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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第二章 始原の迷宮編
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第三十六羽. それぞれの戦い・壱


 セリアがイフリートとの戦闘を開始した頃、アルジェント、アヤメ、ヴェインの3人もそれぞれ別の空間で己が敵と対峙していた。


 そしてそれをメルディナはスクリーン越しで見ていた。


 「ところでベルゼビュートよ、アル、アヤメ、ヴェインの3人が試練を課されているのには何か理由が?」


 「それはカリス、アグニ、マリーチの要望によるものです。」


 メルディナにとってカリス、アグニ、マリーチの3人は見知った者達であった。そしてそれは見知った処では無く嘗ての戦友であった。


 「だが、あやつらは・・・」


 「えぇ、メルディナ様のご認識の通り、彼らの肉体は既に失われています。あそこにあるのは云わばエーテルの残滓です。今の彼らは後悔の念だけで成り立っていると言っても過言ではない存在です。」


 「そんな状態で何ができるのじゃ」


 「そこは彼らにも考え・・・いや、思いがあるのでしょう。譲れぬ何かが・・・」


 「そうか・・・」


 メルディナと違いベルゼビュートは迷宮(ラビリンス)の中で永劫の時間を共に過ごしていた。そこに自分には分からない何かがきっとあるのだろう。それを思うとメルディナの口からはそれしか出てこなかった。


 ---妾もあの戦いで命を失っていたら、ここまで執念を持てたのだろうか・・・


 散っていった嘗ての戦友の姿をこの眼で見れた事に確かに喜びを得ていた。だがそれと同時に虚しく思う自分もメルディナの中にいた。


 あの戦いで生き残り、メルディナは幾星霜を人間の世界でその日を必死に過ごす者達と共に歩んできた。嘗ての(あるじ)でる女神アルテナへの忠誠が薄れたわけでは無い。それでも有り様が変質していったのは否めない。自身でもそれを自覚していた。


 アルジェント達の前に立ちはだかる嘗ての仲間の姿に思いをはせ、メルディナは戦いの行方を静かに見守っていた。



 ◇◇◇◇◇◇


 Side:アルジェント


 「ここは・・・」


 薄っすらと目を開けるアルジェントの視界には先ほどまでとは異なる景色が映し出されていた。そこは全てが白で覆われた空間だった。遮る物もなく遥か視線の先には地平線すら確認できる。この空間の広さに只々圧倒されるだけだが、同時に気が狂いそうにもなる。


 この空間に対してアルジェントはそんな思いを抱いた。地面には碁盤の目の様な線が確認出来る。そのちょっとしたアクセントが心の平穏を保たたせているようにさえ思えた。


 得られた視覚情報の整理で一杯になっていたアルジェントは、ふと周りを見渡す。そしてそこで初めて自分の置かれている状況に気が付いた。


 そう、自分以外の誰もいない事に・・・


 「セ、セリア様っ!」


 セリアを呼ぶ声は虚しく広がり、そして消えていった。


 『セリア様っ!応答してください。』


 念話で呼びかけるもセリアからの返答は一切なかった。


 奴隷としてセリアに買われて数ヵ月、そしてこの迷宮(ラビリンス)で過ごしていた時間、常にセリアと共にあった。今、それが崩れた事にアルジェントの心の中は感じた事の無い不安が支配し始めた。


 「これからあなたには試練を受けて頂きます。」


 何処からともなく女性の声が響く。そして目の前の空間のエーテルが集まるとひとりの女性が姿を見せる。長い金髪に整った顔、そして一番の特徴は耳。それはアルジェントと同様に長く先端が少し尖った形をしている。目の前の現れた女性はエルフ族の女性、しかも明らかに自分より高位の種族であるはハイエルフ。アルジェントは直感的にそれを感じ取った。


