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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第五章 王都動乱編
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第八十羽. 運命の環


 『セリア様。』


 セリアがイリス親子の再会を静かに見守っていると、アルジェントから念話がもたらされた。


 『アルか。何か不測の事態でも起きたかっ。』


 『いえ、そのような事は発生していません。ヴェインさんから事情は伺っています。それでもお帰りが遅いため、連絡いたしました。』


 『すまない。心配かけたようだな。』


 『滅相もございません。』


 『急で悪いが、旅の支度を頼む。私は二,三日は戻れないかもしれない。』


 『承知しました。それで、何処へ向かわれるのですか?』


 『王都だ。最低三ヶ月は滞在する事になるだろう。詳細は馬車の中で話す。全員に伝えてくれ。』


 『セリア様、テオさんはどうしますか?』


 『どうするも何も、全員で、と言ったはずだが。何か問題があるのか?』


 『何かあった場合に実力不足かと思いまして・・・。』


 『アルの言いたい事は分かるが、一人で留守番をさせておくわけにもいくまい。それに・・・。』


 『それに、何でしょうか?』


 『いや、何でもない。それじゃ、後の事は頼む。』


 セリアが念話を終えると、イリスが母親と弟を連れてセリアの元へとやって来る。


 「イリスから聞きました。この度は村を救っていただき、ありがとうございます。」


 イリスの母親は深々とセリアに頭を下げる。


 「あ、ありがとうございます。」


 それを見ていたユリオンも慌てて頭を下げる。


 「頭を上げてください。そんな大したことはしていません。それより、ご無事で何よりです。」


 「イリス、今、大したこと事じゃないと、聞こえたのだけど・・・。」


 イリスの母親は目を丸くして、イリスを見つめる。そんな母親の視線を受け取ったイリスは、そのまま視線をセリアへと渡す。


 「今ある脅威は全て排除しました。周囲に敵影もありません。ただ、何の連絡も無ければ、別働隊が数日中にも向かって来るでしょう。これからの事を話し合いたいのですが・・・。」


 「それなら、村長に話をお願いします。」


 イリスの母はそう言って一人の男に視線を向ける。その視線の先には、年老いた者たちが並んでいた。その中にひときわ目を引く存在があった。


 頭部に角を戴き、硬質の鱗に覆われた灰緑の肌。細く鋭い金色の瞳を持つその男は、圧倒的な存在感を放っていた。


 「・・・ドラゴニュート。」


 「えぇ、あの方が村長のディアルトです。」


 「私が案内するよ。母さん、ちょっと行ってくる。」


 「イリスよ、戻ってきたようだが、今まで何をしていた。」


 近づいて来るイリスに気が付いたディアルトがこちらに視線と一緒に低く重い声を向ける。


 「まぁ、色々とねっ。」


 イリスは片眉を上げ、肩をすくめた。


 イリスの態度に長老の目が細くなる。


 「・・・それで、村を出て行く際に持ち出したレンヴァリスの鏡は、どおしたっ。」


 「えぇっと・・・その・・・。」


 言葉を濁し、視線を逸らすイリス。


 「まさか・・・お前っ。あれは・・・。」


 ディアルトの声が低く沈み、詰問の色が強まる。しかし、その途中で長老の視線がイリスの背後に向き、瞳孔がわずかに開いた。


 次の瞬間、何の前触れもなく膝をついていた。


 「・・・っ!?」


 イリスとセリアは同時に目を見開く。


 「お、おい、長老、立ってくれ。いったい何を・・・。」


 イリスがディアルトの腕を取ろうとすると、セリアも慌てて駆け寄った。イリスと共にディアルトを立たせるが、その身体は微かに震えていた。


 「大丈夫ですか?」


 ディアルトは小さく息を整え、セリアに短く答える。


 「・・・えぇ、もう、大丈夫です。」


 二人は視線を交わす。説明のつかない奇妙な沈黙と、消えない違和感だけがその場に残った。


 ほんのわずかな間を置き、ディアルトは周囲を見渡す。村人たちは安堵と不安の入り混じった表情でセリアたちの様子を窺っていた。


 「・・・詳しい話は中でしよう。ついて来てくれっ。」


 ディアルトは二人を促し、振り返ることなく洞窟の奥へと歩みを進める。湿った岩壁の通路は進むにつれ、わずかに傾斜を作り、冷たい空気の中に濃密エーテルが漂い始めた。次第に微かな耳鳴りのような振動が響き、足元からは地脈の鼓動が伝わってくるようだった。


