幕間 悪夢再び
これはセリアと分かれエドの街からミストラルへと向かったアルジェント、アヤメ、ヴェイン、メルディナの四人に起こったちょっとした旅のひとコマである。
それはミストラルへと向かう道中でのとある昼下がりに起こった。
「お腹減ったぁっ。もうそろそろ昼食にしない。」
アヤメのこの一声がこれから自分達の身に起こる出来事の始まりである事をこの時は誰も思いもしなかった。
「そうですね。ではこの辺りで昼食と致しましょう。」
街道から少し離れた場所で昼食の準備を始める。その時アルジェントから一つの提案がなされた。
「あの・・・今日の昼食ですが、私がご用意してもよろしいでしょうか。」
「いぃんじゃない、アルねぇ。」
アルジェントの提案に何気なく答えたアヤメの耳元でヴェインが小声で注意を促す。
「嬢ちゃん、何を言ってるんだ。セリアから言われていただろぉっ。」
「あっ。忘れてた・・・。」
ヴェインの言葉にアヤメはある事を思い出した。エドの街でセリアと別れるときに言われた一言を呟く。
「何があってもアルねぇに料理を作らせるな・・・。」
「俺もアルの料理を食べたことはないが・・・セリアがああ言うんだ。きっと何かある。」
「そ、そうだね。メルはどお思う。」
「そうじゃのぉ。セリアの言に重きを置いた方が良いと思うのじゃ。怖いもの見たさ、という気持ちも無きにしも非ずじゃがな。」
アルジェントにOKの返事をしてしまった手前、代表してアヤメがアルジェントに声を掛ける。当のアルジェントは鼻歌交じりに昼食の準備に取り掛かっていた。
「あ、あの・・・アルねぇ・・・。」
「何でしょうか?」
「えぇっと・・・その・・・出発前にセリアねぇから言われた事があるんだ・・・。アルねぇには料理を作らせないようにって・・・。」
「そうですか・・・。でも大丈夫です。私もたくさん練習をしました。以前のような轍を踏みませんっ。」
笑顔でそう答えたアルジェントは準備の続きを始める。以前という言葉に何か悪い予感を感じたアヤメはすぐにヴェインとメルディナの下に駆け寄る。
「ヴェイン、メル・・・どおしようぉ・・・。」
「たしかに、作る気満々だな・・・。」
「二人とも、あぁなってしまったアルに手を引くよう求めるのは流石に無理なじゃ。」
そう言ってメルディナのは二人に自分の考えを聞かせる。
「セリアの言っていた事を考えると食べられない物が出て来る可能性が高い。だが今のアルを納得させるのも難しい。そこで昼食に出す料理のうち一品を作ってもらう、というはどうだろうか。そうすれば、仮に被害が出ても少なく抑えられると思うのじゃ。」
「確かに・・・それなら少なくとも他の料理は食べられるわけだしな。」
「僕もそれに賛成っ。」
「メル、それで何を頼むんだっ。」
「スープはどうだじゃ。」
「それなら、メインは堪能できるし、スープの変わりなら直ぐに用意できるか・・・。」
「では、ここは妾がアルを説得してくるのじゃっ。」
「頼むぞ、メルッ。」
「メル、頼んだよっ。」
「うむ。」
アヤメとヴェインの期待の籠った眼差しを背に受け、メルディナはアルジェントの説得に向かった。
「のぉ、アルよ。」
「何でしょうか。メル様。」
「先程、アヤメからも話があったと思うが、セリアからの言伝である以上、従うべきだと思うのじゃ。じゃがおぬしも色々と努力したのも確か・・・そこで昼食に出す料理のうち一品だけ作るというのはどうかの。」
「一品・・・ですか。」
「そうじゃ。スープをお願いしたい。」
「わかりました。セリア様に仕えるメイドとして主の言葉は絶対です。ここはメル様の御恩情に甘え、ご提案通りスープを作らせて頂きます。」
「そ、そうか・・・分かってくれたのなら何よりなのじゃ。それでは妾達は向こうでスープ以外の準備をするとしよう。」
「はい、お願いします。」
「よくやった、メルッ!」
「グッジョブだよ、メル。」
「妾にとってこのような些事、交渉のうちにも入らないのじゃ。」
戻ってきたメルディナに二人から賛辞が送られ、それをドヤ顔で受けるメルディナ。
そして食卓には出来上がった料理が並ぶ。そこには当然アルジェントが作ったスープも並べれている。それを見た一同の顔には何とも言えない表情が浮かんでいた。
「アルよ・・・何を入れたらこの様な色のなるのじゃ・・・。」
「何を、と言われましても、調理していたらこの様な色に・・・。それよりも、さぁ、召し上がってくださいっ。」
アルジェントに促され三人はお互いの顔を見合わせながら、スプーンですくう。匂いを嗅ぐと見た目から想像できない良い香りがほのかに漂ってくる。そして意を決して三人ほぼ同時にそれを口にする。スプーンですくった時から予想は出来ていたが、ドロッと粘度の高い液体が下に絡まり何とも言えない舌触りを覚える三人。
次の瞬間三人は不思議な感覚に襲われる。食べる前に漂っていたほのかな香りが消え去り、口の中が何も反応を示さない。何せ味がしないのだ。自分の舌がおかしくなったかのように味がしないのだ。
三人同時に他の料理に手を出す。そこには普段食べ慣れたセリアの作った料理の味が待っていた。再び少しすくって口に入れる。
この時、三人は同じ事を思っていた。水って味があったんだな、と。それ程にアルジェントの作ったスプーンが特殊であった。
「ア、アルねぇ・・・味見したの?」
「いいえ、してませんが、何か?」
「アルねぇっ、絶対味見しなきゃダメだよっ!」
戦闘でもあまり見せない真剣な顔に困惑しtsアルジェントは自身が作ったスープを口にする。その瞬間、手からスプーンが滑り落ち、アルジェントは口元を抑える。そしてすかさず三人のスープを下げるとセリアの作ったスープを盛り付ける。
「皆様、大変申し訳ございません。」
この出来事の後しばらくの間、アルジェントは落ち込んでいたが、三人の必死のアフターフォローにより持ち直すのであった。
不味くても味がある事の大切を知り、さらにセリアの大切さ、美味しい料理のありがたみに改めて感謝した三人であった。




