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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第二章 始原の迷宮編
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第二十一羽. ヴェイン


 10階層、そこは9階層の回廊とはまったく異なる様相を呈していた。一直線に伸びた道は今までの回廊と比べると天井は低く全体的に薄暗い。そして道幅も狭く、横に3人並べるかどうかといったところである。


 通路の伸びた先には格子戸あるり、その格子戸の隙間からは白色光のような魔法的な明かりが差し込んでいた。


 前階層に比べると空間が狭い。そのため全体的に静まり返っているなか、セリア達の耳には通路に響く自分達の足音が届くだけである。その雰囲気に飲まれているのか、普段陽気なアヤメも口を閉ざしている。


 セリアは歩きながら振り返り、自分たちが通って通路を見返すとかなり奥まで進んできた事がわかる。


 今のところ即座に襲ってくる魔物は見受けられない。


 警戒しつつも歩を進める一行は格子戸の前まで辿り着くと、格子戸が勢い良く持ち上がっていった。


 「入って来い、という事か・・・」


 セリアはポツリと言葉を吐くと中へと踏み出す。他の面々もセリアの後に従って足を踏み入れていく。


 セリア達の視界に映し出されたのは、円形状の広い空間の周りを幾層にもなっている客席が取り囲む場所。


 闘技場と呼ばれる場所・・・


 そして空には満天の星が輝いている。


 この夜空が作られたものか、そうで無いのかはセリア達の位置では確認のしようが無い。ただそれでもこの美しい星空には感嘆が漏れる。


 夜空ではあるが所々にある魔法的な明かりによってかなりの明るさが保たれている。そして不気味なくらいに静寂がこの空間を支配していた。


 そして何よりこの闘技場に足を踏み入れた時からセリアは薄ら寒い嫌悪感のようなものを抱いていた。


 「アル達はここで待機していてくれ。それとテトラ、ラクスもだ。」


 セリアの言葉にテトラとラクスはセリアから降りると、テトラはアルジェントに、ラクスはアヤメのところに移動していった。


 ゆっくりと周りを警戒しながらセリアは中央に向かい始める。セリアの感知には一切に何も引っかかっていない。しかし中央に向かって歩き始めてから誰かに監視をされているような、そんな視線をずっとセリアは感じていた。


 「セリア殿、後ろじゃ!」


 セリアが中央へと辿り着き辺りを見回していると、突如サジの叫ぶ声がセリアへと届く。それと同時にすぐ後ろでエーテルが揺らぐのを感じると鋭利な刃物がセリアの首元目がけて迫ってくる。


 とっさに身体をひねりギリギリでそれをかわすと一歩踏み込んで相手に対して回し蹴りを入れるも、まるで間合いを見切っているかのように躱し、そのまま軽やかに後方へと飛びセリアと距離をとる。


 改めてセリアは敵を視界へと入れる。その眼に映ったのは一体の骨人(スケルトン)であった。その骨人(スケルトン)は二本の短剣を逆手に持ち、肩幅より広く足を広げ腰を落とし両の手を前と出し、こちらに顔を向けていた。


