表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第四章 幻の都編
66/132

第五十七羽. シャングリラの鳴動


 シャングリラへと辿り着いた調査隊は中央の塔の周囲にある広場を拠点とした。一日目は拠点の設営と周囲と簡単な調査にあてた。二日目から本格的な調査を開始したが、中央と四方にある塔については入り口らしきものが見当たらず後回しとなった。それでも規模が規模なだけに数日に渡り調査を行う予定でいた。最初の三日は何事も起こらず調査は順調に行われていたが、四日目の朝に事態が一変する。


 朝食も終わりユークリッド機関の研究員、セリア、クリフは調査する場所やその他共有事項の確認を行っていた。それ以外は各自の裁量で調査開始までの一時の時間を自由に過ごしていた。ある者は前日の調査結果の整理、ある者は読書、またある者は模擬戦で軽く汗を流し前日までと同様の和やかな時間がそこには流れていた。


 そして・・・その時間が突如として終わりを告げる。


 風が止み、まるで空そのものが息を潜めたかのような重苦しい空気が辺りを支配する。それだけでも警戒するには十分過ぎる状況であるが、周囲のエーテル濃度も急激に上昇し始める。その異常は目に見える形で調査隊の前に現れる。本来であれば目に見えるはずの無いエーテルが大気中を漂う靄として・・・。


 当初その現象は中央の塔の周りのみで見られていたが、徐々に広がりを見せシャングリラの街全体を覆うまでになった。突然の出来事に調査隊の中に緊張感と不安が走り、まるで時間が凍りついたかのようにその場を沈黙が支配する。


 と、そのときだった。


 辺り一帯を覆うエーテルが不意に揺らぎ、大地が鼓動する。周囲を警戒していたセリアは即座にそれを感じ取る。


 「ノブツナさんっ!」


 「あぁ、分かっているっ。」


 セリアの呼びかけにノブツナが答えたのとほぼ同時に空間が軋みだす。何もなかったはずの空間から異形なるもの・・・魔物がその姿をあらわす。人型の魔物であるゴブリンやオーク。ヘルハウンドを初めとする獣系の魔物。昆虫系の魔物。


 次から次へと際限なく現れる魔物により完全に包囲される事になる調査隊。魔物の出現はシャングリラの街全域に及び、数千を超える魔物を排除しなければ脱出もままならない状況に追い込まれていた。


 刀を抜き即座に臨戦態勢を取るノブツナ。ノブツナに少し遅れ武器を構え迎撃態勢に移る獅子の心臓(ライオンズハート)。異形の群れを向かい打つべく庭園(ガーデン)も行動に移る。


 魔物の群れは微動だにせず静寂が場を支配する。そんな中セリアは冷静に自分達を取り囲む魔物を観察していた。メールトュールを襲った魔物と今目の前にいる魔物の群れが似通っている事。そして事の発端がこの街シャングリラ、正確には中央にそびえる塔にある事。


 セリアは塔を見上げながら自分の考えに確証に似た何かを感じていた。


 「来るぞっっ!!!」


 冒険者としての長年の感か、ノブツナの警告と同時に耳をつんざくような咆哮が辺り一帯を覆い、調査隊に向けて地を揺らしながらゆっくりと進軍を開始しする。視界を覆うような数の魔物の大群が押し寄せてくれば少人数の調査隊などひとたまりもない。研究員の誰もがそう思っていた。


 その時、調査隊を覆うように結界が形成される。結界は魔物の如何なる攻撃も受け付けず、大群の進行が結界よって阻まれる。


 「この結界はセリア殿が?」


 「はい。この程度の魔物なら結界が破られる事もないでしょう。」


 「承知した。」


 セリアの言いたい事を理解したのか、ノブツナは結界の外に向けて歩き始める。


 「さぁて・・・蹂躙の時間って事でいいのかっ。」


 ヴェインの問いにセリアが頷くとヴェインはノブツナの後に続く。


 「さぁぁ、暴れるぞっ!」


 「セリア様、行ってまいります。」


 さらにアヤメ、アルジェントがその後に続く。


 「メルは行かないのかっ。」


 「妾が行ったら、すぐに終わってしまうのじゃ。」


 「セリアよ、おぬし何処へ行くのじゃ。」


 「何処って、決まっているだろ。」


 「おぬしが出て行ったら妾がここに留まった意味がないのじゃ。たまには大人しくしているのじゃっ。とは言え戦闘を長引かせるのも良くないがな・・・。」


 何時になく神妙な顔をしているメルディナの横顔を見ながらセリアは、ランスロットとブリュンヒルデを呼び出し、セリアの足元でうずうずしているテトラとイロハと共に戦闘に加わるように指示を出す。


