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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第四章 幻の都編
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第七十五羽. 繰り返す日常へ


 ・・・静寂。


 色滅の余波が去った後の幻層殿(イルルヤーナ)は、死のような静けさが支配していた。全てが終わった。そう、思わせるほどに。


 だがその静寂を、破る気配があった。


 「・・・やれやれ。なんて、厄介なっ。しかも・・・俺の存在に気が付くとは・・・。」


 ひとつの影が、ゆらりと揺れながら現れる。それはジルドレ、先ほどまでセリア達に階層の説明をしていた、ネザリエルの部下と称していた者だった。


 だがその表情は、無機質な仮面のように冷たい。


 「まったく、想定を覆す恐るべき力だ。これ以上の力は我々の計画に支障をきたすか・・・とは言え・・・」


 そう言うと、一瞬にして変貌する。


 衣の織り目が黒へと染まり、外套はまるで深淵の影のように揺れる。その姿は、ネザリエルが口にしていた”黒衣を纏った者”そのものだった。


 「さて。俺の役目はネザリエルとテュラノスを使って時間を稼ぐ事。まぁ、予定より・・・大分早いが、これで大丈夫かっ。」


 別の影が、ゆらりと揺れながら現れる。


 「えぇ、大丈夫です。確かに予定より早いのは否めませんが・・・まぁ、後は私の方で何とかなるでしょう。それにしても・・・。」


 現れた黒衣の存在が周囲を見渡す、言葉を飲み込む。色滅の余波が去り、静けさを取り戻しているが、ここに広がる空間には後遺症ともいうべき影響が随所で散見された。


 「あぁ、ここまでの事が出来る存在が、まさか・・・いるとはな。」


 「ウェルキエルさんでもお会いて難しいですか?」


 「そうだな、この姿のままでは・・・まず、勝てないだろうなっ。」


 ウェルキエルは仰ぐ。


 虚空には、まだ収束しきらない色滅(しきめつ)の影響が、ちらちらと漂っている。


 「バキエル、役目は終わった。俺はも行くぞっ。」


 「ウェルキエルさん、ありがとうございました。」


 バキエルが軽く一礼すると、ウェルキエルの姿が空間のひとしずくに吸い込まれるように虚無の中へと、消えていった。


 「セリアさん、お会いするのが・・・本当に、楽しみです・・・。いずれ整う舞台でお会いしましょう。」


 バキエルの姿も虚無の中へと沈んでいった。



 ◇◇◇◇◇◇


 次元の綻びから影が飛び出してくる。それは・・・セリアだった。


 セリアの帰還とほぼ同時に、空間の裂け目が閉じる。絶妙なタイミングでセリアは仲間達のもとへと戻ってきた。


 「セリアねぇっ!」


 アヤメの声が響く。誰よりも早くセリアのもとへと駆け寄り、小さな身体が抱きつくように飛び込む。


 「お帰りなさいませ、セリア様。」


 その後ろでは安心した面持ちのアルジェントが一礼をしていた。


 「あぁ、ただいまっ」


 セリアは微笑み、そっとアヤメの頭に手を伸ばした。そして、突入組の無事な姿を確認するように辺りを見回した。


 「お帰りなのじゃ、セリア」


 安堵の念を目に宿したメルディナが歩み寄ってくる。


 セリアはその言葉に小さく頷き、口を開きかけたものの、喉の奥で言葉がつまった。


 メルディナは察し、軽く笑い口を開く。


 「・・・リュカとフレイアなら、心配ないのじゃ。今は静かに眠っておるのじゃ。」


 「ネザリエルに何かされた痕跡はっ。」


 「妾が見た限り、何も心配いらないのじゃっ。」


 「・・・よかった」


 セリアの声には安堵の色が滲む。安堵と共に胸の奥に残っていた緊張がほどけていった。そのとき、ユークリッド機関の研究員、サニエルとアニマが急ぎ駆けつけてくる。


 「セリアさん、ちょっと確認したいことがあるのですが・・・。」


 「何を・・・ですか?」


 「安定していた空間の裂け目が、急に不安定になった要因に心当たりは無いかと思いまして。外部干渉を抑制しているので、ある程度の影響は排除出来るのですが・・・抑制出来ない程の力が向こう側から急激にかかったのが原因のようでして。」


