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春を待つ  作者: 安達夷三郎
第三章、逃げ場
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十二話

遺体を運ぶ作業は、終わりが見えなかった。

川の浅瀬に横たわる人、瓦礫の影に半分埋もれている人、体の一部しか残っていない人。

大人、子供、男性、女性、関係なく(むくろ)に成り果てていた。

一人引き上げても、少し先へ進めば、また次がいる。

「次来るぞ」

町の人が声を掛ける。

私と柳子は、文と一緒に遺体の腕を持った。

ずしり、と重い。

人の体なのに、どこか現実感がなくて、冷たい塊を運んでいるみたいだった。

お寺の敷地内には、すでに積み上げられた遺体が並んでいた。

兵士の人と町の人が、手際よく運び、順番に火を入れていく。

炎が上がる。

ぱちぱちと木がはぜる音がする。

それを背後に、私達はまた作業に戻った。

火は消防団や町の人の協力で鎮火しており、怪我人も病院や避難所に逃げていた。

一時避難をしていた人達は続々と田舎に疎開して行くが、それに比例するように私達みたいな行き場のない避難者も増えた。

「学徒さん達、東北から来たのかい?」

校舎の裏で陣地構築(じんちこうちく)の為に天秤棒(てんびんぼう)で土を運んでいると、豆腐屋を営んでいたらしいおばさんに声をかけられた。

「え、はい......」

防空頭巾に縫い付けてある名札には住所と名前と血液型が書かれている。

住所は東北の実家のやつを書いていた。

「可哀想にねぇ......」

そのひと言で、胸の奥が苦しくなってしまう。

可哀想、という言葉がどうしても他人事のように聞こえてしまうからだ。

「こんなに汚れちゃって......子供は関係ないはずなのにねぇ......」

生きているだけで偉いのなら、川や町で見た人達はどうなんだろう?

「早く平和になれば良いのにね......」

おばさんはそう言って、炊き出しの為に町に行ってしまった。

もう一度天秤棒を肩に掛け直し、麻袋に土を詰める担当の子の方へ向かった。

足元に積まれた空の麻袋は、使い込まれて色が抜け、所々ほつれている。

籠を下ろし、運んだ土を地面に積み上げ、また防空壕の方へ戻った。

校庭の隅に植えられている大木の近くにある壕の方ではシャベルで中を掘り起こしている。

「「うわっ!」」

天秤棒で土を運んでいた志穂と柳子がつまずいて頭から土を被って転けてしまっていた。

「大丈夫!?」

「いてて......」

頭に被った土を手で払ってやると、志穂がムクっと起き上がった。

「びっくりした......足取られたよ」

「気をつけてよー。ここ、根っこ多いんだから」

通りかかった文の注意。もう転けた後なんだけどね......。

土を運び終わったら、麻布に土を詰めて土嚢(どのう)を作っていく。

これを壕の入り口に隙間なく並べて、補強性を高めるのだ。

「よし......!」

人々がとっくに寝静まった校舎は物音ひとつせず、窓の外で喚く虫の声だけが僅かに聞こえてくる。

(こんな静かな夜、久々......)

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