プロローグ
『家の近所でツバメが子育て中です。かわいいヒナが5羽、口を開けて親鳥の帰りを待っていて、とてもかわいいです。
近所の公園ではオオタカが子育て中で、都会暮らしに適応して繁殖しているようです。最近公園でカラスを見なくなったと思っていましたが、オオタカが睨みを効かせているせいかもしれません。
池の周りの木の上ではカワウが子育て中です。フン害がひどいですが、時々顔を覗かせるヒナを見ると、それも許せる気がします。
池ではカイツブリが子育て中で、縞模様のヒナが親鳥を追いかけて餌をねだる姿がたまらなくかわいいです。
それでも、ちょっと前まではその姿を見かけることもありませんでした。カイツブリの主な餌は在来魚のモツゴなのですが、外来種のブルーギルに占領されて数を減らしてしまったからです。
それで関係者が危機感を持ったせいか、二度のカイボリ(池干し)を行って外来魚を駆除することができたため、モツゴの数が増えて子育て環境が整い、あちこちでヒナが生まれているのです。
まだ抱卵中の親鳥もいるので、卵から孵る日を楽しみに待っているところです。
どんな時代になっても新しい命が生まれます。
これは自然界だけでなくビジネスの世界でも同じです。特に、環境変化の激しい時代には今まで考えつかなかったような発想で新しい企業が生まれてきます。そして、常識を非常識に変えて一気に存在価値を高めていきます。正に、変化はチャンス! なのです。
そのチャンスを活かす鍵は何か?
それは人です。
人財です。
変化を楽しむことができる人財です。
変化を仕掛けることができる人財です。
それは、常識人ではなく、変人・奇人にスポットライトが当たることを意味しています。
つまり、これからの時代は他人と違っていることが重要になるので、平均的な人材の出番は減っていくことになります。
その意味では、新しい時代を切り開くための思い切った抜擢こそが飛躍のキーワードと言っても過言ではないと思います。
変人・奇人が活躍する場をいかに創るか、
そのための配置をどうするのか、
決断と知恵の絞りどころだと思います。
非連続に変化する時代には管理型企業やマーケティング型企業に代わって新規需要創出型企業が飛躍するでしょう。消費者ニーズを調査している間に時代が変化するため、データ分析をしても使い物にならなくなるからです。それに、データ分析から得られるものは競合他社も入手可能なので、差別化の手段とはなり得ません。よって、マーケティングという考え方そのものが陳腐化していくと考えるべきです。
では、新規需要創出型企業とはどのような企業でしょうか?
それは、〈意志〉を持った企業です。データ分析に基づいて製品やサービスを考えるのではなく、〈自らの意志〉によって今までにない製品やサービスを生み出す企業です。
そしてそれは〈強い衝動〉から生み出されます。
自分はこんなものが欲しい、
こんなサービスを受けたい、
という強い衝動から生み出されるのです。
その根底には〈不可能なことはない〉という信念があり、それが奇抜なアイディアに繋がっていきます。
誰も考えつかないような〈非常識なアイディア〉が生まれるのです。
逆に言うと、他人からバカにされたり笑われたりするアイディアです。
そんなものできっこない、
そんなことできるはずがない、
と笑われるアイディアです。
しかし、発案者は屁とも思わないでしょう。何故なら、彼らには時代の先が見えているからです。来るべき未来が見えているからです。そして、現在普及している製品やサービスが陳腐化することがわかっているからです。
ところで、日本の多くの企業が旧来型の企業活動から抜け出せていませんが、皆さんが経営している企業はどうですか? 皆さんがマネジメントしている部門はどうですか? 飽きることなく消費者調査を繰り返して、媚びるような製品改良に取り組んでいるのではないですか?
そんなことを続けていたら陳腐化されてしまいますよ。
いつの間にか消えてなくなりますよ。
よく考えてくださいね。
どんな大企業でも傾き始めたら、その流れを止めることはできません。非連続に変化する時代に安泰という文字はないのです。今でも茹でガエル状態になっている企業が多いと思いますが、それを放置していると、ある日突然、市場から退場を命じられることになります。
そうなったら大変ですよ。
ですので、今すぐ〈意志〉を持った人間を探してください。
社内のどこかにいるはずです。
多分その人は冷や飯を食わされていると思われます。
常識人から見たら〈変人・奇人〉だからです。
でも、その変人・奇人が必要なのです。
パラダイムが転換する時に常識は通用しません。
今の経営者、管理職の考えや行動は通用しないのです。
記憶力が良くて如才ない秀才では太刀打ちできないのです。
だから、変人・奇人を探してください。
そして、彼らに光を当ててください。
鎖を解いて自由に行動させて下さい。
彼らこそが新しい時代のヒーローなのです。
適材適所という言葉があります。
辞書を引くと、『その人の能力・性質に良くあてはまる地位や任務を与えること』『その人の能力や才能、資質などを考慮して、適した部署や任務に配すること』と書かれています。
今こそ適材を適所に置く時なのです。
適材とは、意志を持った人=一般的に変人・奇人と言われる人。
適所とは、未来創造部門です。
これができる企業が勝ち残り、できない企業は衰退していきます。
皆さんの企業はどちらになりたいですか?
今までの常識を捨て、新しい時代に果敢に挑戦する新規需要創出型企業(部門)へ生まれ変わるチャンスです。
このチャンスを心から楽しみ、最大限に活かしてください。
なにより、皆さん自身が変化を牽引する人財として大活躍されることを祈念しています。
老婆心ジジイより』
*
6月1日に届いたメールに衝撃を受けた。
異業種交流会で知り合ったベテラン経営者から送られてきたもので、彼とはしばらく会っていなかった。新型コロナ騒動が始まってからだから3か月近くになる。異業種交流会やセミナーはすべて休止になっているのだ。
彼は変人・奇人が大好きな経営者で、「もし『君は変わっている』と言われたら、自分は時代の最先端を行っていると思いなさい」と口癖のように言っていた。
懇親会の席では必ず「凡人が経営してはならない。常識人が経営してはならない。秀才が経営してはならない。彼らは変化を生みだすことができないからだ。奇跡を起こすことができないからだ。では、変化を生みだし奇跡を起こせる人は誰だ? それは、変人と奇人だ。彼らこそが時代の求める人財なのだ」と真っ赤な顔で力説していた。
また言ってる、とみんなは呆れていたけど、彼はまったく気にせず、そのうちわかるよ、とでもいうように開会や中締めの挨拶の時には必ずこのフレーズを口にした。
彼の名前は、先見透。
大手出版会社に入社後、一貫してビジネス書部門に所属し、取締役として10年間務めた。書籍販売全体が落ち込む中、堅調な実績を残していたが、なんの前触れもなく再任しないと告げられたそうだ。それも酷い言われ方だったらしい。
「辞めて他で働かれますか? それとも顧問として残りますか?」と言われたらしい。
自分より年下の常務が平然と言い放ったという。
「人間として最低だよね」と眉間に皺を寄せた顔が瞼の裏に浮かぶと、「疎まれたんだよ」と両手を広げた姿も浮かんできた。
それでも、このメールを読む限り、気概は失っていないようだ。文面に彼らしさが溢れ出ているので、一時の怒りや落ち込みを乗り越えたのかもしれない。正直ほっとした。