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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第一章 来訪編
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第一羽. 来訪者

初投稿になります。長く続く作品にしたいと思っているのでよろしくお願いします。


 **対象者にシステムのダウンロードを開始します。**


 **ダウンロードが終了しました。続いてシステムのインストールを開始します。**


 **インストールが終了しました。続いてシステムの最適化および起動シーケンスに入ります。**


 **最適化終了。起動シーケンスオールグリーン。**


 **疑似人格搭載汎用型支援スキル、オモイカネの起動を確認。以後の処理をオモイカネに委譲します。**


 『対象者へのスキル付与を要求。』


 どこか機械的でありながら確かな意思を感じさせる声が、まだ目覚めぬ主の意識へと直接響いた。その声と共に、透明な粒子がまるで光の糸のように身体の奥底へと流れ込んでいく。


 『対象へのスキル付与を確認。』


 『スキルの最適化を実施。』


 『対象者の覚醒に入ります。』


 頬をなでる風、鼻腔をくすぐる湿り気をおびた草木の匂いに意識が次第に覚醒していく。ゆっくりと瞼を開けると、そこには広大な景色が広がっていた。まだ日は高く、時間的には昼を少し過ぎたあたりだろうか。頭上にはどこまでも澄み渡る抜けるような青空がどこまでも広がり、眼下には青々とした木々が絨毯のように埋め尽くしていた。今日日(きょうび)の日本ではなかなかお目にかかれないその圧倒される光景をしばらく見入っていた。


 一陣の澄み切った冷涼な風が吹き抜抜けていく。もたれかかっていた木を大きく揺らし、葉のざわめきでふと我にかえった。


 ーーーここは・・・いったい、何処だ?


 ーーーなぜ、こんな処に?


 最後に見た景色を思い出そうとするが中々思い出せない。ただ視界には満月が輝いていた事だけは思い出せた。月面の模様がうさぎに見えるとよく聞くが、人生の中でその様に見えた事は一度たりとも無かった。


 ただその時の月面に浮かぶうさぎ模様がはっきりと網膜に焼き付いていた・・・。


 どちらにせよこんな場所は知らないし、何故ここに居るのかの手がかりも記憶からは辿れそうになかった。


 『・・・主様、ようやくお目覚めですね。』


 澄んだ水に波紋が広がるように女性の声が突如として響き、思考の海に沈んでいた意識が現実へと引き戻される。辺りを見渡すが人のいる気配は全くなかった。少しふらつく頭を抑えながらが、自分自身がもたれかかっていた木に手をかけ立ち上がり改めて周りを見渡す。


 少し離れたところに丸太組みのログハウス風の小屋と池が新しい情報として目に入るのみである。


 ーーーやはり人がいる様子はないな・・・。


 誰もいない、はずなのに、確かに聞こえたあの声が耳に残っていた。


 「誰かいるのかっ!?」


 発せられた自身の声に違和感を感じた。自身の耳に届いた声は確かに自分自身が発したものであるが、その声は今までの自分の声とは全く異なっていた。それは若干低目ではあるが明らかに女性の声である。


 その事に動揺している中、再び先ほどの声が脳裏に直接響く。


 『主様、胸中穏やかでは無いでしょうが、落ち着いて私の話をお聞き下さい。』


 その声は物理的な現象をもって聞こえてくるのではなく、心に、頭に直接語りかけてくる、意識だった。この不可思議な現象に困惑していると、語りかけてきた何者かは話を先に進めて行く。


 『ここは《フェニスティア》と呼ばれる世界です。神々が身近に在り、剣と魔法が飛び交う世界。主様は《フェニスティア》への転生を果たしました。そして、主様がこの世界で生き抜くためのサポートを行うのが、私の役目となります。』


