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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第三章 日常編
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第四十四羽. 樹海の異変


 アルキラール樹海、霊峰アルキラール山脈のお膝元に広がるこの樹海には多種多様な動植物、それに加えてエルフ族、獣人族、リザードンと他種族が共生している。そして元来のエーテルの濃さから他の地域に比べると強力な魔物が多く生息している地としても知られている。


 そして変異種の目撃例も絶えない地域である。とわ言ってもそんな個体に出会でくわす事など稀ではあるが。


 今、そんな樹海にセリアは1人、正確に言えば、テトラ、ラクス、イロハの1人と3匹で分け入っている。


 樹海と言われるだけあり、辺りの緑は濃く、場所によっては陽が届かなく夜の様に暗い場所さえある。アルキラール山脈からもたらされる豊富な水資源のためか、湿度が高く、足元の悪さも相まって必要以上に体力が奪われる。


 まぁ、他の冒険者であれば、だが。


 ーーーやれやれ、盗賊退治はしょうがないにしても、もう少しゆっくり出来ると思っていたのだが・・・。常世(とこよ)の森の異変調査で大変な目にあったからな。今回は何事も無ければいいが。


 木々の間を枝伝いに進むセリアはそんな事を考えていた。その周りには樹海が余程楽しいのかじゃれ合いながらもセリアのスピードに遅れず付いてくる3匹。


 そもそも何故セリアが単独行動しているかというと、今から遡る事4日前。



 ◇◇◇◇◇◇


 盗賊団・黒影(くろかげ)さらわれた女性達を救出したセリア達が地上へと戻る頃には日は沈みかけ、街に明かりが灯り始めていた。


 「全員の受け入れ、ありがとうございます。」


 「いえいえ、正式受注がまだにしろお願いする予定の案件。当然の事をしたまでです。だた想定外の人数でしたが。」


 セリアの目の前に座る女性は、目を閉じてスッと息を吐くと。


 「それでも、全体からするとほんの一部でしかない事に心が痛みます。」


 今セリアはギルドの一室で事のあらましを報告しているところだ。そして目の前に座るのはこのエドにある冒険者ギルドのトップ、ギルドマスターである。名をミューゼス、珍しいと言う訳ではないが、全体的に数が少ない女性のギルドマスターだ。年の頃は40代後半といったところであろう。美魔女という言葉がよく似合う女性である。


 「それでは、この依頼は終了という事で処理します。」


 セリアはまだ重要な事をミューゼスに伝えていなかった。


 「その事なんですが、騎士団からもそのうち報告があると思いますが、捕らえたのは影武者です。名をヘッケル。魔道具か魔法かは分かりませんが、外見を変えているようです。」


 コンコンコンッ!


 その時、扉の叩く音が部屋に響き渡る。


 「失礼します。」


 ギルド職員らしい女性が姿を現すと。


 「騎士団からの言伝(ことづて)です。捕らえた首領は影武者、とのことです。」


 「わかりました。下がって大丈夫です。」


 職員は一礼すると部屋から退出していった。


 「さて、騎士団からも同様の報告が上がってきた以上、この案件は当然、続行となりますが、よろしいですか?」


 「こちらとしても、いっこうに構いません。」


 「では、お願いします。それと・・・セリアさん、もう一つ依頼を受けて頂けないでしょうか。」


 「もう一つ、ですか?」


 「そう、もう一つです。」


 そう言ってミューゼスはセリアの前に一枚の依頼書を出す。


 「拝見します。」


 そう言ってセリアは依頼を手に取る。依頼内容はアルキラール樹海で起こっている異変を調査して欲しい、といったものであった。


 確認されている異変としては、20日ほど前から深部に生息している魔物が樹海の外縁部近くにまで姿を見せるようになった事、強大な黒い何かを見たと言った目撃情報が頻繁に報告されている事。主にこの2点が記載されていた。そして補足事項として調査依頼を受けた冒険者パーティーが未だに帰還していないためそちらの捜索もこの依頼に含む、と記載されていた。


 「盗賊退治の後に、という事ですか?」


 「いいえ、同時進行で。」


 「同時進行?」


 「えぇ、報告を聞く限り、盗賊退治にセリアさんのパーティー全員を投入する必要は、無いとこちらは判断しました。そこで、セリアさん達にはこの依頼を受けて頂きたいのです。人選はそちらにお任せします。もちろん・・・ただとは言いません。」


