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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第五章 王都動乱編
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第八十六羽. 白亜の宮殿と四つの依頼


 青空の下、街道を北へと走る一台の馬車。車輪は軽やかに転がり、冬の乾いた風を切って進んでいく。


 やがて遠方に白い壁と高い塔が見え始めた。


 王都セイグラム。広大な平野に築かれた、エリトルス王国の首都にして最大の都市。


 次第にその姿が大きくなり、街並みと城郭がはっきりと形を成していく。


 御者台に座っていたアヤメが、目を丸くして声を上げた。


 「わぁぁっ、すごいね。あんなに大きな街、初めて見たよっ!」


 その瞳には純粋な驚きと好奇心が映っている。セリアは隣でその横顔を静かに見つめ、わずかに口元を緩めた。


 セリアは視線を都市の中心に移す。そこにはひときわ壮麗に(そび)える王城が威容を誇っていた。陽光を浴びて白く輝く王城は、住民や行き交う旅人から白亜の宮殿と呼ばれ敬われている。


 やがて王都セイグラムの城門に並ぶ列が見えてきたところで、セリアは一度息を吐き手綱を引いた。


 「そろそろ速度を落とすわ。」


 馬車はゆっくりと減速し、城門へと続く列に並んだ。王都セイグラムの城門前は、すでに多くの人々で賑わっていた。荷を積んだ商人の馬車、旅装束の一行、物見遊山らしい旅人たち。門前には列が幾筋もでき、検問を受けるために人々はじっと自分の番を待っている。


 セリアたちの馬車もゆっくりとその列に加わり、順番を待つ。


 そのとき、ふと視線がこちらに集まった。


 ざわ・・・と人々の声が上がる。


 「おい・・・あれを見ろよっ。」


 「馬じゃない、魔獣か? いや、従魔・・・?」


 馬車を()くのは、セリアの従魔エルミオス。しなやかな体躯と光沢ある毛並みはただの馬とは明らかに異質で、周囲の馬たちは気圧されたように鼻を鳴らし、落ち着きを失っている。だが肝心のエルミオスは、まるで周囲が存在しないかのように淡々と歩みを進めていた。


 「すげぇ、あんな従魔を御すなんて・・・。」


 「いったい何者なんだ・・・?」


 好奇と畏怖の入り混じった視線がセリアたちの馬車に注がれる。セリアは気にした様子もなく手綱を操り、列の進みに合わせて馬車を前へと進めていった。エルミオスも周囲の喧噪に一切動じず、セリアの指示に従い淡々と歩を進めていた。


 やがて前方の列が進み、セリアたちの番が来る。城門の影に立つ検閲官が歩み寄り、馬車を見上げた。そしてセリアの姿を認めた瞬間、わずかに目を見開いた。


 「・・・失礼ですが、セリア様でいらっしゃいますか?」


 その声には緊張と敬意が入り混じっていた。周囲の旅人や商人たちは思わずざわめきを止め、視線をセリアの方へ向けた。


 セリアは短く頷く。


 「ええ、そうよっ。」


 検閲官は深く頭を下げ、声を落として告げた。


 「殿下より通達を受けております。王都へのご到着を心よりお待ち申し上げておりました。」


 セリアは視線を前へ戻し、わずかに息を吐いた。


 ーーー・・・ルーファウス殿下の仕業ね。門番にまで知らせているなんて・・・。


 「このままお進みください。」


 「・・・確認しなくていいの?」


 セリアがわずかに眉をひそめて問い返す。


 検閲官は首を振り、声を落として答えた。


 「とんでもございません。殿下からのご命令でございます。それには及びません。」


 周囲の人々が驚きと羨望を込めた視線を向ける中、セリアは小さくため息をつき、手綱を軽く鳴らした。馬車は列を離れ、城門をくぐって王都へと進んでいった。


 城門をくぐった瞬間、目の前に広がった光景にアヤメが息を呑んだ。


 「す、すごいっつ! 街が・・・どこまでも続いてるっ。」


 石畳の大通りは真っ直ぐに王城へと伸び、その両脇には石造りの壮麗な建物が所狭しと立ち並んでいる。商人のけたたましい声や、子供たちの甲高い笑い声が飛び交い、賑やかな人波が絶えることがない。冬の乾いた風も、王都ならではの熱気に溶けていくようだ。


