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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第一章 来訪編
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第四羽. いざ地上へ


 イングとの別れから、既に一ヵ月が経過した。


 この一ヶ月間、セリアは自身のスキルとイングから譲り受けた膨大な知識とスキルを自分の物にするべく務めていた。スキルはかなりの数に上り、その全てを把握するにはまだまだ時間を必要としていた。


 それとイングのアドバイスに従って、この浮遊島にある迷宮(ラビリンス)に潜っていた。初めこそ一階層の攻略すら難しかった。前世でそれなりの戦闘経験があったが、今のセリアの身体に何かが馴染んでいないような、そんなずれのような感覚が全てを鈍らせていた。


 その為、一階層に出現するゴブリンにすら死にかけていた。その感覚も無くなり、今ではかなり深い階層まで潜る事が可能となった。ただ、この迷宮(ラビリンス)が何階層まであるのか、今でも不明であった。


=====================================

【名前】   :セリア・ロックハート

【種族】   :兎人族

【性別】   :女性

【生年月日】 :3月(ヴィアルティス)24日/天輪歴2004年

【称号】   :八属性を制す者エレメンタル・オーバーロード

【スキル】  :オモイカネ、グリモワール、ソウルイーター、魔眼、チャクラ

【従魔】   :テトラ《テトラエレメンタルスライム》

=====================================


 この一ヶ月間で最も大きな成果と言えば、自身の基本スキルである《オモイカネ》、《グリモワール》、《ソウルイーター》、《魔眼》、《チャクラ》の五つのスキルの理解度の向上だ。特に《オモイカネ》の存在は大きく、他のスキルを理解する上でもセリアが理解できるようにかみ砕いて説明をする。


 ・スキル《オモイカネ》:疑似人格搭載汎用型支援スキル。セリアが所有するスキルを一元管理し、まるで生き字引のように様々な知識や情報を提供してくれる優秀なサポート役だ。この一ヵ月間で言葉に出さず念話という形で会話が可能となった。


 ・《ソウルイーター》:倒した敵から、エーテル、スキルを奪う能力。


 ・《グリモワール》:スキルや魔法を始め、あらゆる物を情報として記録、管理する能力。《ソウルイーター》で奪い取ったスキルがここで管理される。エーテルの貯蔵庫にもなっている。また、新しいスキルや魔法・魔術を創造する事もできる。


 ・《魔眼》:観ることが可能な範囲において空間に作用を及ぼす能力と、鑑定のような解析能力を併せ持つ。その力の一つに短距離転移がある。当初は1メートルほどしか転移ができなかったが、今は14,5メートルまで転移が可能となった。長距離転移は、まだ発動条件を満たしていないためなのか、発動の兆候さえない。


 ・《チャクラ》:第一から第七階梯を順次解放することで、莫大なエーテルを生み出すことが出来る。現状は第一階梯のみ解放可能。


 この一ヵ月間でもう一つ、大きな変化があった。それは、従魔欄であるテトラとの出会いだ。


 ある昼下がり、暖かい日差し、心地よい風、そして胸元に感じる奇妙な重みに昼寝から目覚めると、胸の上に何かが乗っていた。一瞬、セリアは状況を正しく把握できなかった。浅い眠りから引き上げられた意識はまだ現実に追いついておらず、胸元の重みを理解するまでに、わずかな時間を要した。


 迷宮に潜る生活が続いていたせいか、半覚醒のまま思考だけが先に動く。敵襲か、それとも魔獣か。そうした可能性が反射的に脳裏をよぎり、身体が強張る。だが次の瞬間、その緊張は拍子抜けするほどあっさりと霧散した。感じ取れるエーテルからは敵意の欠片も無かった。


 摘まみ上げてみると、それは小さな、青みがかった透明なスライムだった。


 「なんだ、これ・・・。」


 そう呟き、放り投げようとしたその時、頭に直接声が届く。


 『悪いスライムじゃないよっつ!!!』


 ぶっ!!!ごほっ、ごほっ、ごほっ!!!


