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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第三章 日常編
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第四十二羽. 旅路


 ガラガラガラ。


 街道を往く馬車の車輪の音をBGMにしながら、セリアは書物に目を通していた。


 ギルドで用意された馬車に揺られ、エドまでの10日間の馬車旅は既に工程の9割程が過ぎ去っていた。そしてその間イベントというイベントも発生せず、セリア達は実に暇な・・・もとい平和な馬車旅を味わっていた。


 セリアの横ではアルジェントが同様に読書にふけっている。ヴェインとメルディナはあまりにも暇な日常に不平不満を連ねていたが、今は仲良く夢の中である。


 先程まで寝ていたアヤメは今は何かしきりに周りを気にした様子を見せていた。


 書物から周囲へと視線を移したセリアの目には、道に並行して流れる河、そしてその奥にはこれから向かうエドを含むトルヴィラール地方で霊峰として崇められているアルキラール山脈の姿が映し出されている。


 セリアはそんな雄大な景色を眺めながらセリアは出発前夜に受けたアインザックの説明を思い返していた。


 これから向かう街であるエドはトルヴィラール領、通称スガワラ公爵領の領都である。公爵領は王国の南西部に位置し、南には豊富の漁場を有する海、西には4000メートル級の山々が連なるアルキラール山脈が横たわり、その麓には薬草を初め豊富な天然資源が有するアルキラール樹海が広がっている。山脈を水源に持つ複数の河が領内を走り、水資源が豊富な地として有名である。


 海の幸、山の幸と豊富な食糧資源を持つ公爵領は食通が集う事でも有名である。


 そんな公爵領の歴史は古く王国が成立する300年程前まで遡る事だ出来る。建前として王国に対して臣下の礼をとっているが、実情は独立した国と遜色無い自治が認められているため、他の領地と比べると変わった立ち位置にある。


 王国の成立の深く関わった初代公爵は異世界からの来訪者という噂がある。その真偽は定かではないが、功績により初代国王の娘を娶り、トルヴィラール地方の領有を認められたと言われている。


 異世界から来訪者という話は(あなが)ち嘘では無いとセリアはこの話を聞いた時に思っていた。何故なら公爵家のファミリーネームであるスガワラにエドという街の名前、全てが元日本人であるセリアに聞き覚えがある単語だからである。


 現公爵は15代目、歴代の中では珍しく女性が叙爵している。前公爵には男子もいたが、年長という事で長女が公爵の地位を世襲している。王国では基本的に女性が爵位を継ぐこと珍しく、家督相続者が幼いなどの様に特殊な事例以外は認められていない。その例外であっても1年などの様に期限が付帯される。


 その点からもスガワラ公爵家が他の王国貴族とは異なる事が伺える。


 一通り思い起こしたセリアは再び視線を書物へと移そうとした時、それ遮る者があった。


 「セリアはねえ、ちょっと気になっている事があるんだけど。」


 遠慮がちなアヤメの声がセリアの耳に届く。


 「何かあったか?」


 「何か僕らの事を隠れて監視している奴らがいるんだよね。」


 「あぁ、いるな。結構前から監視されてる。」


 「な、何ですかセリアさん。驚かさないでくださいよ・・・」


 セリア達の会話を聞いていた御者が苦笑いを浮かべ冗談だと自身に言い聞かせようとしているが、残念ながらセリアの探知にも反応がある。付かず離れずとある程度の距離をとり、20人が馬車を囲むように配置している。その中には高度な隠蔽スキルを使用している者もいた。


 「セリアねえ、気が付いてたの?その割には落ち着いてるけど。」


 「まぁ、私達を害するだけの戦力なんてそう無いからな。」


 ーーーまぁ、もし仮に私の手を(わずら)わせる程の相手がいるなら、それはそれで楽しみでではあるな。是非に戦ってみたいものだ。


 「ま、まさか盗賊ですか!?」


 落ち着き払っているセリアとは真逆に御者は落ち着きがなく、キョロキョロと辺りを見回している。


 「どうでしょう。私達も盗賊退治の依頼でこの地を訪れるわけですから・・・その可能性は高いと思いますよ。」


 そう答えるたセリアは意に介した様子もなく、読書を再開する。


 「こんな状況でも読書ですか・・・それにそちらのメイドさんも動じているようには見えませんし・・・」


 ーーー本当に大丈夫なのだろうか・・・。


 セリア達の様子に御者が心配を抱いている中、突然いななく馬の鳴き声が辺りに響き渡る。見れば場所の進路を塞ぐように数本の矢が地面に突き刺さっていた。


 そして街道の脇から黒い外装を纏う8人が馬車の往く手を遮り、後方にも同じような服装をした者が6人退路を塞いでいる。残りの6人は姿を隠したまま、街道脇に姿を隠し控えている。その様子から確実こちらを逃がす気はない。