 指示に従って四方へと散って行くテトラ達を見ながらメルディナに声をかけるセリア。


 「シャングリラに来てから様子がおかしいが何か気になる事でもあるのかっ?」


 「・・・・・・」


 メルディナからの返答は無く二人の間に沈黙が流れる。


 『妾は以前・・・この街に来た事がる。』


 聞かれたく無い内容が含まれるのかメルディナは念話で返してきた。


 『どのくらい前の事なんだ。』


 『何を言っておる。そんな事、分かるわけなかろぉ。妾自身どのくらいの間、始原の迷宮プライモーディアル・ラビリンスの中に封じられていたかわからんのじゃ。それに、その時の天帝とやらが誰なのかも知らないのじゃ。例えそれを知っていたとして、最後の天帝であるテュラノスですら正確に何千年前かが分からん以上・・・妾が訪れたのがどの位前かなど、分かるわけがないのじゃ。ただ・・・。』


 そこで言葉を区切ったメルディナを訝しんだセリアは話を促す。


 『何かあるのか?』


 『この街に人が全くいない事を除けば・・・妾が知る記憶の中の街と寸分たがわず同じなのじゃ。建築様式、規模そして区画に至るまで・・・。』


 エルヴィンの話によればクィントゥス朝は少なく見積もっても千年以上の長きに渡り文明を築いていたことが分かっている。それを考えればおかしな事である。当時どれ位の人口を有していたか不明だが長い歴史の中で人口の増減は当たり前であり、人口が増えれば再開発や拡張を行うのが常である。それに時代ごとに様々な建築様式が興亡するものである。


 『それともう一つ気になる事があるのじゃっ。』


 『気になる事とは?』


 『場所が違うのじゃ。』


 『場所が・・・違う?』


 『当然今と当時では地形が全く異なる。それを加味したとしても妾が訪れた時とで・・・この街が存在している場所が明かに違うのじゃ。』


 メルディナの言葉にセリアが思考の海に沈んでいると、自分を呼ぶ声に思考が現実に引き戻される。


 「どうかしましたか?」


 「それはこっちのセリフだよ。セリアちゃん、いくら呼んでも反応しないからさぁ。それとその丁寧な言葉使い何とかならない。」


 「気を付けます。それでなにか?」


 「セリアちゃん、何かへんじゃない。」


 その言葉に戦場を見渡すセリア。建物に被害が及ばないように配慮しながらの戦闘とはいえ、掃討する速さは驚嘆に値した。そこでエルヴィンのいう異変に気が付く。かなりの数を屠ったにも関わらず魔物から受ける圧力に変化が無い。戦場に存在する魔物の数が明かに減っていないのだ。殲滅速度を考えればこれだけの数の魔物が残っている方がおかしい。しばらく事態を見守っていたセリアはある事に気が付く。倒した魔物がエーテルに還り、また魔物としてエーテルから生み出される事に。


 消滅から再出現までにはそれなりのタイムラグが存在しているが、このままではこの消耗戦に勝利する事が難しい事を・・・。


 『セリアねぇ、数が減らないんだけどぉ。』


 セリアがそれに気が付き打開策を思案しているとアヤメから念話が届く。声からしてまだまだ余裕が感じられるが、同時に一向に減らない魔物にイライラを若干募らせている事も感じ取れた。


 『このままじゃ、そのうちジリ貧になるぞっ。』


 そしてそれを受けてヴェインからも状況の危うさを告げる報告が入る。歴史的な建造物が傷つかない様に高威力、広範囲の魔法や術の使用を予め禁じていたが、この状況ではそうも言っていられない事は明らかである。


 『解禁する。やりたい様にやれ、アヤメっ。』


 『よぉぉしやるぞっ!』


 先程の声と違い生き生きとした声が流れて来る。


 アヤメは魔物の群れから距離を取ると弓を構え矢をつがえる。一連の流れるような所作から放たれた矢は空高く舞い上がり、次の瞬間には炎の雨となり魔物の群れを襲い、一瞬にして何百もの魔物が灰と化す。