 やがて通路の突き当たりに、重厚な金属製の扉が現れる。表面には幾重もの封印式が刻まれ、淡い光を帯びて脈打っている。


 「ここは、我らが代々守り続けてきた場所だ。今回の襲撃は、おそらく・・・中にある“ある物”を狙ったものだろう。」


 ディアルトの声色は硬く、わずかに険しさを帯びていた。


 「・・・何故、それが原因だと?」


 それに被せるように、背後から低い声が洞窟内に響く。


 「それは、私が補足しようっ。」


 長老とイリスは、驚愕の色をあらわに振り返った。振り返れば、そこには先ほどまでディアルトと共にいた鬼人族の男が立っていた。額の短い角、よく鍛えられた体躯。


 「・・・セツエイ殿っ!」


 ディアルトが低く呟く。


 「いつから、後ろに・・・」


 イリスの声にもわずかな動揺が混じる。


 「すまない、驚かせるつもりはなかった。」


 鬼人族の男は短く手を上げ、穏やかな声で言った。そして、口角をわずかに上げて続ける。


 「もっとも、そちらのお嬢さんは気づいていたようだがなっ。」


 セリアは何も答えず、ただ視線だけを男に向けた。セリアは途中から背後にある気配を捉えていたが、敵意が感じられなかったので、放置していた。


 ディアルトからセツエイと呼ばれた男は一歩前へと出る。


 「私は、かつて別の集落の長老をしていた。数年前、私の村も同じような手口で攻め滅ぼされた。生き残りを連れてこの村に身を寄せている。今回の襲撃もそうだが、単純に異種族の村を滅ぼしているだけとは、考えられない。」


 「その理由が、セツエイさんの村とこの村にも、あると・・・。」


 「あぁ、私の村にも、これと同じように”封印の扉”が存在していた。私はこの封印の先にある何かを探しているのでは、と考えているっ。」


 セリアはわずかに顎を引く。


 「封印の所在を探し当てて、順に襲っていると・・・。」


 セリアの問いにセツエイは黙って頷いた。


 「ちなみに、同じ封印を担っている村は幾つあるのですか?」


 「全部で四ヶ所と伝わっている。」


 セリアの問いに今度はディアルトが答えた。そして言い伝えられている内容を続ける。


 「帝国領内ではこの村とセツエイ殿の村の二ヶ所。そして王国領内に一ヶ所。たしかエルダードワーフが封印を担っていたはずだ。そして最後の一ヶ所は不明だ。」


 「不明・・・?」


 「あぁ、空に浮かぶ島としか伝わっていない。」


 ーーーまさか・・・。


 セリアは洞窟の天井を見上げ、ここからでは見る事の出来ないラピュタを思い浮かべる。そしてもう一つのキーワードであるエルダードワーフへと考えを巡らせる。


 ーーーエルダードワーフからは、宝物庫の様な話は、聞いていな・・・。


 セリアはヤトノカミが封印されていた場所を明確に調査していない事を思い出した。


 ーーー後で調査する必要があるな・・・。それよりも、今はこの場所に何があるかだな・・・。


 セリアは石扉を見やり、問いかけた。


 「それで、この中にはいったい何が入っているんですか?」


 長老はしばし視線を扉に留め、静かに答えた。


 「・・・我らは封印の維持と管理をするだけだ。開ける術は持たぬ。」


 その声には、長年の責務を背負ってきた者特有の重みが滲み出ていた。。


 「なら、知っていることを教えてほしいっ。」


 セリアの促しに、ディアルトは小さく頷き、扉から目を離す。


 「・・・ここでは落ち着かん。外で話そう。」


 去り際、セリアは振り返り封印の扉をもう一度視界へと収める。何かざわめく物を感じながらも、セリアは先へ進んでいるディアルトたちの後をゆっくりと追いかける。



 ◇◇◇◇◇◇


 一行は洞窟の外へと引き上げた。外は夜の闇が濃くなり、夜気が冷たく肌を刺す。遠くで焼け落ちた建物の匂いが漂っていた。


 ディアルトは手頃な岩に腰をかけると空を仰ぎ、村に伝わっている事を語り始める。


 「今から数千年前、今の帝国と王国に位置している場所には、ミズガルズという王朝が存在したと言われています。」


 ーーーミズガルズ・・・?


