第二十羽. 宝箱の中身はデスドラゴン
セリアとテトラがモンスターハウスに迷い込み、動甲冑の群れとの戦闘に明け暮れている頃、アルジェントとアヤメは、というと・・・。
「3層でも大分戦えるようになったね!」
「そうですね。エーテルを体内で循環させる感覚にも大分慣れてきました。」
アヤメとアルジェントは骨人を倒し終えると、自分たちの成長を改めて実感していた。
なにせ最初の頃は一階層の大量に湧く骨人の群れを越えられずに何度も逃げ帰ってきていた。
しかもアルジェントとアヤメは武器の使用をサジによって禁止されている。そのため二人とも素手で骨人との戦闘を行っている。
これはサジの方針でまずは自分の身体をきちんと操れるようにする事、そしてそれが出来てから武器を使った修行に入る、というものである。今ではアルジェントとアヤメはエーテルの制御の修行とは別に体術もサジから教えを受けている。
3階層への到達はセリアによるパワーレベリングの効果も大きいが、なにより二人の日々の修行が結果として今に表れているのは間違いないだろう。
「そう言えば、セリアねぇから連絡が全然来ないね。」
「そうですね。6階層に入る、と連絡があったのが最後ですね。こちらから何度か連絡しているのですが、いっこうに返答がありません。」
アルジェントとアヤメは修行が開始されてからセリアとはほとんど別行動であった。念話でつどつど連絡は取り合っているが6階層に入ったという連絡を最後に音信不通なのである。
「セリアねぇの事だから心配は無いと思うけど、なにかあったのかな?」
「心配ではありますが、まずは自分たちの事を考えましょう。あやめさん」
「了解、アルねぇ!」
アルジェントに返事をすると、アヤメは次の相手を探して駆け出す。そんなアヤメを追いかけるアルジェント。
アルジェント殿もアヤメ嬢ちゃんも着実に修行の成果が出ておる。何処まで強くなるか楽しみじゃな。
駆け出す二人の背中を眺めながらサジは二人に対してそんな事を思っていた。
「サジのじいちゃん! はやく~!」
「今行くから年寄りを急かすでない。」
返事をすると二人の後をサジも追いかけた。
そして、3階層の敵をほとんど倒した3人の目の前には、4階層へと続く階段が口を開けていた。
「さて、どうしましょうか?」
「今の僕たちなら大丈夫だよ。もし駄目なら即座に引き返せばいいじゃん!」
アヤメはアルジェントに答えながら、ちらっとサジの方を見る。
「もしもの時はわしがいるからの、大丈夫じゃろ。ただしわしが手を出す事態になったら即座に引き返すからの、それだけは言明しておくからの。」
それを見たサジは、しょうがないのぉ、といった顔をしながら下の階層へ行くことに賛同した。
「りょーかい! それでいいよね、アルねぇ?」
「分かりました。サジ様がそう仰るのであれば、私に異存はございません。」
結果から言うと、それほど心配する事態にはならなかった。
4階層には弓兵、術士、戦士といった骨人の上位種が徘徊していたが、今の二人にとってはさほど脅威となるような相手ではなかった。
それでも疲労が蓄積するスピードは3階層までと比べれば格段に速くなっていた。
その要因は主に敵種の増加に伴い敵の攻撃のバリエーションが増えた事、単純に敵の攻撃力が高くなっている事の2点である。
それでも4階層の敵を駆逐するには十分な力量を二人は有していた。
5階層へと続く階段の前で少しの休憩を挟んでいるとき、アヤメがふと、疑問を口に出した。
「サジのじいちゃん、セリアねぇの事で一つ質問があるんだけど。」
「なんじゃ。」
「僕らってエーテルの使い方と体術を教わってるよね。セリアねぇはエーテルの使い方は教わっていたけど体術いいの?」
「アヤメ嬢ちゃんは気が付いておらなんだか。セリア殿の体術はかなりのレベルじゃよ。単純な体術の技術だけの戦闘ならわしよりも強いかもしれんのぉ。なので今更わしが教える事など殆どない。ゼロとは言わないがの。セリア殿よりおぬし達の修行に時間を費やした方がここから脱出するにも有意義じゃからの。」
何気ないアヤメの質問であったが、思いもよらない回答が返ってきた。
「アルねぇは気が付いていた?」
「私もそこまでとは思っていませんでした。」
「さて、休憩は終わりじゃの。下の階層に進むとしよう。」
サジの言葉に腰を上げると一同は5階層へと踏み出していった。
5,6階層を何事も無く突破した一同は7階層へと到達した。
そこは長い回廊が一直線に続くだけで敵の存在が全くなかった。それは8階層も同様で、そのまま何の障害も無く一行は9階層へとたどり着いた。
9階層が、7,8階層と違ったのは回廊の中央に一つの宝箱が不自然に置かれていた事である。
「アルねぇ、宝箱があるよ。なにかいいもの入ってるかなぁ~!」
