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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第二章 始原の迷宮編
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第三十四羽. イフリート従魂戦・前半


 「うぅっ。」


 目を開けたサジの視界には先ほどまでいた場所とは異なり見知らぬ空間が何処までも広がっていた。


 「ようやく目を覚ましたのじゃ・・・。」


 「師よ、ここはいったい・・・」


 「それは妾にも分からんのじゃ。」


 メルディナは肩を竦めながらサジの質問に答える。


 立ち上がったサジは一通り周囲を探ってみた。だが辺りにはセリアを含め他の者の気配が一切感じ取れず、分かった事はこの空間は自分達以外には誰もいない事だけだった。


 暫く辺りを観察するも一向に好転しない状況にサジが気を揉んでいると。


 「そろそろ、姿を見せても良いと思うのじゃ。何なら妾が姿を見せる手伝いをするのじゃ・・・」


 殺気の籠ったメルディナの声が響く。


 「お気付きでしたか。試すような事をして大変申し訳ございません。」


 姿を現したのは執事服を身に纏った女であった。何処からともなく姿を現した執事服の女は青い髪を短く揃え清潔感のある身なりをしていた。


 いつからそこにいたのか・・・姿を現した存在に今の今までサジは全く気が付かなかった。その事にサジは驚きを禁じ得なかった。師であるメルディナに比べれば足らない事は確かであるが、それでもサジには自負があった。


 目の前の存在は”試すような事”とあっさりと口にする。師であるメルディナを含め自分が未だに辿り着けない境地にいる物がこの先にも存在することにサジは冷や汗が止らずにいた。


 「メルディナ様、お会いして頂きたい方がいらっしゃいます。どうか私の後に付いてきてください。サジ様もお願い致します。」


 恭しく頭を下げる執事服の女にメルディナは承伏の意を示すと女の後に従って歩き始める。当然サジも師の意に従ってその後を追う。


 案内された場所は暗く闇に閉ざされ何もなかった。そんな場所に白髪の男が一人佇んでいた。そしてここまで案内してきた女と同様に執事服に身を包んでいた。


 「メルディナ様、サジ様の両名をお連れしました。」


 「ご苦労でした、エストリエ。もう下がって良いですよ。」


 「承知しました。では失礼致します。」


 エストリエと呼ばれた女はお辞儀をするとそのまま姿を消す。


 「ベルゼビュート、まさかおぬしがこんな所におるとはのぉ・・・。」


 「それはこちらの台詞でもあります。メルディナ様・・・まさか使徒序列一位のあなたがこんな場所に封じられていようとは・・・」


 「師よ、横から口を挟んで申し訳ないのですが・・・あの方は?」


 「あやつは名はベルゼビュート。妾の古い知人なのじゃ。・・・ところで何故、妾をここへ?」


 メルディナの質問にベルゼビュートは指を鳴らす。


 今まで何も無かった空間に4枚のスクリーンが現れる。そしてそれぞれのスクリーンにはセリア、アルジェント、アヤメ、ヴェインが映し出されていた。そしてどれもが戦闘中であった。


 「戦闘への介入をさせないため、というのが主な理由になります。」


 「主な理由でない方は・・・?」


 メルディナは映し出されているセリアの姿をじっと見つめながら、ベルゼビュートに尋ねる。


 「セリア様でしたか・・・当代の所有者は。彼女についてメルディナ様と話をしたかったからです。それにしても・・・当代の所有者は戦闘面では先代の方々に見劣りしますね。」


 「それはそうなのじゃ。なにせセリアはこの世界に来てからまだ数ヵ月しか経っておらん。」


 「数ヵ月・・・?」


 「そうか・・・そこまでは知らんのか。セリアは異世界からの転生者なのじゃ。元居た世界では魔法や魔物も存在しない平和な世界らしいのじゃ。そんな世界から来て数ヵ月。正確に言えばこの中で1年以上は経過しているが・・・まぁ、どちらにしても短期間であそこまでの戦闘をこなすのじゃ・・・戦闘に関して言えば天才以外の言葉は見つからんと思うがの・・・」


