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短編・ショートショート

古いポストのある町で

作者: 葦沢かもめ

 この町には使われていないポストがある。今でこそ四角いイメージがすっかり定着してしまったが、このポストはかつて広く普及していた丸ポストだった。


 実は一度廃棄されそうになったのだが、その頃はこのポストがある通りは町のメインストリートで、待ち合わせ場所になるほど町の人から愛されていたらしく、当時の郵便局長の計らいで残ったのだと、小さい頃に祖母から聞いた。きっと道が整備され、かつての賑わいが無くなると同時に、このポストに目を留める人は減っていったのだろう。


 その話を聞いたときは、まさか自分がこのポストに関わることになるなんて思いもしなかった。それに、高校を卒業して郵便局に就職するまでは、その話をすっかり忘れてしまっていた。


 ある日、上司からお呼びがあった。どうやらそのポストにゴミが溜まっていると、通行人から連絡があったらしい。この時はまだ、古いポストだからゴミくらい溜まるだろう、としか考えていなかった。


 早速バイクに跨ってそのポストへと行ってみて、驚いた。ポストの口から枝が顔を出していたのだ。ポストの前にも、零れ落ちたのであろう葉っぱやら石ころやらが転がっている。これは明らかに自然に溜まったものではなかった。そのポストの姿は、ひっそりとした暮らしを邪魔されて泣いているように見えた。


 そして困ったことに、それは数日続いた。掃除しても、次の日には必ず口まで一杯にゴミが詰め込まれてしまっているのだ。それを聞いた局長は、そろそろ撤去してもいいんじゃないか、なんて言って、皆もそれに同意していた。でも、それではあまりにもポストが可哀想でならない。もう少し待ってみましょうよ、と言って、僕は犯人探しを始めることにした。


 とは言え、仕事中にするわけにもいかない。次の休日に、ひとまず辺りの目撃情報を聞き込みすることにした。だが、人通りが少ないし、高齢の方が多いせいで見ても忘れてしまっているのか、全く情報が集まらなかった。さすがにこれでは埒があかない。僕はアプローチを変えてみることにした。


 その手がかりは、犯人の"遺留品"である。ポストの中に詰まっていた枝や葉っぱや石ころを、僕は全て丹念に調べることにしたのだ。伊達にこの町で育っていない。それに郵便配達だってしているのだ。どの植物がどこにあるのかは、大体頭の中に入っている。それを総合的に見れば、おおよそ犯人の移動ルートが分かる。


 そしてついに僕は見つけた。釣鐘草の花がその中に混じっていたのだ。釣鐘草が咲いているのは、町の中でも一箇所だけである。そこは小学校の近くで、小さな林になっている。恐らく、犯人は次もここから調達してくるに違いない。


 早速、林からポストへと繋がる道の途中で僕は待ち伏せすることにした。待ち伏せと言っても、勿論仕事中だから、なるべくその辺りをバイクで通るように心がけたのである。


 すると、まさにその日。僕はついに容疑者を見つけることに成功した。その容疑者は、両手一杯に小枝を抱え、手提げに葉っぱを詰め込んで、ポストの方へと駆けていたのである。これは、ほぼ確実に犯人である。ただ、現場を押さえるまではなんとも言えなかったし、何より確かめたかったことがあった。


 物陰に隠れながら容疑者の後ろをつけていくと、ちょうどまさにポストの前に立って枝を詰め込んでいるところだった。決定的瞬間である。でも僕はそれをすぐに止めることはせず、耳をすませてみた。犯人は何かを言っているのだ。


「ポストさん、た~んとお食べ」


 とっくに人々の記憶から消し去られていたポストが、小学生相手におままごとをして第二の人生を楽しんでいるように、僕には見えた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 好きなタイプの話です。容疑者が、何歳くらいで、どんな人なのか少し気になりました。
[一言] 理想的なショートショートですね。 素晴らしいと思いました。
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