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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第一章 来訪編
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第三羽. 邂逅


 目の前に広がる空間は、ただ漆黒の闇が横たわっていた。空間が歪んでいるかのような錯覚と底無しの虚無を思わせる光景。


 セリアはその光景に息を呑んだ。


 たった今、目の前で起こったことは、セリアの知るいかなる科学法則ともかけ離れていた。ガラスのように砕けた魔法陣。音もなく消えた壁。そして、その先に広がる不気味な闇。この小屋の地下室が、世界の理から切り離された特異点になってしまったかのようだった。


 「《オモイカネ》、これは、一体・・・どういう状況だっ。」


 セリアは震える声で問いかけた。その問いかけに、《オモイカネ》は冷静に応じる。


 『まだ解析途中だったため、正確な回答は不可。ただ推測すると、封印を解く鍵はマスターである可能性が大です。』


 「わ、たしが・・・。」


 『可能性の一つですが。封印が解けた今、マスターの意思で立ち入ることは可能です。しかし、内部の正確な状況は不明であり、危険が伴います。』


 セリアは、目の前の闇をじっと見つめた。


 恐怖はあった。それでも、止められない好奇心が胸の奥から湧き上がって来るのをセリア確かに感じていた。さらに封印が解けた以上、この闇が今後どう影響を及ぼすのか、それを自ら確かめる必要性も感じていた。


 セリアは一度大きく息を吸い込むと、決意を固めた。


 「ここに居ても仕方ない。行くぞ、《オモイカネ》。」


 『承知いたしました。』


 闇へと足を踏み入れた瞬間、感覚が一つずつ切り離されていくような不可思議な感覚がセリアを襲う。足裏に伝わるはずの地面の感触さえ曖昧になっていく。


 視界が晴れると、セリアを襲っていた感覚が全てなくなり、大きな通路と多数の部屋を確認できた。


 ーーー今ならまだ・・・戻ろうと思えば、まだ戻れる。


 そう考えた瞬間、セリアは自分が無意識のうちに、背後を気にしていることに気付いた。


 ーーーまぁ、今戻ったところで、何も解決するわけでもないか・・・。


 そう決意したセリアは、無意識にうちに握りしめていた拳を解き、目の前に伸びる通路を歩み始める。一抹の不安と恐怖があるが、それ以上に確信があった。


 ここには、何かがあると。


 無機質な石造りの床と壁で覆われた通路。天井は高く、全体的に薄暗い。そんな通路を進みながらセリアは、一部屋一部屋を確認しながら奥へと進んでいく。開かない部屋も数多くあったが、蔵書部屋、実験部屋など多種多様な部屋が存在していた。用途の異なるはずの部屋が、まるで一つの設計思想に基づいて配置されているかのようだった。


 セリアは、足を止めて振り返ると、改めて通路を見渡す。


 「・・・ここ、誰かが住んでたって感じだな。」


 上の生活空間もそうだが、つい最近まで誰かが生活していたように綺麗に整頓されていた。それにも拘わらず生活感という物が一切感じられない。


 小屋に辿り着いて以来、セリアはそういった不可思議な違和感を感じていた。そんな違和感を抱きながら、さらに通路を奥へと進み最奥の部屋にたどり着いた。


 最奥の部屋は、今まで見てきた部屋とは雰囲気からして明らかに異なっていた。そこに存在していたのは、日常的に想像するようなドアではなく、重厚感のある強大な両開きの扉。


