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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第三章 日常編
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第五十四羽. 古都メールトュール攻防戦


 古都メールトュール、王国の北部に位置するコロッサス地方にあるこの街は王国が成立する以前より存在する街の一つであり、現在の王都に遷都するまでの一時期の間、政務が執り行われていた事でも知られている由緒ある街である。そう言った歴史的背景があるため現在コロッサス地方全体が王家の直轄領となっている。


 またコロッサス地方を含む王国北部地域は王国の中でも標高が高く開けた地形をした高原になっている。そらにその北には断崖絶壁の山々が連なるポルソトゥナ山脈が横たわり、その姿はまるで訪れる者を拒み続けるているようである。


 標高が高いため夏場でも涼しさ味わえるメールトュールの街は貴族達の避暑地として賑わいを見せる。冬場は打って変わっり極寒になるため、ほとんどの貴族は寄り付く事も無い。冬場にこの街を訪れるのは特殊な依頼を受けた冒険者ぐらいなものである。


 このメールトュールという街には特徴がある。それは強固な防壁である。他の街でも軍事的な要であれば強固な防壁を有しているが、メールトュールを含むこの辺り一帯は王国の中でも魔物が少ない地域でもあり、軍事的な要所でもない。現在避暑地として名をはせているのもそれが理由の一つでもある。この辺り一帯の魔物が少ない事は王国成立以前から変わらない事である。この防壁が何の為に存在しているのか、またこの防壁をどのように作ったのか王国の歴史学者の中でも長年の疑問になっている。


 そんな街の門をセリア達を乗せた馬車が通り過ぎようとしていた。そもそもセリア達が何故この北の地を訪れる事になったのか。事の発端はアルジェント、アヤメ、メルディナの三人が受けた依頼であった。それは近くの村までの行き帰りを護衛するといった依頼であった。ローレル近郊は比較的に安全ではあるが、それでも村までの道中は大なり小なり魔物による襲撃がある。そのため護衛依頼をギルドに出すわけだが・・・今回の依頼において依頼主である商人は襲撃の脅威を全くといっていい程に感じずに済んだ。


 その時の商人であるピエロッテからの指名依頼を受けたという訳だ。初夏を迎えたメールトュールはこれから押し寄せて来る貴族連中を向かい入れるため(にぎ)わい始める。その為毎年この時期には大量商品を輸送する商隊がメールトュールに向けて押し寄せて来る。今回の依頼はその内の一つである。


 商隊の規模が規模なだけに前回護衛にあたったアルジェント、アヤメ、メルディナの三名だけでは人数的に不十分というギルドの判断でセリアとヴェインも依頼を受ける事となった。さらに当初は庭園(ガーデン)のみでこの依頼を受ける算段であったが、これもギルドの判断でBランクの冒険者パーティーである獅子の心臓(ライオンズハート)と共同で依頼を受ける事になった。ギルドとしてもCランクパーティーだけでは心許ないと感じたのは当然と言えば当然の事だろう。


 「あまり、人がいないよぉ。」


 街の中へと入った馬車から顔を出してたアヤメが街並みを眺めながら率直な感想を口にする。


 「まぁ、(にぎ)わい始めるには少々早い時期に来ていますからねぇ。それでもあと3,4日すれば全然違った雰囲気を感じられる様になりますよ。」


 御者台に座っている今回の依頼主でもあるピエロッテがアヤメの感想に言葉を添える。


 「へぇぇ、そうなんだ。それは楽しみぃ。」


 見慣れぬ街並みにアヤメが目を輝かせていると馬車が停車する。そこには周囲よりも一回り程大きなの建物、そして看板にはピエロッテ商会という名が刻まれていた。


 セリア達が準備を整え馬車を降りた頃には、店の従業員達が届い商品を運び入れるのに慌ただしくしていた。


 「こちらが依頼達成証になります。これをギルドにお持ちください。」


 セリアと獅子の心臓(ライオンズハート)のリーダーであるクリフは一枚の紙をピエロッテから受け取る。


 「みなさん、護衛ありがとうございました。」


 そう言ってピエロッテは深々と頭を下げる。


 「何か入用の際にはピエロッテ商会までっ。」


 頭を上げたピエロッテは自分の商会をちゃっかりと宣伝するとその場はお開きとなった。獅子の心臓(ライオンズハート)は早々にギルドに向って行ったが、セリア達は折角なのでと店内を見て回る事にした。