 聞き覚えのあるその単語にセリアが記憶を辿っていると、馴染み深い名前がセリアの耳に飛び込んでくる。


 「王朝の末期、ひとりの魔道士がこの地に訪れた。名を、イング・アルペジーラ。」


 「イングッ!」


 セリアは聞き覚えのあるその名を思わず口にする。


 「イング様を知っているか?」


 「ま、まぁ・・・ちょっと彼の作った魔導具を持っているので・・・。」


 「そうか、確かにイング様は、多くの魔導具を作り、今の魔導技術の基礎を我々にもたらしている、と言われているからなっ。」


 セリアは空を仰ぎ、イングにあった時の事を思い出す。リッチになってまで自分の来訪を待ち続けていた事を考えれば、すごい人物なのだろう。だが、あの時の言動を思い返すと、にわかに信じられないのも、また事実であった。


 「話を戻そう。イング様は各地に散らばる危険な物と、自身の研究成果や集めた膨大な蒐集品を封じるために、四つの封印を築いた。その一つが、我らの村にある。そして・・・それを護る役目を責務として誇りとして、我々は代々受け継いできたっ。」


 ディアルトの声には、セリアには想像も出来ない程の歴史の重みが滲み出ていた。


 「そして、最後にもう一つ伝わっている事がある・・・。」


 「もう一つ、ですか・・・?」


 「あぁ、鍵を持つ者の前に、扉は開くと・・・。」


 「鍵ですか・・・それが何かは?」


 「伝わっておらんっ。」


 「そう・・・ですか・・・。」


 自身の右手首にあるブレスレットを見ながら、セリアは短く答えた。


 『マスター、鍵については報告があるのですが、その前にっ。』


 『あぁ、分かってるっ!』


 突如、空間の歪みが広がる。そして・・・言い知れぬ悪意と殺気のこもった声が辺りに広がる。


 「連絡が取れなくなり・・・来てみれば、まさか全滅とは・・・。」


 重い足音と共に闇を割って現れたのは、漆黒の軍服に銀糸の装飾を施した長身の女だった。肩には第三師団の紋章。腰に()いた幅広の軍刀が、月明かりを受けて鈍く光る。背筋は刃のように真っ直ぐで、その立ち姿だけで鍛え上げられた肉体と武人の気迫を感じさせた。


 圧倒的なまでの存在感に洞窟前の空気が、一瞬にして張り詰めた。抜き身の刀身に晒されているかのように。


 その背後から、帝国兵五名が整然と歩み出る。


 「囲まれたようねっ。」


 セリアの言葉が示すように、闇を切り裂き、低い唸り声と共に魔物が群れを成して現れる。黒く濁ったエーテルをまとった異形の存在。数にして、三十。


 洞窟の入り口はあっという間に魔物により包囲され、逃げ場は完全に断たれた。


 「・・・あれが、イングリッド・ローエンハイムか・・・。」


 イリスが緊張感を滲ませた声で低く名を呟いた。


 「知っているか、あいつをっ。」


 全身に広がる緊張感を抑えながらセリアの問いに答えるイリス。


 「あぁ、第三師団副師団長、イングリッド・ローエンハイム。帝国の中でも文武の“武”を司る名門ローエンハイム家。その中でも、彼女は歴代最強と噂される女武人だ。実力だけなら師団長をも凌駕するという噂だっ。」


