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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第五章 王都動乱編
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第七十七羽. 黒衣の影


 ローレルの中心街を抜けてしばらく行くと、そこには古くからこの地を見守り続けてきた威風を湛える一際大きな屋敷が姿を見せる。このローレルを納める辺境伯が住まうアデルフィート邸。


 アデルフィート邸の広大な敷地を守るように重厚感ある門。その両脇には衛兵が常時詰めている。


 門が静かに開くとセリアを乗せた馬車を迎え入れる。馬車は滑るように屋敷の正門へと進み、従者の手によって緩やかに停まった。


 「セリア様、到着しました。」


 正面に座るキースウッドが、馬車の中で礼を取る。


 「ありがとうございます。」


 衛兵から報せがあったのだろう。到着を待っていた従者によって馬車の扉が開かれる。雪こそ振っていないが、凛として冷たい空気が馬車の中に入り込んでくる。


 セリアは黒のロングコートの裾を翻して静かに降り立った。敷き詰めらた石畳が余計に寒さを助長していた。


 屋敷の正面扉が開かれると。そこには執事たちが整列し、軽く頭を下げていた。


 「セリア様、主は書斎にてお待ちしております。お手数をおかけしますが、どうぞ、こちらへ」


 セリアは小さく頷くと、キースウッドの後に続いて屋敷の中へと入っていく。


 赤褐色の絨毯が敷かれた廊下は暖炉の熱が行き届き、寒さの中でも心地よい温もりを感じさせた。軽やかな足取りで先導するキースウッドの背を追いながら、セリアは邸内に飾り付けられた年末飾りを目を向ける。控えめに施されている飾りは、どこか落ち着いた節目の空気を醸し出していた。


 やがてキースウッドは立ち止まり、重厚な両開きの扉を叩いた。


 「アインザック様、セリア様をお連れいたしました。」


 「通してくれ。」


 キースウッドの低く落ち着いた声に応じ、部屋の中から重厚な男の声が返ってきた。


 取手をひねりキースウッドは木製の扉をゆっくりと開く。部屋の内装は過剰な装飾を避け、実務的ながらも格式ある雰囲気を保っている。


 「セリア殿、そこに掛けててくれ。キース。」


 「かしこまりました。」


 キースウッドはアインザックの声に一礼すると部屋を退出する。アインザックは机から一通の封書を取り出すと、セリアの正面へと腰を掛ける。


 「そんなに重要な事なんですか。キースウッドさんは急ぎではない、と言っていましたが。」


 セリアは退出するキースウッドを視界の端で捉えながらアインザックに声を掛けた。


 「正直言って分からない。ただ、ルーファウス殿下から手紙があってね。直接手渡してほしいとのことだったので、念のためだ。」


 そう言ってアインザックは手に持っていた封書をセリアに手渡した。


 封書の裏を見るとそこにはしっかりと封蝋がされ、そこには王家の紋章がはっきりと押されていた。


 「・・・これを、ルーファウス殿下から?」


 セリアはその場で封を切り、中に目を通した。


 ーーーーールーファウス王子の手紙(抜粋)ーーーーー

 親愛なるセリア殿へ

 まず初めに、アルキラール樹海では大変世話になった。

 貴殿の数々の功績に対して、内々ながら、

 Sランクへの昇格がすでに決定されたことを知らせる。

 正式な通達は後日ギルドから届くだろう。


 それに伴い、来春三月、王都の闘技場にて模擬戦を行ってほしい。

 対戦相手は現役Sランク冒険者。

 貴殿の実力を、広く知らしめる機会にもなるだろう。


 なお、できれば年が明ける前に王都へ来てもらいたい。

 観光も兼ねて早めに訪れてくれれば、私としても心強い。


 王都セイグラムにて、再会を楽しみにしている。

 ルーファウス・エル・セイグラム

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 手紙を読み終えたセリアは、手紙をそのままアインザックに差し出す。


 「私が読んで良い内容なのかな。」


 「文面だけを見れば、何の問題もないでしょう。」


 アインザックは手紙を受け取ると、すかさず中身を確認する。


 「手紙の文面だけを見ると穏やかだが・・・」


 読み終えたアインザックは顔を上げながら感想を口にする。


 「えぇっ、模擬戦の話があるにせよ、殿下が私を早めに呼び寄せたがっている理由が気になります。」


 セリアの言葉にアインザックは背凭れに身体を預け、目を細めた。


 「この数ヶ月、王都では妙な出来事が続いている。一部の財務官僚の更迭、人員整理に紛れた不可解な死。貴族派と王族派の対立は表には出ていないが、確実に揺れている。それにきな臭い噂にいとまがない。」