 サニエルの持つタブレットをアリアと眺めるながらセリアに問いかける。


 「・・・それなのですが・・・。」


 セリアは申し訳なさそうに口を開く。


 「ネザリエルを倒す時に使った魔法が・・・原因だと、思います・・・。」


 サニエルとアリアは硬直する。


 「裂け目を不安定にするほどのエネルギーを一個人が・・・。」


 だが、リュカとフレイアが攫われた時のセリアの姿を目撃していたサニエルとアリアは、それを思い出し、この人なら出来るんだろうな、とふたり揃って納得していた。


 「質問はそのぐらいにして、撤収準備を始めてっ」


 まだ質問をしたりないサニエルとアリアを遮るように、エルヴィンから号令がかかる。


 「それで・・・お願いがあるのだけど・・・。」


 「ここの機材を全て持って帰りたいと。」


 「流石っ、セリアちゃん。話が早いっ!」


 「構わないが、取り出す時はどおするんだ。」


 「それは・・・まぁ、あとで考えるよ。セリアちゃんにターレスまで来てもらう、でもいいし。」


 「私は行かないぞっ。」


 「回収さえすれば、後の事はその時考えればいいからさっ。」


 「分かった。みんな悪いが機材の回収を頼むっ。」


 セリアの言葉に庭園(ガーデン)の面々は、機材の回収のために散って行く。


 幻層殿(イルルヤーナ)で感じた妖し気な気配を思い起こし、セリアは既に閉じてしまった空間の裂け目を見つめる。



 ◇◇◇◇◇◇


 撤収準備が整った調査隊は、ハノイの塔の外へと歩みを進める。空には太陽の明るさが、地上には街並みが戻り、そこには訪れた時と変わらぬシャングリラの姿があった。


 「これで・・・やっと終わたんだなっ。」


 誰かの呟きが吹く風に溶け込み、静寂が辺り一帯を包み込む。


 調査隊一行の視線の先には、シャングリラに足を踏み入れたときに通り抜けた門の変わらぬ姿がそこにあった。


 「それにしても・・・この街、どうするんだ?」


 ヴェインがシャングリラの街並みを見渡した。その存在が空想上の都市として退けられ、信憑性が乏しいとして半ば否定的に扱われていた幻の都シャングリラ。


 ・・・だが今、まさにその幻の都が眼前に広がっている。


 発表すれば今までの定説が覆り、世界は驚愕と称賛をもって受け止めれ、脚光を浴びる事は間違いない。研究者としての名声や栄誉も間違いなく手に入る。


 されど・・・シャングリラが危険な存在であることに変わりはない。この地に宿るものが、人の手に余る物であることを、調査隊一人一人が身をもって知った。だからこそ、シャングリラが再び歴史の闇へと沈むことこそが、この世界にとって正しい選択であることも共通の認識であった。


 「封印・・・すべきだと思う。」


 その共通認識をエルヴィンが代表するかのように口にする。


 「そこで重要なのは、どうやって、ところだねっ。」


 「出来なくは・・・ないのじゃ。ただ・・・。」


 エルヴィンが提起した問題にたいして、メルディナが口を開いたその時、大気が震え周囲のエーテルがざわめき始めた。


 ハノイの塔が輝き始め、調査隊のすぐ目の前の空間に淡く光が集まり始める。それは、まるで意志を持つかのように渦を巻き、ひとつの焦点に収束していく。


 光は人の形を成し、その身を白銀の靄が包み、光の衣のように揺らめく。最初は曖昧だった輪郭が、キャンパスに描かれていく絵のように次第にはっきりとしていく。


 そして、そこに・・・一人の男の姿が浮かび上がる。長身にして細身。背筋を真っ直ぐ伸ばした精悍な40代と思しき男が。表情の細部に至るまであまりに精緻なそれは、まるで生きた人間をそこに写し取ったかのようだった。


 ゆっくりと、その男は顔を上げる。


 その目には激情も、敵意もない。まるで、遠い昔に別れた誰かに再び出会ったような、懐かしき者を見るような、そんな眼差しをセリアに向ける。


 ーーー・・・誰、だ?


