第六十羽. 新たな出会い
「僕はセリアちゃんと探索するっ!。」
探索をするにあたり複数のチームに分かれて行動すると決まった時のエルヴィンの第一声がこれである。セリアは単独行動を要望したが、エルヴィンがセリアと一緒に行動すると駄々をこね始めた。そしてそれを見たアルジェントも駄々をこねるといったカオスに頭を悩ませた結果、セリアが下した決断でエルヴィンが同行する事に決まった。そしてお目付け役としてミーアの同行が決定した。
アルジェントは後で何かひとつ望みを叶えると言う事でセリアは手を打ったのだが・・・。その際にアルジェントから前の約束も果たさせていないので、それも含めて二つでお願いします、と言われたセリアは何か背筋に冷たい物が走る感覚を覚えた。
各チームには庭園のメンバーをひとりは配置するようにして、何かあった際に素早く連絡が取れるようにした。その上で戦力を均等化してチーム編成を行った。
・チーム・A:セリア、エルヴィン、ミーア
・チーム・B:ノブツナ、メルディナ、獅子の心臓、研究員三名
・チーム・C:アルジェント、アヤメ、研究員三名
・チーム・D:ヴェイン、ジェロラモ、リアン、研究員一名
最終的に四チームで探索を行う事に決まったのだが、ヴェインのチームが戦力的に不足している事が否めないため、そこはランスロットを同行させる事で解決を図った。その後セリアはランスロットに興味を示し騒ぎ出す研究員をなだめるのに決して短くない時間を費やす事となった。
◇◇◇◇◇◇
ハノイの塔と四方の塔が放つ光で街全体の明るさがそれなりに保たれているが、薄暗さがかえって恐怖を演出しているように感じさせる。そんな不気味な空間が調査隊の前に広がっていた。
調査隊の誰もが尻込みする中、セリアは誰よりも先にそんな空間に足を踏み入れる。
「あ、セリアちゃん、待ってよぉっ!」
エルヴィンとミーアは慌ててセリアの後を追いかける。それを皮切りに各チークは探索へと踏み出していく。
「いったいどれくらいの高さがあるんだろ。」
ひときわ高い建物を見上げながら感嘆の声を上げるエルヴィンの横でミーアも同じように見上げている。流石に60階といった高さがあるわけではないが、その建物は少なくとも15,6階はありそうな高さを有している。
この街には大小様々な建物がひしめき合っている。高い建物、高さは無いが横に広い建物、高さも横幅も無い建物と多様な建物が乱立しているが、ひとつだけ共通点があった。それは建物の材質である。触れた感触からは金属に近しい質感であったが、僅かにエーテルが感じ取れる未知の材質である事は確かであった。
『この材質が何なのか解析出来るか?』
『お任せください。直ちに解析に入ります。』
『解析が終了しました。』
未知の聞いたことの無い金属が使われていると思っていたセリアの予想を裏切る結果が《オモイカネ》告げられる。
『主成分は鉄、そこに極微量の元素が数種類添加した合金です。添加されている元素は炭素、ニッケル、ケイ素、モリブデン、マンガン、チタン。』
ーーー鉄の合金?それでどうやってこんな建築物を?