 間髪入れず次の矢をつがうと群れに向かって矢を射る。放たれた矢は炎を纏った巨大な顎となり魔物の群れを焼き尽くしていく。


 アヤメの範囲攻撃を皮切りにアルジェント、ヴェイン、そしてノブツナも戦闘スタイルを変えていく。そして研究員は自分達目の前で繰り広げられる戦闘で次々と壊れていく建造物を見ながら顔を青くしていく。


 「あ、あのさ・・・セリアちゃん。あれはやり過ぎだと思うのだけど・・・。」


 「今はここにいる全員の命が最優先です。」


 セリアの答えにエルヴィンは無理やりにでも納得する顔を見せる。


 エルヴィンを初め研究員の心情は理解出来なくも無い、戦況を見守りなが内心そんな事を思っていた。終わり無き戦いを強いられる可能性がある以上、それを受け入れ事は出来ない。それが今置かれている状況である。


 魔物の出現速度をはるかに上回る圧倒的な殲滅速度は魔物の数を急激に減らしていく。殲滅目前のその状況にセリアが安堵したその時、再びエーテルが揺らぎ、辺りを覆っていた高濃度のエーテルが消え去ると魔物が再度出現する。


 無数の眼を持つ巨獣。炎を纏った骨の竜。甲殻に覆われた巨人と出現した数は少ないが、巨大な体躯をした魔物が辺り一面に出現する。


 庭園(ガーデン)のメンバーやノブツナはいまだ余裕があるが、獅子の心臓(ライオンズハート)の面々は明かに疲労の色が見て取れる。それに研究員をあまり長くストレス下に置くのも得策でないと判断したセリアは指示を出す。


 『一旦下がれっ。アル、ノブツナさんと獅子の心臓(ライオンズハート)にも指示を頼むっ。』


 『かしこまりました。』


 「メル、少しの間、結界の維持を頼む。」


 「分かったのじゃ。それで何をするつもなのじゃ。」


 「それは見てのお楽しみだっ。」


 セリアの身体からエーテルが溢れ出ると足元から青白い光の波紋が広がり始める。それと同時に六芒星と幾何学模様が織りなす立体魔法陣がセリアを覆うように展開される。


 魔法陣の展開が完了するとセリアは静かに詠唱を開始する。


 「静寂を告げる白き息吹 舞い散る凍てつく華

  嘆きの詩歌 忍び寄る死の戦慄

  十方を静寂で満たし 冷厳なる断絶を刻め」


 全員が結界の中に戻ってきた事を確認したセリアは術を行使する。


 「氷獄術式 氷釈・蓮華縛界」


 魔法陣が砕けると青白い光の波紋が一気に駆け抜け、凍える空気がシャングリラの街全体を包み込む。光の波紋にさらされた魔物の身体には小さな氷の華が咲き始め、魔物の動きが次第に鈍化していく。動きが完全に止まると氷の華を中心に魔物の身体が凍り始めると、侵食するように徐々に魔物の身体を凍結していく。氷の華は凍結度合いを示すように次第に大きくなり、終には大輪の華を咲かせた魔物の氷像が街全体を飾る。


 シャングリの街全体に広がるその光景は見る者を釘付けにし驚きを与え、さらなる顔を見せる。時が止ったかのようなその光景が僅かな時間のあと動き始める。(おびただ)しい数の氷像が瞬く間に砕け散って行く。砕け散り宙を舞う氷の破片は光を反射し、まるで白昼夢でも見ているかのような幻想的な光景を調査隊の目に焼き付けると瞬く間にその姿を消していく。


 この戦闘で傷ついた家屋が少なからずあるものの初めて訪れた時と同様の静けさを取り戻したシャングリラ。危機が去り安堵からやっと笑顔が漏れ出る調査隊を見つめながら、セリアは胸の中で何かざわめく物を感じていた。


 そのざわめきが現実となりセリア達調査隊の前に姿を現す。


 突然セリアは奇妙な感覚に襲われる。それは身体をエーテルの波動のような物が通過していく感覚であった。それはセリアだけでなく調査隊の全員がその感覚に襲われていた。


 その波動が何処から発せられたのか全員が無意識のうちに中央の塔に視線を向ける。調査隊の視線が中央の塔に集まる中、音を立てて崩れ始める。四方の塔も呼応するかのように音を立て次々と崩れ始める。崩れ落ちる塔に慌てふためく調査隊をさらなる衝撃が襲う。


