可愛い幼馴染が実は策士でした
ここは婚活会場。
対象年齢は16歳から20歳。婚約者のいない貴族の紳士淑女とかが集まるパーティーだ。上位の爵位を持つ貴族の子供たち幼い頃から婚約者がいることがほとんどで、この歳になってこんなところにいる私たちは弱小貴族の子供、もしくは訳ありだ。
かくいう私も庶民に毛が生えた程度の男爵令嬢。両親が全然縁談を持ってきてくれないものだから、学園卒業間近の18歳になって滑り込みで参加を決意した。
「…で、なんでヴィンスがいるの?」
「僕も婚約者いないから」
私の横で人懐こい笑みを浮かべるのは幼馴染のヴィンス。容姿端麗文武両道。おまけに公爵家の嫡男。この男がこの売れ残りパーティーにいるのは違和感がある。でも確かに婚約者はいないし、この会に参加する資格はあるのだ。
キラキラの金髪から覗く青い瞳も、周りより頭ひとつ分高い身長も、高級な生地のセットアップも会場の中で非常に浮いている。隣に立たれるだけでご令嬢方からの視線が痛いし、私に話しかけてくる男性もぐんと減ることは間違いない。
「ヴィンス…その、ちょっと離れて欲しいかも」
「どうして?」
きょとんとしているヴィンスには自分が目立っていることや、それにより私にも弊害があることは分からないらしい。
「ほら、僕って人見知りだからさ…やっぱりリリアが近くにいて欲しいんだ」
切なげに見つめられると、どうしても断れない。昔から甘え上手だから、ヴィンスの世話を焼くのが癖になってしまっている。不安だと私の手を握るヴィンスに今日ばかりは流石に危機感を覚える。
「だめ、ヴィンス。今日は各々婚約者探し頑張ろう!」
強い気持ちをもってヴィンスの手を振り払う。子犬のような目で見られるとまた躊躇しそうになるので、あえて目を合わせずに手を振り払った。
1人目は如何にも優しそうな男性。2人目は少し口数の少ない男性。おしゃべりな私にはちょうどいいかも、と思った。その後も何人か会話をするも、皆すごく短い時間で私から離れてしまった。私って需要がないのね、と悲しくなる。一方、ヴィンスは大勢の令嬢に囲まれていた。
気持ちを切り替えるためにベランダに出る。冬のはじまりだから夜風が冷たいが、人がいなくてちょうどいい。やっぱり結婚は難しいわねとぼんやりしていたら、「リリア」とよく知った声に話しかけられた。
「寒いね」
ヴィンスは暖を取るために私の横にぴったりとはりついた。少し高い体温が私の肌にうつる。
「どう?ヴィンスはいい人いた?」
「ん?僕のいい人なら、今、横に」
「そうじゃないってば」
ヴィンスの言ったことを冗談として受け流そうとしたが、そうは問屋が卸さなかった。腰を丸めて私の顔を覗き込むヴィンスの瞳に捕まる。
「リリア、もう僕の気持ちに気がつかないふりをするのはやめてよ」
ヴィンスはどこか大人っぽい表情をしていて、見たことのない顔に少しどきりとする。
「…どういう意味かな?」
「僕の言っていることが分からないほどリリアは愚図じゃないでしょ?」
いつもふわふわしているヴィンスから愚図なんて言葉が出るのは驚いた。しかし今はそれ以上に返答に困っている。自分がヴィンスに釣り合うわけはないし、向き合いたくなくて、彼の好意に気がつきながらも世話の焼ける幼馴染として扱ってきた。それが彼にとっても私にとっても正しいと思っていた。
「君を婚約者にするために、僕結構頑張ったんだけどな。人脈作りに、剣術の稽古に、領地の拡大。卒業後にも王太子殿下の元で働くことが決まって、ようやく父にリリアと結婚することを認めさせたんだ」
するりとヴィンスの小指が私の手に触れる。普段からよく手を握られたりハグをしているはずなのに、小指だけで今までにない色気を感じてしまう。
「リリアの両親は今まで縁談を持ってこなかったんじゃない。持ってこれなかったんだ。君の周りの、可能性が高そうな貴族は僕の方で根回しをして止めてたんだ」
触れる手がくすぐったくて離れようとしたら、しっかりと手を握られてしまった。
「今日リリアが来るって聞いて、慌てて申し込んだんだ。どの男も、ちょっと僕が見ただけでリリアから離れてくんだもん。大したことないね」
口角を上げたヴィンスにいつもの可愛さは感じない。庇護欲を感じていたが、あのヴィンスは偽物だったみたいだ。今いるのは、独占欲に塗れた18歳の男性。
「ちなみに、今日ここに来るより前に君の家に縁談の申込の書簡を送ってるんだ。ここでリリアにいい人が現れたとしても、僕以上に条件のいい男はいないでしょ?」
まあ、確かにヴィンス以上の好条件はいないだろう。母親同士が知り合いということもあって、昔から知っているし。
「ねえ、リリアお願い。僕を受け入れて」
いつもの甘える声よりも、さらに甘い蕩けるような声色。
「じゃないと、僕の人生は無駄になっちゃうんだ」
きっと、この人は私の動かし方も熟知しているんだ。私が世話焼きなこと、それにヴィンスのお願いにはとびきり弱いことを利用されている。ただ、問題は私が彼のことを100%好きと言い切れないこと。政略結婚ならそれでもいいような気がするが、これではどう見ても恋愛結婚だ。
「リリアは全部顔に出るね。まずは頷いて。気持ちは、絶対に後からついてくるから。リリアのことに関しては僕は努力家だよ?」
言われるがままに頷くと、ヴィンスは嬉しそうな顔をした。それからいつもやるように両手を大きく広げる。これはハグをしてほしいという合図。だけどこんな状況だからすぐに抱きつけないでいると、ヴィンスの方から私を抱きしめてきた。
「可愛い。やっと捕まえた」
彼が囁いた耳元が、やけに熱い。
「もうここを出よう。早く僕のものにしたいから、今からリリアの家に行こう。それで婚約して、すぐに籍を入れよう」
こうして私は、あれよあれよと言う間に彼の妻になった。
結婚してから知ったが、ヴィンスは本当に計算高い。私を振り回すのがうまくて、気付けば彼のペース。
いき遅れだった私は、今や皆が知るラブラブ夫婦。ーーー全部ヴィンスの思い通り、というわけである。もちろん、幸せだけどね。