 その言葉に思わずむせた。スライムが喋ったことも驚きだが、その言葉が前世の記憶にあった流行り言葉だったことにも驚きを隠せない。


 「その言葉を何故知っているんだ?」


 敵意は全く感じなかったが、この浮遊島には魔物や魔獣の類は一切存在しないはずである。なのでここいること自体怪しいことこの上ない。


 起き上がり、スライムを地面におろしながら質問を投げかける。


 『リッチのおじちゃんが教えてくれた!』


 リッチ、その呼び方が指す相手に、心当たりは一人しかいない。だが、その人物は既に役目を終え、この場から消え去ったはずだ。少なくとも、セリア自身はそう認識している。


 「リッチのおじちゃん? イングのことか?」


 ーーー仮に消滅する前の出来事だとしても、ずっと寝ていたんじゃないのか、イングは・・・?


 このスライムが言っていることと、セリアが把握していることが噛み合わない。矛盾した言葉を頭の中で組み合わさろうとして、うまく噛み合わない。


 ーーーいったい、いつ、何処で教えた?


 判断材料が足りず違和感だけが、胸の奥に小さく残った。問いただし、確認すべきかを考えていたところで、《オモイカネ》から報告が来た。


 『テトラエレメンタルスライムが仲間にしてほしそうにしています。』


 『テトラエレメンタルスライム・・・?』


 『テトラエレメンタルスライム。四属性である、火土水風の魔法を扱う事ができ、さらに高い耐性を持つ、スライムの希少種です。』


 ーーースライムねぇ・・・。


 『テトラエレメンタルスライムを仲間にしますか?』


 セリアが考えあぐねていると、《オモイカネ》から圧力にも似た催促がくる。


 『・・・OKだ!』


 圧力に屈したセリアが了承すると、テイムに成功した報告がなされる。


 『テトラエレメンタルスライムのテイムに成功しました。』


 初の従魔であるテトラエレメンタルスライムを指先で軽く突っついていると、新たな要請が脳内に響く。


 『テトラエレメンタルスライムに名前を付けてください。』


 「名前か・・・。」


 少し考え、テトラエレメンタルスライムを見つめるセリア。


 「テトラでどうだ? 安直ではあるが、呼びやすい。良いと思うのだが・・・」


 気に入ったのか、スライムは嬉しそうに周囲を飛び跳ね、喜びの声を頭に響かせてくる。


 『ありがとう、ぼくは、きょうからテトラッ!!!』


 テトラの加入は想像以上の効果をもたらした。もっとも、テトラが加わったからといって、すぐにすべてが上手くいったわけではない。


 最初のうちは、テトラの動きが読めなかった。いつ援護が飛んでくるのか、どの距離を保つのか。こちらが動こうとした瞬間に割り込んできたり、逆に助けを期待した場面で姿が見えなかったりと、連携はちぐはぐだった。


 それでも幾度となく迷宮に潜るうちに、少しずつ癖が見えてくる。テトラが警戒するタイミング、攻撃に出る間合い、危険を察知したときの微妙な動き。言葉にしなくとも、それらを感じ取れる場面が増えていった。


 セリア自身も、独りで戦っていた頃とは動きが変わっていくのを自覚していた。背後を任せられるという感覚が、判断を一拍だけ早める。無理だと思っていた立ち回りが、いつの間にか選択肢に入っている。


 そうして気づけば、以前は引き返すしかなかった地点を越え、さらに奥へと足を踏み入れるようになっていた。今まで一人で挑んでいた迷宮(ラビリンス)攻略が楽になり、今まで以上に深い階層まで潜る事ができるようになっていった。


 そんなこんなで日々(せわ)しなく過ぎ去り、地上へと降り立つ決意を固めた今に至る。



 ◇◇◇◇◇◇


 白いシャツに黒いネクタイを緩く締め、その上に黒のベスト、赤を基調としてチェック柄のミニスカートに黒のニーハイソックス、足元は(くるぶし)までのある黒のショートブーツ。そして、その上には黒のローブを身に纏ったうさみみの女性が、浮遊島の端から遙か下を眺めている。


 浮遊島には環境を維持するための結界が(ほどこ)されている。しかし今、セリアはその結界を背にして立っている。気温は氷点下どころかマイナス50度を下回り生命活動そのものを拒む。そして酸素濃度20%を下回り、まともに呼吸できる濃度ではない。