 自分の首に手を当てると少しではあるが、血が出ているのが確認できた。もう少し反応が遅れていればセリアの首が胴体から離れていた可能性がある。


 はっきりとセリアは骨人(スケルトン)を視界に収めていた。だがその姿が揺らぎ始めるとセリアの視界から消えていく。そして次の瞬間、真横から凶刃がセリアを襲う。


 避けるもその刃はセリアの頬を薄っすらではあるが傷をつける。


 一体どういうことだ・・・私の感知結界だけでなく、簡易ではある物の防御結界すらも掻い潜ってくるとは。


 『相手の隠密系スキルがこちらよりはるかに高いためだと思われます。』


 『あの骨人(スケルトン)の能力はそこまで高いと?』


 『目の前に立ちはだかるのは骨人(スケルトン)ではありません。個体名、ヴェイン・プロシリア。種族は人種です。』


 《オモイカネ》から告げられた鑑定結果はセリアの想像の斜め上を行くものであった。


 名前:ヴェイン・プロシリア

 種族:人間

 性別:男性

 年齢:52歳

 レベル:82

 状態:アンデット化、錯乱

 エーテル値:173000

 職業(ジョブ):暗殺者

 スキル:隠密、気配察知、闇属性魔法、二刀流、短剣術、体術

 呪い:永遠なる者、狂乱の宴

 その他:元帝国陸軍将校



 『人間・・・? どう見ても骨人(スケルトン)だろ。しかもレベルがかなり高い!』


 『彼の者には呪いが2つかけられています。そのうちの一つ《永遠なる者》によって不死の身体を得て、その代償に状態異常、アンデット化が付与されています。』


 『と、いう事は言葉が通じるのか?』


 『それは否です。彼の者は錯乱状態あります。これは二つ目の呪い《狂乱の宴》の・・・』


 「セリア様、アヤメさんの様子が!」


 突如、アルジェントの叫ぶ声が《オモイカネ》の説明を遮るようこだまする。


 アルジェント達の方に視線を向けると、アヤメが肩を落とし項垂れている。そして顔を上げたとき、そこには狂気に満たされたアヤメの顔があった。


 「セリア殿、奴から目を離すな!」


 老師の言葉に視線を再びヴェインに戻すと、そこに姿無く・・・その姿はセリアの真後ろにあり、脊髄に向けて刃が振り抜かれていた。


 寸前のところで防御結界を張り、その攻撃を防ぐが素早く繰り出される攻撃にセリアは防戦一方になっていく。ただしヴェインの攻撃はセリアの防御結界を打ち破るには至っていなかった。


 防御に徹すればそれなりに時間を稼げると考え、まずはアヤメの対処を最優先にセリアは指示を出し始める。


 『老師、聞こえますか?』


 『あぁ、聞こえておる。』


 『老師の結界で何とかなりませんか?』


 『先程から結界を張っておる。じゃが、どうもわしの結界ではこの効果を防ぐのは無理なようじゃ。』


 『テトラ、アースバインドでアヤメを拘束しろ!』


 『いいの?』


 『構わん。これ以上被害を広げるわけにはいかない。アヤメには後で私から謝っておく。』


 『わかったよ。』


 セリアから指示を受けたテトラは素早くアースバインドでアヤメを拘束する。


 アヤメが確認できる位置へとヴェインを誘導していたセリアは、アヤメを拘束した事を確認すると次にアルジェントへと指示を出す。


 『アル、アヤメを気絶させろ!』


 『・・・承知しました。』


 セリアの指示に躊躇ためらいながらもアルジェントは実行に移すが、今のアヤメには効果が無かった。アヤメは拘束されながらももがき続け、拘束している岩にひびが入り始めた。


 『セ、セリ、ア様・・・』


 『アル!』


 『も、申し訳ございません。わ、わた、し、も意識を、保つのが・・・』


 セリアの呼びかけに苦しさが滲み出たアルジェントの声が返ってくる。


 『説明の途中でしたが、この《狂乱の宴》の効果は周囲にいる者に対してもその効力を及ぼします。そして次々と伝染していきます。』


 なるほど、《狂乱の宴》とはよく言ったものだ・・・


 《オモイカネ》から説明の続きを聞き、この状況についての理解は済んだが、なにせ打開策がまったくもって見当がつかない。


 ーーーまずいな、このままでは、全滅までまっしぐらか・・・


 「きゅいーーーーん!!!」


 セリアが打開策について考えを巡らしていると、ラクスが鳴き声が響き渡る。鳴き終わるとラクスを中心として波動のような物が闘技場全体を包み込む。そして闘技場へと足を踏み入れた時から感じていた嫌悪感が嘘のように消え去っていく。


 「きゅいん!」


 ラクスがもう一鳴きするとラクスを中心とした結界が形成されアルジェント達を包み込む。


 セリアがアヤメに視線を向けると、アヤメの顔は先ほどまでの表情とは異なりいつも通りの愛らしい顔に戻っていた。


 『アル、大丈夫か?』


 『私は大丈夫です。アヤメさんも気を失っているみたいですが大丈夫そうです。』


 ラクスはいったい何をしたんだ・・・


 『《狂乱の宴》の解析結果をラクスと共有して一定時間無効にするフィールドをラクスに張ってもらいました。』


 えっ、いつの間にそんな事を・・・


 『今のうちに相手を制圧することを提案します。』


 セリアの疑問をそっちのけに《オモイカネ》は話を進めていく。


 『そんな事は言われなくてもわかっている。ラクスとの連携の件は後で詳しく報告してくれ!』


 『承知しました。』


 『《狂乱の宴》を解除するためには?』


 『アンチカーズを推奨します。ただし相手に直接触れる必要があります。』


 『老師、念のため防御結界をこのままお願いします。』


 『わかった。』


 これで一時とは言え後顧の憂いが無くなった。


 老師との念話を終えると目の前の敵、ヴェインへと意識を集中するセリア。


 自分の体内に濃密なエーテルを循環させながらも周囲に広く薄くエーテルを拡散していく。


 それでもセリアの攻撃はヴェインを確実に捉えるに程遠い状況にあった。それとは逆にヴェインの攻撃は確実にセリアを捉えている。


 セリアはそれを防御結界と反応速度の高さで致命傷を避けているに過ぎない状況。体力があるうちは問題ないが体力が尽きれば確実にその先は死である。


 そんな状況が暫く続く中でセリアは防御結界を自ら解除した。防御結界は有用であるが、この状況を根本的に解決する策には成り得ない。つまり、これを使用している限り戦闘の天秤がこちらに傾く事は無い。