 「あなたより高位の種族である事は確かですが、ハイエルフではありません。」


 アルジェントの心を見透かしたように語る目の前のエルフはさらに言葉を続ける。


 「まずは自己紹介ですね。私はカリス・ベルス。種族はエンシェントエルフです。」


 「・・・エンシェント・・・」


 「まぁ、簡単に言えばハイエルフよりも高位の種族になります。エルフの古代種といったところですかね。」


 アルジェントから漏れた言葉を広いあげる様に答えたカリスの顔は現れた時と変わらず笑顔で溢れていた。そして次の言葉と共にその笑顔が消えていく。


 「それでは始めましょうか。」


 アルジェントは地に横たわる身体を起こしながら顔を上げカリスへと視線を向ける。カリスから言葉が紡がれたその瞬間にアルジェントは吹き飛ばされ地を転がっていた。まったく反応が出来ず自分がどんな攻撃を受けたのかすら分からなかった。ただ痛みから腹部への攻撃があった事だけは理解できた。


 「やれやれ、この程度の攻撃も躱せないとは・・・」


 アルジェントが立ち上がると。


 「それと伝え忘れていた事があります。この試練の目標は私を倒す事です。ですがこの試練においてあなたが倒れて終わりという最後はありません。あなたには何度でも立ち上がって貰います。」


 「何故・・・」


 当然言えば当然の質問がアルジェントから漏れる。


 「あなたにはこの試練を越える義務があります。当代の所有者の眷属なのだから・・・」


 言葉の終わり共にカリスは行動に移る。先程とは違いカリスの動きに反応したアルジェント。だが盾に突き立てられたカリスの拳をアルジェントはどおする事も出来なかった。その攻撃は重く防ぐ事で精一杯のため押し返す事も攻撃に転ずる事も出来ないでいた。


 「あなたは強さよりも先に心の有り様をどうにかする方が先ですね。」


 反撃する隙がなく防戦一方になっているアルジェントはその言葉の真意に理解が追い付かないでいた。そもそもカリスの絶え間ない攻撃でそれどころでは無い。


 「今のあなたからは(あるじ)の存在が感じられずに不安で押しつぶされそうな様が手に取るようにわかります。」


 今までに無い威力で叩き付けられた拳はアルジェントを盾ごと吹き飛ばすには十分であった。


 「眷属が(あるじ)に依存してなんとするっ!」


 カリスの言葉にアルジェントは自身の状態をやっと自覚し始める。


 「眷属は(あるじ)の支えになり時には盾にもならなければならない。今のあなたにそれが出来ますか?そしてその盾は飾り物ですか?」


 躍りかかるカリスの攻撃を何とか防ぐアルジェントは自身に届くその言葉に一瞬その身体を硬直させた。その直後に強烈な一撃がアルジェントを襲う。


 「その体たらくではいずれ足を引っ張る事になるだろう。その様な者が眷属であり続けるのは堪えん。気が変わったここでその生を終えるが良いっ!」


 吹き飛ぶアルジェントに止めを刺すべくエーテルがカリスの掲げた右手に収束していく。


 「フォールダウン」


 掲げた右手を振り下ろすと同時に魔法を唱える。圧縮された空気がアルジェントを押しつぶすべく襲い掛かる。


 身体のいたる所が軋みはじめ、段々と意識が遠のくアルジェントの脳裏にあの日の事が過る。生きる事を諦め死を待つだけのこの身が再び新たな人生を送れるようになったあの日・・・そして剣となり盾となる事を誓ったあの日を。


 ---そうだ、私は・・・私は・・・。


 フォールダウンの影響化にありながらも立ち上がるアルジェントの眼には今までの不安の色が消え強い意志が宿っていた。そしてアルジェントから立ち昇るエーテルがフォールダウンを掻き消す。


 その光景に驚きつつもカリスは満足な笑みを見せる。


 「では、私も本気を出すとしましょう。」


 そして一振りの剣を取り出す。そして戦いの中で初めてカリスが構えを取る。


 それに答える様にアルジェントも剣と盾を構える。


 ---私は・・・私はセリア様の剣であり盾。


 「こんなところで立ち止まっていられません。」


 その意思は形になって現れる。アルジェントから溢れ出すエーテルに呼応するかのように剣、盾をはじめとする装備が変化し始める。


 鎧の各所が少し開くとその隙間が緑色に発光しだす。盾の表面が中心から四分割される割れる。そしてその隙間から同様に緑色の光があるれ出し、その外側にエーテルの盾が形成され、剣表面にも文様なものが浮かび光り出す。