『さらに結晶格子中にエーテルをと閉じ込める事によって強度上昇や副次的な効果をもたらしています。』
ーーーなるほど重要なのは材質でなく、エーテルを閉じ込める技術か。
『これは再現可能なのか。』
『現時点では不可能です。』
「セリアさん、壁を見つめてどうしたんですか。」
壁を触ってじっと見つめているセリアが気になったのかミーアがセリアに声を掛ける。
「見る限るどの建物も同じ材質で作られているみたいなので、何で出来るかと疑問に思って。」
「不思議ですよね。これと同じ物が幾つかの遺跡で発掘されたのですが、鉄に近いという事は分かったのですが、それ以上の事が全く分からないんです。何故エーテルを帯びているのかも。」
「この金属、出土しているんですかっ。」
「してますよ。そんなに多く無いですけど。エーテルを帯びた材質とい事でエーテリアルと私達は呼んでいます。」
「解析出来るの、心待ちにしてますよ。」
「任せてください。ユークリッド機関を初め、ターレスの研究員は優秀ですからっ。」
「セリアちゃぁぁん、早く目的地に行こうよっ。」
少し離れた所からふたりを呼ぶエルヴィンの声にふたりは話を切り上げ本来の目的地に向かって歩き始める。
探索中に色々とセリアに絡むつもりでいたエルヴィンであったが、その実、絡むどころか話すらそれ程出来ない状況が続いていた。ミーアとセリアが思いの外仲がよく、エルヴィンがセリアに話し掛けようとするとミーアによって尽く阻止される。ミーアはセリアとの会話を楽しみながら探索を行っているが、逆にエルヴィンはふたりの背中を眺めながら疎外感を味わうといった何とも言えない探索を強いられている。
◇◇◇◇◇◇
しばらく歩きセリア達はようやく目的の場所へと辿り着く。
そこは周りの建物と比べると明かに小さく外見からは2階までしか無い事が確認出来た。扉のような遮る物が何も無く建物の中へはすんなりと入る事が出来た。建物の中は《オモイカネ》の報告通りエーテルの供給がある為か何とか視界が確保出来るくらいの明かりが灯されていた。
「ここは僕に任せてよっ。」
エルヴィンが小さの声で何かを唱えると、拳ほどの大きさの光が出現する。出現した光はそのまま天井付近まで上がると、辺りの様子を浮かび上がらせる。一階はロビーなのか大きく開けた空間が広がっていた。奥に繋がる通路の手前には受け付けカウンターの様な物が配置されていた。
通路の先には幾つかの部屋と上の階と地下へと繋がる階段が別々存在していた。
「セリアちゃん、どっちに行く。」
「まずは2階から探索しましょう。」
2階には通路の両側に20の扉と突き当りにひとつ扉がある簡単な造りをしていた。手前の部屋からひとつずつ調べていったが、どれもベットと小さめの机が備え付けてあるだけの簡素な部屋であった。だが突き当りにひと部屋だけは他の部屋とは異なり施錠されていた。
「さて、どおしようか。」
ドアノブの上には何かを入力する装置が取り付けられていた。エルヴィンが0を連続で押すと6桁まで入力出来る事がわかった。
ーーー10の6乗、100万通りか・・・。現実的じゃないな。それに何回か間違えたらロックされる可能性もあるな。いっそ破壊するか・・・。
「セリアちゃん、今・・・壊そうとか考えてなかった。まぁ、その選択肢もありだけど、それは最終手段にしよぉ。まずは他の手段を考えて見よう。」
エルヴィンの言葉に三人は今一度各部屋を調べる事にした。
「セリアさん、ボスちょっと来てください。」
ミーアの下に向かうとミーアの手には掌の上に乗る小さい何かをエルヴィンに見せていた。
「これなんでしょうか。」
「さっぱりだな。ミーアちゃん、ちょっとエーテルの流してみてよ。」
ミーアが掌に載せている物にエーテルを流すと、6桁の数字が浮かび上がる。それは一定の周期で再表示される。
「エルヴィンさんっ。」
「かもしれないね。」
エルヴィンはミーアからそれをひったくると急ぎ施錠されていた部屋の前まで戻る。そして表示されている6桁の数字をそのまま打ち込む。
カチャッ。
ロックが解除される音が静かな通路に響き渡る。エルヴィンはドアノブを回し静かにドアを開ける。部屋の中は今までの部屋とは異なり人が生活する空間ではなかった。ひと回り程小さい部屋の中には机とその上には端末が一台あるだけの殺風景な部屋であった。
「これは・・・いったい・・・。」
机の上に置かれている物が何であるか分からないエルヴィンは好奇心の赴くままに机の上の物に触れていく。すると・・・。
