第四十一羽. 報告と次のお仕事
「なぁ、セリアよ。妾達は何故歩いているのじゃ?」
「何故って、ローレルに帰るためだが。」
「そういう事を言っているのではないのじゃっ!」
メルディナの言っている事の意味が分からず首を傾げているとアルジェントがセリアへと耳打ちする。
「多分ですが、メル様は転移出来るのに何故歩いているのか、と言いたいのでしょう。」
ーーーあぁ、そういう事か・・・。
「そんなに急ぐことも無いから、転移する必要も無いだろう。何か急ぐ必要があるのか?」
「そうなんじゃが・・・。」
小さいな声で答えるメルディナを見ていたアヤメがそこで助け舟をだす。
「セリアねえ、出来れば早く帰りたい。まだ気持ち悪くて・・・。」
「俺もだ・・・。」
「やれやれ・・・転移で戻るとするか。」
「やったっー!」
「元気そうだな・・・アヤメ。」
「あっ、き、気持ち・・・悪・・・。」
「はぁ・・・私の周り集まれ。」
次の瞬間には鬱蒼とした森林から美しく手入れされた庭園へと視界が切り替わる。
「セリア様、おかえりなさいませ。」
声のした方に振り向くとそこには領主邸の執事であるキースウッドの姿があった。
「キースウッドさん、ただ今戻りました。」
「お怪我などは無いようですね。それとそちらの方々は・・・。」
セリアはアヤメ、ヴェイン、メルディナをキースウッドに紹介すると暫く3人を逗留させて欲しい事を告げる。
「旦那様に確認をいたしますが、セリア様のお願いなれば断る事はないでしょう。旦那様に取り次いでまいります。」
「よろしくお願いします。それとギルドへの報告があるので、このままギルドへと向かいます。」
「承知しました。それでは失礼します。」
軽く会釈をするとキースウッドは屋敷へと足早に戻って行く。
◇◇◇◇◇◇
冒険者ギルドは昼下がり問い事もあり閑散としていた。この時間帯は多くのか冒険者がまだ冒険に勤しんでいる頃合いである。そしてこの閑散とし時間に大抵の職員は事務を片付けるのである。
セリアが探している人物も書類仕事に精を出していた。
「セリアさんっ!」
近づく足音に顔を上げたティアはそこにセリアの顔を見つけると明るい声で彼女の名を呼ぶ。
「今戻ったよ。」
「一時報告ですか?」
「いや、解決したのでその報告。」
「か・い・け・つ・・・えっ!」
もう少し調査に時間が掛かると思っていたティアは何とも言えない大きい声で驚くとすぐさま自分の手で口を覆う。
「もう解決したんですか・・・流石、セリアさんですっ!」
明るく応対していたティアが黙り込みセリアをじっと見つめだす。そんなティアを不思議に思ったセリアは。
「ティア、どうかしたか?」
「いや、セリアさんの雰囲気がこの間と全く違うような気がするんです。それに服装も微妙に・・・違うような。」
首を傾げなら答えるティアの姿に。
ーーー思いの外鋭いなこの娘。
などとセリアは内心思っていた。
「気のせいじゃないか。一日やそこらでそう簡単に変わるわけがないだろ。」
「それもそうですよね。ところでそちらの方は・・・アルジェントさんに似ている・・・ような?」
「ティア、何を言っているんだ。どう見てもアルにしか見えないだろ。」
「えっ、だってアルジェントさんの肌って褐色でしたよね?」
そう・・・確かに前回冒険者ギルドを訪れた時にはアルジェントの肌の色は褐色であった。人の肌が数日で変わるわけがない。
「ちょっと色々あって・・・」
セリアは下手に誤魔化すより、事情があって話せない、と苦肉の策を取ったのである。
「色々・・・ですか、冒険者の詮索はしない、というのもルールですから・・・」
セリアの言い分に渋々納得した?ティアはそのまま彼女の後ろに視線を移す。そしてそこにアヤメの姿を見つけると。
「あっ、アヤメさん、心配したんですよ。依頼受けてから全然音沙汰ないので・・・」
「ごめん、ティア。」
「アヤメさんはセリアさんとお知り合いだったのですか?」
「いや、危ないところをセリアねえに助けてもらったんだ。そこから一緒に行動してるんだよね。」