 「・・・王都で、何かが起きていると・・・。」


 「私は王都にほとんど身を置かないからな。正直どの程度深刻なのかは、分からない。だた、セリア殿をなるべく早く王都呼ぼうとしている所を鑑みると・・・。」


 「そうなんでしょうね。」


 ーーーもう終わりか・・・。


 ため息を漏らし、天井を仰ぎ見ながらセリアは、穏やかな日常が終わりを告げたことに後ろ髪を引かれていた。


 「分かりました。年内には王都に入ります。準備に数日ください。」


 「分かった。殿下にもそう伝えておこう。こちらで可能な限りの支援する。」


 「ありがとうございます。アインザックさん。そう言えば、王都まで何日くらいかかりますか。」


 「馬車で10〜13日といったところかな。」


 「結構かかりますね。」


 「あくまでも普通の馬車ならばな。セリア殿が持つ馬と馬車ならなば、半分くらいの日数で到着するだろう。」


 「以前、セリア殿に作って頂いた馬車はとても快適で、しかも通常の馬車よりも速さが出る。もう、他の馬車には乗れないなっ。」


 エドへの馬車旅はギルドの用意した馬車を使用した。この時は多少の不便さを感じたが、我慢できる範囲であった。だがメールトゥールへの馬車旅は、民間の馬車を利用したものだった。その快適とはほど遠い環境にセリアはうんざりしていた。曲がりなりにも現代日本で生活していた事を考えれば当然と言えば当然の話である。


 そんな中、セリアが馬車の自作を思い至ったのは、リュカとフレイアのお尻が痛い、という一言だった。セリアはメールトゥールから帰ると馬車作りに邁進する。


 さらに馬形の従魔であるエルミオスに馬車を引かせるのを前提に設計を進めていった。構造材にはトレントの上位種から採れた魔樹材を用いる事で軽さと強度を両立。サスペンションとベアリングはセリアの曖昧な知識を伝える事でエルダードワーフが見事に再現した。タイヤには魔獣の革を厳選の上に厳選を重ね最適な物を採用して衝撃吸収と滑走性能の両立をはかった。


 内装には空間拡張と温度調整の術式を重ねる事で、馬車の中での生活に快適さを追求した。


 そんな折、セリアが自作した馬車がアインザックの目に留まる。馬車の仕様を大変気に入ったようで、外装を貴族仕様に変えた馬車をもう一台作成することになったのだ。


 「そう言って頂けると、作ったかいがあります。」


 『セリア、今いいか。』


 突如ヴェインから念話が入った。


 『何か不足の事態でも?』


 『いや、保護対象は無事に確保した。護衛の三人も無事だっ。』


 『三人?たしか、依頼では四人だったはずだが・・・。』


 『あぁ、そうなんだが、護衛のひとりでダリムっていうのが糸を引いていたみたいなんだ・・・。』


 『それで、そのダリムは拘束できたのかっ』


 『すまん。それには失敗した。そのダリムなんだが、どうやらゾディアックと繋がりがあるようだ。魔物での殺害に失敗すると20人を超える黒衣の集団が出てきた。』


 ーーーなぜ、ゾディアックが・・・。確か・・・帝国上層部とゾディアックに繋がりがあるとヴェインが言っていたな。


 『で、痕跡を追えるぐらいのことは・・・。』


 『あぁ、その辺はぬかりない。ちょっとしたマーカーをつけた。』


 『流石だっ。後は私が引き継ぐ。ヴェインたちはギルドに報告後、屋敷に戻ってくれ。それとダリムの事は魔物に襲われて命を落とした、と口裏を合わせておいてくれ。』


 『了解だっ。あんまり痛めつけるなよっ。』


 『ちょっと事情を聞くだけだっ。』


 ヴェインとの念話を切ると、セリアは数秒だけ、視線を落としたまま思考を整え静かに顔を上げた。


 「アインザックさん。ギルドの依頼の件ですが・・・。」


 「あぁ、聞いているよユーリス君の事だね。もしかして・・・。」


 「心配は要りません。今、仲間から連絡が入り、無事確保したとのことです。護衛が一名命を落としたそうです。」


 「その騎士にはお悔やみを言うが、ユーリス君が無事で何よりだっ。」


 「準備もありので、私はこれにて失礼します。」


 「あぁ、ありがとう。」


 セリアは馬車での送りを断ると、街の喧騒の中に消えていった。



 ◇◇◇◇◇◇


 迷宮(ラビリンス)から離脱して1,2時間。


 ローレルの南部に広がる森林の奥地。忘れ去られた地下神殿跡にダリムの姿があった。この神殿跡が王国東部で活動するゾディアックの実働部隊である嘆哭者(クライアント)の拠点となっていた。


