第4話 もう一つの光、もう一人の影
陽の光が、いやに眩しかった。
高橋潤は、今日も笑っていた。
誰の肩にも手を置かず、誰の心にも踏み込まず、それでいて確実に“受け入れられて”いた。
──まるで、最初からそこにいたかのように。
◆
俺は何を間違えたのか。
いや、違う。間違えてなんかいない。
この世界に来てからずっと、俺は必死に考えて、築いて、与えてきた。
火の扱いも知らなかった村に、風除けの囲いを作ったのは誰だ。
水源に混じった死骸が原因で腹痛が広まったと突き止めたのは誰だ。
それでも今、人々は──俺ではなく、彼を見る。
村の輪の中にいるのは、あいつだ。
俺ではない。
◆
「なあ、翔」
いつもの声。
この世界で、俺の名を気安く呼び捨てにする唯一の男。
「君って、ほんとにすごいと思うよ。知識もあるし、発想も柔軟だし。俺にはないもの、たくさん持ってる」
高橋はそう言って笑った。
その言葉には悪意がなかった。
作った感じもなかった。
だからこそ──腹が立った。
“俺にはないもの”
それを、すべて持っている男に言われることが、
これほどまでに、見下された気分になるとは思わなかった。
「そうか。じゃあ、これからは君に任せればいいな」
皮肉を込めて返すと、彼は気づいた様子もなく微笑んだ。
「いやいや、俺はあくまで補佐役だよ。君が開いた道を、少し広げてるだけさ」
その言葉は光だった。
──そして、俺の中にある影を、より濃くした。
◆
その夜、俺は「計画」を組み立てた。
偶然を装った事故か。
魔物の襲撃に見せかけるか。
毒は痕跡が残る。確実なのは、物理的な転落事故だ。
橋の上。あそこなら、目撃者もいない。
彼が村の子供たちと橋の補修に行くと聞いた。
帰りを待つ。
橋に細工を施しておく。
足を滑らせ、落ちる。
川の流れに沈む。
──事故だった、そう言えばいい。
殺す。
静かに、確実に。
それが俺の“修繕”だ。
壊れた世界の、綻びを繕うための作業だ。