 そんな過酷な環境下で、セリアは明らかに似つかわしくない程に軽装な姿で身を置いていることになる。


 眼下には雲がどこまでも広がっていた。さながら雲の海。


 「雲をこんなふうに真上から見る日が来るとは・・・。」


 セリアは自身の周囲に結界を張り、外気により熱が奪はれないように対策を施していた。その効果もあり、寒さも酸素濃度の低さもはほとんど感じない。


 「さぁて、行きますかぁ!!」


 深く息を吸うと掛け声と共に、セリアはいっきに空へと飛び出す。フリーフォールの姿勢を取り、一気に降下していく。


 『高度10000、8000、6000、4000』


 視界に映る物が高速に流れ、耳元には風を切る音が鳴り響く。


 頭の中で《オモイカネ》のカウントが進んでいく中、着地の準備を開始しようとしたとき妙な気配を感じ取った。すると、《オモイカネ》が警告を促す。


 『警告、前方に魔物の一団を確認。種族名、ワイバーン。総数十五。』


 『《オモイカネ》、回避は!?』


 『既に捕捉されています。機動性はワイバーンに分があるため、完全にやり過ごすのは不可能。』


 『今の高度は?』


 『3500。』


 「ちっ、やるしかないか!」


 「初戦闘がワイバーン、しかも空中戦ってどんな無理ゲーだっ!!!」


 『解析。六体が行動を開始。三体ずつ左右に分かれ、挟撃態勢に移行。』


 『3000。』


 六体すべて速度が変わらないことを前提に戦略を立てようとしていたその時、


 『左より、一体急速接近』


 「まじかよっ!!!」


 セリアが目視するころには、眼前まで迫ってきていた。焦りによりうまくスキルが発動できずにいた。まずいと思った瞬間、獲物を見失ったワイバーンが眼下に見えた。


 『緊急処置でスキルを発動しました。』


 『すまない。命拾いした。』


 そう言って、ストレージから《ツクヨミ》を取り出す。そこから急降下を開始し、すれ違いざまにワイバーンの首を()ねる。


 『折角だワイバーンを利用してこのまま地上に降りるぞっ!』


 冷静さを取り戻したセリアは、瞬時に周囲の状況を確認すると足場代わりしているワイバーンの遺体をストレージに格納しながら《オモイカネ》に伝えた。


 『承知しました。演算を開始します。』


 瞬時に、セリアの脳内に360度全天カメラのようなイメージが投影される。ワイバーン同士の距離からセリアとワイバーンとの相対位置に至るまで戦闘に必要な全ての情報がそこに集約されていた。


 今の位置から一番近いワイバーンの真上へと転移を開始する。短距離転移に必要な座標情報は、《オモイカネ》の演算により寸分違わずワイバーンの真上へとセリアを(いざ)う。次の瞬間、激しい風圧がセリアの全身に襲いかかるが、体勢を崩すことなく鱗だらけの背へと着地した。


 鋼のように硬く、そして生き物特有の熱を帯びた鱗の感触。羽ばたきの度に伝わる強靭な筋肉の躍動がブーツの裏越しにセリアへと伝わってくる。そのことが改めてセリアに実感させた。今から命を奪う相手もまた、同じように命を持つ相手であることを。


 「私に牙を向けたこと後悔しながら、刈られろっ!!!」


 ツクヨミを振りかぶり、そのまま振り抜く。首が飛び、血と鱗が風に乗り散っていく。ワイバーンをストレージへと格納したセリアは、次の獲物を補足するとその場から姿を消す。セリアが挟撃してきた六体のワイバーンを撃退し終えた時には、残りのワイバーンもこちらに接近していた。


 そんな時だった、咆吼とともに遥か上空から高速で飛行してくる物体をセリアは視界の片隅で捕捉した。


 『接近する影あり。種族名、レッサードラゴン。』


 《オモイカネ》の報告にセリアの顔に緊張が走る。確かにドラゴンの中では一番弱いが、それでもワイバーンに比べればはるかに強い存在。


 『先に目の前を対処するぞっ!』


 こちらに向けて接近してくるワイバーンに向けて転移を開始する。セリアが最後の一体の背に乗り首を刎ねようと《ツクヨミ》を振りかぶったその時、こちらに向けて炎が迫ってきた。