 メルディナの言葉を受けてベルゼビュートは改めてスクリーンに映るセリアに目を向ける。


 「さらに言えばセリアはここに試練を受けに来たわけでは無い。単純にここに閉じ込められただけなのじゃ。」


 「閉じ込められた・・・?」


 「まぁ、その件は後でゆっくり話すのじゃ。セリアはいまだに自分の力を上手く操れん。見ておれ・・・もうそろそろセリアの本気をその眼で拝めるのじゃ。」


 メルディナの視線の先には炎に飲み込まれていくセリアの姿があった。



 ◇◇◇◇◇◇


 セリアの振り下ろす刃は幾度となくイフリートの身体を捉えていたが、ダメージがあるかというと皆無であった。イフリートの全身を覆う炎がダメージを軽減しているため、セリアの攻撃はイフリートに届いていなかった。逆にイフリートの攻撃は容易にセリアの身体へダメージを蓄積していく。それを理解しているセリアは基本的にイフリートの攻撃を受けずに回避することに専念している。


 焔の幻獣・・・その名は伊達ではなかった。セリアは擬態型人造兵器(ミミックウェポン)との戦闘と同等、いやそれ以上の力を以てイフリートに対峙しているが今のところ押され続けているのが実情であった。


 セリアとイフリートの攻防が続く中、セリアの回避スピードをイフリートの攻撃が上回り始めて来た。


 回避が間に合わず一瞬の判断でセリアは積層構造の防御結界を展開する。防御結界は瞬時に突破され防御態勢を取るセリアの目前にイフリートの拳がせまる。《ツクヨミ》の柄で何とか受け止めたセリアがイフリートの懐へ入ろうとした時、受け止めた拳にさらに力が籠る。辛うじて自ら飛ぶ事で威力は弱まったものの、それでもセリアの身体を衝撃が襲う。


 勢いのままに地を転がるセリアは《ツクヨミ》を突き立て何とか起き上がるも、顔を上げた先には巨大な火球が迫っていた。その火球を両断した向こうには無数の火球がさらに控えており、既にセリアに向けて放たれていた。


 火球の群れを次々と躱していくセリアの後方には火球が衝突した事による爆発が絶えず起こり、セリアの背中を熱していた。


 ---あれを全て躱すか・・・回避能力とスピードは大したものだ・・・だが・・・。


 セリアが全ての火球を潜り抜けイフリートへの接近を試みようとした時、地面に不可思議なエーテルの流れを感じ取った。地面へと視線を落とすと所々赤く染まっている箇所があった。そして今セリアがいる場所も同様に赤く染まっていた。周囲を確認すると安全地帯というべき場所が数ヵ所存在していた。その中で一番近い場所へとっさに退避したセリア。その直後にそれまでセリアが立っていた場所を含めて赤く染まっていた地面から炎が噴き出す。


 ---少しでも反応が遅れていれば、うさぎの丸焼きだな・・・。


 セリアがそんな感想を抱いていると、イフリートの更なる攻撃がセリアを襲う。


 セリアの着地点目掛けて火球が放たれていた。


 火球を回避するために後方へと飛び退くが、その先の地面も既に赤く染まっていた。


 「まずい・・誘導されたかっ!」


 セリアの着地と同時に地面より炎が噴き出し、セリアの姿は炎へと飲み込まれていく。


 炎が消えたその場所にはセリアの姿は無かった。


 「アイスバレットッ!」


 突如、複数の氷で形作られた弾丸が死角よりイフリートを襲う。


 氷の弾丸はイフリートの息吹に飲まれ次から次へと消えていく。死角からの強襲とはいえイフリートにとってはこの程度攻撃は訳ない。


 イフリートが攻撃が来た方へと視線を向けると、そこには炎により衣服の所々に焦げた跡を残し、皮膚には痛々しい火傷をしたセリアの姿があった。その姿は避けはしたがギリギリであった事を物語っていた。