「セリアねえ・・・今はそれは置いておきましょう。それでそちらの方々は?」
「俺はヴェイン。よろしく。」
「ティアと言ったな。妾の名はメルディナ。よろしく頼むのじゃ。」
「お二方ともセリアさんのお知り合いなんですか?」
「あぁ、昔からの知り合いでな、久々に会ったんだ。」
事前に打ち合わせた通りにヴェインが答える。メルディナは何か余計な事を口走る可能性があるため、自分の名前以外に何も話さないように事前に釘を刺しておいた。
「それで、ヴェインさんとメルディナさんは冒険者なのでしょうか?」
「あちこち旅をしているが、冒険者登録はしていないな。」
「妾もじゃな。」
「であれば、この機に登録してみませんか?」
「ここに来る最中にセリアと丁度その話をしてたんだ。登録を頼むよ。」
「妾もお願いするのじゃ。」
「アルとアヤメはヴェインとメルの冒険者登録に立ち会ってくれ。その間、私はギルドマスターへの報告を済ませる。」
「かしこまりました。」
「りょうか~い!」
「セリアさん、ギルドマスターに確認するので暫くお持ちください。」
「ティア君、その必要はないよ。」
まるでタイミングを見計らったかのようにギルマスであるヒルティリアが姿を見せる。
「随分とタイミングの良い事で。」
「なに、丁度ギルドに入ってくるセリア君を感知出来たからね。部屋も確保してあるからそちらで報告を受けよう。」
「アル、アヤメ、そちらが早く終わるようなら先に戻ってて構わないぞ。」
そう告げるとセリアはヒルティリアの後に続いてギルドの奥へと姿を消す。
「それじゃ、手続きしちゃいましょうかっ!」
ティアの元気の掛け声のもとアルジェント達も別部屋へと移動を開始した。
◇◇◇◇◇◇
「早速、調査結果を伺いましょう。」
テーブルを挟んで向かい合う様に座るとヒルティリアが話を切り出した。
その言葉に答える様にセリアは幾つかの魔石をストレージから取り出しテーブルの上へと広げた。それは常世の森にある遺跡で討伐したオーク、ゴブリンの魔石であった。それもジェネラル、キングクラスの。
ヒルティリアは驚愕の表情を浮かべてテーブルの上に並べられた魔石をただた見つめていた。ヒルティリアの前に並んでいる魔石はB、いやAランクの冒険者が数人がかりで討伐するような魔物である。セリアにそれなりの力量があるとは思っていた。だからこそCランクへの異例とも言える昇格を提示もした。それでもこれ程の事を成すとはヒルティリアにとっても想定外であった。
この事実を考えれば新たな実力者の出現に喜ぶべきところではあるが、ヒルティリアは何故か心からそれを喜べないでした。セリアの存在があまりにも異質過ぎるのは言うまでもなかった。これまでにある程度の実力者が冒険者ギルドの門を叩いた事は数知れど存在する。
それでもヒルティリアの鑑定を阻害した者は一人もいなかった。そう、セリアはあまりにも得体が知れないのである。
そんなヒルティリアを置き去りにするようにセリアは話始める。
「もう分かっていると思いますが、これらはゴブリン、オークの上位種の魔石です。常世の森の中央にある遺跡の周りに陣取っていました。」
話し始めたセリアにようやく落ち着きを取り戻したヒルティリアは質問を投げかける。
「すると・・・その魔物の集団が冒険者の行方不明の原因だと?」
「直接手を下したのはそうでしょうが・・・背後に糸を引く者が存在しました。」
そこまで語るとセリアは指を鳴らした。
「セリア君、何故・・・遮音結界を?」
「念のため・・・といったところです。これから話す内容が漏れて良いのか、悪いのか判断出来かねるので。」
「・・・わかった。」
セリアの真剣な眼差しにヒルティリアは遮音結界に同意した。
「それで、その内容というのは?」
「ヒルティリアさん、ゾディアックという言葉に聞き覚えはありますか?」
「な、何故、君がそれを知っているっ!」
セリアに迫りくる勢いでヒルティリアがその言葉に反応を示す。