 石壁の間に仄かな灯りがともる中、ダリムは泥と返り血にまみれ疲弊した足取りで姿を現す。


 黒衣を身に纏い白い仮面をつけた三人の仲間が、無言でダリムを迎え入れる。


 「失敗だっ。」


 ダリムの第一声がそれであった。


 「その様子から戦闘があったのはわかるが、何があった。」


 「庭園(ガーデン)だっ。」


 「それを見越して、手練れを配置したのではなかったか。」


 「あぁ、確かに、手練れの者を20人配置した。だが・・・。」


 「庭園(ガーデン)のリーダー、セリアが出てきたかっ。」


 「いや、アヤメ、ヴェイン、メルディナの三人だ。ノーマークでは無かったが、想定以上に強い。あっという間に無力化された・・・」


 「では、メールトゥールの噂は・・・。」


 「真実だろうな・・・。」


 ダリムは答えながら身につけていた鎧を脱ぎ捨て、荒く息を吐く。


 「ダリム、帝国軍の国境への部隊配置は遅くともあと一週間ほどで完了する。それ程時間は無いぞっ。」


 「あぁ、わかっているっ。計画の変更を余儀なくされたが・・・なんとかするっ。」


 「ダリム、一旦計画を中止して、判断を上に仰ぐべきだな。」


 もう一人の声がその場に響いた。陰から姿を表したのは同じように黒衣と白い仮面で身を包んだ者。


 「何があったっ」


 「ギルドでは、お前が魔物に襲われ、命を落とした事になっている。」


 ダリムの問いに静かに答える。


 「まさか・・・。」


 「そう考えるのが、妥当だろうな。このアジトも早急に引き払うべきだろうな。」


 「だが、どうやって・・・。」


 「私の仲間がそこにいるダリムにマーカーを施した。」


 ダリムの問いに女の声が響く。


 声のする方にすかさず視線を向ける四人。そこから一歩、また一歩と、闇の中から姿を現したのは銀髪の兎人族。


 「セ、セリア・・・。」


 ダリムの声が震える。


 「私の事を知っているとは嬉しいが、何を企んでいるっ。」


 「ダリム、ここは我々が引き受ける。お前は・・・。」


 黒衣の一人が最後まで言葉を紡ぐ前に、氷柱で胸を貫かれ、白い仮面が砕け散り口から血を吐き崩れ落ちる。ダリムがそれに気をとられている間に残る三人もその場で崩れ落ちる。


 「さて、聞きたい事がある、と言ったら・・・素直に話す気はあるっ。」


 「ば、馬鹿な・・・こ、こんな・・・。」


 仲間の血で濡れた床に一人取り残されたダリムは自分の置かれた状況をすぐに察した。それはどう足掻こうがここから脱出する事が叶わない、という現実。滲む視界の中で捉えたセリアの姿は剣すら抜かず、一歩も踏み込まずに、それを終えたのだ。


 ーーーこのまま終われるものかっ。


 「ならば・・・。」


 ダリムが呟くとダリムの全身からエーテルが爆ぜるように溢れ出した。空間が歪むほどの熱量を孕み、セリアの周囲を囲むように複数の火球が出現する。そして次の瞬間、出現した火球が精密にセリア目がけて襲いかかり、爆炎とともに爆音が神殿内に轟き渡る。