 目の前にすると感じたことの無い威圧感がセリアを襲い、まるで”さぁ開け”と言わんばかりにセリアの行く手を遮っていた。


 一方で扉には華美な装飾は殆どなく、全体的に無骨な作り。しかし、よく見れば表面には(うっす)らと極めて微細な幾何学模様が刻まれていた。


 セリアは、しばしその扉を見つめたまま動かなかった。触れるべきか、否かを逡巡(しゅんじゅう)していた。


 意を決して両手を扉に添えるセリア。


 しかしセリアが力を込める前に、扉は音を立てずゆっくりと内側に開いていった。扉が開くのと同時に、部屋の中に微かな明かりが灯る。


 灯った明かりは、部屋全体を一度に照らし出すほどの強さではなかった。それでも、闇の中に沈んでいた輪郭が、ゆっくりと浮かび上がってくる。


 「・・・怪しいよな・・・どうする?」


 『現状、危険な要素は確認できません。』


 「虎穴に入らずんば虎子を得ず、か・・・。」


 周囲を見渡しながら、セリアは慎重に部屋の中へと入っていく。まず目に入ったのは、床だ。通路と同じ石造りではあるが、より平滑に整えられており、中央へ向かって意図的に視線を誘導するような造りになっている。次に、天井。通路や他の部屋に比べて高いためか、目視では正確な高さは分からなかった。


 少し進んだところで、背後から空気が動くのを感じたセリアが振り向く。閉じかけている扉を目にして、慌てて駆け寄るが、完全に扉が口を閉ざす。扉をこじ開けようとするが、セリアの力では扉は微動だにしなかった。


 突如、《オモイカネ》の緊迫感のある声が頭に響く。


 『周囲のエーテル濃度が増大!!』


 部屋の中央に突如として魔法陣が浮かび上がり、薄暗い部屋を明るく照らし出した。魔法陣を挟んで向こう側には、豪華な一脚の椅子が浮かび上がる。そしてその椅子に座る人影が浮かび上がる。人影は既に躯と化していた。項垂れるように座っている躯は白骨化しており、金糸や銀糸で刺繍された豪華な黒のローブを羽織っている。


 「《オモイカネ》、これはいったい・・・。」


 呆然と呟くセリアに対して、《オモイカネ》が状況を説明する。


 『高度な認識阻害が施されていた模様。』


 「脱出方法は?」


 『現在、模索中』


 「脱出など出来んよ。」


 目の前にある躯から、突然声が漏れた。それは、空間そのものを震わせるような、深く、冷たい声だった。


 「ククク、まさか本当に現れるとはなぁ。」


 項垂れていた頭がゆっくり起き上がりこちらを見据える。その眼窩の奥に、怪しく光る燐光が灯っていた。


 『アンデットの上位種、エルダーリッチです。』


 再び《オモイカネ》の声が響く。


 目の前にいるエルダーリッチの圧倒的な存在感に足がすくむ。


 ーーーやばい、全く勝てる気がしない。それでも・・・やるしかないよなぁ。


 などと思っていると。


 『現在の勝率0%。』


 《オモイカネ》から絶望的な言葉が聞こえてきた。


 「だめじゃん!」


 思わず叫んだセリアは慌てて口を押える。


 「そう身構えなくてもよい、襲おうなどと思っておらん。」


 その言葉とは裏腹に、場の緊張が解けることはなかった。骸骨の視線は、逃げ場を探る余地さえ与えぬほど、静かにセリアを捉えている。


 「まずは・・・名乗っておこう。」


 椅子から立ち上がりながら、そう云ってエルダーリッチは言葉を続ける。


 「我の名前は、イング・アルペジーラ。遥か昔に栄えた王朝、ミズガルズの最高位魔導士にして、錬金術師でもある。そして、悠久の時、其方(そなた)が訪れるのを待っていた。」


 「私を? なんで?」


 イングの言葉はこの出会いが、偶然ではなく必然であることを物語っていた。その事実に思わずセリアは聞き返していた。


 「その理由をここで語ることは叶わん。知りたければ、其方(そなた)自身で確かめる必要がある。そのための力を其方(そなた)に授ける。そのためだけに我はここにおる。」


 イングは自分の言葉を信じるか迷っているセリアを見透かすように言葉を続ける。


 「まぁ、信じるかは、其方(そなた)次第だがな・・・。まぁ、異世界から来たのであれば、力は必要じゃとおもうがな。」


 イングの思いもよらない発言に、セリアは思わず言葉を漏らした。


 「何故それを?」


 「云うたであろう、其方(そなた)を待っていたと。我がいた時代の力が今の時代でどれだけのものかは、我にもわからん。なにせ、ここでずっと寝ていたようなものじゃからな。」