 言葉を区切ったミューゼスはセリアを見つめ再び口を開く。


 「依頼料の他に、アヤメさん、メルディナさん、ヴェインさんのランクを私の権限でCランクまで上げます。これでいかがでしょう。」


 ランクが上がること自体は嬉しいが、セリアは今一つそのメリットを感じていなかった。それを感じ取ったのかミューゼスがセリアの疑問に答える。


 「セリアさんはダンジョンや迷宮(ラビリンス)に興味はありますか?」


 「まぁ、冒険者ですからそれなりには。」


 「ご存知かは分かりませんが、ダンジョンや迷宮(ラビリンス)にはそれぞれ適切なランクが設定されています。パーティーでの攻略はパーティーのランクが設定されているランク以上である事が絶対条件です。」


 「なるほど・・・と、いう事は。」


 「そうです。パーティーランクはメンバーのランクの平均が設定されます。なのでセリアさん達のパーティーは現在Eランクとなります。現状Eランクで入れるダンジョンや迷宮(ラビリンス)はそんなに数はありません。特に迷宮(ラビリンス)となると存在しません。」


 ーーー確かに、それなら上げてもらうメリットはあるな。だが・・・


 「そんな簡単にランクを上げられるんですか?」


 「それを言ったらセリアさんとアルジェントさんは?」


 「確かに、そうですね。」


 「私単独で無理ならヒルティリアにでもお願いします。連名なら流石に大丈夫だと思いますから。」


 「ヒルティリアさんと面識が?」


 「同じギルドマスターですからね。それに彼とは昔パーティーを組んでいた事もあります。」


 「そうですか・・・?」


 ーーーヒルティリアさんが冒険者をしていたのって・・・


 「セリアさん、同じ女性とはいえそれ以上の詮索はいけませんよ。」


 静かではあるが妙な圧力を感じたセリアはこれ以上この話題について考えるのを止めた。そしてミューゼスの鑑定をしなかった自分に安堵した。


 「それで、この依頼を受けて頂けますか?」


 ここまで破格の条件を出す理由をセリアは推察していた。


 そして辿り着いたのはなんてことない回答であった。単純に人手不足。そもそもこの盗賊退治もそんな理由である。樹海の調査もそれなりランクの冒険者パーティーに依頼したのであろう。だがその冒険者パーティーが音信不通になった。調査に次の一手を打ちたいが、手持ちの駒ではどれも力不足である事は否めない。と言ったところなのだろう。


 ーーーまぁ、断る理由もないし構わないだろう。


 「私は異存がないのですが。」


 そう言って言葉を区切ったセリアに。


 「俺は構わんよ。」


 「僕もいいよ。」


 「妾も構わないのじゃ。」


 「セリア様の決定に異議はございません。」


 各々の答えが返ってくる。


 「では、その依頼お受けいたします。」


 「それで、こちらの依頼は何方がお受けになりますか?」


 「それなんですが、この調査依頼は私1人とで行こうかと思っています。なので盗賊退治は3人で頼む。」


 「了解だ。」


 「セリアねえ、任せてっ!」


 「お任せください。お早目の合流をお待ちしています。」


 「セリアよ。何ならこちらを早々に片付けてそちらに合流してやってもよいのじゃっ!」


 「それじゃ、盗賊退治の方はみんなにお願いする。」


 「話が付いたようですね。では、この場は解散としましょう。」


 それから二日後、セリアはアルキラール樹海へと出発した。



 ◇◇◇◇◇◇


 セリアがアルキラール樹海に足を踏み入れてから二日が経過しようとしていた。未だ樹海の異変らしき物には出くわしていない。依頼書に記載のあった巨大な何かの痕跡らしき物はすぐに発見出来た。樹々をなぎ倒し巨大何かが這った跡を。だがその本体は未だ発見には至っていない。そもそもこの広大な樹海で何かに出くわす事自体がそう簡単な事では無いのだろう。


 それでもかなり広い探査領域を持つセリアは何かに向けて進んでいた。それは複数の魔物に襲われている者達の存在を探知したからである。ただ善戦しているようでセリアはそれ程焦らずにいた。