 「セリアさん、ちょっとよろしいですか?」


 そこには少しあらたまったピエロッテの姿があった。


 「どうしましたか?」


 「メールトュールに向けて後何度か商品の輸送を行います。その際は指名依頼するのでお願いしたいのですが・・・。」


 「私達でよろしければ、是非お願いします。」


 「よかったっ。私はここで陣頭指揮を取るので、その際は別の者が商隊の責任者になると思います。」


 「分かりました。」


 その後もしばらく店内を見て回ったセリア達はちょっとした買い物をした後ギルドに向かって行った。



 ◇◇◇◇◇◇


 セリア達はしばらくの間、このメールトュールでゆっくりするつもりでいた。メールトュールに滞在して数日が経ったそんなある日、その日もアルジェント、アヤメ、メルディナの三人はメールトュールの街を散策がてらの買い物、セリアとヴェインの二人は珍しく酒場で酒を酌み交わしていた昼下がり。


 「それにしてもこの霧はいったい何なんだっ」


 とある客が酒を飲みながら吐く愚痴がセリアの耳にまで届く。昨晩からメールトュールを含む辺り一帯を濃い霧が包んででいた。セリアもこの霧が異常である事は勘付いていた。この霧が発生してからセリアの探知が阻害されていた。可能な範囲は精々半径十数メートルといったところだろう。そこで《オモイカネ》にはこの霧を解析させていた。


 『マスター、解析が終わりました。』


 セリアが外を眺めていると《オモイカネ》から霧の解析が終了したと報告が入る。


 『それで、この霧はいったい?』


 『この霧には探索、探知といったスキルを阻害する効果があります。それと同時に認識の阻害といった効果もあります。』


 『発生原因については?』


 『現状では不明です。』


 セリアが《オモイカネ》から霧についての説明を受けていると外の霧が徐々に晴れ日差しが入り始める。それと同時にセリアの探知範囲が広がって行く。そして今まで楽しく飲んでいたセリアの顔が真剣な眼差しへと変わっていく。セリアの探知範囲にはメールトュールを取り囲む様に陣取った魔物の軍勢を捉えた。しかもメールトュールの上空にも既に飛行系の魔物が陣取っていた。


 「セリア、いったいどうしたんだっ。」


 それに気が付いたヴェインがセリアに声をかけたその時、鐘の音が街を覆い尽くしていく。それは時刻を告げる鐘の音などでは無く、火急の事案を告げる早鐘であった。


 「きゃぁぁぁっっっ!!!!」


 そして街の至る所で人の叫び声が立ち昇り始める。叫び声に急いでセリアとヴェインが外に出ると、そこにはワイバーンの様な飛行系の魔物が至る所で人を襲う光景であった。


 「早く屋内に避難しろっ!」


 魔物を一刀両断にしながら叫ぶセリア。


 「ヴェインっ、住民の避難誘導を頼むっ。」


 「あぁ、わかったっ。」


 ヴェインは迫りくる魔物を次々と切り伏せながら住民の誘導を開始する。


 『アル、そっちはどうなってる?』


 『突然現れた魔物に混乱状態です。』


 『アルは住民の避難を優先してくれっ』


 『承知しました。』


 『僕達は何をっ。』


 『アヤメとメルは上空の魔物の対処を頼むっ。』


 『了解っ。』


 『分かったのじゃっ。』


 全員に指示を出したセリアは街の外へと転移する。転移したセリアが眼にしたのは辺り一帯を覆い尽くす程の魔物の群れであった。探知スキルで理解をしていたが実際に目にすると筆舌に尽くし難い光景であった。セリアの姿を目視しても周囲を陣取っている魔物は全く動く素振りを見せない。それを確認したセリアは一旦街の中へと戻る。