 セリアは今まで以上にエーテルを広げる。そして目を閉じ意識を周囲にある全てと同化するように深くより深く鎮めていく。


 自身に向かってくる揺らぎのような何かを感じたセリアはその揺らぎを避ける。


 セリアの頬がぱっくりと切れ、血が宙を舞う。ヴェインの容赦の無い攻撃を何とか避けるもセリアの身体は傷が次から次へと増えていく。


 痛々しい程に傷ついていくセリアをラクスの張った結界の中から見ているアルジェントの唇からは血が微かに流れていた。


 目の前の出来事に我慢が出来ずアルジェントの身体は自然と動き出す。だが結界の外へと踏み出すことは出来ないでいた。


 サジがアルジェントの肩を掴んでいた。


 「アルジェント殿、今わしらに出来る事はセリア殿を信じてここで見守るだけじゃよ。」


 「ですがっ!!」


 「しっかりと見てみよ。」


 サジの言葉にアルジェントはセリアに目を向ける。


 まだ相手の攻撃を完全に避けることは出来ていないが、徐々にセリアへと当る攻撃の回数が減ってきている。そして遂には相手の攻撃を全て躱す光景がアルジェントの目に映った。


 セリアは少しずつではあるが、感じる揺らぎが鮮明化してきていた。最初はただの違和感に近い感じであったが、それが徐々に形を成し、今ではヴェインの形、間合いまでを正確に把握出来るまでになっていた。