 向けられたその視線をセリアは真っ直ぐに受け止めた。だが、記憶を如何に手繰ろうとも、その顔に心当たりが無かった。


 なのに・・・なぜか、その名が零れ出る。


 「・・・テュラノス・・・。」


 その名を口にした瞬間、空気が震えた。


 その眼差しに、微かに・・・ほんの微かに笑みに似たものが揺れたように見えた。まるで、その名を聞けたことに満足しているかのように。


 そして、瞬時に戦闘態勢と殺気が向けられる。そんな中、セリアだけは静かにテュラノスを見つめていた。


 「流石だな、セリア。姿形を変えようと、余を認識できるとは。この姿では、もう何も出来ん。武器をを収めるがよい。」


 「それで・・・何の用だっ。」


 「冷たい物言いだな。とは言え、それ程時間があるわけでない。本題に入ろう。封印の件だが、余が受け持とう。」


 「何のメリットが?」


 「余とて損得だけで動くわけでは無い。特に今回は、な。封印を以て、余は白輝石の中で眠りつく。早々にここから立ち去るがよい。」


 それだけを告げ、テュラノスの姿はエーテルの光へと還っていった。


 「セリアよ、シャングリラの門は何時でもお前を受け入れであろう。」


 テュラノスの声が最後の余韻となって消えた瞬間、セリアの目の前に光の粒がふわりと舞い集まる。それは静かに回転しながら形を成し、まるで何かの意志に導かれるように、刃の輪郭を、柄の造形を、そして硬質な質感を宿していく。やがて、完全な実体としてその姿を現したのは、白輝石で鍛えられた、美しい短剣だった。


 セリアが自然に伸ばした右手。そこへ重さすら優雅に乗せるようにして、短剣は静かにセリアの手の中へと収まった。


 セリアはゆっくりと顔を上げ、ハノイの塔を見上げながら小さく、けれどはっきりと口を開いた。


 「・・・有難く、貰っていくっ。」



 ◇◇◇◇◇◇


 シャングリラが封印されていくの見届けた調査隊は、足を踏み入れたときと異なる風景に疑問を抱きながらもベースキャンプを目指して、ゆっくりと山道を下り始めた。


 視界に収めたベースキャンプ。記憶にある小規模だったはずのベースキャンプが、明らかに違う様相を見せた。仮設のテントや施設は整理され、整然とした区画に拡張されていた。


 まるで村のような規模へと成長していた。


 「ずいぶんと・・・様変わりを・・・。」


 セリアが呟くと、隣を歩いていたアヤメが驚き混じりに応じる。


 「これっ、本当にベースキャンプ・・・」


 そのとき、遠くの見張り台にいた護衛の冒険者が、セリア達の姿に気づいて大声を上げた。


 「帰ってきたぞぉっ! シャングリラの調査隊がっ!」


 その報に反応するかのように、ベースキャンプから人々が飛び出してくる。人混みを搔き分け、ひとりの男が姿を現した。


 「セ、セリアさん、今までどこで何やってたんですかっ!」


 それは、冒険者ギルド・メールトュールのギルマスターであるライオネルだった。


 焦燥すら滲む声でライオネルはセリアたち調査隊に詰め寄る。


 「無事なら何よりですが、音信不通だったのには何か原因があるんですかっ。いったい何があったんですかっ!」


 普段はおとなしく頼りないライオネルの勢いに押される形で、セリアたちはベースキャンプ内の一室へと案内された。


 そこで一同は、テュラノスの事、ネザリエルとの激闘、シャングリラの真実、そして封印に至るまでの経緯を順を追って説明した。


 そして、語り終えた頃。


 ライオネルの口から出た言葉に、その場が静まり返った。


 「無事だったのは何よりですが、持ち込んだ物資だけで、よく三ヶ月も持ちこたえられましたね。」


 「えっ・・・。」


 思わず声を漏らしたのは、アヤメだった。


 その場にいた全員が、一瞬理解を拒むように沈黙したが、次第にその意味を噛みしめる。セリア達にとってはほんの数日であったが、外の時間では三ヶ月という月日がけいかしていたことを。世界は確かに、確実に、それだけの時を刻んでいた。