 「それに・・・すごい、人がいっぱい。こんなに大勢の人を見るの初めてっ。」


 「王都セイグラムには約二十五万の人々が暮らしている。このエリトルス王国中でも屈指の大都市。驚くのも無理ないわ。」


 セリアは無邪気にはしゃぐアヤメの横顔を眺めながら微笑みを浮かべた。


 そのとき、門を抜ける際に対応していた検閲官が馬車の前へと回り込み、恭しく一礼する。


 「セリア様、王城までは、我らが先導いたします。」


 人々の喧騒を背に、馬車は大通りをゆっくりと進み出した。真っ白な王城は遠くにありながら、その姿をますます大きくしながら近づいてくる。


 案内人が先頭に立ち、王城へと続く大通りを歩いていく。その歩調に合わせ、セリアたちの馬車はゆっくりと進んでいた。屋台や商館、酒場からは笑い声や呼び込みの声が響く。露店には香辛料や果実が並び、行き交う人々の服装は地方とは比べものにならないほど華やかだった。街角ごとに奏でられる楽器の音や、香ばしい焼き菓子の匂いが漂い、王都が放つ活気が五感を包み込む。


 馬車の窓から身を乗り出したフレイアが目を輝かせる。


 「わぁぁっ、すごい! お祭りみたいっつ!」


 「ねぇねぇ、あれ見て!」


 隣でリュカもきょろきょろと視線を巡らせ、興奮気味に指を差した。


 テオドールは少し緊張した面持ちで窓の外を見つめていた。


 「人が・・・多いな。なんだか、ちょっと落ち着かないよ。」


 そんなテオドールの様子に、アルジェントは笑みを浮かべる。


 「大丈夫です、テオさん。みなさんと一緒です。」


 ヴェインは黙して周囲を眺めていた。その眼差しは賑やかな街の間にある路地へと向いていた。


 「・・・さすがは王都、と言うべきか・・・。」


 低く呟いたその声は、既に王都の裏を垣間見ていた。


 メルディナはぼんやりと外を眺めていたが、ヴェインの呟いた言葉に興味を引かれていた。


 ーーーヴェインはいったい何を見つけたのじゃっ。


 王都の喧騒よりも、静かに呟いたヴェインの言葉に頭がいっぱいになっていた。


 やがて馬車は大通りを抜け、正面に王城の巨大な門が姿を現した。石造りの門塔は陽光を浴び、王都の中心に相応しい威容を放っている。


 徐々に門へと近づくセリアの視界が一人の男を捕らえる。茶色の髪を短く切り揃え、大柄な体躯に重厚な鎧を身に纏った男を。


 その男の名はガルム。


 ルーファウス殿下の近衛騎士団を率いる団長であり、アルキラール樹海にある迷宮(ラビリンス)をルーファウス殿下と共に攻略した時の仲間である。


 馬車が門前で止まると、ガルムは前に進み出て、鎧の手を胸に当てて敬礼した。


 「セリア殿、お待ちしておりました。到着の報せを受け、出迎えに参上しました。」


 セリアは御者台から軽く頷き、わずかに笑みを浮かべる。


 「ガルムさん、お久しぶりです。わざわざの出迎えありがとうございます。」


 一瞬、厳めしい表情が和らぐ。


 「殿下がお待ちかねです。さあ、ご案内いたします。」



 ◇◇◇◇◇◇


 ガルムの案内でセリアたち庭園(ガーデン)は、とある部屋の前にいる。


 ここに来るまで間、セリアたちは王城の何ともいえない雰囲気に圧倒されていた。外の喧騒とは一転した、城内に漂う静謐な空気。天井は高く、白を基調とした大理石の床は磨き込まれ、窓から差し込む冬の光が床に反射し、長い回廊を明るく照らす。さらに壁には王国の歴史を物語る絵画や豪奢な装飾が並んでいた。


 アヤメが思わず小声で呟く。


 「わぁぁ、すごい・・・おとぎ話の中にいるみたい。」


 リュカとフレイアも左右をきょろきょろと見回し、無邪気な驚きを隠せない。テオドールは背筋を伸ばし、緊張に飲まれぬよう懸命に歩を合わせていた。


 セリアはそんな仲間たちに、口元をわずかに緩める。


 ーーー子供たちにとっても、大きな経験になるわね。


 やがて、重厚な扉の前でガルムの足が止まる。


 ガルムが振り返り、恭しく告げた。


 「こちらで。殿下がお待ちです。」


 扉の前に立つ衛兵が静かにノックした。


 「セリア殿とその一行がお見えになりました。」


 「通してくれっ。」


 中から落ち着いた声が返ってきた。


 衛兵が扉がゆっくりと開き、応接室の奥に立ち上がり一行を迎えるルーファウスの姿があった。迷宮(ラビリンス)の攻略時の姿がセリアの脳裏に浮かんだが、別人かと思うぐらいに凛々しい姿をしている。