 目的の場所に近づくにつれ、次第に戦闘音が大きいなり、指示を出す人の声がセリアの耳にも届く。


 「陣形を崩すなっ!」


 「はいっ!!」


 幾ばくか開けた地で10人程の騎士が魔物に取り囲まれていた。騎士を取り囲んでいるのはマッドウルフ。マッドウルフは単体であればEランクの魔物であるが、複数の場合はCランクになる。通常は団体で行動していても7,8体であるが、騎士達を取り囲んでいるマッドウルフは30体を超えていた。


 辺りには騎士達が倒したであろう数体のマッドウルフが骸をさらしているが、マッドウルフの勢いは衰える事を知らずにいた。そしてその奥には上位種であるヘルハウンドが控えていた。それを考えれば騎士達は良く持ち堪えていると言える。


 到着したセリアはそんな様子を一望できる位置から眺めていた。


 確かに善戦しているが、この状況が一変するのは時間の問題である事はセリアの目にも明らかであった。そうこうしているうちに魔物の圧力に耐え切れず一角が崩され、そこから陣形が徐々に歪み始めた。歪み始めた陣形が完全に崩れるのにそれ程の時間は要しなかった。あっという間に混戦へと突入し、次々と魔物の牙に倒れていく騎士。


 ーーー厄介事には巻き込まれたく無いが・・・見過ごすのも寝覚めが悪いな。しょうがない。


 セリアが動こうとしたその時、ヘルハウンドもまた動き出した。ヘルハウンドは混乱に乗じて中央に陣取っている一際豪華な鎧を纏った人物に向けてその鋭い牙をもって襲い掛かった。


 その牙が届く寸前にヘルハウンドは身を翻すと距離を取る。そしてヘルハウンドが着地したのとほぼ同時に周囲いたマッドウルフの胴体を地面から出現した鋭利な牙が貫き、30体以上いたマッドウルフは全て骸へと成り果てた。


 「多少、知恵が回るようだがこれで終わりだっ。」


 セリアは一言告げるとヘルハウンドの横を通り抜ける。通り抜けたセリアの手には血に濡れた刀が握られ、跡には胴体を二つに切断されたヘルハウンドがその巨体を地に投げ出していた。


 自分達が苦戦していた魔物が魔法とはいえ一瞬で葬り去られ、さらにはヘルハウンドが刹那の間に切り捨てられている。騎士達は目にした光景に啞然とし、足が止まっていた。


 「大丈夫ですか?」


 セリアの声で騎士達の止まった時間が動き出す。


 「な、何者だ。そこで止まれっ!」


 警戒心が先に立ち、騎士の一人がセリアへと剣を向ける。そしてそれに釣られる様に他の騎士も次々とセリアに剣を向ける。


 「私に戦う意思はありません。その気があるなら魔物に全滅されるのを待ちます。それか広範囲の魔法で一気に肩を付けます。」


 そう言ってセリアは刀に付いた血を拭い納刀すると制止を意に介さず怪我人に歩み寄る。


 セリアが握るこの刀、銘を《スサノヲ》。ランスロットやワルキューレを仲間にした時に見つけた刀である。解析を《オモイカネ》に任せていたが、セリアがその存在を忘れていた事もありストレージの肥やしと化していた。始原の迷宮プライモーディアル・ラビリンスの攻略後の修行中に《オモイカネ》からの報告でその存在を思い出すのだった。


 この《スサノヲ》という刀は《ツクヨミ》の第二形態、正確に言えば融合した結果、刀の形態をとる事が出来る様になった。


 この刀の報告を《オモイカネ》から受けたセリアは銘もないこの黒い刀にエーテルを注ぎ込んだ。するとその姿を変化させた。変化後の姿は以前より刀身が細く黒い刀身に波紋が綺麗に浮かび上がっていた。その際にセリアが銘としたのが《スサノヲ》。なにより驚くべき事に《ツクヨミ》が勝手にストレージから出現すると、共鳴し合い《スサノヲ》と融合したのだ。


