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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第二章 始原の迷宮編
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第三十一羽. 重力の渦


 明くる朝、セリア達は出立の準備を整えると玄関前に集った。


 「さて、それじゃ、行こうか。」


 「セリアよ、待つのじゃっ!」


 セリアの掛け声に一同が歩き始める中、出鼻を挫くようにメルディナの待ったが入る。


 「メル、どうした?」


 「どうしたっ、じゃないのじゃっ!!」


 メルディナはセリアを睨め付けながら親指で自分の後ろに聳え立つ館を指さしながら反論する。


 「おぬし態と忘れたふりをしているじゃろっ!」


 「メル、本当にこれ持っていくのか?」


 館を見上げながら答えるセリア。


 「当然なのじゃっ!」


 さも当然のような顔をして言い放つメルディナにセリアは若干冷たい目で見つめる。


 「お願いなのじゃ。この館は絶対持っていきたいのじゃ。これがあれば絶対に役に立つ。絶対ストレージに入るから、試すだけ試してほしいのじゃっ~~~」


 セリアの自分を見つめる目に危機感を感じたメルディナはセリアの足にしがみつき懇願を始める。


 「分かった、分かった。だから足から離れてくれっ!」


 「本当かっ!それじゃ、さっそくお願いするのじゃっ!」


 「そのまえに・・・足に頰擦りするのはやめてくれ・・・」


 「おぉっ。すまんのつい気持ちよくてな。」


 メルディナは名残惜しい顔をしながらセリアの足から離れる。


 セリアは館に向かい合うとストレージに館が入るイメージを描く。すると目の前にあった館が消えてなくなる。ストレージ内を確認すると確かに収納されていた。


 「言うたであろうっ!これで一安心なのじゃ。」


 館の件がひと段落し、気を取り直してセリア達は次の階層を目指して歩み始める。


 「セリア、そういえばここは何階層なんだ?」


 「話していなかったか?」


 「いや、何も聞いてないぞ。」


 「そうか・・・別に隠す理由もないからな。ここは101階層だ。」


 「えぇっ!!僕ら10階層かそこらにいたよね。」


 「これはどういった事なのでしょうか?」


 アヤメの驚く声にアルジェントも声を上げる。


 「そなた達が何階層から来たかは分からんが、そなた達が名付けアークとやらはそもそも本来の階層ではなく、作られた別空間なのじゃ。そこが崩壊して本来の空間に戻る際に何かが起きたのじゃ。なのでここに辿り着いたのは単なる偶然なのじゃ。攻略が進んで良かったと前向きに捉えるのじゃっ!」


 念のためセリアはサジにも意見を求める。


 「老師、何か心当たりはありますか?」


 「もし訳ないが、わしに心当たりはないのぉ」


 「そうですか・・・」


 メルディナの説明の通りそこを深く考えても仕様が無いと思いセリアは現状の把握に勤しむ。昨日、ここに降り立った時もそうであったが、セリアが探知可能な最大限に範囲を広げても魔物が一切存在していない。そうこの階層には全く魔物がいないのである。


 「ねぇ、セリアねえ、僕達、何処に向かってるの?」


 「何処って、当然次の階層の入り口だが。」


 「入り口って、もう分かってるのっ?」


 「あぁ、急げば今日中に到着するかな。」


 アークも結構広い空間であったが、セリア達が今いる階層はもっと広く、この広さに比べればアークが狭く思える程である。ただ今回は幸運なことにこの階層を探索する必要がない。そのため今回は真直ぐに目的地へと向かえる。


 「なら、セリアねえやメルの転移ですぐじゃんっ!」


 「それが、ここの階層の影響なのか転移系の術式が阻害される。」


 「妾も先ほどから試しているが術式が起動しないのじゃっ」


 メルディナもセリアと同様の意見を述べる。


 「まぁ、そんなに急ぐ必要もないし、ゆっくり行くのじゃっ!」


 ピクニック気分で和気あいあいと進むセリア達は早めに休みを取り始めた。メルディナの館があるため野宿をする必要がない。その点においてメルディナの言っていた事は確かであった。ひとつ難点があるとすればそれは大きすぎる事だ。なにせ目立つのである。


 セリアが夕食の支度を始めようとしたとき。


 「セリアよ。今日の晩飯はなんなのじゃっ!」


 メルディナがセリアのとなりにひょこっと顔を出すと晩飯を催促する。


 セリアのパーティメンバーは思いの外よく食べる。特に育ち盛りなのもありアヤメは食べる量が多い。そして最近加入したメルディナは別に育ち盛りと言う訳でも無いがアヤメ並みによく食べるのである。