 笑いながら気さくな物言いで語っていたイング。だが次の瞬間、その調子がふっと消え、打って変わって殺気を込めた低く冷たい声が響く。


 「それでも、今の其方(そなた)を狩るのは造作もないぞ。」


 向けられた一瞬の殺気に、呼吸をすることすら忘れ、セリアは床へとへたり込んだ。


 「まぁ、このぐらいの殺気、其方(そなた)ならすぐにあしらえるようになる。」


 低く笑いながら、まるで雑談するかのようにイングが語りかけてきた。


 「はぁぁ、イング、落ち着くまで少し時間がほしい。」


 それに対してセリアは、乾いた笑い交じりの声を絞りだすのがやっとだった。


 「構わんよ。」


 そう云ってイングはセリアの目の前にしゃがみ込んだ。そしてためらいもなく、セリアの耳を触り出した。


 「もふもふで触り心地がよいのぉ、こんなもふもふ我も欲しいなぁ。」


 今まさに骸骨の顔が真正面にある。恐ろしいこと、この上ない。だがひるまずセリアは口を開く。


 「あのぉ、やめて貰えませんか。それにあげません。そもそも骨で触り心地とか分かるんですか?」


 イングは少し間をおいて、セリアの問いに答える。


 「分かるよっ!」


 そう言うと、親指を立て、堂々とサムズアップ。


 「なにせ、違いが分かる男だからなっ!」


 某コーヒーCMのようなことを口にすると、何事もなかったかのように椅子の前へと戻っていった。


 そんなたわいもない会話で場の空気が落ち着いたころ、セリアは改めてイングの様子を観察した。イングはただ黙ってセリアを見つめていた。骸骨なので目はないけど、とそんな冗談めいたことを思い、思わずセリアの顔から笑みが漏れた。


 セリアが落ち着いたのを見計らったかのように、イングが再び語り始める。


 「其方(そなた)には三つ授けるものがある。まずは、我が持つ魔法、錬金に関する知識。次に我が所有する魔道具やこの浮遊島を含めた物理的なもの。そして最後に其方専用の武器じゃ。」


 語られた言葉に疑問を覚え、セリアは聞き返す。


 「今なんて言いました。」


 「其方(そなた)専用武器のことか?」


 「その前、この浮遊島とか言ってませんでした?」


 「そうじゃよ。」


 「我らが今いるここは遥か上空にある島じゃ! 地上約一万二千メートル。面積は約五千平方キロメートル。」


 ーーー五千平方キロメートルって言われても、全く想像ができないな。


 『マスター、千葉県の面積が、約五千百五十六平方キロメートル。』


 ーーーなんて、広さだっ。


 骸骨なのだから表情などあるはずがない。なのに「すごいだろぉっ」と言わんばかりのドヤ顔感がそこにあった。


 「質問なのですが、ここからはどうやって下りるのですか?」


 「そこは与える知識にあるので心配するな。知識を授けるから、ほら、目の前にある魔法陣の中央に立てっ!」


 イングは魔法陣を指さし、セリアを促す。彼女が魔法陣の中央に位置するのを確認すると、イングは魔法陣にエーテルを流し始める。


 魔法陣が(まばゆ)く輝き、天井にまで届く光の柱が生じる。生じた光の柱は次の瞬間、光の粒となって飛散する。光の粒はセリアの周囲を回転し始め、徐々にその半径を狭めていく。そして全ての光の粒が彼女の身体の中へと消えていった。


 一連の出来事が収束すると、イングが目の前までやってきた。


 「次はこいつじゃ。」


 そう言って、イングは右手で指を鳴らす。


 骨でも鳴るの? なんで? などとセリアが疑問に思っていると、イングがすかさず口を挟む。


 「なんで鳴るの、と思ったじゃろ!」


 そして再び、ドヤ顔感満載でセリアに種明かしをする。


 「魔法じゃよ、様式美ってやつじゃ。」


 様式美ってなんだ、と思いながら、ケラケラと笑いながら説明しているイングを、セリアは呆れたように眺めていた。


 「そんなことより、右手首を見よっ。」


 右手首には、いつの間にか黒いブレスレットが()められていた。表面には何か模様が刻まれている。


 「そのブレスレットには幾つか機能がある。その中で一番の機能がストレージじゃ。容量はほぼ無限、そして時間による劣化が発生しない。言い換えれば時間が停止しておる。その他の機能については、其方(そなた)のスキルが理解しておるじゃろ。」