 「ほぉ、私の事を知っているか。その噂は事実だが、問いただす必要がありそうだな。あの女は生かして捉えろっ。」


 イングリッドは一瞥で戦場全体を見渡し、無駄のない動きで軍刀を抜く。


 「・・・全員、片付けろっ。」


 その声は静かでありながら、命じられた者の血を沸かせる冷徹な響きを帯びていた。


 魔物が咆哮し、一斉に突撃する。帝国兵も剣と槍を構え、冷酷な足並みで迫り来る。


 「非戦闘員は洞窟内へっ!」


 セリアの声が響くと村人たちが洞窟の中へと駆け込見始める。


 「ラクスッ。」


 セリアの声に呼応するように、ラクスが洞窟の入り口に結界を展開。光の障壁が空間を封じ、村人たちを守る。


 前線にはセリア、イリス、ディアルト、セツエイ、そして村の若者数人が並び立った。そこにテトラとイロハが左右に展開する。


 最初の衝突では、魔物の質量と数に押され、前線は一歩、また一歩と後退する。それでもお互いの死角を補い合うように立ち回り、大きな被害を出さずにいた。


 若者の一人が吹き飛ばされ、イリスが即座に対応するが戦線が崩れ始める。


 しかし、その時。


 「・・・もういいだろう。全員下がれっ。」


 洞窟の中への退避が完了したのを確認したセリアが静かに一歩前に出た。


 「村長、セツエイさん、下がってくださいっ。」


 イリスの声にディアルト、セツエイ、そして戦闘に参加している若者が後ろへと下がる。下がった空間を埋めるよう魔物が一気に押し寄せる。


 次の瞬間、周囲の空間が保持する熱が一気に失われ始める。


 セリアから放たれた冷気は暴風のように広がり、迫り来る魔物十体を一瞬で氷の彫像へと変える。同時にテトラとイロハが左右から駆け、敵の背後を切り裂く。


 イリスと一緒に後退した長老たちは、一瞬にして銀世界と姿を変えた風景に唖然とする。恐ろしいまでエーテルを放つセリアの姿に畏怖を覚えた。


 帝国兵の顔色が変わる。優位に事が進んでいた戦況が、セリアの参戦により逆転していた。そして傾いた天秤が二度と元に戻らない事をはっきり理解した。


 「ば、化け物・・・」


 兵の一人が呟いた瞬間、その首筋に氷の刃が走り視界が反転する。残る四人も、逃げる間もなく地に伏せ凍り付く。五人の帝国兵は何も感じる間もなく、砕け散っていく。


 戦場は静まり返った。


 ただ一人、イングリッドだけが立ち、軍刀をセリアに向ける。


 「・・・面白い。」


 その唇がわずかに笑みを形作る。


 二人の距離が縮まりゆく中で、セリアが手にしていた氷の刃が砕け散る。


 「・・・素手で私とやるつもりかっ?」


 何の武器も持たず、涼しい顔で立つセリア。その余裕がイングリッドの胸中をざらつかせた。


 「それで十分だ。」


 淡々と答えるセリアの姿にイングリッドの喉奥でかすかに苛立ちが(くすぶ)る。


 眉間に深い(しわ)を刻み、イングリッドは一瞬だけ深く息を吸い込む。


 次の瞬間。


 「おおぉぉぉぉっっっ!」


 火薬庫が爆ぜるよな咆吼と共に、鋭い踏み込みで距離を詰めるイングリッド。軍刀が弧を描き、刃先が空気を裂く音が響く。


 二人の距離が縮まり、お互い隔てる空気が一気に張り詰めた。


 閃光となって迫りくる軍刀。振り下ろされる鋭い刃は、獲物を断ち割る獣の牙のように重く速く、受ければ骨ごと砕ける威力だ。だがセリアは身体をわずかに傾け、刃を紙一重で避けると、掌底で軍刀の腹を押し返す。


 掌底の威力に金属が悲鳴を上げる。


 「なっ……!」


 イングリッドの目が見開かれる。


 軍刀に込めた渾身の一撃を、かわされたばかりか、素手で押し返された。その事実が信じられなかった。


 一瞬の躊躇(ちゅうちょ)


 イングリッドは体勢を崩さず、連撃を叩き込む。斬り上げ、横薙ぎ、突きと連続で繰り出される怒涛の剣撃が、空を切り裂き周囲を巻き込む。だが、そのすべてをセリアは的確に受け流していく。動きは最小限、時に指先で方向を逸らし、必要な時だけ半歩だけ退く。その身のこなしは、攻め続けるイングリッドに一切の突破口を与えない。


