第五十三羽. マイホーム
セリア達がローレルに戻ってから数日が経ったある朝、領主邸に激震が走る。
「お、お姉様、今なんとおっしゃいました?」
「ここを出て自分の家でも購入しようかと。」
「お姉様、私、何かお気にさわるような事をしましたでしょうか?」
「そういった事ではなく・・・。」
「では、セリア殿は我が家の何が不満だと言うのかね。」
真剣な面持ちでセリアを見つめるアインザック。
ーーー何とも面倒臭い親子だ・・・。
内心そんな事を思いながらもセリアは考えていた言い訳を話始める。
「最初は私とアルだけでしたが、今やアヤメ、ヴェイン、メルも厄介になっています。これからも増えるかもしれない以上、きちんと拠点を設ける必要があると考えています。」
「尚更、ここで良いではないか。何人増えようとも私達は構わないぞっ。シルクもそう思うだろっ。」
「私もお父様の意見に賛成です。お姉様のいない世界なんてっ。」
ーーーこの家から出て行くだけなのだが・・・何を考えているのだろうか・・・。
シルクの発言に困惑しながらもセリアは話を続ける。
「アインザックさんには色々と援助して頂いています。それについては大変ありがたく思っています。やはり私達は冒険者ですから、自分達で出来る事は自分達で、と思っています。ご理解ください。」
セリアはそう告げると頭を深々と下げる。
「旦那様、お嬢様、これ以上セリア様を困らせるの良くない思います。別にこの街を出て行くわけでは無いのですから。」
キースウッドの忠告にアインザックは考え込むとセリアに向き直ると頭を下げる。
「キースの言う事ももっともだな。セリア殿、申し訳なかった。」
「頭を上げてください。引き留められた事に嬉しさもありますから。」
「では、拠点を探す手伝いだけでもさせてくれ。」
「こちらからもおねがいします。ただこれから見に行く場所が駄目だった時にお願いします。」
「それは何処かね。」
ここ数日セリアは不動産屋を回っているがこれといった物件が無いのが実情だった。そんな折にとある物件を紹介された。詳細は現地でと聞いているため分からないが、不動産屋から教えられた場所をアインザックに伝える。
「お父様、この場所ってっ。」
「あぁ、そうだな。」
「何かご存知なのですか?」
「そこはこのローレルという都市が出来る前から存在してる不可思議な場所で、便宜上ローレルの不動産として管理はしているが、誰の土地というわけでなない。その場所の所有者になる為には迷宮を踏破する必要があるらしい。私はその迷宮に入った事が無いのでどんな所かは分からないがね。」
「今まで高ランクの冒険者は挑戦しなかったのですか?」
「Sランク冒険者を含めて数多く冒険者が挑戦したと聞いているが、所有者になった者はいないと聞いている。まぁ、話だけではさっぱりだろうから自分の目で確かめるのがよかろう。」
◇◇◇◇◇◇
不動産屋に案内されたセリアは今件の物件の前にいる。他のパーティーメンバーはというと、アルジェント、アヤメ、メルディナの三人はギルドの依頼を受けて少し離れた農村までの護衛を依頼を受けている。ヴェインは情報収集といって朝から出かけている。
目的の物件の周りは開発が進み整備されているのにも関わらず、そこだけは時の流れから取り残されたようにひっそりと佇んでいた。門扉の隙間から確認出来る限り庭、建物ともにそれなりの広さをしていた。建物は300年以上経過しているとは思えない綺麗ない外装をしていた。そして庭は手入れが行き届いた綺麗な青草色が広がっていた。
「セリアさん、この錠前に触れてください。」
セリアが観察しているとここまで案内してくれた担当者に声をかけられる。
「これに・・・ですか?」
「はい。どうやらエーテル量を測っているようで、基準に達していない場合は迷宮にも入れないようです。」
「なるほど・・・」
どんな仕組みになっているのか、そんな事を考えながら錠前に触れるとエーテルを吸収されている感覚がわかる。確かにこの量を吸われるのであれば大抵の人は無理だな。それがセリアの感想であった。