 そして自身の攻撃が着実にヴェインに当たるようになってきた。


 『ラクスの結界の効果があと少しで消失します。』


 そんな中、《オモイカネ》よりリミットが迫っている報告を受ける。


 ここで決着を着けるべく、セリアはヴェインの攻撃に拳を合わせる。セリアの攻撃によりヴェインの拳は砕かれ短剣が宙に舞う。


 宙に舞った短剣を空いている手で掴み取る。ヴェインのもう一つの斬撃を殴った腕の肘と膝とで挟むようにして骨を粉砕する。


 そしてセリアは掴み取った短剣で肩あたりかヴェインの両腕を切り飛ばす。その上でアースバインドによって動きを拘束する。


 切断されたヴェインの腕は《永遠なる者》の効果により徐々に再生し始める。


 拘束しているヴェインに近寄ると、セリアはヴェインの頭に手を当てる。


 「アンチカーズ」


 解呪の効果によりヴェインの身体から黒い(もや)が立ち昇ると不気味な叫び声と共に消えて行った。今まで抵抗を続けていたヴェインが静かになっていく。


 再度ヴェインの鑑定を行うと、ステータスから《狂乱の宴》は消えていた。


 アルジェント達のもとへ戻り、アヤメを拘束している岩に触れと岩は砂のように崩れていく。支えを失い崩れ落ちるアヤメを抱きとめると静かに床に寝かせる。


 「うっんーー」


 アヤメから声が漏れると、薄っすらと目を開ける。


 「あれ、セリアねぇ。戦闘は?」


 「もう終わったよ。」


 「僕、なんで横になってるの? そう言えば頭の中に変な声が聞こえて・・・それから意識が遠くなって・・・」


 「そのことはもう忘れていい。それも解決したから。」


 ラクスがセリアの足に自分の頭をこすりつけながら、一鳴きする。


 「ラクス、お前もありがとう。」


 ラクスに礼を言いながらセリアが頭を撫でると、目を細めて気持ちよさそうに甘えてくる。


 「セリア様、まずはケガと体力を回復してください。」


 そんなラクスをアルジェントが抱き上げながらセリアに忠言する。


 「もっとゆっくりしたいけど、まずあれをどうにかしないとな。」


 アルジェントの言葉に従い自身のケガと体力の回復を行うと、ヴェインの方を向いて呟く。


 「セリア殿、なぜ魔物を討伐せずに拘束しておるのかの。」


 セリアの呟きが耳に入ったのか、セリアの傍まで来ると疑問を投げかける。


 「その事を含めて話があります。」


 サジにそう答えるとアヤメに声を掛ける。


 「アヤメ、もう立てるか?」


 「うん、大丈夫だよ!」


 「それじゃ、みんなあの骨人(スケルトン)のところまで来てくれ。」


 一同が骨人(スケルトン)の傍まで来たとき、丁度、カタカタと音が鳴り、気を失っていた骨人(スケルトン)が目を覚ました。


 ここまで来る間にセリはあの骨人(スケルトン)が人間であること、そしてあの姿が呪いの効果によるものだと簡単に説明をしていた。


 「こ、ここはどこだ・・・」


 声帯が無いのにどこから声を出しているか不可思議ではあるが、骨人(スケルトン)の声がはっきりと耳へと届く。


 「気分はどうですか?」


 アンデット化している人間にする質問としては不適切感はあるが・・・


 「あぁ、そんなに悪くはない。」


 「あなたの名前は、ヴェイン・プロシリアでよいのですよね?」


 拘束してる魔法を解除しながら骨人(スケルトン)に尋ねる。


 「あぁ、そうだが何故なま、え・・・」


 セリアの質問に答えながら自分の身体を見たヴェインは途中で言葉が出なくなっていた。そう、自分が身体が白骨化している、そんな事実に言葉を失っていた。


 「な、なんだこれは! なぁ、あんた、これは一体どういうことだ!」


 今の状況に慌てふためくヴェインは、セリアに詰め寄り矢継ぎ早に質問を投げかける。


 「ヴェインさん、無理かもしれませんがそれでも少し落ち着いてください。」


 「す、すまなかった・・・」


 ヴェインは掴んでいたセリアの肩から手を離すと、小さな声で謝罪を口にする。


 「申し訳ないが、私達も何故あなたがその姿になったかの経緯は分かりません。ただ人間の姿には戻せるかもしれません。」


 「本当か!」


 「変な希望を持たせるのも良くないので、はっきり言いますが、あくまでも可能性がある、というだけです。」


 「あぁ、それでもいい。可能性があるというだけで!」


 ヴェインは希望に満ちた声でセリアにそう答えた。


 「セリア様、とは言ってものどうやってもとに戻すのですか?」


 「分かった! セリアねぇ、取って置きの術式があるんだね!」


 アヤメは、また新し術式が見られると思い、ワクワクしながら手を挙げて話をする。


 「アヤメには申し訳ないが、今回はそんな派手な事は必要ないと思っている。」


 「じゃぁ、どうするの?」


 「取って置きの薬があるだろう!」


 セリアの言葉に考え込むアヤメは、答えが分かったのか勢いよく手を挙げる。


 「わかった~! エリクサー!」


 「そう、大量のエリクサーをヴェインにかければ解決するのでは、と思っている。まぁ、それで駄目ならそれこそアヤメの案の術式を試すしかないかな」


 セリアは一旦、最初の広間まで戻ると大量のエリクサーをストレージに格納すると闘技場まで戻ってきた。


 「さて、始めましょう。」


 ヴェインに開始を告げると、ヴェインを囲うように防御結界を展開する。そしてストレージに格納しているエリクサーを開いている上方から勢いよく流し込む。


 セリアは念のため上位の解呪魔法である神の吐息(セイクリッドブレス)を流し込んだエリクサーに付与する。


 ヴェインの身体に徐々に肉が付き、血管が走り、元の肉体が再現されていく。エリクサーが輝き出すと突如防御結界が砕け散る。


 そして、そこには年は50前後、精悍な肉体をしたロマンスグレーの人物が佇んでいた。


 成功である。


 「おぉーー!!!」


 一同から感嘆の声が漏れる。


 「よっしゃー!」


 ヴェインは自分の手を眺め、そして顔を触る。先ほどまでは無かった感触が手から伝わってくることに喜びを感じ叫び出した。


 骨の状態で元にもどれば、当然裸である。


 感嘆の声はすぐに鳴りを潜め、一同の視線は顔から徐々に下へと移っていく。


 「アルねぇ、前が見えないんだけど。」


 「アヤメさんは見てはいけません。」


 静かになった事に気が付きヴェインはセリア達に顔を向ける。そして皆の視線が下に向いている事に気が付く。そして一同の視線とアルジェント、アヤメのやり取りにやっと事態を理解したヴェイン。


 「うわぁーーーーーーーーーーー!!!」


 自分の下半身を隠し、叫び声を上げる。


 その叫び声は闘技場に全体に響き渡っていく。



誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。

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