幕間 執事の憂鬱
キースウッド、彼は先代辺境伯の頃から長年にわたりこのアデルフィート家に仕えている執事である。若い頃は冒険者としてその腕を振るい最終的にはAランクの冒険者にまで上り詰めたが、怪我が原因で引退したところを先代辺境伯に見込まれ仕え始めた。そこから早や35年という年月が過ぎ去り、いまやアデルフィート家を家令として支える立場となっていた。本来であればキースウッドのその能力を遺憾なく発揮出来るよう取り計らうべきところであるが、そんな彼の仕事の半分は家令以外の事に費やされていた。
それはアインザックの次女であるシルクの教育係である。
これはアインザックの長女であるエリシアが婚姻を機に家を出た際にアインザックから直々に要請されたものだった。シルクの姉であるエリシアは物静かで包容力のある女性であったが、シルクは活発で行動力のある性格をしている。姉妹で正反対の性格をしているがとても仲の良い姉妹である。そんな姉がいなくなる事でシルクを心配したアインザックの親心からであった。
当初は渋っていたキースウッドであるが、他のスタッフがとても優秀で自分の仕事を任せるまでに育っていた事と、アインザックに深々と頭を下げられた事でこの件を了承した。
そして今現在キースウッドはシルクの事で頭を抱えていた。昔から少し変わった少女である事をキースウッドは感じていたいたが、特に最近セリアと関わるようになってからそれが加速して行った。
本来なら今は勉強の時間であるが、この場にシルクの姿は無い。毎度の事にキースウッドは溜息を漏らさずにはいられなかった。そんなシルクの居場所にキースウッドは心当たりがあった。むしろそこ以外にはありえないとすら思っているキースウッドはとある部屋に向かって歩き始める。
そして目的の部屋に辿り着いたキースウッドは扉の前で立ち止まり一呼吸置くと静かに扉を開ける。
「キース、ノックもせずに扉を開けるのは失礼ではなくてっ。」
扉を開けた人物の顔を確認するとシルクはベットに顔を埋めながら真っ当な事を口にする。
「そう申されましてもこの部屋はセリア様のお部屋のはずですが、お嬢様はここで何をされているのですか?」
「私はこの屋敷の主人の娘。どこで何をしようともとやかく言われる筋合いはありません。」
「そもそも今はお勉強の時間のはずですが・・・。」
キースウッドのその言葉にばつの悪い顔をするシルク。
「今はそれはおいておきましょう。では、質問を変えましょう。お嬢様はセリア様がお使いになっているベットの上で何をされているのでしょうか。しかも布団に顔を押し当てて・・・。」
「そ、それは・・・え、えぇっと・・・。」
シルクはしどろもどろになりながら適当な事を言って逃れようとしたが、キースウッドの視線に負け明後日の方を見ながら答える。
「お姉様成分が足りなくて・・・ちょっと補給を・・・。」
「はぁぁ・・・。」
キースウッドは呆れと共に溜息を吐くと口を開く。
「私にはお嬢様が何を仰っているのか理解に苦しみます。」
「だってぇぇ、お姉様がエドに向けて旅だってからもう3日。私の中のお姉様成分が急速に減っていくのです。」
「そんな当たり前のように申されましても、私には変態のようにしか見えませんっ。」
「キ、キースッ、私に向かって変態とはどういう了見ですかっ」
「旦那様からは了解は得ています。それに世間一般的にはそのような行為をなさる方をこう呼びます。変態と・・・。」
「流石にそれは言い過ぎでは、キースッ。」
そう言って起き上がるシルクの横にある物がキースウッドの目に飛び込んできた。
「お嬢様、その横にあるそれは何でしょうか。」
「何って、あぁ、抱き枕よ。とても良く出来てるでしょっ。」
笑顔で見せる抱き枕にはセリアの絵が掛かれていた。それを見たキースウッドは言葉を失い手を額に当て空を仰いだ。
ーーー旦那様、あなたの娘は・・・。
「お嬢様はアホでいらっしゃいますかっ!」
冷静さを取り戻したキースウッドは静かにシルクの傍まで歩み寄るとキースウッドは一言告げる。
キースウッドの何時にない表情に身の危険を感じたシルクは一目散にベットから逃げ出すが、あえなくキースウッドに捕まったシルクは首根っこを捕まれ引きずられていった。
キースウッド達が部屋から出るとそこには部屋を掃除する予定でいた侍女達がいた。
「すみませんが、この部屋を徹底的に掃除してください。それとベットの上にある抱き枕は処分してください。」
「キース、それだけはっ。」
シルクの言葉を無視して歩き始めるキースウッドの後ろで叫び続けるシルクの姿を見た者達は、やれやれ今日もかと、生温かくその光景を見つめるのであった。
「それだけはぁぁぁっ!!!」
シルクの叫び声が今日も屋敷内を木霊する。
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