「アヤメさん、ちょっと待ってください。どう考えても怪しいです。」
「仮に何かあっても今の二人なら何とかなるよ!」
アルジェントの制止を聞かずにアヤメは宝箱へと近づくと、手をかける。
宝箱と開けると、そこからは煙のような物が立ち込め、アヤメはそれに飲まれていた。
「アヤメさん、早くそこから離れて下さい!」
煙の中に巨大な影を捉えたアルジェントはアヤメにそこから離れるように促すも・・・
「くはっ!!!」
返ってきたのは壁まで吹き飛ばされた衝突音と微かなアヤメの苦悶の声であった。
「ガァァアアアアアアアアッ!!」
その巨大な影の咆哮は大気を震わし、徐々に晴れる煙から姿を現したは、全身が骨のみで形作られた双頭の竜、その名を双頭の死竜。
双頭の死竜の咆哮に、アルジェントはその身に本能的な恐怖が込み上げていた。
その巨大な頭の一つをアヤメに向けた双頭の死竜は、その巨大な顎を開き襲い掛かった。
「挑発!」
その牙がアヤメに届く寸前で動きを止ると、双頭の死竜はアヤメに向かっていた頭をアルジェントへと向け直す。
委縮していた自身の身体を何とか奮い立たせたアルジェントは辛うじて双頭の死竜の敵意を自身に向ける事に成功した。
「サジ様、今のうちにアヤメさんをお願いします。」
「わかった! それと武器の使用を許可する。」
サジの言葉にアルジェントは剣と盾を自身のアイテムボックスから取り出すと双頭の死竜の攻撃をさばき始める。
「アヤメ嬢ちゃん、大丈夫か。」
「いってて。とりあえず大丈夫。防御結界をギリギリで張ったから。」
素早くアヤメのもとに駆け寄り声を掛けると、思いの外元気な声で返事が返ってきた。
「それにしてもいった、い・・・」
自分の視界に入った巨大な化け物にアヤメは言葉を飲み込み、駆け寄ってきたサジに顔を向ける。
「アヤメ嬢ちゃん、戦えるか?」
大丈夫そうなアヤメに安堵しながらも、サジは厳しい表情でアヤメに問うた。
「やらなきゃ!」
サジの問いに少しの間沈黙していたが、自身の顔を両手で叩くと勢い良く立ち上がる。そしてサジに顔を向けると一言口にした。
ーーーそうだ、これは僕が招いたことだ、逃げるわけにはいかない。ましてアルねぇ一人で戦わせるわけにはいかない。それをしたら・・・二度とアルねぇ、と呼べなくなる。
そう心の中で自分を奮い立たせると、心なしか力が湧いてきた。
「なら行ってきなさい。なに、もしもの事があったらわしがいる。思いっきりやってきなさい。」
「うん、行ってくる!」
送り出したアヤメの後ろ姿にサジは言い得ぬ感覚を覚えた。そしてアヤメの背後に一瞬人影のようなオーラを目にしたが、瞬きをした時にはそれはまるで錯覚かのように消えて無くなっていた。
アルジェントは双頭の死竜の攻撃を凌いでいるが、攻めあぐねていた。それは盾にしろ剣にしろ全力で振るう事が出来ないでいた。
それは今の自分の力に装備している武器が追い付いていなかった。
そんな時、突如として大火力の炎が双頭の死竜の側面を襲った。その攻撃の威力に双頭の死竜の身体は大きくよろめいた。
「アルねぇ、遅れてごめん!」
「今の攻撃はアヤメさんが?」
「うん! 自分でもよく分からないんだけど、なんか頭の中にいろんな術が浮かび上がってくるんだ」
そうアルジェントに答えるとアイテムボックスから剣を取り出す。
「アルねぇ、僕の浅はかな行動でこんな事になってごめん。」
「そんなことは気にしていません。それよりも無事で良かったです。」
「アルねぇ、ありがとう。じゃ、こいつを早く倒しちゃおう!」
言うや否やアヤメは双頭の死竜の首目がけて飛びあがった。そして剣を振り下ろす。
アヤメの攻撃は双頭の死竜の首に僅かな罅を入れたが、代償にアヤメの持つ剣は半ばから折れていた。
自分の攻撃が相手に届かに事に驚きを感じながらも即座に次の手段にアヤメは打って出た。
「燎原赫怒!」
双頭の死竜の周りの出現した炎は一瞬にしてが劫火となり、その巨体を飲み込んでいく。
最初こそ抗っていたが、徐々に静かになっていく双頭の死竜にアルジェントとアヤメは戦闘態勢を解除した。
「何をやっておる、まだじゃ!」
サジの声と同時に二人を双頭の死竜のブレスが襲う。
辛うじて反応したアルジェントが防御態勢に入ったが、徐々に盾が崩れ始める。
このままじゃ、盾がもたない・・・どうすれば。
「よいかアルジェント殿、修行を思い出すのじゃ。」
すぐ後ろからサジの声が聞こえてきた。後ろを振り返るとそこにはサジがいた。
「サジ様、なぜそこに!」
「ギリギリ、滑り込めたわ。そんな事より修行を思い出すのじゃ。」
サジの言葉にアルジェントは今までの事を思い出し、自身を巡らせているエーテルを盾にも同様の事を行い始めた。
「そうじゃ、それでよい。纏いの領域を武器にも拡張するのじゃ。」