 「アイスバーン。アイスバインドッ!」


 立て続けに唱えたセリアの魔法により辺り一面が氷に閉ざされていく。幾本の氷の蔓がイフリートの足元に出現すると巻き付きイフリートを拘束していく。


 イフリートを覆っていた炎が次第に小さくなり、終にはイフリートは氷像と化した。


 「ここまでやってくれた礼は返させてもらうっ!」


 セリアが言葉を吐いき、《ツクヨミ》を構えると周囲に違和感を感じ始めた。周囲のエーテルが揺らぎ始めていた。それと同時にイフリートの体内でエネルギーが収束していくのをセリアは感じ取った。そして収束度合いが増す程に周囲のエーテルの揺らぎが強くなっていく。


 ---まずいっ!!!


 セリアがそう思ったとき、イフリートの体内ではエネルギーが臨界を迎えていた。そして周囲の揺らいでいたエーテルが炎の塊となって周囲に姿を見せる。


 戦闘をこなす度にセリアの運用するエーテル量は確かに増えている。それでも格上と対峙した際に思い通りにエーテルを運用出来ていないのもまた事実であった。


 そんな中でこの攻撃を受ければ致命傷になりかねない。セリアは瞬時にそれを悟った。


 「こんな所で死んでたまるかっ!!」


 セリアの言葉は爆発に掻き消え、次々と辺りの炎が誘爆していく。


 爆発により地面は(えぐ)れ、所々にクレーターを形成していた。爆発による土煙が晴れると猛々しい程の炎を身に纏ったイフリートの姿がそこにあった。


 そしてイフリートの視線の先には地に膝を着き、満身創痍(まんしんそうい)なセリアがいた。セリアからはエーテルが感じ取れずイフリートの眼にはそう映っていた。


 「ほぉ、この攻撃を受けてもまだ生きているか・・・」


 「お陰様で・・・大分身体が暖まった・・・」


 セリアの放った言葉は文字通りの身体の体温を上げ戦闘を行うためのウォーミングアップが整ったという意味では当然ない。多少はその意味も含まれているかもしれないが、今のセリアは自身が扱うエーテル量をやっと自在に操れるようになった。


 スロースターターというか追い詰められないと本領を発揮出来ないのが今のセリアである。


 ゆっくりと立ち上がるセリアの身体からはイフリートが気圧される程のエーテルが立ち上り始めた。


 当初イフリートはセリアから溢れ出るエーテルを見て落胆していた。それが偽らざるイフリートの本心であった。確かに戦闘態勢を取った時の滑らかに全身を覆うエーテルは見事であった。そこまでの技術を持った所有者は今までに数える程しかいなかった。だがそれでも圧倒的にエーテル量が足らない。それがイフリートの判断であった。


 だが今、目の前にいる所有者は本当に先程までと同一人物かという程のエーテルを放出している。その光景にイフリートは驚嘆する。


 所有者から目を離したわけでは無かったが、その姿はイフリートの眼前にあった。


 そして自身の腕が宙に舞っている事をイフリートが認識した時には所有者の姿は元居た場所にあった。


 「ば、ばかな・・・」


 思わず漏れた言葉がイフリートの心境を現していた。


 宙に舞った腕は火が消えるように消えてなくなると、イフリートの切り落とされた腕の部分から炎が噴き出し腕が再生されていく。


 セリアはイフリートの腕を二度(にたび)切り落とすため再び攻撃に転じるが、流石に二度目はそうもいかなかった。此度は傷をつけるのが精々であった。


 そのまま幾合の打ち合いはセリアの優勢で運んではいる物のお互いに決定的なダメージを負わせるに至っていなかった。この戦闘の初期においてセリアの攻撃はイフリートに一切のダメージを負わす事が出来なかった。それを考えれば今の状況はイフリートにとって想定外の事象であろう。


 さらに繰り広げられる攻防の最中、セリアは一瞬の隙をイフリートに見せる事になる。それはイフリートの攻撃パターンの変化。その隙を見逃さず一際大きな炎を纏った拳がセリアの身体にめり込む。


 セリアの身体は大きく後方へと吹き飛ぶ。セリアは避ける事が不可避だと判断し自ら後方へと飛ぶことでダメージを軽減していた。さらに拳の接地面に防御結界を幾層にも展開していたため、見た目ほどダメージを受けていなかった。