 「それはありがたい事だが、名前も姿も分からない相手をそう易々と信用出来まい。」


 混乱冷めやらぬ状況の中で自分を主と呼ぶ存在に拒絶を突き付ける。


 『失礼しました。自己紹介がまだでした。私は《オモイカネ》と申します。疑似人格搭載汎用型支援スキル、主様が持つ能力の一つ、それが私です。そのため物理的な肉体を持ち合わせておりません。そして主な能力としては主様が獲得した各種スキルの効率的な運用となります。以後お見知りおきを。』


 自らを《オモイカネ》と名乗る存在に疑問や疑念を抱くが、それ以上に説明を聞けば聞くほど頭が混乱していくのを感じていた。


 『まずは・・・』


 フェニスティア、転生、スキル。


 今だ状況の理解が追いつかず、不可思議な言葉が頭の中を占めていた。そしてこの不可思議な出来事と動揺も相まって説明がまったく頭に入って来ずにいた。


 『・・・ま、・・・じさま、主様。大丈夫ですか?』


 「あぁ、すまない。ちょっとぼーっとしていた。」


 まだ混乱しているが、思考が停止していたわずかな時間で《オモイカネ》に応答するだけの落ち着きを取り戻していた。


 『現状を把握するためにも、まず自分自身の鑑定を行って下さい。』


 「・・・鑑定?どうすればいいんだ?」


 『鑑定と心の中で唱えてください』


 『・・・鑑定』


 ”鑑定”という言葉を意識してみる。


 「おぉ、なんか表示されたっ!」


 思わず目の前の事象に声を上げた。


 目の前には半透明の板のようものが浮かび上がった。そこに表示されている内容は今までの混乱や疑問が吹き飛ぶような情報をもたらすことになった。


====================================


 【名前】   :

 【種族】   :兎人族

 【性別】   :女性

 【生年月日】 :

 【スキル】  :オモイカネ、グリモワール、ソウルイーター、魔眼、

         チャクラ


====================================


 「・・・はっ?」


 一瞬の間、思考が完全に停止した。そして、時間が動き出す。


 「なんじゃ、こりゃぁぁっ!!!?」


 あまりの衝撃に思わず叫び声をあげた。なにせ種族欄には人ではなく兎人と表示されている。ファンタジー世界で俗にいう獣人族という種族なのであろう。しかも性別が女性となっている。


 おそるおそる手を自分の体の各所に当てていく。胸に触れた瞬間、思った以上の膨らみ、柔らかさ反発力、確かな質量が掌に伝わる。足元を見るとつま先が見えす、掌で感じた情報を自分の視覚が証明した。


 「・・・かなりでかいな、これで走れるのかっ。」


 そんな感想を口に出しながら、次いで腰のくびれや、丸みを帯びた太ももをなぞる。細くしなやかな肢体、華奢な手首。手足も長くモデル体型なのは間違いない。さらに肌の色は褐色に近い色で、どこをとっても、以前の自分ではない。


 最後に手を頭へとむける。そこには種族が兎人族とある通り耳らしきものが存在していた。


 そして、当然であるが前世であったものは無くなっていた。


 多少なりとも転生系の小説には馴染みがあったが、それでも前世はアラフィフのおじさんである。


 「これは、かなりきつい・・・」


 必然的に声が零れる。


 「それでも・・・これが、現実なのか・・・」


 耳を風に揺らしながら、そっと呟く。


 動揺と感傷にあったが、気持ちを切り替え次に確認しなければいけないものがある。


 そう自分の顔である。


 ーーーさて、いったどんなんな顔してるんだろうか・・・。


 この世界で女性として生きて行く以上、良いに越したことはない。


 先ほど見渡した際に池があったことを思い出し、視線は自然と池の方へ向かっていた。


 歩き出して自分の視線がかなり高いことに気が付く。前世での自分の身長は170センチメートルくらいだったはずだ。もしかすると190センチメートルはあるのでないだろうか。


 そんなことを考えながら足を一歩ずつ池のほとりへと進めていく。草を踏む音。小さな水音。すべてが静かで、心地よさを届けて来る。池のほとりへと辿り着きしゃがみ込むと、そこにはあるのは水面は陽の光を受けて静かに輝く天然の鏡のよう水面。