ピッという音と共に何かが動き始める。そしてエルヴィンの眼の前にあるディスプレーが明るくなると文字が表示される。入り口のドアをロック解除した時と同様に6桁の数字を入力すると画面が切り替わる。
「これ、どおすればいいんだっ。セリアちゃん、分かるかい。」
エルヴィンは助けを求める様にセリアに視線を送る。
「エルヴィンさん、ちょっとどいて下さい。」
エルヴィンが椅子から降りるとセリアは端末の操作を始める。幾つかのファイルを確認していると興味深いファイルに出くわす。
それは研究の略歴が書かれた資料であった。
天帝歴980年6月6日
プロジェクトシャングリラを始動。
第一フェーズ:プロジェクトゾハルを始動。
天帝歴1123年5月8日
プロジェクトゾハルの第一段階である生命の樹の観測に成功。
我々の住む世界と生命の樹の接点を”ゴルディアスの結び目”と呼称。
観測精度の向上とゾハルの開発にリソースを集中。
天帝歴1248年1月6日
試作型ゾハルを通して生命の樹よりエーテルの抽出を確認。
生命の樹より抽出したエーテルを区別するためにアーカーシャと呼称。
天帝歴2468年1月3日
ゾハルより高純度のアーカーシャの抽出に成功。
プロジェクトゾハルを終了。
第二フェーズ:プロジェクトエデンを始動。
天帝歴2496年8月21日
アーカーシャの安定供給に成功
第三フェーズ:プロジェクトハノイを始動。
天帝歴2567年5月15日
アーカーシャより魔物を生成する事に成功。
プロジェクトエデンを第二段階に移行。
天帝歴2612年11月8日
生成する魔物の多様化と高ランクの魔物の生成に成功。
天帝歴2718年2月8日
ハノイの塔の6割が完成。
ハノイの塔の補助塔である四本の塔は9割が完成。
天帝歴2721年6月2日
ハノイの塔の補助塔である四本の塔が完成。
補助塔の完成に伴いテュラノス陛下の命により四体の魔物を生成。
四体の魔物を下記のように呼称。
蹄王・オルデニール
翼王・グリュオルニス
牙王・ガルザヴァルグ
甲王・ヨルゼルド
各塔の名前を蹄、翼、甲羅、牙と呼称し、それぞれの塔に魔物を配置。
プロジェクトエデンを終了。
天帝歴3149年2月6日
プロジェクトハノイの中核であるハノイの塔が完成。
ハノイの塔の完成をもってプロジェクトハノイを終了。
天帝歴3149年2月9日
全サブプロジェクトの終了をもってプロジェクトシャングリラを終了。
研究成果をハノイの塔に集約し、現時刻を以てシャングリラを永久凍結。
分からない単語が羅列されたているが、セリア達が目の当たりにしているシャングリラの技術が2千年以上の長きに渡り積み上げられてきた事がそのファイルから容易に読み取れた。セリアが他のファイルを探していると、他の研究者が書いたであろうファイルがセリアの目に入る。それはシャングリラが永久凍結されたその日に書かれたものであった。
天帝歴3149年2月9日
神獣の血を引く双子の獣人はいまだ目覚めず。
この施設より連れ出す事が出来ないため密かに生命維持装置を稼働させる。
何れ訪れる者に二人を託す。
シャリーア・バーミリオン
「セリアちゃん、ここに書かれている双子ってもしかしたら・・・。」
「かもしれませんね。私が感じた微弱なエーテルは。」
「じゃぁ、その真偽を確かめに行こうかっ。」
建物の中を隈なく探したが、これと言った手掛かりが見つからずにいた。地下へと続く階段の先にもこれと言って手掛かりになるような物は存在せず、ただ奥へと続く通路があるだけで部屋すらなかった。通路の突き当りの壁をセリアが触れると《オモイカネ》からこの建物の構造について報告が入る。
『マスター、壁の向こうに空間が存在します。』
『この先に何か部屋が?』
『否、地下に繋がっています。その先に巨大な空間を確認しました。』
『地下に行く手段はここだけか。』
『他には存在しません。』
ーーーこの先へ進むにはこの壁をどうにかするしかないか・・・。
「セリアさん、どうかしましたか。」
「どうやらこの壁の向こうに空間が在るみたいで。」
壁の周辺を隈なく探したがこの壁をどうにする手段を見つけ出せずいた。そして手掛かりを求めセリア達は再び端末のある部屋へと戻る。
「セリアちゃん、興味があるから今度は僕にやらせてよっ。」
「ボスあまり変なことしないでくださいよ。」
「ミーアちゃん、僕がそんなことするわけでいでしょ。」
そう言ってよそ見をしながら行った操作が予想外の事態を引き起こす。
ディスプレー上には凄い早さで文字過ぎ去って行き、それが止まるとある文字が表示されていた。
”地下区画を稼働しますか?”
