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第3話 祭壇の果実

──人は、差し出された果実が毒かどうかを、笑顔の数で判断する。


 


 



 


「高橋様、高橋様。うちの子が熱を出しまして……」


 


薬草の使い方を説明する高橋の声が、今日も広場に響いていた。


 


「この葉をすり潰して、お湯で煎じてみてください。飲ませすぎないようにね、少し苦いから」


 


驚いたことに、それは正しかった。


 


俺が前に教えた方法と、まったく同じだった。


 


けれど──


 


「へぇ、高橋様って、ほんとうに何でもご存知なんですねえ」


 


村人たちは、まるでそれが“最初に”語られた真実のように彼を褒め称えていた。


 


 


思い出してみれば、俺もかつて、あの輪の中にいた。


 

けれど今、その輪は、俺を中心から押し出していた。


 


──祭壇に供えられるのは、いつだって“新しい果実”だ。


 


誰も、古びたものには手を伸ばさない。


 


 



 


その夜、俺は高橋を尾行した。


 


目的はなんとなく、ではなかった。


 

怒りでも、嫉妬でもない。


 


……確かめたかったのだ。


 


あの笑顔の裏に、何があるのかを。


 


 


高橋は、村の井戸の裏にひとりで立っていた。


 

誰もいない夜の闇の中、何かを懐から取り出している。


 


それは、折りたたみのスマホだった。


 


画面はもう、とうに点かない。電池なんて残っていないはずだ。


 


なのに彼は、それを懐かしげに、そしてどこか寂しげに見つめていた。


 


「……誰にも見せられないな、これは」


 


独り言のような呟きだった。


 

その声音には、どこか乾いた優しさがあった。


 


 


──そのとき、俺は確信した。


 


こいつも、“演じている”。


 


この世界で“うまく生きる”方法を。


 

俺ができなかったことを、完璧にやってのけている。


 


 


──だから。


 


 


殺すべきだ。


 


 


その思考は、まるで自然な流れのように、音もなく心に沈んだ。


 


最初はただの反射だった。


 

次に、それは思考になり。


 

そしていま、意志になった。


 


 


この村に、余所者は一人でいい。


 


誰も、もう俺の果実には手を伸ばさないのなら──

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