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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第二章 始原の迷宮編
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第三十羽. ひと時の休息と語らい


 その場所はただ闇が何処までも続いている。闇以外に何も存在しないそのような場所に男が一人佇んでいる。


 その男は黒を基調としたロングテールコートを身に纏い、いわゆる執事のような出で立ちをしている。髪は白く染まってはいる物の体型はガッチリとしており、衰えを全く感じさせない風貌をしている。


 男は自身の目の前で宙に浮かぶ透明な球体を眺めている。崇拝にも似た眼差しで。


 「いやはや、それにしても・・・恐ろしいですね。こちらに気が付くとは。ましてや覚醒に至らないその身で。」


 球体にはこちらを見つめるセリアの姿が映し出されていた。まるでこちらの姿が見えているかのように見つめるセリアに男は驚きと共に高揚感で身を震わせている。


 球体に映る映像を消し去ると、後ろから声がかかる。


 「如何なさいますか?」


 男の後ろにはいつの間にか女が控えていた。何処からともなく現れたその女も同様に執事服に身を包んでいた。


 「あのお方は如何なる障害があろうとも辿り着くでしょう。我々は只々待つとしましょう。」


 何も映し出していない球体を眺めながら言葉を発すると、男は踵を返し女の方へと歩き始める。


 「念のため調査をお願いします。()れ者達が施した罠が他にも存在するかもしれません。決して手を出さないように。」


 男はすれ違いざまに女に指示を出す。


 「承知しました。」


 そのまま歩き続ける男の後ろには既に女の姿はなく、宙に浮く球体があるのみだった。


 「今はまだ貴女の下に馳せ参じる事が叶いません。ですが、いずれ・・・」


 男の姿も闇に溶け込むように消えていく。



 ◇◇◇◇◇◇


 数千年ぶりにメルディナの身体が封印から解放された事を祝い、その夜は盛大な料理がテーブルの上に並んだ。もちろんそれらを作ったのは言うまでも無くセリアだ。そもそもパーティの中でまともに料理が作れるのがセリアしかいない以上、仕方がないと言えば仕方がない。ただ、セリア当人も料理を作るのが思いの外好きであるためあまり周りに愚痴らしき愚痴を言ったことが無いのが実情である。


 食材はセリアが提供した物も多いがメルディナから提供された食材も多くあった。メルディナの屋敷にある食料庫には、多種多様な食材が保管されていた。肉についてはこの世界特有の物が多く一目では分からないもが殆どであったが、穀物、野菜、果物に香辛料といった物は前世で目にしたものが数多くあり、しかも名前までも一致していた。


 その事についてメルディナに尋ねると彼女が封印される前からある食材である事は間違いないようであった。そしてその頃は割と頻繁に他の世界からの転生や転移があったようでそれが原因の一端ではないか、という事だった。


 その際にイングについてもメルディナに尋ねたが、彼女からは明確な回答は得られなかった。そもそもイングは幼少の頃にメルディナに拾われ、育ての親としてメルディナがずっと面倒を見ていた。そしてある程度大きくなるとメルディナは彼の師としてあらゆる物を叩きこんだ。イングが転生者である事は彼の口から聞いたので間違いないようだが、それ以上の事はあまり語らなかったようだ。


 目の前に並んだ料理に舌鼓したづつみを打っているとメルディナが神妙は面持ちで話し始める。


 「改めてそなた達にお礼を言いたい。封印からの解放・・・心から感謝する。」


 「なに言ってんだ。当然だろ。」


 「そうだよ、メルはもう僕らの仲間なんだから。」


 「そうです。メル様。」


 深々と頭を下げるメルディナに暖かい言葉がかけられる。


 「師よ、ご帰還心より嬉しく思っています。」


 「サジよ。お主にも感謝の言葉もない。」


 「一弟子として当然の事をしたまでです。」


 「そうか・・・」


 そんな状況をセリアは只々眺めていた。生前、セリアはここまでの中を築けた人間はいなかった。転生して見知らぬ世界で生きていく事に不安が無かった訳ではない。気が付けば信頼できる仲間がここに居る。その事に自然と嬉しさが込み上げてくる。


