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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第五章 王都動乱編
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第七十九羽. 失われし故郷、そして再会


 転移した先は、辺り一帯が炎に包まれていた。


 焼け落ちる故郷を目の当たりにしたイリスは、懐かしき故郷が崩れ落ちていく姿に膝から崩れ落ちる。


 「・・・う、そ、でしょ・・・なんで・・・。」


 悲痛なほどの叫びにも似たな言葉がイリスから零れ落ちた。嘗ての美しかった故郷と、炎で焼け落ちて行く今の姿が、イリスの中で交互に折り重なるように浮かび上がっていく。


 セリアは、すぐさまに周囲の探知を実施する。既に亡くなっている者が確認できるが、目の前の惨状と村の規模から考えると明らかに人数が少ない。さらに襲撃者と思しき者達が100人ほど確認出来た。


 ーーーこれは・・・偶然なのか。それとも・・・。


 「イリスッ!」


 セリアの呼びかけにも答えず、膝をつき呆然としてるイリス。そんなイリスの肩を揺らしながらセリアが話しかける。


 「残念ながら、既に事切れている者もいる。だが村の規模から考えて少ない。まだ希望がある。イリス、思い出すんだっ。こんな時住人は何処へ避難する。お前のやるべき事は、ここで悲しみ打ちひしがれて、呆然としていることかっ。」


 さらに強い口調でイリスに語りかける。


 「思い出せっ、イリス・ティレインッ!」


 イリスの視線が静かにセリアの顔を捉える。そして失っていた彩がゆっくりと瞳に戻り始める。


 風が吹き、焦げた空気をさらに巻き上げた。


 「・・・確認したい場所がある。・・・こっち。」


 イリスは小さく息を吐き、立ち上がると足を一歩踏み出した。


 「昔・・・村の子どもたちが遊んでいた獣道がある。その先に確か・・・隠れる場所があったはずっ。もしかしたら、そこに逃げたかもしれない。」


 「案内して。警戒は私が引き受ける。」


 セリアの返答に頷き走り始めるイリス。セリアはその背後を警戒を保ったまま続く。踏みしめる足元では、灰がふわりと宙に舞った。


 セリア達は気づかれずに身を隠しながら移動していた。その課程で分かったのは、この村を襲ったのが胸甲に刻まれた紋章から判断して帝国軍である事。


 村の入り口まであともう少しと言ったところでセリアは制止を促す。


 「流石に、このまま通してはくれないかっ。」


 村の入り口を20人近い兵が塞いでいた。


 ーーー探知には引っかから無かった。何故だ・・・。


 『マスター、探知を妨害する魔道具、ないし術を使用が推測されます。』


 ーーーという事は100以上いる可能性が大かっ。


 出入り口で揺らめく篝火(かがりび)の向こうで、掲げられた旗が風にたなびいていた。


 「・・・っ。」


 イリスの目が、旗印に釘付けになる。漆黒の地に、鋭く交差した槍と蛇。あれは、かつて自分が一時期所属していた、帝国軍第三師団の軍旗だった。


 「・・・ま、まさか・・。」


 ーーー何故・・・第三師団が・・・。地方での反乱鎮圧を主な任務としているとはいえ、こんな辺境の村に派遣されるような部隊ではない。何か、特別な任務が・・・?


 イリスの脳裏に、言い知れぬ嫌な予感がよぎる。この襲撃は、単なる略奪や反乱鎮圧ではない。何か大きな陰謀が渦巻き、自分たちがそこに飲み込まれ行く感覚をイリスは覚えた。


 「あの旗に見覚えが?」


 イリスの様が気になり、掲揚されている旗について尋ねたセリア。


 「・・・えぇ、あれは帝国軍第三師団の軍旗。そして、私が初めに所属していた場所だ・・・。」


 「それで、その第三師団が何故、こんな辺境に。」


 「主な任務は地方での反乱の鎮圧。普通なら、こんな辺境の村の鎮圧は対象外なはずっ。」


 ーーー何か裏があるのか、裏が・・・。とはいえ情報が少ない中で考えても拉致があかないかっ。それに、今は余計な事を考えている場合では、ないな・・・。


 「イリス、作戦を実行に移す場合の規模はどれくらいだっ。」


 「中隊規模が投入されているはずだ。だが、この村の規模からいって、念を入れて大規模中隊を送り込んでいると、考えた方がいい。人数にして200人前後といったところか。」