 「・・・どうした。もう終わりか?」


 短く放たれたセリアの声が、冷水のようにイングリッドの熱を削ぐ。挑発ではなく、ただ事実を告げるその声。それがなおさらイングリッドの苛立ちを煽った。


 「くっ・・・!」


 額に汗を浮かべたイングリッドが、渾身の踏み込みで軍刀を突き出した。


 渾身の一撃は空を切り、イングリッドの鳩尾(みぞおち)にはセリアの左掌が深く突き込まれる。鈍い衝撃が腹部を(えぐ)り、肺の空気が一気に押し出される。視界が激しく揺れ、身体を支える力が抜け落ち足元が崩れそうになる。


 「ここから、逆転する策はあるか?」


 耳元で囁くような低い声。


 答える間もなく軍刀を持つ手首が捻られ、鋭い痛みが走る。握力が奪われ、軍刀が指の間から滑り落ちる。


 地を叩く乾いた金属音が戦場に響き渡る。勝敗を決定づける合図のように。


 セリアはそのままイングリッドの片腕を取り、足払を払う。イングリッドの身体に綺麗に弧を描き、地に叩き付けられる。体重をかけられ、背中と腕が土に押し付けられると、完全に動きが封じられた。


 冷たい視線が真上から降り注ぐ。


 「・・・終わりだ。」


 呼吸は乱れ、全身が痺れる。


 だが、イングリッドの胸中に芽生えたのは、屈辱よりもむしろ圧倒的な力に対する敬意だった。


 ーーーこれほどまでの力を持つ者が、この世に存在するのか・・・。


 自身を見下ろす冷たい眼差しが、未だイングリッドの全身を駆け巡る痛みを、甘美の物へと変えていく瞬間。


 ーーー私は・・・このために・・・。


 セリアは押さえ付けていた力を緩め、イングリッドから離れる。ゆっくりと身を起こし彼女は、立ち上がるでなく、そのままにセリアに向かって膝をついた。


 まだ肺に残る痛みが呼吸を乱すが、その瞳は驚くほど澄んでいた。


 「・・・完敗です。」


 掠れた声でそう告げた後、深く頭を垂れた。


 「あなたに、私の全てを捧げたい。剣も、命も、私という存在そのものを、下僕としてでも構わない。あなたの影となり、あなたのためだけに刃を振るう覚悟がある。」


 イングリッドは軍刀を拾い上げると、鞘に収めずセリアに捧げた。その声には、敗北による屈辱は微塵もなく、ただ強者に巡り合った歓喜。


 胸の奥から熱が込み上げ、イングリッドの全身を震わせる。


 ーーーこの人の傍にありたい、この人のために全てを・・・私の全てを捧げ、費やしたいっ。


 そんな陶酔が、血潮のようにイングリッドの全身を駆け巡っていく。


 セリアはしばし黙してその言葉を受け止めた。だが、その瞳に宿る熱と、身を焦がすような陶酔の気配に、思わず眉をわずかにひそめる。あまりの変わりように、どこか引き気味にならざるを得なかった。


 セリアはしばし黙してその言葉を受け止め、やがて静かに応じた。


 「・・・好きにしろ。」


 短くそう告げた声には、わずかな間が混じっていた。


 ーーー・・・これは、面倒なことになったな・・・。


 心の中で小さくため息をつきつつも、表情には出さない。


 だがイングリッドにとっては、甘美な響きであった。それは自分の犯した一切の罪が許される天上の鐘の音。その甘美な音色に彼女の口元がわずかに緩み、恍惚(こうこつ)とした表情で身体を震わせる。


 そして・・・イングリッドは、より熱の籠もった瞳を向けていた。



誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。


【読者の皆様へのお願い】

作品を読み、少しでも「面白い」、「先が読みたいと」と感じた方は、ブックマークと評価をお願いします。

気合を入れて妄想に妄想を重ねて執筆する原動力になります。厨二病感満載の詠唱も考えて行きます。

改めてお願いします。

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