錠前からセリアが手を離すと解除される音と共に錠前を中心に空間が歪み始める。そして人一人が入れるくらいの大きさの入り口が姿を現す。
「これが迷宮の入り口となります。とは言っても私は入った事が無いので正直なところ分からないのですが。」
「というと?」
「この中に入った人の話を聞いただけでして。この中には解除した本人しか入れないようです。」
ーーーなほほど、ならアル達を連れて来ても無駄だったかもしれないな。
「セリアさん、お気を付けてください。」
「ありがとうございます。それでは行ってきます。」
「それとセリアさん、私はこれで戻りますので終わりましたら店まで報告をお願いします。」
「わかりました。」
そう答えたセリアはそのまま空間の歪みの中に足を踏み入れる。セリアの姿が歪みの中に消えていくと、空間の歪みのが消えて無くなり初めから何も無かったかのように時間が流れ始める。
◇◇◇◇◇◇
迷宮に足を踏み入れたセリアは直ぐに違和感を感じた。この迷宮内のエーテルが異様な程に乱れている事に。そして乱れたエーテルの流れの中に隠れる様に正常なエーテルの流れを持つ道が存在していた。エーテルが乱れた不正解のルートに視線を向けると、そこは僅かに空間が歪み、おそらくは別の道に繋がっているのだろう事が推察出来た。つまり不正解のルートを進み続けると自分が今何処にいるのかも判断出来ず迷い続ける事になる。
話を聞く限りではこの迷宮に潜った者は全員帰還していることから、迷い続けある一定の時間が過ぎると外に繋がるといった仕組みなのだろう。
セリアはエーテルの流れを視覚情報として得られるため、ギミックに気付いたがそうで無ければここをクリアするのは至難の業だろう。偶然にも運だけで踏破する事も可能と言えば可能だが、そんな豪運を持ち合わせていれる者がそういるとは思えない。後はエーテルの流れの違いを感覚的に捉えるスキルがあれば不可能ではないだろう。
ただひたすら歩き続けるセリア。感覚的には30分以上の時間を歩いている。そしてそれも突然終わりを告げる。徐々に周りの空間が移ろい始め、気が付けばセリアの姿は高層ビルが立ち並ぶ街中にあった。空に浮かぶ満月が暗闇を照らし出していた。
それは今のセリアでは決して見る事の叶わない風景、前世では見慣れた東京の街並みであった。
ーーー記憶を再現している・・・?
その証拠に街を行きかう人々の群れはセリアの姿に対して何の違和感もなく往来している。むしろ存在を認識すらしていないようであった。
ーーーなるほど・・・。
前世の記憶を垣間見た事で少なからず同様していたセリアであったが、直ぐに冷静さを取り戻していた。セリアの視界に映る物全てが幻影であり、往来する人々に触れようとすれば手には何の感触も残さない。それをセリアが悟ると再び周りの空間が移ろい始める。
そして次に現れてのは二人の男女。一人は50才くらいの壮年の男性。そしてもう一人は20代前半くらいの若い女性。
「お父様、こんなにも簡単に隙を見せるとは、耄碌しましたね。」
「くはっ!」
女を突き飛ばし距離を取る男の腹部には刃物が深々と刺さり、そこから多量の出血をしていた。
「柚葉っ、何故このような事をっ!」
「死にゆく者に語る必要も無いでしょう。心配いりません。真宮寺家は私が盛り立てます。ですから・・・この場で安心して死んでください。」
女は冷たく言葉を吐き出すと構えた貫手を男の胸目掛けて繰り出す。男も応戦すべく拳を突き出す。男の拳は女の頬を僅かに傷つけたのみであったが、逆に男の胸には女の手が深々と突き刺さっていた。
「これが鬼すらも恐れる稀代の退魔師、真宮寺創玄とは・・・。それとも実子では無いとはいえ、愛する娘に拳を向ける事に躊躇しましたか。」
女が手を引き抜くと男はそのまま仰向け倒れていく。
そうこれはセリアが忘れていた・・・いや、忘れようとして記憶の底に封印した前世での自分が最後に体験した出来事。
「自身の死を目撃し、さらに自身を手にかけた相手が眼の前にいるというのに顔色一つ変えないとは。」
後ろを振り返りながら女がセリアに声をかける。そしてセリアに向かって走り出す。
「くだらない・・・。」