 「まぁ、期待して待っていてくれ。」


 「了解なのじゃっ!」


 セリアにそう答えるとメルディナは皆の所へ戻って行く。こうした行動を見ると外見同様の年に見えてくるが、それでも数千年を生きる吸血鬼である。


 視線を手元に戻したセリアは調理を始める。


 フライパンを温めると油を入れ、油が熱くなるまで加熱をする。少し火を弱め予め溶いた卵を投入する。入れた卵が半熟になったらご飯を入れ、火を強火にしてしっかりとほぐす。そこに細切れにした生ハム、長ネギのみじん切りを入れるとご飯がパラパラになるまで鍋を振りながら炒める。ちなみに入れた生ハムはオークや竜の肉から作ったものだ。


 塩、コショウを入れ全体を手早く炒め、器へと盛り付ける。人数分のチャーハンを盛り付けると腹ペコ達が待つダイニングへと運んでいく。


 「やっと飯にありつけるぜっ!」


 「ヴェイン、もっと早く食べたいなら、手伝ったどうだ。」


 「俺が手伝おうと味が落ちそうで。」


 「よくいう。」


 全員が席に着くと。


 「いただきますっ!」


 全員が声を揃えて手を合わせる。初めはセリアがやっていたことだが、そのうち皆も真似をするようになった。


 美味しそうに口に頬張る皆の姿を見渡してからセリアもチャーハンを口へと運ぶ。自画自賛と言う訳でもないが、自身が作ったチャーハンを堪能する。


 「やっぱり、セリアの作る飯はうまいなぁ。」


 「ヴェインに同意するのじゃ。手が止まらないのじゃ。」


 「それにしてもよく食べるよね。メルって。僕と違って育ち盛りでもないのに。」


 「小娘、妾に喧嘩を売っているのかっ!」


 アヤメの台詞に敏感に反応するメルディナ。


 「おぬしとて妾と変わらぬではないかっ!」


 「僕はメルと違ってまだこれからだから。セリアねえやアルねえとまではいかないけど、メルよりは成長出来る自身はあるよっ!」


 ---アヤメ、いつからそんな煽り性能が上がったんだ・・・


 二人の掛け合いを見ながら、そんな感想をセリア抱いていた。


 「キィー---、セリア、おかわりなのじゃっ!」


 残っていたチャーハンを掻っ込むと空になった器を勢いよくセリアの前に差し出す。


 「そんなに急いで食べなくてもおかわりはある。ゆっくり食べろ。それとアヤメも少々言い過ぎだ。」


 セリアの言葉にシュンっとするアヤメ。


 ---やれやれ・・・


 「アヤメもおかわりするか?」


 「うんっ!」


 元気な返事をするとアヤメは自身の空になった器をセリアに渡す。そして空になった器を受け取るとセリアはキッチンへと消えていく。


 「メル、ごめんなさい。言い過ぎた・・・」


 「構わんよ。その謝罪受け入れるのじゃっ!」


 その言葉を遠くで聞いていたセリアは自分の頬が緩んでいるのに気が付き、いつもの顔に戻るとダイニングへと戻って行く。


 多少のいざこざはあったが、その後は終始和やかな空気の中時が流れていく。そして夜が更けていく。


 次の日、事態は一変する。


 館から出たセリア達に大きな違和感が襲う。辺り一面に広がる草原の様子は今までと変わりが無い。魔物の発生が起きたと言う訳でもない。


 セリア達の身に起きた違和感、それは自分達の体重の増加である。正確には受ける重力が増加したという表現が正しいのだろう。


 そして想定外の事がさらに起こる。今日の早い段階で次の階層への入り口に辿り着く算段でいたが、この階層自体が倍近くに広がっていた。おのずと次の階層への入り口も遠のく。


 そしてセリアは気付く。この階層のギミックに・・・。


 ---おそらくこの階層のギミックは重力の増加と空間の広がり。早々に次の階層へと辿り着かないと永遠に増加し続ける重力に押しつぶされる事になるな・・・。


 「全員、自身の身体を強化してここを走る抜けるぞっ!!!」


 危機感を抱いたセリア達は全員に支持を出すと走る出す。アヤメを先頭にアルジェント、ヴェインが続く。その後ろにはサジが続き、前3人のサポートとをお願いした。そしてセリアとメルディナは最後尾から様子を窺いつつ全体のサポートに専念する。