「何故も何も遺跡であった黒衣を纏った男が名乗っていたので。」
「それで・・・であったという黒衣を纏った男は撃退出来たのですか?」
「無理でした。私が今こうしているのは、見逃してもらったようなものです。何か実験のような事をしていたらしく、用が済んだと言ったところでしょう。見逃したのはそれが露見したとして何も対処出来ないと思っての事かと。」
「それで、その実験というのが何か分かりますか?」
「何とも言えないですが・・・あの遺跡に何があるかは把握していますか?」
「前に調査をしたことがありましたが、特段のこれと言って重要な遺跡では無いという報告を受けています。」
「そうですか・・・遺跡なんですが、ダンジョン化していました。」
「ダンジョン化・・・以前の報告では・・・となれば、今回の事件でダンジョン化した、という事になりますね。」
「まぁ、そうでしょう。それでもそれが全て・・・では無い事もね。」
ヒルティリアの意見に同意しつつもセリアは自分の意見を追加した。
「そうだろうね。報告は以上で良いかな。それとこの魔石はどうしますか。買取で良いならこのまま預かりますが。」
「買取でお願いします。」
「わかりました。カウンターで手続きしてください。」
話が終わり、立ち上がろうとするセリアにヒルティリアから声がかかる。
「もう少しお時間よろしいですか。」
「えぇ、大丈夫ですよ。」
「ゾディアックの件は内密にお願いします。勿論、パーティーメンバーの方にも言い含めておいて下さい。」
「そんな事案なのですか?」
「冒険者ギルドが設立されてかなりの永い時が立ちます。ギルドが設立された時には既に暗躍していた・・・と言われています。ギルドの歴史上何度か矛を交えと記録に残っていますが、その強さは隔絶していた、とあります。そんな事もあり、ゾディアックの件についてはある一定以上のランクの方にしか情報を公開していません。」
「わかりました。こちらも初めから吹聴するつもりもありませんし。」
今度こそ話が終わり、という事もありセリアは挨拶をすますと扉へと歩き始めた。セリアが扉に手をかけた時、後ろからヒルティリアの声が届く。
「セリア君、君を疑っているわけではないが、報告に偽りは無いと思っていいかな。」
「ヒルティリアさんが偽りだと思えば、それは偽りにです。私が言える事はそれだけです。それでは失礼します。」
◇◇◇◇◇◇
「な、なんですかっ。その職業はっ!」
ティアの驚きの声で部屋が満たされていた。
冒険者登録で表示された職業にティアは驚きの声を上げていたのだ。ヴェインの職業はアサシンネクロス、メルディナの職業は賢者が表示されたのである。
ティアの知る限り両職業ともにギルドの記録にない。さらにヴェインは複数の職業を有していた。
ギルド職員として働く中で新しい職業を目の当たりにすることは稀である。むしろその様な機会に遭遇する事なく引退する職員が大多数だ。にもかかわらずティアはこの数日で未発見の職業を3つも目にしたのである。
「ティアさん、落ち着いて下さい。まずは登録を終わらせましょう。」
アルジェントに諭され落ち着きを取り戻したティアは二人の冒険者登録を終わらせた。
そして真剣な眼差しをヴェインとメルディナへと向ける。
「お二人はその職業をどのように取得したのですか?」
セリアやアルジェントは登録しに来た際に職業を選択した。セリアの場合は選択肢が未発見の職業のみであり、その条件は不明であった。ヴェインとメルディナは登録しに来た時に職業を取得済みであった事から取得方法について情報が得られるのでは、とティアは考えていた。
だがその考えもすぐに打ち砕かれる事になる。
「気が付いたらこの職業になってたからな・・・取得方法と言われてもな・・・」
「妾もじゃ。妾の場合は初めから持っておったのじゃ。じゃから取得方法と言われても分からんのじゃ。」
「もしかしたらまた出会うかもしれないじゃん。そん時は分かるかもよ。」
二人の回答に肩をティアにアヤメが声を掛ける。