小さく吐き捨てるとすれ違いざまに女の首を躊躇なく刎ねる。宙を舞う首はそのまま光の粒となり弾ける。そして女の胴体、眼の前にある前世の姿を模した自分の遺体、そして周りの風景と次から次へと同様に消え始める。
そしてセリアの周囲が再び揺らぎ始めると次に現れた場所は闘技場であった。幾層にもなる観客席には人っ子一人いない空虚な空間が広がっている。そんな闘技場の中心にある舞台にセリアの姿があった。
「まさかぁ、ここまで来るとはっ」
何処からともなく少年のような声が響き渡る。
「それでは次の試練だぁっ!」
セリアの前に人の姿をした何が姿を見せる。セリアは自分の眼の前に現れた存在にどことなく見覚えがあった。そう始原の迷宮で相対した人造兵器に。それでも何かが違うのでは、とも感じていた。
「レリックウェポン、僕を生み出した錬金術師ゲオルグの最高傑作だっ。さぁ、こいつを倒せるかなぁぁっ。」
セリアを挑発するような声が辺りに木霊するとレリックウェポンがセリアに襲い掛かる。
「不愉快だ・・・。」
セリアはそう呟くと右手を突き出す。突き出した腕は見事にレリックウェポンの胸を貫き一瞬で決着が着く。貫いた拳にはレリックウェポンの核らしきものが握られていた。
「そ、そんな、バカな・・・ゲオルグ様の最高傑作だぞっ。」
握りしめた拳に更に力を込めるセリア。
「や、やめろぉぉっ!」
その声も虚しくレリックウェポンの核は無惨にも砕け散る。
「なぁぁんてね。」
「まさか・・・こんな紛い物が人造兵器だとでも。」
「ま、まがいもの・・・紛い物だと・・・その言、許すまじ・・・。」
セリアの言葉を遮り、辺りに響く言葉には今までのような人を小馬鹿にしたような雰囲気はなく、明かに怒りが滲み出ていた。
そして空から何かが落下して来た。
「次は僕が相手だっ!」
それは14,5才の少年であった。だがセリアの眼には外見ほど生易しい物には見えていなかった。レリックウェポン、それがセリアの眼の前にいる少年の正体。先程のレリックウェポンは顔に薄っすらと目、口、鼻のような物が見受けられ、身体全体が金属光沢を放っていた。しかし今目の前いるレリックウェポンは完全に人の姿を模している。何より体内のエーテルが桁違いであった。
「先程のが最高傑作ではなかったのか。」
「最高傑作だよ。最高傑作である僕の一部だからね。僕はレリックウェポンはレリックウェポンでもゲオルグ様からはタイプ-0と呼ばれている。」
タイプ-0が指を鳴らすと先程のレリックウェポンと同じ物がセリアを囲む様に降り立つ。
「さて、この戦闘で最後だ。仮に君が勝てばゲオルグ様の知識、そして屋敷は君の物になる。だが負ければ即刻退場だ。ここまで来た人は今までにいなかったからね。何か質問があれば聞いてあげるよ。」
「お言葉に甘えて三つほどいいかな。」
「あぁ、構わないよ。」
「一つ目は本当にこれで最後なのか。二つ目はクリアさせる気があるのか。三つ目は先の東京の光景は君の仕業かっ。」
「これで終わりなのは本当さ、ゲオルグ様の名に懸けて誓おう。二つ目の問いだが、僕には見当が付かない。ゲオルグ様の造られた迷宮だからね。」
タイプ-0の言葉通りならこの時代の人間ではクリアはほぼ不可能である。Sランク冒険者も挑んだが失敗したとアインザックの説明にある通りだろう。仮にここまで来てもレリックウェポンに勝つのは至難だと言える。
「三つ目の東京?は分からないけど、僕の仕業というより、この迷宮の絡繰りの一つかな。それにしても君の過去は今まで人とは随分違うね。いったい何者なんだい。」
「・・・・・・」
「答えるつもりはないか。なら戦闘開始だ。」
タイプ-0の合図にレリックウェポンが一斉にセリアへと躍りかかる。だがその全てが一瞬にして凍り付き核もろともレリックウェポンが粉々に砕け散って行った。
「な、なにが・・・。」
慌てたタイプ-0は次々とレリックウェポンを投下するが、それら全てが同じ運命を辿っていく。
「これで終わりかっ。なら早々に終わらせる。」
セリアは瞬時にタイプ-0の目の前まで移動すると掌底を頭に叩き付ける。その刹那、タイプ-0の後頭部が吹き飛ぶ。