 セリアは風属性の魔法で風の抵抗を軽減、メルディナは受けている重力を軽減。セリアとメルディナのサポートもあり、この移動速度を保てば予想より早く辿り着くとセリアは考えていた。


 改めて目的地を確認したセリアから思わず舌打ちがこぼれる。


 先程確認した時より空間が広がっている。そして刻々と広がりを見せている。今のところセリア達の移動速度の方が早い。だがその速さが一定である保証は何処にもない。


 『アヤメ、走るスピード上げられるか?』


 『問題ないよ。どのぐらいまで上げればいい?』


 『全力だっ!』


 『メル、重力の軽減、もう少し何とかならないか?』


 『重力も徐々に増加しているのじゃ。じゃが、妾も漆黒の支配者ロード・オブ・ナイトメアと呼ばれる身、なんとかして見せるのじゃっ!!やはりそなた達と一緒にいると退屈しなのじゃっ!!!』


 『聞いた通りだ。全員、アヤメに続けっ!!合図は私が出すっ』


 念話を通して全員から返事が届く。


 『3,2,1・・・ゴーッ!』


 セリアの合図に今までの数倍の速さで草原を駆け抜けていく。周りの音や風景が段々と置き去りにされてゆく。アヤメ達はそのような事を感じている余裕はないだろが、セリアはそんな情景を見ながら。


 ---人ってこんなにも早く走れるものなのか・・・流石は異世界。


 そんな感想を抱いていた。


 『マスター、空間の広がる速さが我々のスピードに追い付きつつあります。』


 『アヤメ、まだ上げらるか?』


 『流石に無理だよ。もうそろそろ限界っ~~~~。』


 『アル、ヴェインはどうだ?』


 『私はまだ行けます。』


 『俺も問題ない。』


 『老師は如何ですか?』


 『わしも問題ない。』


 『アル、ヴェインが先頭、老師は二人のサポートお願いします。』


 『メルは私にしがみつけっ!重力のコントロールだけに集中しろっ!』


 『了解なのじゃっ!!』


 嬉々としてセリアへとしがみつくメルディナ。


 『アヤメも私が背負う』


 アルジェントとヴェインが先頭に立ちサジが今まで同様にその後に続く。アヤメが徐々にスピードを落とすとセリアはアヤメを小脇に抱え加速する。


 『すまん。俺ももうそろそろ限界だっ!』


 『私もです。』


 次の階層への入り口を視界に捉えたところでアルジェント、ヴェインの二人から音を上げる報告が入る。


 ---ここまで来れば・・・後は。


 『アル、ヴェイン、老師、私にしがみつけっ!後は私が何とかする。』


 追い越しざまに3人がセリアへとしがみ付く。セリアは振り落とさないようにエーテルで作った糸を全員に巻き付けると更なる加速を行う。


 高速移動の最中に所々縮地による移動を織り交ぜ突き進むセリアの視界には目的地がすぐ前で迫って来ていた。だがあと数メートルにも拘わらすセリアはその遠さを実感した。近づけば近づく程に重力の効果が跳ね上がって行く。今セリアは目的地との距離は縮められずにる。


 戦闘以外で使う事になるとは思わなかったが、セリアは第三階梯まで《チャクラ》を解放する。その上で並行励起を実行して瞬間的な機動力を確保する。


 「いっっけぇぇっ!!!」


 掛け声と共に加速したセリアは一瞬、重力を振り切り目的地への距離を縮めていく。あと数センチ、数ミリ、無限ともいえる重力の中で永遠とも言える距離が立ちはだかる。


 薄れゆく意識の中でセリアの目の前に人影が浮かび上がる。その人影はセリア同様に兎人族の特徴を有していた。その人影の口元が微かに動きこちらに何かを伝えようとしていた。


 ---お前の力はそんなものか・・・


 人影の声は確かにセリアには届いていない。だが何を言ったのか確かにセリアに届いた。そしてセリアの頭に情報が流れ込んでくる。それと同時に人影はセリアの前から姿を消す。


