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春を待つ  作者: 安達夷三郎
第三章、逃げ場
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十一話

水を運ぶ作業がひと段落した頃、校庭の隅に集合がかけられた。

ようやく到着したらしい先生の周りに人が集まる。

先生は生き残った私達十三人の顔を見渡して静かに言った。

「全員、揃いましたね」

その一言で、ざわめいていたみんながすっと静まっていく。

「工場は大きな被害を受けました。しばらくの間、工場での作業は一時中断することになります」

言葉を区切り、言葉を選びながら続けた。

「ここには、避難してきた町の方々がいます。みなさん、協力し合って作業を行って下さい」

それでも、先生はいつものように背筋を伸ばし、私達をひとりひとり確かめるように見渡す。

そしてほんの一瞬、先生の視線が地面に落ちた。

泣いた跡がある子、震えている子、包帯が巻かれている子―――全部、見えていたのだろう。

「班を構成することにします。みなさんよく聞いてください」

ざわめきが起こり、すぐに静寂が戻る。私は空を見上げた。遠くの空に、白い雲がのんびりと流れている。

「......三班、柳子、千代、文」

先生の声が、私の耳に飛び込んできた。

(私、三班なんだ)

エツ子とユリは同じ一班。芽衣子とカエデと志穂は二班だった。

みんな、別れてしまった。

分かっていた。今は仲の良い友達と集まるより、人手を均等に分ける方が大事ということくらい。

けれど、あの混乱の中を一緒に逃げてきたみんなと離れるのは心細かった。

私達の新しく決まった三班と四班の作業は、町の人や兵士の方と一緒に、町に転がっている遺体の火葬だった。

川に向かって進んでいくと、たくさんの人がいた。

男性か女性か判別がつかない程、顔や体が腫れ上がっている。

火傷を冷やそうとした人、炎から逃れようとした人、喉の渇きを潤そうとした人などが虫の息で川の中に横たわっていた。

町の消火活動優先の為、遺体の回収が終わっていなかったらしい。

「水を飲ませて下さい......」

「助けて下さい......」

ぼそりぼそりと人々は焦点の合わない目で訴えかけた。

近くのお寺で集団火葬が行われているという。動ける元気な町の人々と兵士さん達と手分けして、川の中から遺体を引っ張り出す。

「うっ......」

文が口を押さえた。

遺体はでろんとしていて、壊れて魂の抜けた人形みたいだった。

水際にうずくまっていた一人の兵士が「水を飲ましてくれ」と頼むので、割れた茶碗に川の水を入れてそっと口元に近付けようとしたところ、引率してくれた兵士の人が血相を変えて「駄目だ、飲ませるな!」と叫ぶ。

思わず手が止まる。

「水を飲ませば安心して死んでしまう!口を湿らすくらいで良い。それ以上は、いけない」

怒鳴った、と言うよりも必死だった。

その兵士さんにも疲れが滲み出ている。

私は言われた通りに茶碗をそっと下げ、水で湿らせた布を兵士の口元に当てる。

布越しに、彼の呼吸が微かに触れた。

「......すまん」

兵士の人は僅かに聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。

「何言っているんです!こんなことしかできませんが、御国の為に頑張ってくれている兵隊さんを......っ!」

最後まで言い終わらないうちに兵士の人は口元を緩め、そして息を引き取ってしまった。

その表情は、どこか苦しみから解放されたようにも見えた。

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