 この戦いで初めてアルジェントから仕掛ける。


 想像以上の威力に顔を歪ませるカリス。アルジェントの動きはこれまでとは異なり力強さ、スピード、エーテルの扱いとどれをとってもカリスの満足に行くものであった。


 第二ラウンドが始まり一進一退の攻防が繰り広げられていた。


 カリスは剣技の他に魔法を織り交ぜた攻撃はまさに妙技であった。それは幾多の戦いを経験した者だけが持つ境地なのかもしれない。そして勢いで形勢を維持していたアルジェントであったが経験の差が次第に二人を分かち始めた。


 それでもアルジェントはほぼダメージを受けていなかった。アルジェントは絶えずシェルストロマを自身に掛ける事でダメージを軽減しているためであるが、それ以上に防具がほぼダメージを無効化していた。特に魔法による攻撃は殆どアルジェントに届いていなかった。


 このままでは(いず)れ自身が先に膝を屈することはアルジェントにも理解が出来ていた。このバランスが崩れるのは自身のエーテルが枯渇した時である事を。カリスは幾度でも挑戦が可能と言っていたが、第二ラウンドの開始時にアルジェントはこの戦いで終わりにする事を固く心に決めていた。


 その思いとは裏腹にアルジェントは活路が見出せずにいた。どれくらい時間を戦っていたのかアルジェントは既に分からなくなっていた。限界に近づく身体は重くなり意識が薄れ始めていた。


 遂にアルジェントの足が止まる。


 朦朧とする意志に気の中、迫りくるカリスの動きがアルジェントの眼にはスローモーションに見えていた。振り下ろされる剣に無意識に反応する身体。迎え撃ったアルジェントの刀身は無残にも砕け散るが、カリスの剣を弾き態勢を崩しす事に成功していた。


 それと同時にスローモーションだった世界の速さがいつも世界を取り戻す。そしてアルジェントの眼前に活路という名の扉が開き始める。


 「シールドバッシュ!」


 態勢の崩れたカリスに間髪入れずアルジェントの盾が迫る。その動きには無駄が無く最短距離でカリスを襲った。今まで何度もアルジェントを守り抜い盾はその衝撃にその役目を終える。


 「ブレイド・オブ・ライトッ!」


 地を転げるカリスは突然の反撃に驚きはしたもものダメージとしては大したことはなかった。だが顔を上げた時に自分の置かれている状況に愕然とした。自分の周りに光り輝く無数のエーテルの剣が浮かび上がっていた。


 逃げ場が無い事を一瞬で悟ったカリスは防御結果により防ぐ判断をするが、その判断が悪手であった。


 「ブレイド・オブ・ジャッジメントッ!!!」


 握りしめた柄を振り下ろしアルジェントは渾身の技を繰り出す。


 足を止めたカリスの前後左右そして上下の六方向に魔法陣が出現し、そこから六本の巨大なエーテルの刃が姿を現す。無数のエーテルの刃を耐え抜いた結界も圧倒的な力の前に敢え無く砕け散り、その刃はカリスを貫く。さらに大小様々なエーテルの刃がカリスを襲う。


 刃の交じり合う交錯点には莫大なエネルギーが蓄積される。大抵の魔物であればこの時点で消滅し蓄えられたエネルギーも一緒に霧散していく。カリスや先に戦闘した双頭の死竜ツインヘッド・デスドラゴンの様に耐え抜いたた場合、そのエネルギーを解放する必要が出てくる。双頭の死竜ツインヘッド・デスドラゴンでの戦闘ではそれをアヤメの技が結果的に担ったわけではあるが。