 応接室の扉がゆっくりと閉まると、ガルムが一歩進み出て声を張った。


 「セリア殿、並びにその一行をお連れいたしましたっ!」


 ルーファウスは一歩前に進み、柔らかな微笑みを浮かべて、言葉を投げかける。


 「よく来てくれた、セリアさん。」


 セリアは一歩進み出ると、姿勢を正し静かに会釈を返した。


 「お招きに応じ、参上いたしました。ルーファウス殿下。」


 その形式ばった言葉に、ルーファウスはわずかに目を細め、柔らかく微笑んだ。


 「・・・セリアさん。ここは公的な場ではありません。そのような堅苦しい挨拶は不要です。」


 ルーファウスは声の調子を落とし、さらに続けた。


 「それに、以前にも申し上げましたが、私には敬称も不要です。」


 セリアは一瞬だけ目を伏せ、そして素直に頷いた。


 「・・・わかりました、ルーファウスさん。」


 応接室の空気が、先ほどまでの緊張からわずかに和らいだ。


 全員が席に着き、ルーファウスが口を開こうとしたその時、ルーファウスの視線がふと、三人へと向けられた。まだ幼さを残す双子、リュカとフレイア。そして、背筋を伸ばし緊張感により顔がこわばっている少年、テオドール。いずれもルーファウスには見覚えのない顔ぶれであった。


 「セリアさん・・・その子たちは?」


 視線を向けられた瞬間、リュカとフレイアは緊張した面持ちでセリアの服の裾を掴み、小さな声で(すが)るように呟いた。


 「・・・ママ・・・。」


 セリアは二人の頭にそっと手を置き、優しく微笑む。


 「大丈夫よ。ルーファウスさんは優しい人だから、怖がることはないわ。」


 その言葉を受け、ルーファウスは一瞬目を見開き、驚きの表情を浮かべた。


 「セ、セリアさん・・・お子さんがいらしたのですか? それにしても・・・。」


 セリアは淡々と、しかし穏やかな声音で答える。


 「縁があって、引き取ることになりました。男の子がリュカ、女の子がフレイアです。」


 双子はまだ緊張しながらも、セリアに背を押されて小さく頭を下げた。


 驚きと戸惑いを隠せない表情のまま、双子をじっと見つめるルーファウス。しかしリュカとフレイアが小さく頭を下げると、その健気さと愛らしさに、思わず口元が緩んだ。


 「・・・なるほど。可愛らしい・・・。」


 続いてセリアは未だに顔がこわばっているテオドールへと視線を移す。


 「そして、こっちがテオドール。私の弟子のようなものです。」


 テオドールは背筋を伸ばし、真面目な顔で礼をした。


 「・・・テ、テオドール、と申しますっ。」


 「そんなに緊張しなくても、大丈夫ですよ。」


 ルーファウスは軽くテオドールに微笑むと、再び双子を見つめ柔らかな笑みを漏らした。


 「・・・まさか、セリアさんにこんなご縁があるとは。少し意外でしたが、とても可愛らしい子たちですね。」


 セリアは静かに頷き、リュカとフレイアの肩にそっと手を置いた。


 やがてルーファウスは表情を引き締め、姿勢を正してセリアへと視線を戻す。


 「・・・さて、本題に入りましょう。その前に・・・。」


 ルーファウスは一度姿勢を正し、柔らかな口調で切り出した。


 「セリアさん、Sランクへの昇格おめでとうございます。そしてアルジェントさん、アヤメさん、ヴェインさん、メルディナさん、皆さんもAランクへの昇格が決定しております。」


 セリアの昇格については話を聞いていたが、思いがけない報せに仲間たちが互いに顔を見合わせる。その直後ルーファウスは続けて、静かに頭を下げた。


 「しかし、申し訳ないのですが、この情報が一部に漏れてしまいました。特にSランクへの昇格は発表まで機密扱いです。何故漏洩したかについては調査中ですが、それを知った冒険者たちの中から抗議の声が上がっております。王都に早めに来ていただいた理由の一つが、まさにこれです。」


 その青の瞳に迷いはなく、真剣な響きを帯びていた。


 「抗議に応える形で、皆さんには迷宮(ラビリンス)に潜り、力を証明していただきたい。」


 セリアは小さくため息をつき、椅子の背にもたれかかった。


 「・・・そういうことなら、仕方ないわね。」


 そう言って視線をルーファウスに戻し、静かに頷いた。


 ヴェインが腕を組み、苦笑を浮かべる。


 「まぁ・・・反発があるのも、しょうがないかもしれないなっ。」


 その言葉にアヤメが肩をすくめ、どこか気まずそうに笑った。


 「僕たち、Aランクに昇格するほど依頼を受けてきたわけじゃないしねっ。」


 ルーファウスは二人の声を黙って受け止めながらも、一同を見渡し静かに口を開いた。


 「実際にどの迷宮に潜っていただくかは、冒険者ギルドからの連絡を待つことになります。ただ・・・王都に来ていただいたばかりで誠に心苦しいのですが、二、三日中には挑んでいただくことになるでしょう。」