そして、ヴェインとメルディナの冒険者登録は恙なく終了るのであった。
◇◇◇◇◇◇
セリアが応接室を後にしてギルドカウンターに向かうと、冒険者登録は既におわったのかティアが書類と顔を突き合わせていた。その顔には少し疲れが覗いていた。
「ティア、こちらの用事は終了したが、登録はもう終わったのか?」
「はい、つい先ほど終わりました。先に戻ると言っていましたよ。」
「わかった。ありがとう。」
魔石の買取の件についてティアに話をしていると、奥から職員が袋をもって現れた。ティアはそれを受け取るとそのままセリアへと手渡す。
「こ、こんなにっ!」
袋を受け取ったセリアの手はそれ程の重み感じ取らなかった。
ーーージェネラル、キングと言ってもしょせんはゴブリンやオークだしな。
と思いながら袋を開けたセリアの目には見慣れぬ硬化が映った。
「ティア・・・これって?」
「金貨だとかさばるため、白金貨でのお支払いとさせて頂きました。」
白金貨、確かに普段の生活ではお目にかかる事など滅多にない代物である。それよりもセリアは支払われた総額に驚いていた。袋の中には白金貨2枚に金貨が10枚。金貨換算で210枚。かなりの金額である。
「こんなに?」
「妥当だと思いますよ。」
セリアの反応にティアのニコッとした笑顔が返ってきた。
ーーーまぁ、あって困る事もないだろう。
セリアは受け取った袋を懐へと仕舞い込む。そう見せかけてストレージの中へと仕舞い込む。
「それとセリアさん。次の依頼について話をしても?」
「あぁ、構わないよ。」
「盗賊退治ですが、ローレルから南へ10日程いったとこにあるエドという街へ向かって下さい。」
ーーー・・・え・・・ど、えど、エド、江戸?
元日本人であるセリアにとってとても馴染み深い言葉がセリアの耳へと届き、頭の中で変換されていく。
「詳細についてはエドにある冒険者ギルドで聞いて下さい。既に話は通してあるので、お願いします。」
説明をし終えたティアはセリアからの反応が無い事を不思議に思いセリアの顔を覗き込む。
「セリアさん?」
「ん、あぁ、内容は理解したよ。」
「大丈夫ですか。何か気になる事でも?」
「いや、行った先でもギルドがあるならそこの所属の冒険者に退治を依頼すればいいんじゃないか?」
「その通りなんですが・・・今回の対象となる盗賊の頭目がBランクだった元冒険者なんです。力量だけで言えばAランク相当と言われています。なのでおいそれと依頼出来ないんです。」
ーーーなるほど・・・Aランク相当を退治しようと思えば必然的にそれ以上のランクになるが、それ以上となるとそもそも冒険者の数が少ない。それで私という事か。白羽の矢を立てるのは良いが、一応・・・新人冒険者なんだけどな・・・。
「状況はわかった。それじゃ、明日、出発するよ。」
「よろしくお願いします。それでは明日の朝、ギルドまでお越しください。馬車はこちらで手配します。」
「ありがとう。それじゃ、明日の朝。」
「セリアさん、ちょっといいですか?」
「他に何かあるのか?」
「そう言う訳ではないのですが・・・今日登録されたお二方も含めて5人でこれからも活動するのですか?」
「そのつもりでいるけど、何か問題でも?」
「問題とかではなく、パーティー名を決めませんか、という提案です。」
「パーティー名?」
「はい、大抵のパーティーは何らかしらのパーティー名を付けています。有名になればパーティーに対して依頼が来たりするので、良い事もありますよ。今すぐにという話ではないので考えてみて下さい。」
「パーティー名か・・・メンバーと相談してみるよ。」
「はい、良い名前を期待してますね。」
「まぁ、あまり期待しないでくれ。」
そう言い残すとセリアはギルドを後にした。外は日が傾き始めているもののまだ十分明るく、通りは行き交う人で溢れていた。セリアはそんな雑踏の中を皆が待つ領主邸に向かって歩き出す。
誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。