「セ、セリアちゃん、これって・・・。」
「ボス、何したんですかっ!」
「さ、さぁ、ちょっとよそ見してて・・・」
「取り敢えず、”はい”を選択しましょう。」
「了解だよ。セリアちゃん。なんか面白くなってきなぁ。」
「また、ボスが・・・。」
エルヴィンの言葉をその後ろで聞いていたミーアは頭を抱えて呟いていた。
”はい”を選択すると、画面には次々と文字が表示されていく。
”地下区画と繋がるセキュリティロックを解除”
”地下シャフトを解放”
”地下区画の稼働を開始しました。”
地下区画の稼働を告げるメッセージが表示されると、今まで僅かにしか感じなかったエーテルがはっきりと感じ取れる様になった。さらにセリアの直感が何かを囁き始める。
セリア達が再び地下一階へと訪れると先程までは壁であった場所に扉が出現していた。セリア達が扉の前に立つと自動的に扉が左右へ開く。扉の中には人が7,8人入れる程の空間があり、セリアは何も気にする事なくその中へと入っていく。
躊躇するふたりを無理矢理中へと入れると扉が閉まりセリア達を閉じ込めた空間は地下に向かって動き出す。
「セ、セリアさん、本当に大丈夫なんですか。変な感じがするんですけど。」
移動速度が徐々に上がって行くと体が浮くような、ふわっとした感覚に不安を感じたエルヴィンとミーアは終始セリアにしがみ付いていた。目的地が近くなって来たのか速度が徐々にゆっくりなり、やがて目的地へと辿り着く。再び扉が開くとそこにはただただ広い空間が広がっていた。
「やっとついた・・・。」
乗っている間ずっと緊張を強いられていた二人は扉が開くと一目散に駆け出す。緊張がから解き放たれた二人の少々だらしない顔を眺めていると、再びセリアのセリアの直感がなにかに反応して騒めき始める。
「二人はしばらくそこで休憩しててください。私は辺りを調べてきます。」
「そうさせてもらいます。」
「わかった。でも何かあったら直ぐに呼んでねっ。セリアちゃん。」
「わかりました。」
この広い空間には幾つかの小さい部屋が存在していた。直感に従ってセリアの足が向かった先もそんな部屋のひとつであった。
セリアが扉の前に立つとドアが自動的に開き中へと向かい入れる。その部屋でセリアが見た物はカプセルの中に浮かぶ二人に獣人だった。正確には狼系の獣人である狼人族の男の子と女の子、年は二人とも8才前後といったところだろう。
鑑定すると6才とセリアの予想よりも幼かった。種族蘭を見たセリアはこの双子があのファイルの獣人で間違いないと確信する。狼人族の双子は神獣と言われたフェンリルの血を受け継ぐ希少種であった。さらに二人とも名前の蘭が空白であった。
セリアはカプセルの隣にある機械に触れると操作を始める。ディスプレイにはカーソルが表示され、点滅しているためこの機器が使用可能である事がわかる。軽快にキーボードを叩くセリアの目にとある文字が飛び込んでくる。
”カプセル01、カプセル02は共にエーテルが不足しているため、覚醒状態への移行は不可能です。”
セリアは立ち上がると二つのカプセルにエーテルを流し込む。その間にはディスプレイ上には同じ文言が繰り返し表示されていた。何度目かの表示後に今までの表示とは異なる文言がディスプレイに表示される。
”カプセル01、カプセル02を覚醒状態へと移行します。”
暫くするとカプセル中の液体が全て排出され、カプセルが開き始める。身体を拘束していた物が外れ、二人の身体は重力に逆らう事無くカプセルから崩れ落ちる。セリアは床に落ちる寸前で二人の身体を抱き抱えるとストレージから大きめの布を取り出し二人を包む。
双子特有の共時性なのか暫くすると同時に目を覚ます二人。
そして一言。
「マ、マ・・・。」
セリアを見てそんな言葉を残し再び眠りに付く。
「えぇぇぇっっっっ!!!」
そしてセリアの後ろではエルヴィンとミーアの叫ぶ声が何処までも反響していた。
誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。
【読者の皆様へのお願い】
作品を読み、少しでも「面白い」、「先が読みたいと」と感じた方は、ブックマークと評価をお願いします。
気合を入れて妄想に妄想を重ねて執筆する原動力になります。厨二病感満載の詠唱も考えて行きます。
改めてお願いします。