 ーーー約200人か。問題は無いが・・・。


 セリアは静かに視線をイリスに向ける。


 「イリス、この先に本陣があるようだ。そこで、今二つの選択肢を選択出来るがどおする?」


 「2つの選択肢?」


 「あぁ、一つはこのまま本陣を突っ切る。もう一つは迂回路を探す。本陣を突っ切る場合は、私がす全ての敵を引きつける。」


 セリアはイリスに二つの選択肢を提示した。しかし、イリスの瞳には、既に答えが見えていた。迂回路を探すこと事態は容易な事ではある。ただ見つかった時の事を考えれば、村人たちの命が危険に晒される。さらにその先の事を考えれば、セリアの提示した選択肢は、イリスを安全に先行させるための、唯一にして最善の策だった。


 「全てをって・・・。」


 イリスは呆れた顔をしながら、セリアに言葉の一部をオウム返しに口にした。


 「あぁ、どんなに優秀な兵だろうと、私の前ではただの雑兵だからなっ。」


 「マスター・・・。」


 「どうした、イリス?」


 「二つの選択肢といっているが、実は一つしか無いんじゃ、ないか・・・。」


 「まぁ・・・そういう事だっ。私が騒ぎを起こすから、その隙にイリスは目的地まで振り返らず駆け抜けろっ。」


 「了解だ、マスター。」


 「テトラッ。」


 『なぁに、あるじ~。』


 「テトラは、イリスについて行ってくれっ。」


 テトラは飛び跳ねると、イリスの肩へと飛び乗る。


 「準備は、いいか?」


 イリスが頷くのを確認すると、セリアは目の前に展開する帝国兵目がけて走り出す。落ちている小石を走りながら拾い上げると、入り口を塞いでる兵に向かって親指で弾く。セリアの弾いた小石はエーテルを纏い、空気を裂く速さで標的を穿つ。分厚い鎧を紙のように貫通し、兵士は声すら上げることなく崩れ落ちる。


 「・・・なっ・・・!?」


 「お、おい、何があったっ!」


 異変に気づいた兵たちが一斉にざわめく。だがセリアは止まらない。倒れた兵士に駆け寄る者に立て続けに小石を弾く。セリアの狙いは正確で頭部、心臓と急所を正確に打ち抜いていく。


 入り口を警備していた20人いた帝国兵が全員地に伏すまでにそれ程の時間を要し無かった。


 「う、そ、でしょっ・・・。」


 その様子をセリアの背中を追いながら見ていたイリスは、セリアの妙技に唖然とした顔をしながら倒れている帝国兵を見下ろす。


 「イリス、作戦通りに行くぞっ。」


 「分かったわ。」


 イリスは頷きながら、答えると脇道へと姿を消す。イリスが配置についたのを確認するとセリアはゆっくりと本陣に向けて歩き出す。


 本陣は、村の入り口から少し離れたところにある開けた広場に築かれていた。いくつもの篝火が焚かれ、その炎が不気味に揺らめく。周囲には簡易的なバリケードが築かれ、その陰から多数の帝国兵が顔を覗かせていた。


 そして本陣の中央奥には、ひときわ大きく焚かれた篝火があり、その周りには重厚な鎧を纏った指揮官らしき男たちが集まっていた。彼らの顔には、この辺境の村の襲撃など、大した仕事ではないという傲慢さが滲み出ている。


 本陣にたどり着いたセリアは、動揺することなく、静かに周囲を見渡した。圧倒的な数の兵士たちが四方を取り囲むが、その表情には数の暴力に対する恐れや警戒はなく、嘲笑さえ見て取れる。兵士たちは数の優位に安堵し、絶対の自信を覗かせていた。


 さらに、罠の蓋を閉めるように村にいた兵たちが、セリアの後方に展開する。


 「囲んだぞっ!落ち着け、数はこっちが上だっ!」


 「魔導士もいるっ。同時に叩けばっ。」


 絶対的な数の暴力を信じ、叫びと共に放たれた魔法と剣技の波が、篝火で照らされた空を埋め尽くす。この時、彼らはまだ気が付いていなかった。自分たちの常識を遥かに超えた存在であることに。そして自分たちの運命がここで潰えることに。