 その声には、頼みごとを強いる負い目が溢れていた。


 セリアは静かに頷き、短く言葉を添えた。


 「その件については、了承しました。・・・ですが、先ほど“理由の一つ”と仰いましたね。他には何があるのですか?」


 ルーファウスは一瞬表情を引き締め、真剣な眼差しでセリアを見据えた。


 「はい。セリアさんを王都へお呼びした理由は、いくつかあります。」


 ルーファウスは指を折りながら、一つひとつを丁寧に口にした。


 「まず一つ目は、Sランク昇格に伴い、来年三月に予定されている現役Sランクとの模擬戦です。これは王国全体に告知される一大行事であり、セリアさんには是非とも顔を出していただきたい。と言っても拒否権はないのですが・・・。」


 「もう、相手は決まっているのですか?」


 セリアの問いにルーファウスが軽く顔を横に振る。


 「分かりません。既に決まっているのかもしれませんが、私のところには何も話が来ていません。」


 「そうですか・・・わかりました。」


 ルーファウスはその他になにか反応があるかを確認するように視線を巡らせ、再び口を開く。


 「二つ目が、先ほど話に出た力の証明、迷宮への挑戦です。抗議を受けている以上、これは避けられません。」


 「三つ目は、王族派と貴族派の対立に関連し、王都では不穏な事件が相次いでいます。真相を探るためにも・・・セリアさんの力を、是非貸していただきたい。」


 その言葉が落ちた瞬間、部屋の空気が一層張り詰めた。


 アヤメが思わずセリアの顔を見る。


 「ねぇ・・・これって、完全に王族派につくってことにならない?」


 メルディナも静かに唇を噛み、躊躇(ちゅうちょ)を隠せない。


 「もし受ければ、貴族派からは確実に敵視されるのじゃっ。」


 そしてヴェインは腕を組み、鋭い眼差しでルーファウスを見据えた。その視線には、かつて帝国の貴族、そして軍人として培った警戒心が色濃く滲んでいる。


 「・・・政治の渦に引きずり込むおつもりか? ルーファウス殿下、俺たちがこの依頼を受ければ、嬢ちゃんの言った通り、セリアも、俺たちも、王族派の人間だと認識されるだろう。そうは言っても、俺たちはセリアに従うだけだがな・・・。」


 ヴェインの言葉に重苦しい沈黙が広がり、ルーファウスの言葉に対する一行の反応が鮮やかに浮かび上がった。


 セリアは仲間たちの反応を静かに受け止め、ゆっくりと息を吐いた。


 「・・・この件については、即座に答えることはできません。仲間とよく話し合ってから、改めて返答させてください。」


 ルーファウスは短く目を伏せ、頷いた。


 「承知しました。重いことをお願いしているのは分かっています。ですが、良い返事をお待ちしています。」


 一拍置き、ルーファウスは重苦しい空気を振り払うように、柔らかな笑みを浮かべた。


 「そして最後・・・四つ目ですが、王立学園での臨時講師をお願いしたい。」


 ルーファウスの口からもたらされた思いがけない言葉に、部屋の空気が一瞬固まった。


 アヤメは目を丸くし、思わず声を漏らす。


 「セリアねぇが・・・講師・・・?」


 リュカとフレイアはきょとんとした顔で互いを見合わせ、次の瞬間、セリアを誇らしげに見上げた。


 「ママ、先生になるの?」


 「すごい!」


 テオドールは呆然としつつも、どこか羨望(せんぼう)を含んだ眼差しをセリアに向ける。


 メルディナは小さく息を呑み、眉を上げた。


 「セリアが・・・講師とは笑う以外ないのじゃっ!」


 ヴェインは腕を組んだまま唸り声を漏らし、半ば呆れたように目を細める。


 「・・・またとんでもないことを・・・。」


 さまざまな反応が交錯する中、セリアは呆れた表情を浮かべながら、にこやかな笑みを崩さないルーファウスをじっと見つめていた。


誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。


【読者の皆様へのお願い】

作品を読み、少しでも「面白い」、「先が読みたいと」と感じた方は、ブックマークと評価をお願いします。

気合を入れて妄想に妄想を重ねて執筆する原動力になります。厨二病感満載の詠唱も考えて行きます。

改めてお願いします。

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