 セリアは突如その場で立ち止まる。当然目的地である次の階層への入り口は急速に遠ざかって行く。


 『どうしたのじゃ、セリアっ!』


 『メル、重力への対処は最低限で構わない。転移の準備を頼む。』


 『転移って、おぬしここで転移が出来んのは知っておろう。』


 『それはこれから私が何とかする。《オモイカネ》は目的地の相対距離の演算を頼む。結果はメルにフィードバック。』


 『承知しました。』


 メルディナと《オモイカネ》に指示を出すとセリア詠唱に入る。


 「太極をなすは理と万感の地図

  白き宝珠 赤き宝珠

  緑の宝珠 紫の宝珠

  (とが)は宝珠と熔け合い(ただ)される

  休門 傷門 景門 驚門

  四方に配す門を以て隔絶

  生門 杜門 死門 開門

  八門を以て総べるは森羅万象」


 肩越しに聞こえるセリアの詠唱にメルディナは聞き覚えがあった。遥か昔に幾度となく。


 ---何故セリアがこの詠唱を知っておるのじゃ。この詠唱は・・・


 動揺を覚えつつもメルディナは自分に課せられた事に集中する。


 「隔絶結界術式 八紘一握」


 セリアが術式を行使すると今まで自分達を脅かしていた物が全て無効化され、今までが噓のように体が軽くなる。ただ空間の広がりだけは速度は遅くなったものの止まらずにいた。


 即座に《オモイカネ》の演算が結果がメルディナへとフィードバックされる。


 『飛ぶのじゃっ!』


 メルディナの一声と共にセリア達の転移が行われる。次の瞬間セリア達の姿は目的地にあった。転移に成功したセリア達はようやく目的地へと足を踏み入れたのだ。だが座標指定が甘く、そこは地面より1メートル程上に転移していた。


 「全員無事か。」


 地面へと転がっている皆に安否を確認するセリア。


 「いったたぁ~。僕は大丈夫だよ。」


 真っ先にアヤメの声が返ってくる。


 「あぁ、俺も大丈夫だ。」


 「私も平気です。」


 「わしも大丈夫じゃ。」


 ヴェイン、アルジェント、サジからも次々と返事があるが・・・。


 「妾は死にそうなのじゃ」


 メルディナはセリアの胸に顔を埋めながら愉悦に浸る声を上げる。そんなメルディナの首根っこを掴むとセリアは壁に向かって放り投げる。


 「げふっ」


 醜い声を上げながら壁にぶつかるメルディナに痛い視線が集まる。


 「痛いではないか。何をするのじゃっ!」


 「メル様、あまりおいたはいけませんよ。」


 不平を漏らすメルディナに静かであるが迫力のある様相でアルジェントが詰め寄ると。


 「わ、分かったのじゃ。以後気を付けるのじゃ」


 メルディナが引き攣った顔で早々にアルジェントに謝罪をする。


 「分かって頂けたのなら何よりです。」


 いつもの雰囲気に戻りメルディナから離れていくアルジェント。


 「さて、いつまでもふざけ合っている場合じゃない。先へ進むぞ。」


 セリアの掛け声に一同が頷くもサジが物言いをつける。


 「少し休憩を取るとしよう。戦闘はしていないがかなり体力とエーテルを消費しているからの。セリア殿、それでよいかな?」


 「そ、そうですね。そこは老師の言に従いましょう。」


 セリアは自分の気を落ち着けるとサジに答える。《チャクラ》の使用で気が少し昂っていたのは否めないが、それでも周りが見えていなかった事にセリアは少し落ち込む。


 そんなセリアの様子を察したのか、メルディナがセリアの隣に腰を下ろす。


 「セリアよ、全てを背負い込む必要はないのじゃ。人は一人では何も出来ない。それは神とて一緒なのじゃ。人ならなおさらじゃ。だから妾達がおる。あまり気にする事はないのじゃ。」


 一言セリアに声を掛けるとメルディナは立ち上がるとアヤメとアルジェントの会話に交わりに小走りで駆けて行く。


 ---こういった時は、気を落ち着かせるためにもお茶でも飲むか・・・


 セリアはそう思い立つとストレージからティーセットを取り出すと茶会の準備を始める。


 そこには(くつろ)いだ空間があった。セリアが入れるお茶と甘い茶菓子でひと時の空間がそこで演出されていた。


 お茶を一口含むとほろ苦さとお茶の風味豊かな味わいが口の中に広がっていく。そんな一時の時間は英気を養うには十二分であった。そして茶会が終わる頃には失った体力にエーテルと探索を再開するには十分な程に一同は癒されていた。


 そのまま小一時間程休憩を取り、そしてセリア達は102階層への探索を開始する。


誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。

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