 セリアが街に戻った頃には侵入した魔物は粗方退治され、混乱も収まりを見せていた。


 『みなはこのまま警戒を頼む。いつまた襲撃されるか分からないからな。』


 セリアは指示を出すとその足でギルドへと向かう。そこには既に多くの冒険者が集まっていた。そしてカウンターで一人の男が声を張り上げ説明を始めたところであった。その男は無精髭を生やした、いかにも頼りなさげな人族の中年男性であった。彼の名はライオネル。このメールトュールのギルドマスターであり、ああ見えても元Sランク冒険者でもある。


 「えぇっと、今この街を取り込む様にして魔物の大群が陣取っています。少なく見積もっても万は越えるという報告です。今のところ全く動く気配が見えませんが、一斉に動きを見せると・・・駐留している騎士団だけでは圧倒的に数が足りません。この状況に騎士団からギルドに対して冒険者の動員依頼が来ました。焼け石に水なのは確かですが、それでも抗う必要があります。Dランク以上の冒険者は前線、Eランク以下の冒険者は後方で支援をお願いします。」


 「他のギルドからの援軍はっ。」


 ライオネルの説明に一人の冒険者が手を上げ質問をする。


 「既に連絡をしていますが、一番近い街からでも数日はかかります。それまで持ちこたえる必要があります。」


 ライオネルの回答に質問をした冒険者の顔には悲壮感が漂い始める。メールトュールは魔物の個体数が他の地域に比べて少ない。その為に駐留している軍隊の規模も他の街に比べて小さい。また冒険者の数も少ない。時節柄たまたま駐留している冒険者が普段より多いだけで、それでも決して多い数ではない。


 「そこで何かこれを打開する案があれば・・・今言って欲しい。」


 ライオネルの言葉に集まった冒険者の間でざわめきが起こるが、誰一人として打開策を示す者はいなかった。仕方が無い圧倒的な戦力さに、しかも頭を抑えられている状況だ。そんな中一人の冒険者の手が上がる。


 「打開策という程のものではありませんが・・・」


 そう言ってセリアの口から語られたのは策と呼べるような代物では無かった。周囲の魔物は庭園(ガーデン)で引き受けるので、他の冒険者は防備を固める、といった代物であった。


 「えぇっと、確か君はセリア君だったね。確かに君の能力が高い事は、情報が入っている。それでも君はまだCランクだ。そんな事が可能なのかい?」


 ライオネルがセリアの発言に対して当然の疑問をぶつける。そしてライオネルの発言に同調するように周りの冒険者が騒ぎ出す。中にはセリアに対して罵詈雑言をぶつける者までいる始末である。今の状況で何を言っても無駄だと感じたセリアはその場で場の空気が変わるのを待ち続けた。


 「自分が何を言ってるのか理解しているのか?」


 一人の男がセリアの前に出て来た。それはこの街に依頼で一緒に来た獅子の心臓(ライオンズハート)のリーダーであるクリフだった。セリアはその質問に答えず、ただクリフの瞳を見つめていた。クリフも同様にはセリアの瞳をじっと見つめていた。


 「ふぅっ、分かった。その案に乗ろう。」


 そう告げるとクリフは出口に向かって歩き始める。


 「掃討には俺達も参加するっ。」


 立ち止まるりそう言い残すとクリフはギルドを出て行った。決行は明日の明朝。魔物に動きがあれば即座に対応という事で、その場は解散となった。


 ◇◇◇◇◇◇


 魔物に動きが無いまま朝を向かえたメールトュールの街には人の姿が消え静けさが支配していた。昨晩、宿に戻りこの力押しの案をセリアが説明した時の反応は様々であった。アヤメはガッツリと戦闘が出来ると喜びを(あらわ)にしていた。アルジェントはいつもの様に”承知しました”の一言で終わり、ヴェインとメルディナは溜息をつき呆れた表情を浮かべていた。


 そして事前に決めた通りにそれぞれが位置に着く。メールトュールの北はセリア、南はアルジェントとBランクの以上の冒険者が20名、西はヴェイン、ランスロットにテトラとイロハ、東はワルキューレとエインヘリヤル。そして上空をアヤメとメルディナにラクス。ラクスの役割は結界を張り街中への魔物の侵入を防ぐ事である。