 その時、テントの隙間から吹き込んだ風が、書類をふわりと揺らす。それは、夏の熱気を孕んだ風ではない。もう初秋の気配を帯びた、ひんやりと澄んだ風。


 それが・・・静かに確かに季節が移り変わっている事を感じさせた。



 ◇◇◇◇◇◇


 帰還を果たしてから封印を終えてから、既に一週間が経過していた。その間、セリアたちは冒険者ギルドでの連日の事情聴取や、ユークリッド機関を通じた各地への報告に追われていた。あのシャングリラでの出来事は、記録としても、歴史としても、極めて慎重に扱われる必要があった。そして決して表に出る事がない情報。


 そして、その慌ただしい日々の中でテオドールの意識が戻ったという一報が、セリアもとに届いた。


 見舞いに向かったのは、午後を回った静かな時間帯。高窓から柔らかな陽が差し込む病室の中で、セリアたちを出迎えたのは、ギルドマスターであるライオネルとテオドール。


 「お待ちしていました、セリアさん」


 無精髭を撫でながら微笑むライオネル。白い寝間着に身を包んだ少年がベットの上で上体を軽く起こしていた。


 少年の視線が、静かにセリアへと向けられる。


 「・・・あなたが、セリアさん、ですね?」


 慎重に名を呼ぶ声には、少しの緊張を含んでいた。だが、その声音には確かな礼儀と、未知への敬意があった。


 セリアはそっと微笑み、静かに頷いた。


 「えぇ、初めまして、テオドール。やっと目を覚ましたみたいだね。」


 「・・・ありがとう、ございます。あなたが・・・助けてくれたんですね。」


 しばし沈黙した後にテオドールは力なく微笑んで口を紡ぐ。


 「・・・正直、何がどうなっているのか・・・ほとんど、覚えていないんです。」


 「それについては、おいおい話をしよう。これから、ゆっくりと。時間はたくさんあるのだから。」


 テオドールは頷くと、まっすぐにセリアを見た。


 「はい・・・どうか、よろしくお願いします。セリアさん。」


 短い会話を交わして面会を終えたセリア病室を後にする。



 ◇◇◇◇◇◇


 テオドールとの面会から数日後、セリアの姿はメールトュールの冒険者ギルド、その奥まった会議室にあった。木目の深いテーブルを挟み、ギルドマスターのライオネルが書類を手に目を通している。その周囲にはギルド職員が数名、肩を並べるようにして座っており、対面にはセリア、アルジェント、そしてリュカとフレイアの双子が寄り添うように並び、エルヴィンとミーアの姿もあった。


 「・・さて」


 静かな空気を破るように、ライオネルが口を開く。


 「まずは・・・テオドール君の件についてですが。」


 そう切り出してライオネルは机の上の資料に目を通しながら静かに言葉を続ける。


 「彼は、驚異的な速度で回復しています。正直、常識の範疇を大きく逸脱しています。」


 数名の職員が顔を見合わせた。椅子に腰掛けていたエルヴィンが、静かに補足するように口を開く。


 「テュラノスに身体を支配されていたことが影響しているのかは現段階では分からに。ただ、ひとつだけ言えるのは、彼のエーテル値が急激に上昇している。現在では、Sランク相当である、という事だ。」


 「制御は?」


 セリアの問いに、エルヴィンは首を横に振った。


 「本人は自覚が無いに等しい。」


 ライオネルがエルヴィンの言葉に捕捉を加える。


 「テオドール君の冒険者としての能力は、正直なところ低い。さらにこの春に冒険者になったばかりです。圧倒的に経験が足りないのです。このままでは、無意識のうちに力を漏出させ、他者に影響を与える可能性があります。」