 「おい、そこの馬車、中の物は全て頂くっ!」


 聞こえてくるのは意外にも女の声。前後に計14人、その手には各々武器が握られている。


 馬車から顔を出すセリア、アルジェントの顔を見るなり男どものテンションは明らかに上がっている。


 「へへっ、姉御、極上の上玉が2人もいやすぜ!」


 「あぁ・・・確かにこれは高値で売れそうだね。頭も喜びそうだ。」


 「セリアねえ、その2人には絶対、僕は入ってないよね?」


 アヤメは盗賊の言い分にお冠な表情をしてセリアに尋ねる。


 「ん? あぁ、ほら、人の趣味は色々だし、それにアヤメは可愛いから。」


 怒っても可愛らしい表情のアヤメをセリアがなだめていると。


 「お、お前達、何者だ!? こちらは冒険者が乗る馬車だと知っての狼藉かっ!」


 声を荒げ、叫ぶ御者に、馬車の前方にいる盗賊達が腹を抱えて笑い出した。


 「はっはっはっ! 冒険者だろ? 当然知ってるさ。お前等がローレルから来た冒険者である事はな。最高でもCランク、出発前日に登録した奴がいる事もなっ!」


 「あたい達は”黒影(くろかげ)”。Cランクの級冒険者如きがどうにか出来ると思っているのかい。」


 ーーーこちらが最高でもCランクの冒険者である事やその他情報が正確だな。旅の初めから目を付けられていたか・・・それにしても何処から情報が・・・。ヴェインとアヤメの情報が伝わっているのはある程度理解できるが、私とアルのランクがCランクである事は未だ非公開だ。


 「黒影(くろかげ)だって!?」


 つぶやくような声が御者から零れる。


 「セリアさん、気を付けて下さい。元Bランク冒険者であるピスコが率いる盗賊団です。今まで数多くの冒険者や商隊が犠牲になってきました。領主の騎士団も返り討ちにしたという噂もあります。それに何度か討伐隊を送っているのですがその都度失敗しています。」


 「セリア様、今回の討伐対象ではないでしょうか?」


 「詳細は現地で、と言われたので聞いてないんだよな・・・」


 「はぁ・・・セリアねえ、流石にそれくらいは聞いておこうよ。」


 「すまない・・・それはいいとして・・・少しきな臭いな。」


 「せりあねえ、何が?」


 「いや、今は気にしなくいい。それより現状の打破を考えよう。」


 セリアは自分達を取り囲む20人の盗賊達のステータスを鑑定で見る。その結果、セリアの期待を裏切るよう者は存在せず、あからさまにがっかりとした表情を浮かべる。一般的なCランクの冒険者であれば確かに脅威となり得るが、今のセリア達にとっては障害にすらなり得ない。


