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第7話 笑う者と、笑われる者

あいつは、どうして笑っていられるのだろう。


 


誰に何を言われても、どれだけ気づかれても、

まるで痛みというものを知らないかのように、ただ笑っている。


 


高橋潤は、“笑ってみせる”ことの意味を知っていた。


 


それは武器であり、鎧であり、祝福であり──

そして、俺にとっては呪いだった。


 


 



 


「最近、佐藤様をあまり見かけませんね」


 


薬草園の娘がそう言ったとき、俺はただ頷くしかなかった。


 


その言葉には、咎める気配もない。


 

だが、もう関心を失っていることが伝わった。


 


代わりに彼女はこう続けた。


 


「高橋様は、よく訪ねて来てくださいますよ。花の育て方まで、丁寧に聞いてくださって……」


 


……花?


 


そんなものに、何の意味がある。


 


──だが、村人たちはそれを「価値」だと思っている。


 


俺が与えてきたものは生活を変えた。

あいつが与えているのは、空気を変える。


 


誰もが、空気のほうを選んでいる。


 


 



 


夜。

村の広場では小さな火が焚かれ、歌と笑いが響いていた。


 


その中心にいるのは、もちろん高橋だ。


 


子供に肩車され、老人に酒を注がれ、

若い娘に花輪を編まれていた。


 


──笑っていた。


 


誰よりも自然に。

誰よりも馴染んで。


 


俺は、輪の外にいた。


 


気づいた子供が一度だけ俺に手を振った。

だが、すぐに他の子に気を取られて、忘れたように笑った。


 


その笑顔が、刺さった。


 


 


──ああ、俺はいま、笑われているんだ。


 


 


この村における「現在」は、あの輪の中にある。


 


俺は、「過去」になった。


 


もう誰も、俺を必要としない。


 


 



 


勝ちたかったわけじゃない。


 

ただ、戻りたかっただけなんだ。


 


最初の、あの場所に。


 

「ありがとう」と言われたあの日に。


 


けれど、それはもう戻れない。


 


 


ならば──


 


笑顔ごと、壊すしかない。


 


 


笑っている者が勝つのなら、


 

笑えない俺は、ずっと負け続ける。


 


だったらその“勝ち”そのものを、


 

跡形もなく壊してやればいい。

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