 そんな思いを反映してかいつになく柔和な顔になるセリアをメルディナは見逃さなかった。


 「なんじゃ、セリア。おぬしもそんな顔をする事があるのじゃな。」


 「何でも無い。気にするな!」


 「セリアよ。何を照れているのじゃ。」


 そんなセリアをメルディナが揶揄(からか)い出す。滅多に見ない光景にヴェインやアヤメは成り行きをそのまま見ている。アルジェントは若干アタフタしていたが、割って入る事も出来ず結局成り行きを見守る事となる。


 「セ、セリアよ。何でも、ぼ、暴力で解決しようと思うは・・・よ、よくないと、わ、妾は思うのじゃ。」


 突然メルディナが冷や汗をかきながらセリアに訴える。


 「メル、私が暴力を振るおうとしているように見えますか?」


 「お、お主、殺気と濃密エーテルをこちらに向けて何を言っておるのじゃっ!!」


 「何のことだか・・・」


 「妾が・・・わ、悪かった。だからそれを引っ込めてくれっ!!!」


 いつの間にかメルディナの首元にはエーテルで作られた鋭利な刃が向けられていた。その言葉に場の緊張感が溶けてゆく。


 「はぁぁ~~~。」


 安堵の溜息をつくメルディナは、あまりセリアを揶揄(からか)うのは良くない事を身をもって知る事になった。


 ---それにしてもあの一瞬でエーテルを物質化するとは、何とも恐ろしいのじゃ。


 「何はともあれ、これからは旅の仲間。宜しく頼むのじゃっ!」


 内心の驚きとは裏腹にメルディナは明るい口調で挨拶の続きを行う。


 メルディナの言葉を受けてヴェインが何か気が付いたような顔で口を開く。


 「セリア、このパーティ、女の数が多くないか?男は俺とサジの爺さんだけだぞ。」


 「ヴェイン殿、今は行動を共にしてるが、ここから出られたらわしはこのパーティを離れるぞ。」


 「えっ!まじかよ。そんなの聞いてないぞっ!」


 「すまないの。わしにもやる事があるのでな。」


 「と、いう事は実質このパーティで男は俺だけか・・・」


 事実に項垂(うなだ)れるヴェイン。状況だけを見ればハーレムであるが、このメンバーでハーレムだと喜べるほどヴェインも楽観的ではない。こんな場所にいるので当然と言えば当然であるが、このパーティの女性陣は圧倒的に強い。セリアにいたっては逆立ちしても勝てない存在である。綺麗である事は間違いないが異性として見れないのも事実であった。むしろヴェインにとっては美術品を見ている感覚に近い。


 アルジェントは好みであるが何せアルジェント本人は基本的にセリアしか目に入っていない。アヤメについては可愛いとは思っているが、セリアやアルジェント同様に妹のような存在である。もし万が一の事が起これば自分はこの世に居ないであろうとヴェインは思っている。


 ---すまんの。ヴェイン殿・・・。そして師は正確には女性では無いのじゃよ。


 項垂(うなだ)れているヴェインに心の中で謝罪をするサジ。そして事実を自分の心の中だけで語る。


 「ヴェイン、何か勘違いをしているようだが、メルは女じゃないぞ。」


 そんな中、セリアから衝撃的な言葉が発せられる。


 当の本人のメルディナとそれを予め知っていたサジは表情を変えていなかったが、その他はセリアに何を言っているの、といった顔をしている。


 セリアがメルディナのステータスを鑑定した際、驚くべきところは多分にあった。だがその中で一番驚いたのが性別であった。なんと性別には”男の娘”とあったのだ。その言葉を性別としてみる事になろうとは驚きを禁じ得なかった。