 期待に胸を膨らませ覗き込む。


 「っおぉぉっ!!!」


 思わず声を上げる。


 水面に映し出されたのは、かつての自分とは似ても似つかぬ姿。吸い込まれるように映る自身の容姿をしばし見つめていた。陽光ほんのりと艶を帯びる褐色の肌。滑らかで引き締まりつつもしなやかな曲線を描き、鼻筋が通り端整な顔立ちをしたその顔は、若さと大人の気品を兼ね備えていた。


 短く艶やかな銀髪は耳元で軽やかに跳ね、前髪は左目かかるように斜めに垂れている。後ろ髪は首筋に沿って短く整えられている。


 そして何よりも印象的だったのは、左右で異なるその瞳。


 左目は深紅に染まり、赤い宝石のように情熱的な光を宿す。右目は黒曜石のように静かで、深い夜のような静寂を湛えていた。


 すべてが、自分とは思えないほど洗練されている褐色美女。それがそこに映し出された女性の容姿である。


 そして頭には手で確認してわかってはいたが、うさぎの耳、そう・・・うさみみが存在を主張していた。頭の上からすうっと伸びる銀色の毛で覆われた大きなうさ耳が・・・何よりも、この世界において自分が自分である証のように思えた。


 「・・・かなりの美人だな。これは・・・。」


 映し出された顔が好みなのは言わずもがなである。その事実にテンションが上がって行くのが自分でも分かった。予想外の事に今まで感じていた疑問や動揺が完全に吹き飛んでいた。


 しばらくぼぉっと空を眺める事で少しずつではあるが事実を受け止め始めて来た。そして上がったテンションがやっと落ち着い来る。


 冷静さを取り戻すと吹き飛んだ疑問や動揺がまた頭によぎり始める。ただ先ほどに比べれば大分落ち着いて《オモイカネ》の話に耳を傾けられる、今ではそう思えていた。


 再度自分のステータスを表示させると改めて《オモイカネ》から現状についての話を聴く。


 《オモイカネ》の話を纏めると、何らかの理由により前世で死亡し、《フェニスティア》と呼ばれるこの世界に転生を果たした。《フェニスティア》はラノベとかによくあるような剣と魔法の世界で、当然スキルも存在する。転生物でよくあるように転生得点で取得したスキルのうちの一つが《オモイカネ》ということだ。


 説明をあらかた聴き終え、ステータスを眺めているとあることに気付く。名前の欄が空欄なのである。吾輩は兎である。名前はまだない、といったところか。


 「なぜ名前の欄が空欄に?」


 『この世界に降り立ち、新たな身体。今の存在を識別する名前はまだ定義されていません。それとも前世での名をそのまま使用しますか?』


 「流石にそれは困るな。どう考えてもこの容姿には合わない。」


 この世界での前を考える必要がある。それは理解したが、今のところ全くと言っていい程何も思い浮かばない。


 ーーー兎人族だからうさぎ、うさぎといえば月、月といえば・・・女神。たしかギリシア神話にセレーネという月の女神がいたような・・・。


 「セレーネ・・・なんかしっくりこないな。」


 そして、悩みに悩み導き出した名前は。


 「セリア・ロックハート・・・これで、いこうと思うっ。」


 ロックハートという姓を決めるにあたり頭に浮かんだのは、前世で好きだったゲームやアニメのキャラクターたちの姿だった。その中で特に、印象深い女性キャラクターの名から拝借した。


 『良き名前かと思います。それでは、これからはセリア様とお呼びします。』


 「そのセリア様、とうのはやめて欲しいな。」


 『では、どのようにお呼びすれば?』


 「そうだな・・・マスター、でどうかな。」


 『承知しました。以後、マスターとお呼びします。』


====================================


 【名前】   :セリア・ロックハート

 【種族】   :兎人族

 【性別】   :女性

 【生年月日】 :