 そしてセリアの意思で《ツクヨミ》、《スサノヲ》と自在に形態を変化出来るようになった。


 「すまんが、それ以上の接近は止めて頂こう。」


 様子を伺っていた際に一番腕が立ちそうだと思った男がセリアに声を掛ける。


 「私は構いませんが、怪我人の方々が多数いるようですが、そのままにしていると死にますよ。」


 「あぁ、分かっている。だが今の我々ではどうする事も出来ん。」


 セリアは小瓶を数個取り出すと自分の足元へと置くと数歩後ろへ下がる。


 「これを使ってください。振りかけるなり飲ませるなりすれば助かるでしょう。まぁ、私が信じられなくて使わない、と言った選択肢を取るのも自由ですが。」


 セリアはそのまま背を向けると歩き始める。


 「窮地を救って頂いたのに大変申し訳ない。」


 自分達の行いに非がある事を感じたのか、立ち去ろうとするセリアに詫びを入れて来た。


 「我々は・・・。」


 「それ以上は言わなく結構です。面倒事に巻き込まれるつもりはないので。それと、忠告です。どの様な事情があるのか知りませんが、その程度の力量でこの樹海に踏み入るのは自殺行為です。早々に立ち去る事をお勧めします。」


 それだけ言うとセリアはその場から姿を消した。騎士達からすれば文字通り一瞬でその場から兎人族の女性の姿が消えたように見えた。


 『主様、あんな無礼な奴らに施しをする必要があったのですか?』


 その場を立ち去ったセリアにイロハから疑問の声が上がる。


 『袖振り合うも、というだろ。』


 『そでふれあうも?』


 『いや、何でもない。それよりも・・・』


 騎士達から早々に離れたのは面倒事を避けたいと言った理由ももちろんあったが、それよりも今回の依頼を優先させた。セリアがエリクサーを渡したのとほぼ同時に樹海内に異様な気配が立ち上り始めた。しかもその位置がここに来るのに通過した場所であった。その時は何一つ異変を察知出来なかった。《オモイカネ》の探査をもってしても。


 『テトラ、ラクス、イロハ、私の周囲まで戻れ、一気に転移する。』


 『マスター、目標座標周囲に空間の歪みを検知しました。不確定要素が多いため転移は推奨しません。』


 ーーー空間に歪み・・・!?


 『わかった。影響のないギリギリの場所に転移する。』


 『かしこまりました。座標計算終了・・・転移を実行します。』


 転移した先には不思議な光景が広がっていた。一面に広がる樹海の景色に重なるようにして村の風景が目に映った。


 『なんか、ふしぎ~』


 その光景にぴょんぴょん跳ねながらテトラの呑気な声がセリアに響く。そんなテトラにラクスとイロハがじゃれつくように飛び跳ねている。


 『《オモイカネ》、邪魔が入らないように結界を張れるか?』


 『問題ありません。』


 《オモイカネ》からの返答と同時に目の前に広がっていた不可思議な光景が消えて無くなり、何の変哲もない樹海の光景へと変わっていった。


 結界を張り終わるとセリアはそのまま足を踏み出す。その姿はまるで樹海に飲み込まれるように消えていく。テトラ、ラクス、イロハはセリアの後に続き結界へとその姿を消していった。


 結界を潜り抜けた先には先程薄っすらと見えていた集落が広がっていた。そして僅かに錆びた鉄のような匂いがセリアの鼻腔を刺激する。


 『マスター、生存者を確認。中には命の危機に瀕している者も存在します。それと中央では戦闘が行われているようです。』


 生存者を示したマップがセリアに共有される。


 セリアはランスロット、ワルキューレの13名を召喚するとこの集落のマップを全員に共有する。


 「ラクスとブリュンヒルデはここで拠点の確保。残りのワルキューレとテトラ、イロハで生存者の救出。私とランスロットで集落の中央で行われている戦闘に加勢する。」


 説明を終えたセリアが全員を見渡すと一様に頷きそれに答える。


 「テトラ、分体をっ。」


 セリアの言葉にテトラは分体を作成する。分体はワルキューレとイロハへと次々と飛び乗る。


 「急を要する。生存者の回復にはエリクサーを使用してくれ。それでは散れっ!」


 セリアの号令にそれぞれ行動に移る。


 セリアとランスロットも急ぎ中央へと駆け付ける。そしてそこには全身が黒い鱗で覆われ、鈍い赤色の目を爛々と輝かせた巨大な蛇が鎌首をもたげていた。


誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。

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