王様の国はロバの国
王様の国はロバの国だ。もちろん王様自身もロバである。ところが、王様の耳はロバの耳ではなかった。生まれた時からの奇形で、王様の耳は人間の耳だった。
人間!
人間なんて、獅子より酷い生き物なのだ。やつらはロバを捕まえて逃られないよう紐で縛って一生こき使う。獅子はロバを追い回して食べてしまうけれど、それは獅子が草を食べられないからだし、いつもいつもロバばかり狙う訳でもない。
人間は違う。人間はロバを好んで追い回し、何頭も生け捕りにした挙句、自由を奪って奴隷にしてしまうのだ。
そうゆう訳だから、王様の国では人間がなによりも嫌われていた。王様は人間の耳をしたロバであって、けして人間ではないのだけれども、その耳のせいで大層気味悪がられていた。王様自身も正直気持ち悪くて、自分の耳が嫌いだった。
これが大きくてぴんと上向いたロバの耳だったらどんなに良いだろう。
いや、そんな立派なモノでなくとも、ロバの耳ならば良い。形が悪かろうが、毛が斑に禿げていてみすぼらしかろうが、ロバの耳ならば。
王様は国で一番立派で力の強いロバだったけれども、気味悪がられていたから孤独に過ごす事が多かったし、女も近寄ってはこなかった。せっかく生まれた子が人の耳だったら困る、と云う訳だ。
草原で独り草を食んでいると、風に乗ってどこからか、奇妙な笛の音が聞こえてきた。
オウサマノミミハロバノミミー
オウサマノミミハロバノミミー
ボウシノシタニハロバノミミダヨーイ
驚いて音のする方を見ると、遠くにたくさんの羊と人間が見えた。『羊飼い』と呼ばれている人間で、手には笛を持っている。
なるほど、あの笛の音か。それにしても奇妙な。
そう思っているとまた羊飼いが笛を吹き始めた。
オウサマノミミハロバノミミー
オウサマノミミハロバノミミー
ボウシノシタニハロバノミミダヨーイ
王様は唐突に、その笛の音が
「王様の耳はロバの耳ー」
「王様の耳はロバの耳ー」
「帽子の下はロバの耳だよぅい」
と言っている事に気が付いた。
なんて羨ましい話なんだろう。なぜ私の耳はロバの耳ではないのか。どうにかその王のロバの耳が欲しい。私の人間の耳などいらないから。
王様はそう強く強く願った。
同じ時、どこかのお城で人間の王様は、人々の噂話を聞いた。
「西の草原には化け物が居るそうだ。なんでも、大きなロバのちょうど耳だけが、人間の耳らしい。」
「まあ、なんて不気味な事。」
そうして人間の王様が何を願って、二人の王様に何が起こったのかは。
後はそう、お伽噺の示すとおりに。