 ミーアがそっと眉をひそめた。


 「・・・じゃあ、暴走の危険があるってこと?」


 「今はまだ大丈夫だ。長く放置するのは良くないけどね。重要なのはそこじゃないんだよね。」


 「ボス、どういう事?」


 「力自体は封印するなりすれば、問題無くなる。それを利用するような存在が現れた場合だよ。」


 エルヴィンの口調は静かだが、そこに含まれる危機感は明瞭だった。


 「それで・・・」


 セリアが呟くように言った。


 「はい、その通りです。セリアさんのところで預かってほしい。そう、考えています。」


 セリアは短く呼吸を整えたのち、机の上に視線を落とす。


 「・・・分かりました。責任をもって、私が預かります。」


 その言葉には、迷いはなかった。セリアの決意に応えるように、アルジェントが軽く顎を引き、エルヴィンも静かに頷く。


 ライオネルは手元の書類に署名を走らせ、音を立てて閉じる。


 「本件、正式記録として処理を開始します。・・・よろしく頼みます、セリアさん」


 ライオネルは別の書類を目を通すと、微かに緊張の色を帯びた声で話始める。


 「では・・・次に、双子についてです。名前は・・・リュカとフレイア。現在は問題なく生活していますが・・・」


 そう前置きして、ライオネルは手元の書類を置く。


 「現時点で確認されている情報は以下の通りです。ふたりがは獣人種に分類され、セリアさんの情報からフェンリル系統だと思われます。ただし、現在、世界各地の記録上ではフェンリル種、自体が既に絶滅、もしくは神話扱いになって久しい。加えて、発見されたのがシャングリラであること。・・・となると、正直、魔物の亜種か、あるいは封印された危険存在として危惧されています。」


 隣の職員が補足するように、手元の資料をめくる。


 「シャングリラの地下施設において発見されたという状況からして、意図的な保存・培養の可能性も否定できません。そして、仮に彼らが魔物である場合、知性があったとしても、保護対象にはできないというのが現行の規定です」


 重い沈黙が一瞬、室内を支配した。


 ライオネルはセリアを正面から見据え、言葉を続ける。


 「以上を踏まえて、ギルドとしては彼らを適切な管理下に置くことが望ましいと判断しました。具体的には、管理機関で保護観察と研究目的を兼ねた収容施設における長期観察。・・・危険性が見極められるまで、一般社会との接触は禁止となります。危険が確認された場合は、殺処分という判断もありえます。」


 その言葉に、セリアの眉がピクリと動いた。ゆっくりと立ち上がり、冷ややかに言い放つ。


 「それが、ギルドとしての最善の判断というわけですかっ。」


 「・・・えぇ。あくまで現状を踏まえた上での判断です。あなたの感情は理解していますが、個人の保護下で・・・」


 「いいえ。理解なんて。ギルドは、していないっ。」


 セリアの声は静かだったが、研ぎ澄まされた刃のような鋭さがあった。


 「この子達は・・・そんな、存在じゃ、ない。私が責任をもって育てます。」


 「もし・・・」


 口を開きかけたライオネルを遮って、セリアが落ち着いた声でライオネルを見据える。


 「もし、そうなった時は・・・私自ら手で。」


 その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。


 その場の空気を和らげるように、軽い調子でセリアに提案する。


 「ギルドも譲歩しないみたいだし、だったら、うちに来ないか。セリアちゃん」


 その言葉に、皆の視線が一斉に彼に集まった。


 「うちって・・・」


 ライオネルが目を細める。


 「そう、僕がトップを務める、ユークリッド機関。」


 「ボスは、そうやって何でも・・・。」


 「あれっ、ミーアちゃんは反対かな。」


 「いえ、今回の件については、ボスに賛成です。ギルドマスターであるライオネルさんならご存知だとは思いますが、ユークリッド機関のトップという肩書は伊達ではありません。ユークリッド機関はターレスの研究機関でも一番の歴史があり、そのトップはターレスの運営を決める十二人委員会の常任三席の一席を担っています。」