 迫る炎に対して瞬時に耐魔法障壁を展開し切り抜けるセリア。


 『この距離で攻撃可能なのか。』


 『レッサードラゴンの亜種で攻撃能力が強化されています。』


 レッサードラゴンに意識がいっていた隙をつかれ、足場にしていたワイバーンが暴れだす。不意を突かれた反動で、セリアは宙へと投げ出される。


 「しまったっ。」


 宙に投げ出され、目まぐるしく回転するセリアの視界の中にレッサードラゴンの口元が光り出すのが映る。


 ーーー転移してこの場はやり過ごすか・・・。


 一瞬の逡巡。


 「否、刈り殺すっ!!!」


 落下しながらも身体をひねり、姿勢を強引に制御する。重力に引かれながらも、セリアは正面からレッサードラゴンを捉えた。


 意識を集中し《ツクヨミ》にエーテルを流し込む。セリアの左眼が僅かに輝きだし、銀色の髪もそれにつれて輝きだす。レッサードラゴンの炎がこちらに向けて放たれると同時に《ツクヨミ》をレッサードラゴンに向けて降りぬく。


 エーテルの斬撃と灼熱の炎が正面からぶつかり合う。衝突で空が白く染まり、空気が震えた。エーテルの斬撃と炎の間に力の均衡が生まれていた。だが落下し続けるセリアに分が悪いの明らかだった。


 『《オモイカネ》、《チャクラ》の第一階梯の解放だっ。』


 『承知しました。第一階梯を解放。』


 その瞬間、セリアを包み込むエーテルが増大し、徐々に力の均衡を崩し始める。自身の勝利を確信していた傲慢なレッサードラゴンの瞳に、初めて恐怖の色が浮かんだ。炎を切り裂き、そのままエーテルの刃が恐怖に歪むレッサードラゴンの首を切り飛ばした。


 勝利の余韻に浸る暇さえ無く、《オモイカネ》からの着地指示が脳内に響く。


 『高度1000を切りました。着地の準備を開始してください。』


 レッサードラゴンの遺体を回収したいが、距離的に無理があるので諦めるしかない。後ろ髪が引かれるが今はそれどころではない。


 着地に向けての準備を開始する。アーチ姿勢を取り風魔法で落下速度を落としながら、耐衝撃フィールを展開。


 地上まであと100メートルを切ったその時、突如意識が遠のき始めた。初めてエーテルを大量放出したため、セリアの身体がその反動に耐えられなかった。


 「ま、ずい・・・このま、ま・・・。」


 なんとか意識を保っていたが、それも徒労に終わりセリアの意識が深く沈んでいった。セリアが着地のために展開していた全ての結界が消失していく。


 魔法の効果が消失したセリアの身体は、重力に引かれ加速していく。


 危機を察したテトラが胸元から姿を現し、セリアの下に移動する。移動と同時にテトラは迷いなく大きく膨れ上がりセリアを包み込む。落下による衝撃が全て吸収され、セリアの身体が柔らかく沈んでいった。


 目を覚ましたセリアはまた森の中にいた。ただ違うのは視界に映る空に雲が漂っていたこと。


 途中までの出来事を思い出したセリアは身を起こし、自分の身体と周囲を一通り見渡す。そして自分が気持ちの良い何かの上にいることに気がついた。


 『だいじょうぶ? けがはない?』


 セリアのことを心配するテトラの声が響いてくる。


 『テトラが助けてくれたのか?』


 『うん、あぶないとおもったからっ。』


 『そうか・・・テトラ、ありがとう!』


 セリアの言葉が嬉しかったのか、下でプルプルと体を振るわせて喜びを表現するテトラ。


 鼻腔を突いたのは、浮遊島の澄んだ空気とはまた違った自然の香り。朽ちた葉と湿った土の香り、あるいは獣の匂いを肺一杯に取り込み、テトラの上で仰向けになり空を眺める。


 「やっと地上にたどり着いたっ!」


 そして満足げにセリアは呟いた。



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