 崩れ落ちる塔の中から少し色身を帯びた水晶のような物が姿を見せる。調査隊の視線は縫いつけられたかのように現れた物から動かせなくなっていた。


 「セリア様・・・あれは・・・。」


 「・・・魔晶石・・・。」


 アルジェントの疑問にセリアが答えるより先にエルヴィンから零れ落ちた。


 「ば、ばかなあんな巨大な魔晶石が・・・。」


 その言葉に反応した研究員の口から次々と驚きの声が漏れる。これが魔晶石である事は間違いない。何せセリアのストレージにも大きさに格段の差があるものの魔晶石の塊が存在する。この魔晶石で造られた姿こそ塔の本来の姿であり、崩れ落ちたのは本来の姿を隠すための外装であった。


 魔晶石で造られた塔の圧倒的な存在感に言葉を飲み込みその場で静かに立ち尽くす一同。数秒なのか、それとも数十分なのか時間感覚が分からなくなほどに眼の前の存在に見とれていた一同の前でさらなる変化が起きる。中央の塔が僅かに光ると明滅し始める。


 その現象に慌てて他の塔に視線を向けると四方に存在する四本の塔全てが同様に明滅していた。やがてシャングリラの街全体が塔と共鳴するように光始める。そして心臓が脈打つ様に街全体が鳴動を開始する。それに答える様に建物が強く輝くと次第に消え始める。それと反比例するように大気中のエーテル濃度が再び上昇しはじめる。


 明滅を繰り返している五本の塔は次第に発する光が強くなり、終には目を開けていられない程にまで強くなり街全体を包み込む。


 光が終息し目を開けた調査隊を待ち受けていたは、迷宮(ラビリンス)のような異様な雰囲気が漂う場所であった。ここがシャングリラの街であった事を示すものは、街を囲む城壁と本来の姿を露わにした五本の塔のみであった。


 調査隊が通ってき城門は姿を消し、見えていた空もここにいる誰もが見た事ない空へと変貌していた。そもそも見えているものが本当に空なのかすら不明である。


 『異なる空間に隔離されました。ここから脱出する手段は今のところ存在しません。』


 ーーー何らかのギミックを攻略する必要があるのか・・・。


 セリアは《オモイカネ》の報告に周囲を観察するもそれらしき物は見当たらなかった。中央の塔の周囲には堀が巡り、その堀によって四方の塔へと繋がる通路が完全に絶たれていた。その上、中央の塔には相変わらず出入り口が存在していない。


 「セリアねぇ、どの位の深さなんだろぉ。」


 堀を覗き込むアヤメの横でエルヴィンが銅貨を放り込む。


 「何も聞こえないよ。」


 耳を澄まし投げ込んだ銅貨の落下時間を計測するエルヴィン。だが終わりを告げる音がアヤメとエルヴィンの耳に届くことはなかった。懐からもう一枚の銅貨を取り出すとエルヴィンはそれを向こう岸に向かって投げる。銅貨は向こう岸に辿り着く直前で何かに遮られ落ちていく。


 「アヤメちゃん、向こうに向かってなんか攻撃してみてっ。」


 エルヴィンは自分が硬貨を投げた方を指差してアヤメに指示を出す。


 「フレイムアロウッ!」


 アヤメが魔法を唱えると十本以上の矢の形をした炎が宙に浮かび上がる。それらはエルヴィンが指差す方向に勢いよく解き放たれる。解き放たれた炎の矢は見えない壁に直撃し爆炎を舞いあげる。それは始原の迷宮プライモーディアル・ラビリンスで見せた時より遥かに威力が上がっていたが、見えない壁を突破するには至らなかった。


 「その程度の攻撃では、余の結界を壊すのは不可能だなっ。」


 声のする方を振り向くとそこには一人の少年が佇んでいた。


誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。


【読者の皆様へのお願い】

作品を読み、少しでも「面白い」、「先が読みたいと」と感じた方は、ブックマークと評価をお願いします。

気合を入れて妄想に妄想を重ねて執筆する原動力になります。厨二病感満載の詠唱も考えて行きます。

改めてお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