 「メルの性別は”男の娘”だっ!」


 「「「・・・男の娘?」」」


 セリアの言葉にアルジェント、アヤメ、ヴェインは珍しく同じ反応を示す。


 「簡単に言うと女の恰好をしている男だ。なのでメルにはちゃんとものもついている。」


 ”もの”という言葉にアルジェント、ヴェインはすぐに察しがついたが・・・・・。


 「もの・・・?」


 アヤメだけは首を傾げて疑問を口にする。


 「アヤメさんはまだ知らなくてもよいことです。」


 すかさずアルジェントがフォローへと入る。


 「セリアよ、おぬしの説明も間違っておるのじゃ。妾は両性具有でな孕む事も孕ませる事も可能なのじゃ。凄いであろうっ!」


 無いが凄いのかさっぱり分からないセリアをよそに破天荒な言葉がメルディナの口から出る。


 「これでも妾は何人もの子供産み育てたし、何人もの子供を産ませてきたっ!!妾は守備範囲が広くてな・・・」


 メルディナの姿がふっと消えるとヴェインの背後にその姿を現す。


 「ヴェイン・・・おぬしの子供を・・・孕んでやっても・・・よいぞ。」


 ヴェインの首に腕を絡ませ、いつもの声とは違うよう妖艶な声で囁くとメルディナは首筋に舌を這わせる。メルディナの顔は獲物を見つけた肉食獣の様であった。そしてヴェインはというと身体を硬直させ被捕食者の気分を存分に味わっていた。


 事の内容をやっと理解したのかアヤメは顔を赤く染め俯いている。


 ---やれやれ、流石にこれ以上の悪ふざけはアヤメの教育上よくないな。


 メルディナの姿が再び消えると元居た椅子に腰を掛けている。そしてヴェインの後ろの壁には数本のエーテルを物質化した刃が刺さっていた。


 「セリア、危ないのじゃ。」


 その声はいつも通りの陽気なこえであった。


 「メル、悪ふざけが過ぎるぞっ!」


 「確かに悪ふざけが過ぎたのじゃ。」


 「まぁ、ヴェインにその気があるなら私の目の届かない所でやってくれ。」


 「あ、あるわけないだろっ!!!」


 必死に否定するヴェインの姿に笑いが起きる。終始このような調子で晩餐は過ぎていった。


 このメルディナの屋敷は想像以上に設備が充実している。その一つとして挙げられるのが浴場である。そう風呂である。元日本人としては風呂の無い生活は考えられない。何故浴場かというと単に広いからである。一度に10人以上は入れる程の広さを有しており、サウナも併設されている。


 セリアが後片付けをしている間に他のメンバーは入浴を済ませ、今はセリアが一人で風呂を堪能している。誰が言ったかは分からないが、”風呂は心の選択”、まさにそのお通りである。癒されて行くのがはっきりと自覚できる。


 普段他人に見せる事が無い完全にリラックスした表情をさらしているセリアの背後にスーッと気配が立ち昇る。その気配はセリアだからこそ気が付けたが、アルジェントやアヤメでは気が付かないであろう。ヴェインは平時であれば気が付く可能性があるかもしれない。


 「館の主とは言え、レディーの入浴に無断で入ってくるのは失礼なのでは。」


 「流石に気が付くか。なに、少しおぬしと話がしたくてな。何かしようなどとは思っておらんのじゃ。」


 メルディナの言葉を殆ど信用していないセリアは鋭い視線を送る。そんな視線も何処吹く風。メルディナは風呂につかるとセリアの横に移動する。


 「おぬしに何かしたら、こちらの身が危ないのじゃ。」


 「何を言っている。先程も私の攻撃を躱しただろう。」


 「先程・・・?晩餐の出来事を言ってるか。あれはおぬしが手加減をしたからなのじゃ。本気で当てるつもじゃったのらマジで引くのじゃ・・・」


 セリアは湯船のお湯を手で掬うと顔を洗いごまかす。あの時は流石に当然手加減をしたが当てる気はあった。


 「当てる気じゃったのか・・・まぁ、それはよい。セリアよ、おぬし妾と本気でやったら勝てると思うか?」


 「何を言ってる。勝てるわけないだろ。」


 「確かにおぬしの言う通り妾が勝のじゃ。だがそれでも、おぬし・・・自分を過小評価し過ぎなのじゃ。妾はおぬしよりも長き時を生きている。それ故、戦闘経験もエーテルの操作、自身の身体の制御も長けているのじゃ。俗に言う、熟練者の経験と勘というやつなのじゃ。だがの世界は理不尽な所がある。圧倒的なエーテル値の前にはその経験と勘が役に立たない事が相応にしてある。それだけこの世界ではエーテル値というのは重要なファクターというわけなのじゃ。」


