勇者は300年前に魔王に敗北した
勇者は300年前に魔王に敗北した。
それはそれは凄惨な死に方をしたらしい。
死体は晒されて、嘲笑され、最後には打ち捨てられた。
――人類から最後の希望が失われた瞬間だった。
*
「で。これはどういうことか説明してくれる?」
そして、300年後。
勇者は復活した。
苛立ちながら相手を睨みながら勇者は問う。
「端的に。それでいて納得のいくものをね。魔王様?」
詰められる言葉を受けながら魔王は俯いていた。
こうしていると300年前の屈辱がありありと思い出される。
本当にありとあらゆることをされたんだから。
「実はだな」
「うん」
「その。死ねないんだ」
「そりゃ、そうでしょ。だって、お前。一番の脅威である俺を殺したんだから」
「いや、そうじゃなくて……」
「んだよ! はっきりしろよ!!」
勇者はキレて用意されたワインを魔王の顔に投げる。
そもそも意味不明だ。
なんであんな殺し方したのに復活させたのかも。
そして、こんな見え透いたご機嫌取りをするのかも……。
魔王はビクッと震え、気まずそうに眼を逸らしていたが遂に諦めたように勇者へ言った。
「その。どうやらな。魔王は勇者に殺される以外、死ぬことが出来んようなのだ」
「は?」
「それで。その。私はもう楽になりたいのに。ずっと死ねなくて……」
なるほど。
勇者は合点がいった。
要するに自分を殺した後、世界を支配した魔王は全てを終えて死のうとしているが死ぬことが出来ないと。
自ら死にたいなんて意味がわからないが、数百年も生きれば生きるのに疲れるのだろうか?
まぁ、勇者に分からなくて当然だ。
なにせ、勇者は十代後半で魔王に殺されているのだから。
「それで。俺に殺してもらいたいってこと?」
「あぁ……」
「やなこった。バーカ!」
「ぐっ……! 従わなければ人間を殺すぞ!」
「300年も未来……いや、未来でいいのか? よくわからんけど、とにかく今生きている人なんてもう俺からしたら他人もいいとこなんだよ!!」
「お前! それでも勇者か!?」
「うるせえな! そもそも俺はもう死んでるからどうでもいいんだよ!!!」
「うっ……その。そこを何とか……もう本当に生きるのに疲れてて……」
「知るか! いい気味だ! ざまあみろよ! 土下座したって殺してやるもんか、ボケ! 精々『生きるのやだなぁ……』って思いながら死ぬまで生きてろよ! あっ、死ねないのか。ごめんね!!!」
勇者の敗北から300年後。
世界一地味でしょうもない復讐がひっそりと幕を開けたことを知る者はまだこの世にはいない。