 ミーアの言葉を引き継いでエルヴィンが語り始める。


 「だから、僕が後ろ盾になれば・・・他の研究機関は全く手出しが出来なくなるしね。それにうちに来れば、好奇心を満足させる冒険には事欠かないよ。」


 「セリアさん、もしユークリッド機関に来て下さるのなら、アデルフィート辺境伯へは私共から連絡を差し上げます。」


 ミーアのアデルフィート辺境伯の言葉にギルド職員がざわつく。


 「あれ、ご存知無かったのですか。セリアさんのパトロンはアデルフィート辺境伯ですよ。」


 ミーアの言葉にギルド側は、リュカとフレイアの一件をギルドの公式記録からも抹消することを決めた。そして双子の件を画策した職員は自身の浅はかさの代償としてギルドから姿を消す事になった。



 ◇◇◇◇◇◇


 ギルドでの会合からさらに数日が経った朝のことだった。高原の秋風が、街の端を吹き抜ける。陽の光はまだやわらかく、空は澄んで高い。セリアたちは、再びローレルへと帰還するべく、メールトュールの街を後にする準備を整えていた。


 街の南門。旅支度を終えた一行を見送るために、数名の姿が集まっていた。


 エルヴィンとミーアは、まだしばらく滞在する予定だという。その隣にはライオネル、ノブツナの姿もあった。


 「セリアさん。双子の件、すまなかった。」


 そう言って、ライオネルはゆっくりと頭を下げた。立場や責任を抜きにしての、真っ直ぐな謝罪だった。


 セリアはその姿に一瞬だけ目を細め、そして軽く首を振る。


 「気にしないでください。最終的に無かった事になったとので。」


 その言葉に、ライオネルは安堵したように頷いた。


 一方、テオドールはというと、冒険者仲間と別れを惜しみつつも笑顔で語らっていた。


 「もう無茶すんなよ、テオドール!」


 「テオ、たまには帰って来てねっ。」


 テオドールは苦笑しながらも、何度も振り返っては手を振る。かつての仲間たちとの別れに、わずかに潤んだ瞳を隠すように頭を下げた。


 少し離れた場所で、エルヴィンがセリアに近づいてくる。


 「・・・少しだけ、いいかい?」


 「ええ」


 二人は荷馬車から少し離れた木陰へと歩く。そこは風がよく通り、秋草の香りがかすかに漂っていた。


 エルヴィンはしばし黙し、そしてゆっくりと口を開く。


 「テオドールと双子の件は。何かあれば、すぐ連絡してくれて構わないよ。」


 「私が倒れても、彼らを守ってくれるのか?」


 セリアの問いに、エルヴィンは苦笑した。


 「そのつもりでユークリッド機関の名を出したんだ。そこは、安心して構わないよ。」


 「・・・ありがとう」


 去り際にエルヴィンに向かって、セリアは何かを放り投げる。受け取ったのは装飾の無い金属光沢をしたブレスレッドだった。


 「これは?」


 「今のところ、ターレスへは行くつもりは無いからな。ストレージへのアクセス権を付与してある。エーテルを流し込めば、使用者登録が出来る。」


 そう言ってセリアは馬車に向かって歩き始める。荷馬車に戻ると、すでにリュカとフレイアは荷台に座っており、アヤメがその隣で二人の手を握っていた。アルジェントは手綱を引き、ミーアが最後の見送りとして手を振っている。


 やがて、出発の時が訪れる。馬車がゆっくりと動き出し、秋風が彼らの背を押すように吹き抜ける。


 新たな旅路の始まりを告げるように。


これにて、4章は終了となります。

お付き合いいただきありがとうございました。

5章をなるべく早くお届け出来ればと考えていますが、1章の改稿も考えています。

引継ぎ、ご愛顧いただければ嬉しい限りです。


誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。


【読者の皆様へのお願い】

作品を読み、少しでも「面白い」、「先が読みたいと」と感じた方は、ブックマークと評価をお願いします。

気合を入れて妄想に妄想を重ねて執筆する原動力になります。厨二病感満載の詠唱も考えて行きます。

改めてお願いします。

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