 地面に着地したセリアの耳にイフリートの雄叫び響く。それは地を揺らし空気を震わした。そして地面は赤く染まり始め、さらに大気のエーテルが再び揺らぎ始めた。


 先程の攻撃はセリアとの距離を取る事が目的であり、セリアは見事にイフリートの術中にはまっていたのだ。


 再びの咆哮で地面から炎が噴き出す。今までと異なるのはそれが治まる事無く噴き出し続け炎の壁を形成していることである。そしてセリアは自身の行動範囲が狭められている事に気が付く。さらには火球が周囲に出現し取り囲まれていた。


 ---ならば・・・食い破るのみっ!


 セリアが動き出すより早く火球がセリアへと向かい動き出す。襲い掛かる火球は地に接触した物はその場で爆発を起こし、武器での攻撃も接触した瞬間に爆発を起こすといった凶悪な代物であった。だからと言って躱してもセリアの後を追尾してくる。


 襲い来る火球に対してはアイスバレットで対処しているが、一向にその数が減らない。寧ろその数を増やしている。


 そして火球の対処でセリアの頭からイフリートに対する意識が薄れた頃、背後の炎の壁よりイフリートの剛腕がセリアを襲う。


 その攻撃を何とか受けきるもイフリートの姿はすぐさま炎の壁の中へと消えていく。そして死角からイフリートの放つ火球がセリアを襲う。


 この空間を氷で閉ざそうにもセリアの放つアイスバーンでは圧倒的な熱量の前にその効果を保つことが出来ずにいた。


 傍から見ればセリアは追い込まれているように見える。だがそんなセリアの顔に笑みが浮かんでいた。戦闘を心から楽しんでいるような・・・そんな笑みが。


 100を超える火球がセリアの周囲を取り囲んでいるが撃ち落とされる位置が徐々にセリアから遠ざかって行く。そして火球は既にセリアにとって脅威では無くなっていた。それにイフリートの不意を衝く攻撃もいまやセリアにとって不意では無くなっていた。


 イフリートは上手く自身のエーテルを隠蔽していた。今や隠蔽されたイフリートのエーテルをセリアは確実に捉えていた。そして火球の位置を含めて全てがセリアの掌の上と言っても過言ではでは状況であった。


 「さて、もうそろそろ終わりにするかっ!」


 セリアはそう言い放つと。


 「アイスバレットッ!」


 一際大きな声で魔法を唱える。セリアの周囲の複数の氷の弾丸が出現する。その総数はセリアを取り囲む火球と同数。


 解き放たれた氷の弾丸は全ての火球を撃ち落とし、セリアを取り囲む火球が一時ではあるが姿を消す。


 その隙にセリアは《ツクヨミ》にエーテルを収束させる。


 「影技(えいぎ)・弐ノ型 刺閃しせん!!!」


 技の名と共に石附を前へと突き出す。収束したエーテルが解き放たれ、ある一点を穿つ。周囲の炎が消滅すると後には胸を穿たれ地へと伏せるイフリートの姿があった。


 「ようやく・・・試練も終了か・・・」


 地に伏せるイフリートを眺めてセリアが呟くと・・・。


 『それは・・・フラグです。』


 「フラグって、何を言って・・・い・る・・・。」


 《オモイカネ》の突っ込みに答えようとしたセリアの目の前でイフリートの身体に変化が起こる。イフリートの身体が燃え上がり球体に包まれ浮かび上がっていく。


 そして浮かび上がった球体は一定の高さで停止する。


 エーテルが急速に集まると球体の真下に巨大な炎柱が出現し、さらに巨大な炎柱を中心として同心円状に12時の方向から時計回りに次々と炎柱が出現する。その数12本。


 計13本の炎柱がセリアの目の前に出現する。そして炎柱と球体の間をエーテルの線が繋ぐと球体内へとエネルギーが徐々に集まり出す。


 セリアは一連の出来事に圧倒されながら只々見入っていた。


誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。

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