな顔をしていたが救援が来たと分かると動きは早かった。
挑発され気がそれているゴブリンを一撃で倒し、残りのゴブリンの攻撃を避けつつもう1匹も倒した。
「裸の人よ感謝する。」
「俺は、櫃間 陸リクと呼んでくれ。」
「俺はスプモーニだ、リクまだ1匹あの茂みに隠れている。」
木の杖を渡してくる。
指を指された場所からゴブリンより大きな個体が茂みから現れこちらに歩いてくる。
「出るタイミングを逃したのなら逃げてくれれば良かったのに。あのホブゴブリンを左右から挟みむぞ。」
確認も取らずに走って行く。
1人で倒す自信ないから手伝うけどね。
追走し左右を挟む、スプモーニに気を取られているらしく杖で頭をフルスイングしたらあっさり倒すことができた。
戦闘が終わり安全を確認し、スプモーニの傷を薬草と包帯で止血する。
「薬草塗ったらすぐに回復しないんですね。」
「ヒーリング魔法や回復ポーションならすぐに傷が塞がるけどな。」
一般的に回復薬とか魔法はあるそうだが値段が高いとのことだ。
「ところでリクはどうやってここに現れた?、なぜ裸なの?、本当に人間?などなど突っ込むところが多すぎて何から聞けばいいかよく分からん。」
「自分もよく分からないんですよ、神様が復活させてやるのを条件にこちらの次元界に住めと言われて、気が付いたら囲まれている貴方がいた訳です。」
「違う次元の住人なんだ、ほれサンダルとズボン」
違う次元に居た事ではそんなに驚かないんだな。
これでやっとフルチンから脱出できた。
「薬草の入った背負い袋とゴブリンの武器を回収してくれ」
木の杖を使ってヨロヨロと立ち上がる。
すごいなスプモーニ、重傷なのにすごい速さで歩いている、2時間ほどたっぷり歩いたころ、壁に囲まれた都市が見えてくる。
スプモーニは門番と顔なじみらしく何があったか話をすると直ぐに通してもらうことができた。
呪師の所に寄る。かなり高齢の婆さんだ。
「ひどい怪我じゃないか。」
「回復魔法は準備してるよな。」金貨10枚渡す。
「毎度悪いね。でも運が良いよ、これが最後の1回だからね。」
手をかざすと光が傷口を這い回り傷を直していく。
骨折も直り、赤い傷が残っているがほとんど治療されている。
「良い腕だろ、市場価格の最低金額でやってくれるし。」
腕をぐるぐる回しながら傷を確かめている。お勧めの治療術士らしい、心のメモに書き込んでおこう。
次は薬草を納品に行く。
店主は種類と品質に分けている。
店主に品質の良し悪しはどうやって見分けるか聞くと丁寧に種類と必要な箇所を教えてくれた。
薬草の納品依頼は随時行っていると説明している、どうやら薬草の採取者に成りそうだと目をつけられたらしい。
あんな遠くて危険な場所に1人で行く気はないけどね。
薬草は金貨6枚と銀貨2枚で売却できた。
帰りにホブゴブリンのロングソードを金貨3枚と銀貨5枚で売却
木盾と小型用メイスは売れなかった。
「赤字だったな、まあしょうがない宿に行こう。」
『鋼鉄の拳亭』・・・恐ろしい名前だ。
スプモーニの行きつけの宿らしい。
ごっついおっさんが出てくるかと思ったが、女性の女将だった。娘さんと2人で営んでいるようだ。
姉弟子で昔はスカーレット・レディと呼ばれ強かったそうだ。
スプモーニは束ねた赤髪の後姿に憧れていたらしい。
娘さんは高校生ぐらいで、こちらは青い髪が印象に残る活発そうな子だ。
「スカー姉さん、金貨1枚2人分でお願いします。」
「あら、人を連れてくるなんて珍しいわね。」
「森で助けられてね。」
なんて会話しているとスープとパンとサラダを持ってきてくれる。
「ボニーちゃんありがとう」
スプモーニが受け取り近くの机で食べだす。
自分も受け取り食べることにした。
昼から何も食べてなかったのでとても美味かった。もうちょっと食べたかったが別料金らしい無一文だからここは我慢しよう。
通貨の価値や、これからの事を話していると酔っ払いがボニーに絡んでいる。
「おいおい、早くしろよ。」
3人の男に絡まれて泣きそうだ。男たちはニヤニヤしている実に嫌な感じだ。
「ちょっと待ってください。」
おろおろしながら必死に指を折っている、どうやら金額の計算のようだ。
「エール7杯と、ワイン3杯、食事の追加3人分、宿泊3人分」
銅貨と銀貨を同時に指折って数えられないでしょ。
助け舟を出そう。
「金貨3枚と銀貨2枚、銅貨8枚ですよ。」
「あーん!兄ちゃん適当に言いやがって、酔っているからて騙そうってのか。」
自分達でも金額分かってないのですね、立ち上がりボニーからチョークを受け取る。
〔7×4+3(20+30+50)=28+3(100)=28+300=328〕カッカと木の板に数式を書いていく。
こちらの世界の数字はローマ数字みたいで計算には不向きだな。
「銅貨換算で328枚なので、直すと金貨3枚と銀貨2枚、銅貨8枚ですが、1人分を計算しましょうか。」
と木の板を見せると、3人は目を黒々させてお金を払って逃げていった。
「すごいですね、魔法使いか、商人ですか。」
ボニーが尊敬の眼差しを向けてくる。
住んでいた所ではこれくらい誰でも計算できたと答えると。
「私は20ぐらいまでしか直ぐに答えられません。」
・・・それって両手両足の指の数ですよね。
机に戻るとスプモーニも計算できるんだと驚いていた。
疲れたので部屋に行くと、少しして「コンコン」とノック、ドアを開けるとスカーレットさんが服を持ってきてくれた。
無一文なのを聞いて旦那の服をくれるようだ、旦那さんはと聞いたら病気で亡くしたと寂しそうに言われた。
しまったと思っていると。
「丸腰では何かと物騒でしょ、この杖もあげる。」
木の杖もくれた。木の杖は僧院で修行の一環で作るそうだ。スプモーニのと比べると短めで使い易そうだ。
夜に男の部屋に来るのはどうかと思いますと言ったら、素手で押し倒せる人は殆どいないと軽く笑われた。
それから少々雑談をしていると先ほどの計算の話になった。
「複雑な計算を簡単にやるなんて今まで何をしてきたのか知りたいわ。」
「学校に通って色々学んでました。ええっと、職業ってなんですか自分の職業は錬金機器士です。錬金術師の上級職業みたいです。」
「鍛冶師とか弓職人みたいな専門職の上級職業なのかしら、初めて聞いたわ。」
頭の中に能力が浮かんでくる。
錬金機器士:錬金機器設置
設置しますか。Y/N
何だこれ、とりあえずYes
《ズズズーン》
地響きと共に金属の塊が目の前に現れる。
これ見たことがあるな、ラスベガスとかで見るスロットマシーンみたいじゃん。
「リクさん、何これ。」
「僕にも分かりません。」
本日の取得経験点
経験値:175を得た。
総計経験値:175