「まさか・・・ここまでとは・・・なぁぁんてね。」
だが吹き飛んだ後頭部が瞬時に元通りに修復していく。
「残念、核を破壊されない限り、どんなに破壊されようと元通りにさ。この通りねっ。」
そう言ってタイプ-0は瞬時に復元された自身の後頭部をセリアに見せる。
セリアは確かに核を狙って攻撃を繰り出した。だが当たる直前に核は頭から移動していた。そして移動した核は修復後に頭に移動していた。
「それに核は自由に移動可能なんだ。気が付いているみたいだけどね。」
自分が倒される訳が無いと高を括っているタイプ-0は不用意に攻撃を繰り出す。セリアはタイプ-0の腕を掴み取るとそのまま宙へと放り投げる。自身も宙へと飛び上がったセリアはタイプ-0を真下に蹴り下ろす。その衝撃は凄まじく、舞台は消滅しクレーターの中心にはボロボロになったタイプ-0が転がっている。
「フォトン・レイ」
セリアの周囲に浮かび上がった光が光線のように解き放たれたれるとタイプ-0に襲い掛かる。タイプ-0の身体は足、腕、頭と次々に破壊されていく。
そして着地同時にセリアは掌底をタイプ-0の胴体へと畳み込む。セリアの掌底から繰り出された振動は復元を始めたタイプ-0の身体を侵食し崩壊へと誘った。
だが完全に崩壊する寸前に核は体外へと逃げ奧せていた。
ーーー核さえ残っていれば身体など・・・えぇっ。
セリアの人差し指が触れる様に核を捉えていた。そして核がセリアの触れた箇所から崩れていった。
ーーーま、まさか・・・この僕が・・・。
誰にも届くことの無いタイプ-0の言葉が宙に消えていくと辺りの景色が徐々に歪み始める消えていく。そして気が付けばセリアは広大な庭の真ん中に立っていた。眼の前には視界に入りきらんばかりに大きな屋敷が存在感を示していた。その屋敷の入り口が僅かに光り輝いていた。
その光に近寄るとセリアはそれが鍵である事に気が付いた。そしてその鍵にセリアが触れると、端から形が崩れ細長い魔法陣となりセリアの中へと消えて行った。
閉ざされた扉の表面に文字が浮かび上がる。
”新しき所有者に全ての権限が譲渡されました。”
扉が静かに開き始める。この瞬間、セリアがこの土地、屋敷の所有者となった。屋敷の中は散り一つ無く、まるで時が止まっていたかのように綺麗な状態を保っていた。一通り内覧したセリアは不動産屋への報告を行った後、そのまま帰路に着いた。
◇◇◇◇◇◇
拠点となるべき家をセリアが手に入れてから3日後、護衛依頼を受けていたアルジェント、アヤメ、メルディナの三人が帰ってくるの待ってからセリア達は新たな拠点へと引っ越した。
そして今、セリア達の新たな拠点にアインザックとシルクそしてキースウッドが訪れている。
「中々・・・良い屋敷ではないか・・・。」
顔を若干引き攣らせながらアインザックは感想を述べた。アインザックの態度には理由がある。なにせこの屋敷は領主邸よりも遥かに広いのだ。門扉の外から見える景色は周りの家々より一回り程大きな家と庭が見えるだけであるが、門扉をくぐるとそこには広大な庭と先にも述べた領主邸よりも大きな屋敷が訪れる者を向かい入れる。
「そ、それでセリア殿、新たな拠点のお披露目パーティーはいつやるのかな?」
「お披露目パーティー・・・ですか?」
「そうだ。」
「貴族の方達が新しいく屋敷を購入した場合に行うとは聞いたことがありますが、私には関係ないのでは?」
「それは・・・そうなのだが・・・ほら、あれだ、高名な冒険者もやると聞いたことがあるぞっ。」
「旦那様、そうは申しますが殆ど冒険はその様なことは致しません。」
キースウッドの援護射撃にセリアはさらに言葉を乗せる。
「それに私達は冒険者になってまだ数ヶ月の駆け出しですが。」
「いいではないですか、お姉様。親しい方々をおよびして盛大にやりましょうっ。」
この後セリアはアインザックとシルクに押し切られる様に1ヶ月後に新拠点のお披露目パーティーを行う事を決めたのでだった。
誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。