 四方八方から放たれた魔法攻撃が、セリアのいる空間に集中する。炎、氷、雷とあらゆる属性が重なり、凄まじい閃光が本陣を包む。しかし、魔法の光が収まり、吹き抜ける風が煙を晴らすと、そこに立っているセリアの姿には、一切の傷も(すす)もついていなかった。


 「ば、馬鹿な・・・ありえな・・・」


 「・・・直撃のはずだろ・・・化け物かっ!」


 セリアの周囲には、目に見えない防御術式が幾重にも張り巡らされていた。兵士たちの攻撃は、その術式に阻まれ、セリアに到達する前に全てが霧散していたのだ。


 兵士たちの間に広がる動揺。指揮官らしき人物が、額の汗を拭いながら呟く。


 「いったい、何者だ・・・」


 セリアはローブに手を入れたまま、鋭い眼光を指揮官らしき人物に向ける。


 「私に牙を向けたんだ。逆に牙を向けられる覚悟もあると思っていいのかしら。まぁ、初めから・・・この場にいる全員を生きて返すつもりは、無いけどっ。」


 「な、何を言っている・・・。」


 セルアの発言に動揺しながら、再度攻撃の指示を行おうとした時、自身の身体に異常を感じた。自身の身体が糸のよう物に絡め取られ、全く身動きが出来なくなっていた。それはセリアを囲む帝国兵も同じ状況にあり、何が起きたのか理解できず誰もが困惑の表情を浮かべていた。


 彼らの身体に巻き付いているのは、エーテルを極限にまで圧縮し、糸状にしたものだ。糸は鎧の隙間や関節部分に食い込み、身体を雁字搦めにしていく。


 「・・・な、なんだこれはっ!!?」


 徐々に締め上がっていく糸に恐怖を感じ、其処彼処(そこかしこ)叫び声が上がる。


 セリアはローブのポケットから手を出すと、指先を軽く弾く素振りをした。


 パチン、と乾いた音が響き、振動が糸を通して瞬時に全体へと広がっていく。絡みついたエーテルの糸は一斉に締め上げられ、帝国兵たちの身体は次々と切断されていった。鎧も、骨も、まるで豆腐のようにあっさりと断ち切られ、血飛沫が舞い肉片が地面に散らばり、辺りは一瞬にして血の海へと変わり果てる。


 それは、まるで巨大な蜘蛛が獲物を仕留めるかのような、冷徹で残虐な光景だった。それを行ったセリアのその顔には、一切の動揺も、何の感情も浮かんでいない。ただ、目的を達成するための、淡々とした作業。兵士たちが恐怖の表情を浮かべたまま事切れていく様子は、セリアが嘆哭者(クライアント)から”最大級の脅威”と呼ばれる所以(ゆえん)を、いやというほど物語っていた。


 静寂が訪れた本陣をただ静かに、セリアは歩を進める。その足元には、血に染まった灰と、無惨な無数の死体が転がっていた。


 セリアが森の中へと姿を消し、静寂が戻ったその瞬間。


 パチ、パチ、と微かな音が響き、肉塊と化した兵士たちの身体に絡みついたエーテルの糸が、燃え始めた。火の粉はあっという間に炎の渦となり、一瞬のうちに全てを飲み込んでいく。すべてを等しく燃やし尽くし、跡形もなく灰へと変えていく。


 それは、セリアが徹底的に証拠を消し去るための、冷徹な一策だった。セリアは自らが引き起こした惨状が誰にも知られることのないよう、完璧な後処理を施していた。


 立ち込めていた血と肉の匂いすらも飲み込み、ただ熱と灰だけそこに残った。



 ◇◇◇◇◇◇


 セリアと別れたイリスは、草陰に身を潜めた。セリアが本陣へと向かっていくのを確認すると、故郷の皆が隠れているであろう場所に繋がる獣道を足音を立てず駆け出す。しばらくすると戦闘の開始を告げる爆発音が帝国軍の本陣の方から鳴り響き、大気を震わせた。


 小高い岩場を越え、蔦の絡んだ斜面と険しい獣道を抜けたその先、巨岩に守られるようにして開かれた窪地に、小さな洞窟が口を開けていた。安堵の息を漏らそうとした、その時だった。