 『先程得た知識の中に該当するものがあります。』


 《オモイカネ》の言葉を受けて、セリアは頷く。


 「わかった、おいおい使い方を理解するさっ!」


 イングはセリアの返答に頷き、話を続ける。


 「さて、最後にこいつじゃ」


 そう云とイングとセリアの間にある空間に歪みが生じ、そこから金属のインゴットが出現した。そのインゴットには高濃度エーテルが内包されており、その影響なのかインゴットの周囲が少し歪んで見える。


 宙に浮いたままのインゴットをセリアが観察していると、イングから指示が飛んできた。


 「このインゴットに触れてみよ。」


 イングからの声に促され、目の前にあるインゴットに手を触れるセリア。インゴットに触れた途端、大量のエーテルがインゴットに持っていかれ、液体金属のような形状になり、うねうねと動き出す。まるで某映画に出てくるアンドロイドのように。懐かしい映画を思い出しているとイングの声が耳に届く。


 「もうそろそろ、終わるぞ!」


 我に返ると目の前のインゴットだったものは棒状の何かに姿を変えており、一瞬眩しく光り、生命の誕生のような何か神秘的な雰囲気さえ感じさせた。そしてその姿を現したのは、黒く巨大な鎌。通常、鎌は内側に刃が存在するが、この鎌は外側にも刃がついている。表面にはうっすらと波紋が浮かび上がっていた。


 出来上がった武器に満足感を抱き、イングが告げた。


 「これは、其方(そなた)のための武器であり、其方(そなた)と共に成長する。」


 その言葉に頷き、宙に浮いている鎌を握る。もう何十年も使っているかのように手に馴染んだ感覚。自然と鎌の銘が浮かび上がってくる。


 「(めい)をツクヨミ。ツクヨミ、この世界を一緒に駆け抜けるぞっ!」


 ツクヨミに語りかけると、まるで「もちろん」とでも云っているかのように、一度(ひとたび)鳴るのを感じた。


 「さて、我の役目もこれで終わりだ。」


 イングは肩の荷が下りたような安堵感交じり告げた。


 「イングはこれから、どうするんだ?」


 「役目を終えた以上、ただ去り行くのみ。それにもう、この体を維持するエーテルも残されておらんからな。」


 「そうか、折角知り合えたのに・・・。」


 「そんな悲しい顔をするな。」


 イングが目の前まで来て、セリアの両肩に手を添えた。そして、最後に一言。


 「其方(そなた)の歩む道に幸多からんことを、切に願っておるよ。」


 その言葉を言い残し、イングの体が崩れ落ち消滅していった。イングの最後の言葉と添えた手からは温かさを感じた。


 「イング、ありがとう。このローブは貰っていくけど、いいよな。」


 ローブを拾い上げると、紙がローブから零れ落ちる。拾い上げた紙には文章が書かれていた。


 ーー追伸、地上に降りるなら修行も兼ねて、この浮島にある迷宮(ラビリンス)に挑む事をお勧めする。それと、このローブも餞別として、其方(そなた)に進呈しよう。外行(よそい)きには少々目立つと思うので、その辺りも考慮しているので安心してくれ。なおこの手紙は読み終えると自動的に消滅する。


 アディオス アミーゴ


 ”なぜにスペイン語が?”、と思っていると突然紙が燃え上がった。慌てて手を離すと、空中で灰も残らず消滅していった。すると金糸に銀糸と豪華であったローブが漆黒のローブへと変貌していった。


 漆黒の巨大な鎌とローブから”死神”と呼ばれるようになる。これはもう少し先のことである。

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