 「けけけっ、奴ら俺達の名を聞いて震え上がっていますぜ?」


 そんなセリアを見て何を勘違いしたのか盗賊達が何かをほざいている。


 「姉御、売る前に俺達にもたっぷりと楽しませてくださいよ。」


 「お前達、お喋りはそこまでにしときな。褒美が欲しけりゃ、まずは行動で示すんだね。」


 下種な会話を繰り広げる子分達をリーダー格らしき女が叱責する。


 「あたしら黒影(くろかげ)に狙われるなんて、運がないね・・・あんたらも。まぁ、冒険者の端くれなら、少しでも抵抗して・・・あたしらを楽しませてくれよ。」


 『ねえ、ねえ、僕が相手してもいい?』


 アヤメが念話で尋ねてくる。


 『構わないが、武器の使用は禁止だぞ。』


 『わかってるよ。そんな事したらすぐ終わっちゃうし、さっきの失言のお礼もしたいからね。』


 『それじゃ、頼む。物足りないとは思うが・・・』


 ーーー結構根に持っていたんだな・・・。


 そんなこんなしているうちにリーダー格の女が号令をかける。


 「さあお前ら、積荷は奪え! 女は捕らえ! 男は殺しな!」


 ーーーメルが捕まったら、生かされているのか、殺されるのか・・・。


 号令の内容に少々下らない事をセリアは考えていた。


 当のメルディナは未だに寝ている・・・狸寝入りではあるが。ヴェインも同様に。


 リーダー格の女の号令に前方から7人の子分が走り出した。後方の6人と街道脇にいる6人は動く気配がない。


 「さぁ~て、ストレス発散に付き合ってもらうよっ!」


 走り寄る盗賊にアヤメが向かって行った丁度その時、セリアは不可思議なエーテルの流れを感じ取った。


 「ん?これは・・・」


 セリアのフードが微かに光ると、そこから何かが飛び出す。


 『あるじ~、ぼくらのことわすれてたでしょ!だいひょうして、ものもうしにきたよっ!』


 「テ、テトラ、どうやって外に・・・?」


 セリアは驚いた顔でテトラを見る。本来セリアの従魔であるテトラ達はセリアの承諾、つまり召喚されない限り外へ出て来る事は出来ない。それを覆し外へ出てきたのである。


 『ふっふっ、それは・・・ひ・み・つ・ですっ!』


 ドヤ顔したテトラがセリアの前で飛び跳ねている。


 『あるじ~、それじゃ、ぼくもあそんでくるね!』


 セリアの返事も待たずテトラは後方へと跳ねて行った。


 ーーーまぁ、いっか。


 『テトラ、なるべく殺さないようにな。』


 『りょうか~い!』


 ーーーこれで後方は問題ないか。


 「あぁん? 俺達と1人で戦おうってか!?」


 「ひゃひゃ! いーねじょーちゃん俺達と良い事しようぜっ!」


 盗賊達は眼前に現れた少女を標的に捉え、我先にと手柄に群がる。そこにはチームワークもへったくりもあったもんじゃなかった。ただの烏合の衆と言わざるを得ない程である。


 「お断りに決まってんじゃん!」


 瞬きの間に盗賊の懐まで接近したアヤメから繰り出された拳が盗賊の胴体へと突き刺さる。食らった相手は先ほどから卑しい言葉を発していた盗賊だ。拳は深々と体に減り込み破壊音を(もたら)す。その音は人体の内部をも破壊している事を容易に想像出来るほどだった。アヤメの拳から離れた盗賊の身体はそのまま数メートル先まで吹っ飛んでいった。


 「こっちにも選ぶ権利があるんだよっ!」


 ピクリともしない吹っ飛んで盗賊に。


 「あれっ? これでもかなり手加減したんだけどな。」


 「即死ですね。」


 セリアの横でアルジェントが冷静に答える。


 ーーー分かってはいたが、実際に目の当たりにすると・・・力量差を改めて実感するな・・・。


 盗賊達はアヤメの動きに全く付いていけてない。おそらく目で追えている者もいないだろう。


 「えっ?」


 状況を飲み込めず、目の前の光景に唖然とリーダー格の女。


 少しはストレスが発散出来たのかアヤメの顔は先程までとは異なり晴れ晴れしていた。


 「どうしたのさ? さっきまで楽しそうな顔してたのに。もっと僕と遊ぼうよっ!えっと・・・なんだっけ、かげうす盗賊団、だっけ?」


 盗賊団に笑顔を振り撒きながら・・・煽るアヤメ。


 「そっちの6人も一緒に遊ぼうっ!」


 アヤメは街道脇に隠れている盗賊に軽く目をやる。


 目の前の光景に唖然としたのは部下達も同様であった。意気揚々と獲物に飛び掛った部下達の足はその場で止まる。


 「手・加減した・・・だと・・・。」


 無意識にリーダー格の女から零れる。


 足を止めた盗賊達をさらに悪夢が襲う。次々とその場で盗賊が倒れていく。アヤメも成長しているようで、先程の様に吹き飛ばずその場で崩れ落ちていく。アヤメに襲い掛かった盗賊は既に2人しか残っていなかった。