今までの圧力が嘘のように軽くなり、盾の崩れるのが治まった。
ブレスが止むとそこには、半分以上が炭化した双頭の死竜の姿あった。
「では、これから反撃といくかの」
サジの言葉にアルジェントは一気に駆け出すと双頭の死竜の懐へと潜り込む。
「シールドバッシュ」
その威力は骨を砕き双頭の死竜を仰け反らせるには充分であった。
仰け反りながらも双頭の死竜は自身の手をアルジェント目がけて振り下ろすも・・・
「そうはさせないよ! フレイム・レイン!」
その攻撃はアヤメの攻撃によって阻まれる。アヤメの攻撃は雨のように炎の矢が降り注ぎ双頭の死竜の動きを止めていた。
「アルねぇ、いまだよ!」
「ブレイド・オブ・ジャッジメント!」
この技は本来、地面に描かれた魔法陣から無数のエーテルの刃が出現する技であった。しかし、今目の前で起こっている事象は全く別物になっていた。
その技は双頭の死竜の八方向に魔法陣を出現させると、そこから無数のエーテルの刃が出現させ、その内の一本は長く突出している。そして丁度中心で交わるようになっていた。そう、ガンマナイフのように。
そのような状況にも拘わらずまだ足掻く双頭の死竜にアヤメはダメ押しの一撃を加える。
「これで滅べ! 蒼炎滅却陣!」
無数に出現した魔法陣から蒼白い炎の槍が出現し、中心に向かい放たれる。
二つの攻撃によるエネルギーは中心にて相乗効果により莫大なエネルギーとなり集積されていく。やがてそのエネルギーは外に向け解き放たれる。
足掻き続けた双頭の死竜もその身も一瞬で消滅し、その余波はアルジェント達を襲い始めた。
「これはまずい!」
危険を察知したサジは防御結界を張るも、そのあまりの威力に徐々に結界に罅が入り始める。
どうにかこの二人だけでも・・・
その願いも虚しく結界はあっけなく砕け散った。
流石のサジも自身の最後を覚悟した。
だがサジ達を襲ったエネルギーはサジ達を消滅させることなく跡形も無く消えていた。
何故無事だったのかさっぱりと理解が出来ないでいたが、とりあえず無事であることに安堵した。
サジも今回ばかりは気を緩め床へと腰を下ろした。
サジがアルジェントとアヤメに声を掛けようとしたとき。
「みんな無事か?」
セリアの声が三人の耳に届く。
三人の傍まで来るとエリクサーを取り出し、三人へと渡す。
「老師、アルとアヤメの事ありがとうございます。」
「なに気にするな。それに二人はわしが居ずとも問題なかった。」
「セリア様、ご無事でなによりです。」
「セリアねぇ、ところで頭にのせているのはなに?」
セリアが頭に乗せているもののあまりの可愛さにアヤメは目を輝かせながら、セリアに詰め寄る。
「こいつの事も含めて話があるから、休憩がてら情報共有しよう。」
数分後用意が整ったテーブルの上にはサンドイッチとコーンスープが配膳されていた。そして食事をとりながら今までの事を話し始めた。
セリアは6階層でモンスターハウスに迷い込んだ事、宝物庫でラクスと出会った事などを掻い摘んで話をした。従魔になったランスロットやワルキューレにエインヘリアルについても話をした。
アルジェント達の話を聞き終えた時、サジから一つの質問があった。
「あの莫大なエネルギーはどうやって消滅させたのかのぉ?」
「あれは私のスキル《ソウルイーター》です。なんかスキルが成長したようで、ああいったエネルギーも吸収できるようになったんですよ。」
さらっというセリアに驚いた顔を三者三様で見せていた。
「それと、アル、アヤメ。先ほど二人のステータスを確認したが、称号に竜狩りが表記されていたぞ。」
セリアの言葉に初めは言葉の意味が分からなかったのかきょとんとした顔をしていたが、その意味が分かると喜びの表情を現していた。
特にアヤメは立ち上がり暫くの間騒いでいた。
冒険者であれば、竜狩りは喉から手が出るほど欲しい称号だ。
騒いでいるアヤメを横目にセリアはサジに腕輪を手渡した。
「セリア殿、これは?」
「これは眷属の腕輪というもので、装備中は私の眷属扱いになるというものです。」
「その名はわしも知っておる。確か装備したら取り外せなかったはずじゃが。」
「そこは手を加えてその呪いみたいな機能は無くしました。なので取り外し自由です。」
「そうか、ならありがたく使わせてもらおう。」
そう言うとサジは何の躊躇いも無く腕輪を身に着けた。そして取り外しも出来る事を確認した。
「ほう、これでわしも前線に出られるのぉ!」
「老師、頼りにしてますよ。」
「若者に頼られるのもよいもんじゃの。」
サジの言葉に笑い漏れ、和やかな時間が暫く続いた。
そして休憩を終えた一同は10階層に向け出発した。
誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。