 メルディナの説明にセリアは疑問が浮かんでいた。自分を過小評価するな、という割にはエーテル値が重要なファクターと言っている。メルディナの言わんとしている事をセリアは計りかねていた。


 「ステータス上のエーテル値は確かに妾の方が高い。だが《チャクラ》を使用すれば妾に勝つことは可能なのじゃ。おぬし何処まで《チャクラ》を解放できる?」


 「今のところ第三階梯までだ。」


 無限牢獄(アペイロン・フィラキ)に迷い込んですぐの頃にサジからの指示でエーテルの制御を中心に鍛錬を行っていた。その成果として今は第三階梯までは《オモイカネ》に頼らずとも自由に解放が可能になった。《チャクラ》の並行励起を行っても身体への負荷は一切ない。


 ただ、第四階梯の解放が未だに出来ていない。


 「第三階梯か・・・おそらく並行励起状態なら、妾の上をいくと思うのじゃ。そして・・・第七階梯までを解放出来れば・・・神をも狩れるのじゃ。」


 「・・・神?」


 「なんじゃ、神の存在を信じていないのか。吸血鬼なんてものいるのじゃ。神ぐらい存在していてもおかしく無かろう。」


 「前世の世界では存在しなかったからな。存在証明がなされていないから分からない、というのが正確な表現なのかもしれないが。」


 「おぬしの前世の世界がどうであろうと・・・この世界では実在するのじゃ、数多の神がな。まぁ、神と言ってもピンからキリなのじゃ。なので第七階梯を解放したとして狩れるのは中位まで・・・その先を狩るのなら・・・第零階梯が必要なのじゃ。」


 「・・・第零階梯?」


 「第零階梯・・・人の身で神に至る事の出来る至高の《チャクラ》なのじゃ。」


 「メル、随分・・・詳しいな。」


 「そ、そんな事は・・・ないのじゃ。妾は悠久の時を生きているからのその分博識なのじゃ・・・」


 メルディナは調子に乗って言わなくても良いことを口走ってしまった事に若干同様の色を見せる。そんなメルディナの様子を怪しむセリアであったがそこを追求する気は無かった。


 第零階梯、それは本来、人の世には存在しない。《チャクラ》というスキルはレアスキルではある物の人の歴史の中で何度か確認されている。その多くは第三階梯すら解放出来ずに生涯を終える。中には第四階梯を解放した者もいるが極僅かである。そう人の歴史の中で第七階梯まで辿り着いた者は存在しない。


 そして零階梯はその果てに存在する物ではないため、決して辿り着く事は無い。


 「ところで、メル、何故神を狩る事が前提となっているんだ?」


 「そ、それは・・・こ、言葉の綾じゃ。忘れるのじゃ。」


 身体も十分温まり、湯船から出るセリアの背中越しに今までの口調とは異なるメルディナの声が届く。


 「セリア、おぬしが妾に疑念を抱いている事は知っておる。だがこれだけは言っておく・・・妾がおぬしを裏切る事は決してない。もしその様な事態になったら迷わず妾の命を奪うが良いっ!」


 「・・・あぁ、わかった。そうならない事を祈るよ。」


 振り返らずにセリアはそのまま浴場を後にする。


 残されたメルディナは天井を見つめ・・・。


 ---妾がおぬしの裏切る事は・・・そう、決してないのじゃ。そこにあの方の魂が無いことは分かっていても・・・あの方に代わりはないのじゃ。


誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。

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