 「き、きさまぁ・・・捕らえるのはなしだっ。その鬼人族の女を始末しろ。」


 正気を取り戻したリーダー格の女の言葉に今まで街道脇に隠れていた盗賊達による攻撃がアヤメを襲う。魔法に矢とアヤメを襲った攻撃も成果を上げる事は無く。その上追撃が行われなかった。


 「何をしているっ。もっと攻撃しろっ!」


 「あんまり酷使するから、疲れて寝てんじゃなにかな?因みに後方の人達も既に無力化してるよ。」


 「そ、そんな・バ・カ・な・・・」


 そんな中、残された2人の盗賊が戦況を好転させるために動き出す。2人はアヤメの隙をついたと思っていた。一人は死角から短剣で首を狙い、それに気を取られた瞬間に背後から大槌で叩き潰す。そんな算段だった。


 盗賊2人のコンビネーションはすぐに水泡に帰す事になる。首を狙った短剣に確かにアヤメは反応した。そしてもう1人に対して背を向けていた。


 上手く行った。


 そう思った瞬間、首に吸い込まれる叩き込まれた短剣が砕け散り、その場に盗賊が崩れ落ちる。そして大槌を片手で受け止めていた。後ろを振り返らずに。


 「次は力比べかな。」


 自分の渾身の一撃をいとも簡単に受け止められた。しかもすぐに折れてしまいそうな女の細腕によって。目の当たりにしたその光景に驚きつつも大槌にさらに力を込める。


 「いいよ、付き合ってあげるっ!」


 汗の1つもかかずに、目の前の鬼人族の少女は嬉々として言う。


 「ぐううあああぁぁぁ!」


 咆哮を上げ、その引き締まった太腕に血管が浮出るほど力を振り絞り、大槌を押し込もうとするが、大槌はピクリとも動かない。


 「ねぇ、これで終わり?」


 アヤメの挑発に盗賊の男は再び大槌を振り上げると、叫びながら振り下ろす。


 「ヘヴィーインパクトッ!」


 この一撃には先ほどの攻撃以上の威力が載せられていた。その証拠にアヤメの周りが攻撃の余波で沈み込みんでいる。が、それでも・・・。


 目の前の少女は左腕一つで受け止めていた。


 「さっきよりは、いいね。じゃ、次は僕のばんだね。」


 そう言うと同時に大槌に亀裂が生じる。音と共に裂け目は拡大していき、次の刹那、大槌は見るも無残に砕け散っていった。


 跡には左腕を上げた鬼人族の少女と、破壊された大槌の柄を握る盗賊の姿。その盗賊も柄を落とすと、その巨体が地へと崩れ落ちて行った。


 「こ、これは・・・一体・・・」


 セリア達を取り囲んでいた盗賊達は、ギルドランクで言えばCランク相当の猛者である。リーダー格の女は、連携すればBランクの冒険者すら狩れる、そう思っている。実際に何度か狩った事もある。その部下を相手にして、手加減、何て言葉を出せるのは、Aランク、もしくはSランクの冒険者くらいなものなのだ。


 「次は・・・お姉さんの番だけど、どうやって僕を楽しませてくれるの?」


 ーーーこいつは・・・やばい。あたいも殺される。


 静か歩み寄るアヤメの姿に恐れをなしたリーダー格の女は、無様にも醜態を晒しながら逃げ去っていった。


 「アヤメ、追いかけなくていい。」


 走り出そうとしたアヤメにセリアの声がかかる。


 「いいの?」


 「あぁ、全く問題ない。ヴェイン、メル。」


 セリアの呼びかけに2人は何も反応を示さなかった。


 「いつまで狸寝入りを続けているつもりだ。私が気が付かない・・・とでも思っていたのか?」


 「ばれていたか。で、追えばいいんだな。」


 「話が早くて助かる。メルもだ。」


 「妾も行くのか?」


 「当然だっ。しっかり、働けっ!」


 セリアの鋭い目に。


 「わ、分かったのじゃっ!」


 急いで了承したことを告げるメルディナ。


 「テトラ、ヴェインとメルに分体を。」


 『わかった~』


 街道脇の茂みから飛び出してきたテトラが分体を生成する。


 「何かあれば連絡をくれ。」


 頷くとヴェインとメルディナは街道脇へと姿を消していく。


 そして、残された4人は周辺に転がる盗賊達の後片付けを始めるのだった。


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