 ブレイド・オブ・ジャッジメントにはその後に繋がる技がある。


 「イグニッション」


 刀身の無い剣を突き出し残りのエーテルを注ぎ込む。発動と同時に永き時を過ごした相棒がアルジェントの前からその姿を消していく。


 ---今までありがとうございました。


 心の中で相棒に別れを告げ黙禱を捧げる。


 圧縮された濃密なエネルギーは瞬時に外に向かって駆け抜けていく。だがそのエネルギーは魔法陣によって遮られ内部で循環し続ける。その終わりは対象の消滅。


 魔法陣が消滅し後に何も残されておらず、カリスの気配も感じなかった。あまりの激戦にそれが何を意味するのか暫く理解が追い付かないでいたアルジェントがやっとそこに行きつく。


 「か・・・った・・・」


 その事実に気が抜けたのかアルジェントは前のめり倒れ、そのまま意識を失う。


 「お疲れ様でした。」


 遠のく意識の中で声を掛けられた気がした。とても優しい声で・・・。



 「うっ・・・」


 どれ位の間そうしていた分からないが、アルジェントは意識を覚醒し始める。そして頭の下になにか柔らかい物がある事に気が付く。


 薄っすらと目を開けるアルジェントの視界に入った者を見て飛び起きようとするが、全身が痛み動くことが出来なかった。


 「動いては駄目ですよ。認識して無いようですがかなり重症ですから。」


 視界に入ってきたのは、そう、カリスである。先程まで死闘を繰り広げた相手の膝枕で無防備な姿をさらしていたのだ。


 「そう警戒しないで下さい。試練はもう終わりましたから。」


 「お、終わった・・・」


 「見事、試練を突破しました。」


 記憶の糸を手繰り寄せ、確かに自分の放った技で勝利を掴んだ事を思い出す。そして新たな疑問が浮かぶ。


 今自分の眼の前にいるのは何なのかと・・・。


 「まさか、初戦で突破されるとは思っていませんでが・・・」


 にこやかに笑いながら答えるカリスの顔をアルジェントはじっと見つめる。


 じっと見つめるアルジェントの視線に気が付いたカリスはその意味を直ぐにくみ取る。


 「その眼は私が何者なのか疑っている眼ですね。お答えすると・・・私の肉体は既に滅び、今ここにあるのはエーテルにより再現しているからです。」


 アルジェントの頭を優しく撫でながらカリスは何でもない事の様に語った。


 「遥か昔・・・今となってはそれが何千年、何万年前なのか分かりません。当時、私は眷属としてとある戦いで命を落としました。そしてその戦いで(あるじ)も命を落としています。私よりも先に・・・」


 一旦言葉を切ったカリスの顔は悲しみがにじみ出ていた。そして再び語り始める。


 「その時の後悔の念が今の私を形作っています。そして来るべき時の為にこの力を継承する方をずっと待ち続けいました。そして今この時をとても嬉しく思っています。」


 「な、何を言って・・・」


 アルジェントの頭を優しく自分の膝から下ろしたカリスは自身の手をアルジェントの胸の辺りに添えた。


 「まずこれをあなたに差し上げます。」


 一振りの剣をアルジェントの横に置く。それは先程までの戦闘でカリスが使用していた剣であった。


 「銘はカラドボルグ。神々とも渡り合える業物です。きっとあなたの役に立つでしょう。」


 続いてカリスは鎧、盾を取り出す。その鎧、盾は傷付き所々が破損していた。


 「これは当時は私が使用して物です。ガラクタを押し付けるようで申し訳ないのですが、もしこれを修理する事が出来れば剣と同様に役に立つでしょう。そして・・・これが最後の贈り物です。」


 カリスの手にエーテルが集まり、そこから心地よい程の暖かさをアルジェントは感じ始めた。


 「私の持つ経験と知識、そして残り僅かですがエーテルをあなたに・・・」


 言葉を残しカリスの姿はエーテルとして弾け、アルジェントを包み込む。


 「あなたの選ぶ未来に幸多からん事を・・・」


 最後の言葉がアルジェントの心の中を満たしていった。そして再びアルジェントは意識を沈めていった。


誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。

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