 「案内ご苦労様っ!」


 背後から、冷たく低い声が響いた。イリスはハッと振り返る。そこに立っていたのは、帝国軍の兵士が二人。警戒していたはずなのに、全く気配に気づかなかった。


「なぜ・・・ここに・・・。」


 イリスが問いかけると、一人の兵士が冷笑を浮かべた。


 「俺たちにも、運が回って来たなっ。見つけたのは偶然だが、この女に案内させれば昇格は間違い無いだろうっ。」


 イリスの前に現れた二人の兵士は彼女の事をただの村人、あるいは運の悪い通りすがりの案内役としか認識していないようだった。


 明らかに油断している彼らを倒すのに大した時間は必要なかった。隠し持っていたナイフを投げると、片方の兵士の首へ吸い込まれる様に突き刺さる。それと同時にイリスは倒した兵士のもとに素早く近寄ると、腰の剣を引き抜き、そのままもう一人の兵士に向かって投げる。


 剣は見事に兵士の額に突き刺さり、そのまま後ろへと倒れていく。イリスは軽く息を吐きながら立ち上がると、自分が倒した兵士を眼下に収める。しかし、安堵したのも束の間、木々の奥から冷たい声が響いた。


 「なかなかの動きだっ。」


 その声にハッとしたイリスは、緩んだばかりの緊張感が再び張り詰め周囲を警戒する。警戒しながら声のした方向に意識を集中するが、気配は全く感じられない。


 「・・・どこにいるっ!」


 イリスが叫ぶと、背中に突如、温かい息を感じた。ゾクリと背筋が凍る。


 「やれやれっ、私の声と気配に気が付かないとは・・・落第点だな。」


 耳元で囁かれた声に、イリスは全身の血の気が引く。反射的に振り返ると、そこにはいつの間にかセリアが立っていた。あれだけ激しい爆音が轟いていたにも関わらず、セリアが羽織るローブには、血の一滴どころか全く汚れていなかった。


 「マ、マスター・・・!」


 イリスは安堵と驚愕が入り混じった表情でいたずらの当事者の名を呼ぶ。


 セリアは、イリスの表情を見て、静かに頷いた。


 「よくやった。後は、村人たちの安否を確認するぞ。」


 そう言って、セリアは洞窟の入り口へと視線を向けた。丁度その時、外の騒ぎを確認しに来たであろう村人の一人がセリア達の前に姿を現す。恐る恐る顔を出したのは、まだ年若い少年だった。


 「・・・イリ、ス・・・姉ちゃん・・・?」


 「ユリオ・・・ン・・・。」


 零れ落ちるように弟の名を呼ぶと、イリスは駆け寄る。少年もイリスの姿を見て、目に涙を浮かべながら飛びついてきた。


 「姉ちゃん、よかった、無事だったんだね・・・。」


 「うん、大丈夫・・・ユリオンこそ、無事でよかったっ。」


 二人が再会を喜び合っていると、洞窟の奥から、次々と村人たちが姿を現した。皆、頬を煤で汚し、恐怖に顔を引きつらせていたが、イリスの姿を見て、安堵の表情を浮かべる。


 そのときだった。


 人々の影の向こう、洞窟のさらに奥から、ひとりの女性が歩み出てきた。灰色の上衣に草色の外套。顔立ちは整っており、しかしその表情は強さと疲労を滲ませている。


 「・・・イリス。」


 その声に、イリスがはっとして顔を上げた。視線が交差し、揺れる瞳。イリスの息が、一瞬止まる。


 「・・・母さん・・・」


 小さく、呟いたその言葉に、女性がゆっくり静かに、しかし確かな足取りで歩み寄る。イリスは堰を切ったように涙を流し、歩み寄る母親に抱きついた。


 「あんた・・・ずっと消息が掴めなかった。生きてるって、信じてたけど・・・。」


 「・・・ごめん・・・。」


 言葉にならない想いが喉の奥で詰まる。けれど母は叱りもせず、ただそっと両腕でイリスを抱きしめ背中を優しくさすりながら、静かに涙を流していた。


 「生きて帰ってくれただけで・・・十分よ。」


 イリスの家族との再会を、セリアは少し離れたところで静かに見守っていた。



誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。


【読者の皆様へのお願い】

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気合を入れて妄想に妄想を重ねて執筆する原動力になります。厨二病感満載の詠唱も考えて行きます。

改めてお願いします。

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