 またBランク以上の冒険者が参戦する事になった経緯であるが、これはクリフの言葉に俺達だってと勝手に盛り上がった結果である。ただこの作戦の足枷に成り兼ねない為、セリアはお目付け役としてアルジェントを南に配置したのである。東西の戦力を考えれば南よりも早く殲滅が終わるだろうと考えたセリアは、終了次第南に向かう事を厳命していた。これはセリア自身が十分に楽しみたいからといった理由もあるが、セリア一人でも他の区域より断然早く終わるので、そもそも必要が無いとう意味合いの方が強い。


 配置について庭園(ガーデン)のメンバーは異議を唱える事は無かったが、当然冒険者からは異論が噴出した。人数が多い自分達の戦力が侮られていると感じた冒険者達から不満であるが、ライオネルがギルドからの依頼として多目の依頼料を出すという事で無理矢理に納得させたのだ。


 それぞれが配置に着く中、東側の防壁の上ではざわめきが起きる。今まで誰もいなかったはずの場所にいつの間にか150近い戦力が姿を現したからである。それは規模が違えど西側も同様であった。


 そしてセリアの下に準備完了の知らせが届く。


 『さぁて、蹂躙の始まりだっ。』


 庭園(ガーデン)のメンバーに聞こえる様に念話でタイミングを計るセリア。


 『セリア、その台詞・・・悪役っぽくないかぁ。』


 『そぉかなぁ、僕はセリアねぇっぽくていいと思うけどっ。』


 『私もそう思います。』


 『妾はもいいと思うがな。それに妾達は正義の味方でも何でも無いのじゃっ。やりたい事をただやるのみなのじゃっ!』


 『あぁ、俺が悪かったっ。』


 ーーー緊張感の欠片も無い会話だな・・・。


 セリアは笑みを漏らし、ふぅっと息を吐くと全員に号令を掛ける。


 『行動に移れっ。』


 セリアの号令に200にも満たない戦力が魔物の群れに襲い掛り、メールトュール攻防戦の幕が切って落とされる。


 防壁の上から監視してる者達の眼には信じられない光景が映し出されていた。彼我(ひが)の戦力差は圧倒的でどうしても一対多の戦闘を強いられる事になる。つまり圧倒的にこちらが不利だと誰もがそう思っていた。だがしかし蓋を開けてみると殲滅スピードが桁違いに早く一対多になる場面が無いに等しかった。


 また魔物の航空戦力はラクスの張った結界に阻まれ街中への侵入が出来ないまま、アヤメとメルディナの攻撃に次から次へと地に落ちて行った。


 そんなハイペースな戦闘をいつまでも持つはずが無いと誰もが思っていたが、その予想はいい意味で裏切られる事になる。殲滅速度が時間と共に速くなり魔物の数が想像以上の速さで減少していく。そんな中で異彩を放っていたのが、北側を一人で担当しているセリアである。セリアが鎌を一振りするだけで20体以上の魔物が瞬時にその命が消え去りエーテルへと還っていく。その圧倒的なまでの蹂躙劇は見る者に戦慄を与えた。そして漆黒のローブを身に纏い鎌を振るその姿は魔物の群れに死を告げに来た死神にすら見えた。少なくとも防壁の上でその光景を目撃している彼らの眼にはそう映っていた。


 さらにそれは物理攻撃だけでなく魔法にも言えた。見たこと無い魔法が繰り出される度に魔物数が目に見えて減っていく光景は夢でも見ているかのようであった。


 結果一人なのにも関わらずセリアが担当した北側の戦闘が早々に終了した。ちなみにセリアがSランクに昇格した際に与えられた二つ名が”死神”となるのはこの時の戦闘によるものである。


 参戦した冒険者に負傷者が出てものの死者は出ず、開始から二時間足らずでメールトュール攻防戦は人間側の勝利で幕を閉じた。メールトュールの街は今までの静けさをかき消す様に歓喜の渦に飲み込まれ、人々は勝利の美酒に酔いしれた。



誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。

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