 視界を埋め尽くす爆炎に肩を大きく上下させたダリムは呟く。


 「・・・やった・・・。」


 勝てるとは思っていなかった。ただ、一矢報いた、それだけでも意味がある、はずだった。しかし、炎が晴れた先にあったのは、ダリムにとって驚愕の事実だった。


 「・・・嘘、だろ・・・。」


 微塵の焦げ跡もなく、髪一本乱れることすらなく。黒衣の女は、ただ静かにそこに立っていた。前髪の奥に見える紅い瞳がわずかに細められ、妖しく揺らめく。


 「無詠唱でこれだけの威力が出せるとは、驚きだな。相手が私でなければ・・・これで終わっただろうな。」


 絶望とは、死よりも静かに訪れる。セリアのその一言が、音もなくダリムの膝から力を奪っていった。


 地に膝をつき、ダリムは虚ろな瞳でセリアを見上げていた。その足元には先ほどの火球の余波が残した微かな残滓が、赤い残光となって漂っていた。


 セリアは一歩、静かにダリムに近づく。


 「もう少しだけ、語ってもらう。」


 囁くような声とともにセリアの周囲に透明な波紋が広がっていく。広がる波紋に火属性のエーテルが反応するようにそっと浮かび上がり、次第に赤を失いながら白く淡い光を纏い形を変え始めた。


 変質したそれらは、まるで花弁のように軽やかに宙を舞い、ゆっくりとダリムの周囲に降り注いでいく。


 「・・・なんだ、これ、は・・・・」


 ダリムの視線は、舞い落ちる一枚に釘付けになっていた。


 「まさか、一枚一枚に、術式が・・・。」


 理解が恐怖に変わる前に、花弁はダリムの皮膚に触れ、意識の奥へと静かに染み込んでいく。


 「・・・あ、あぁ・・・。」


 ダリムの瞳は焦点が溶け、喉から押し殺したような声が漏れた。身体から力が抜け落ち重力に抗えず崩れ落ちる。崩れ落ちたダリムの身体は、地に伏したまま小さく痙攣した後、微動だにしなくなった。


 セリアは無言でその様子を見下ろしながら、妖しく揺れる紅い瞳をわずかに細めた。


 だが、ダリムの瞳は完全には閉じられていない。まぶたの隙間から覗く眼球は、光のない空を彷徨うように揺れ続けていた。


 セリアは一歩近づき、ダリムの脇にしゃがみ込む。


 「あなたの意思に逆らわずに話せるよう、整えておいたわ。抵抗はもう無駄よ」


 その声は穏やかで、どこか慈しむようでもある。しかし、内包された冷徹な意志が空気を張り詰めさせた。


 「さて、質問するわ。ユーリスを狙った目的は。」


 少しの沈黙ののち、ダリムの唇がゆっくりと開き乾いた声が漏れた。


 「・・・辺境の防衛体制を・・・混乱、させるため・・・。」


 声はどこか遠く、夢の中から響いてくるようだった。


 「ユーリスが・・・死ねば、モルトリス男爵家は混乱し・・・帝国軍が越境する機会になる・・・予定だった・・・」


 セリアの目が細められる。


 ーーーやはり、背後にあるのは帝国と・・・。


 「ゾディアック。あなたは、どこまで知っている?」


 少し、間があった。


 「我らは・・・嘆哭者(クライアント)・・・ゾディアック、直属の・・・実働、部隊・・・。」


 「嘆哭者(クライアント)、ね。指示は誰から。」


 「・・・分からない・・・命令が降りてきた、だけ・・・。」


 「計画の実行は。」


 「年・・・が、開けて・・・すぐに・・・。」


 「ユーリスの殺害に失敗した場合は。」


 「迷宮(ラビリンス)・・・内、殺害に・・・失敗、場合は・・・直接の・・・行動・・・移る・・・。」


 セリアは黙ってダリムの言葉に耳を傾ける。


 「だが・・・ローレル・・・侵入、部隊は・・・全滅・・・報告・・・無い、場合は・・・うっぐぅわっっっ!!」


 突如としてダリムが目を見開き、苦しみ出す。


 「反応が消えたと思って、来てみればっ。」


 声のする方に視線を向けると、そこにはセリアが倒した者たちと同様に黒衣に仮面を付けた者がいた。ただ異なるのは仮面の色が赤だということ。


 「一応、問いただすが、何者だっ。」


 「その者から情報を得たと思うが、改めて嘆哭者(クライアント)管理者(オルター)、ラファス。いずれまた会うことも。それと、自爆術式に巻き込まれたく無ければ、逃げる事を・・・おすすめする。」


 それだけ告げるとラファスと名乗った黒衣の仮面は姿を消す。


 そして、地下神殿跡は爆発に包まれる。


誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。


【読者の皆様へのお願い】

作品を読み、少しでも「面白い」、「先が読みたいと」と感じた方は、ブックマークと評価をお願いします。

気合を入れて妄想に妄想を重ねて執筆する原動力になります。厨二病感満載の詠唱も考えて行きます。

改めてお願いします。

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