 【スキル】  :オモイカネ、グリモワール、ソウルイーター、魔眼、

         チャクラ


====================================


 ステータスを表示すると先ほどまでは空欄であった名前欄にはしっかりとセリア・ロックハートと表示されていた。新たな名と共に漠然とした不安の中に、一筋の光が差し込んだような気がした。そして、なんとなくではあるが、《フェニスティア》の住人になったことを実感した。


 『マスター、空欄の箇所がもう一つ、ございます。』


 改めて確認すると、確かに生年月日の欄が空欄であった。


 「どうすれば、いいんだっ?」


 『ではこちらで決めますが、よろしいですか?』


 「それで、構わんよっ。」


 『天輪歴2004年3月(ヴィアルティス)24日、といたしましょう。』


 「異論を挟むつもりはないが、決めた根拠を教えてほしい。それと、そのヴィアルティスとは?」


 『承知しました。まず誕生日ですが、今日の日付です。この世界では主に天輪歴と呼ばれる物を使用しています。今年が天輪歴2024年に当たります。そしてその20年前、ということで天輪歴2004年としています。ヴィアルティスとは第三の月の名です。』


 ーーー3月という意味か。


 3月(ヴィアルティス)という言葉を自分の中で消化したところで新たな事実が頭をよぎる。


 「・・・ん?えぇっと・・・という事は、私は二十歳・・・?」


 『さようです。マスターの年齢は今現在、二十歳となります。』


 ーーー30歳近く若返ったということか、しかも性別が変わって・・・。まぁ、こうなっては、受け入れるしかないか。


 「わかった。それと、改めて・・・聞くが、お前を本当に信用していいだなっ。」


 『私の存在意義は、マスターあってのものです。』


 正直、今のところ《オモイカネ》を信じてよいのかわからない。それでもなんとなく、ではあるがそこまで疑う必要が無いのではとも感じていた。


 全く根拠はないがそう感じる自分がいた。


 《フェニスティア》という世界に転生し、この身になにが待ち構えているか正直よく分からない。ただ転生してしまった以上、面白おかしく生きていかないと損だな。


 晴れ渡る空を見上げ、そんな事を考えていると何かが吹っ切れ気が楽になっていく。


 取り合えず話しかける相手もいるし、孤独というわけではない。まずは、この森林地帯を抜けて街を目指そう。《オモイカネ》がいれば何とかなるだろう。


 そんな楽観的な希望を胸に見上げている空はだいぶ日が傾いていた。


 「《オモイカネ》、この森はどれくらいの広さだ。このまま歩いて抜けられるのか?」


 周囲に広がる鬱蒼とした森林を見回しながら、セリアは問いかけた。見たところ、どこまでも木々が続いているように見える。


 『地形情報の入手を実施・・・地形情報を入手しましたが、半径数十キロメートルにわたり森林以外の情報は存在しませんでした。』


 《オモイカネ》の返答に、セリアは思わず息を呑んだ。


 街を目指す事を考えていたセリアの試みは《オモイカネ》の提言により、早くも暗礁に乗り上げた。


 「まさか・・・この森林地帯がそんなに広いとは・・・。」


 『今からの出発は危険が高いため、小屋での休憩を推奨。また、その出で立ちでの接触は非推奨。』


 《オモイカネ》の指摘に改めて自分の姿を見る。柔らかい薄手のリネン生地出てきた丈の短いワンピースのようなものを身に付けているだけだった。それ以外は何も身に着けていない。下着すらも。そのため、この胸を支える物が何も無く、歩くたびに邪魔の程に揺れ動く。


 セリアは改めて目の前の小屋へと視線を向けた。


 「まずは、この小屋に入るか。あの小屋に衣服があると良いのだが。それとこれからの事は一休みした後だな。」


 今の状況に一抹の不安を感じながら、重い足取りで小屋へと向かって歩き出した。


 新しい世界での、最初の一歩を。



誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。

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