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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第二章 始原の迷宮編
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第十八羽. 修練の日々


 目を覚ましたセリアの視界には再び無機質な天井が映っていた。


 「ようやく目を覚ましたようじゃの。」


 サジの言葉にアルジェントをはじめとする顔ぶれがセリアの周りに集まってきた。


 「セリア様、お加減はいかがですか?」


 「あぁ、問題ない。」


 アルジェントの不安そうな声に対して心配させまいと返事と共に起き上がろうとするが、そんなセリアの意思に反して言う事を聞かない身体があった。そしてセリアは全身を襲う痛みに顔を歪めていた。


 「セリア殿、お主は暫く横になっておれ。」


 「サジのじいちゃん、セリアねえは大丈夫なの?」


 アヤメの頭をなでると、サジはセリアの横に腰を下ろすと、


 「セリア殿について話をする。おぬしたちにも無関係というわけでなないので座りなさい。」


 サジに促されアルジェントとアヤメもセリアの周りに腰を下ろす。テトラはセリアの手にちょっと触れると、アルジェントの膝に移動していった。


 全員が座るとサジはセリアの状況について話し始めた。


 「簡単に言うと、”気”の使い過ぎじゃな。」


 「使い・・・すぎですか?」


 「僕たちも起きるの?」


 「言うたであろう。当然、おぬしたちにも起きる事象じゃよ。ただ誰にも起きる事じゃない。セリア殿もそうだが、おぬし達も保有する”気”の量が異常なまでに多い。それが原因のひとつじゃな。」


 「どーゆうこと?」


 アヤメはサジの言葉が全く理解できず、頭の上に疑問符を浮かべながらサジに問い返した。顔に出ていないが、隣で聞いていたアルジェントも同様の疑問を抱いていた。


 「わしらには”経脈”という言葉がある。こちらにそれに該当する言葉があるかは分からんが、体内にある”気”が通る道のことじゃな。保有する”気”の量が多くても、それが通る道が細く、弱ければ一度に使える量が少なくなる。無理して一度に大量の”気”を使おうとすれば、道がボロボロになる。今回のセリア殿のようになる、というわけじゃよ。」


 「セリア様はその”経脈”というのが傷ついているため、今の状況になっていると。」


 「そういうことじゃ。ここに来た時には既に重傷だった。かなりの激痛が走っていたと思うぞ。そして先程の術式が駄目押しじゃな。」


 「それで、セリ」


 「セリアねえは治るの? ねぇ、どうなの。サジのじいちゃん。」


 アルジェントの言葉を遮り、アヤメはサジに詰め寄る。その真剣な眼差しを受けて、サジは柔和な顔を見せる。


 「大丈夫じゃよ。本来ならここまでになると治すのも一苦労じゃが、今回はあれがある。おぬし達の傷を治した。あれがな。」


 サジは立ち上がると広間の中央に向かって歩き始めた。


 「僕が汲んでくるよ。」


 「なに、気にするな。アヤメ嬢ちゃんとアルジェント殿はセリア殿のそばに。」


 セリアが広間中央に視線を向けるとそこには一体の彫刻があった。そう迷宮(ラビリンス)への扉が開いた時に出現した石像である。それは岩の上に裸の女性が片膝を立てて座っており、肩に水瓶を担いでいた。その水瓶からは水のような液体が流れ出ていた。そしてその彫刻を囲うように円状に石材が並べられていた。


 『流れ出ている液体は、万能薬、エリクサーとも呼ばれているものです。』


 『そんなものが実在するのか?しかも湯水のように流れ出ているぞ。』


 『エリクサー自体は存在します。あれがどのようにエリクサーを生成しているかは解析不能。』


 『分かった。あれは一旦放っておこう。』


 「サジのじいちゃん、汲んでくる入れ物がないけどどおするの?」


 「そうじゃの、セリア殿には申し訳ないが布に染み込ませてくるしかないかの。」


 サジは自分の袖口の布を指さして答えるも、それを見たセリアは流石にそれはないなぁ、と思いストレージにある木製のコップを床に出現させる。


 「サジ老師、それを使ってください。」


 コップを拾い上げたサジがエリクサーを汲みに言っている間、改めて二人を見ると戦闘での傷が綺麗さっぱりと消えていた。


 「セリアねえ、あの液体すごいんだよ。傷だらけだったのに。」


 セリアの視線に気が付いたアヤメが今までの戦闘で傷だらけだった腕を見せ、傷痕が一切に無くなったことをアピールしてきた。


 「しかもね、疲れ切っていた身体も軽くなってるし!」


 アヤメの言葉に二人が無事でよかったと安心するセリア。そこへエリクサーを汲んだサジが戻ってきた。


 アルジェントに支えられ上半身を起こすと、サジからエリクサーを受け取ったアヤメがセリアの口元へと近づける。


 セリアはエリクサーを少量を口に含みゆっくり飲み込む。すると、今まで痛みが嘘のように和らいでいった。アヤメからコップを受け取り、残りを一気に飲み込む。残っていた痛みも全てなくなり。心なしか身体が以前より軽くなった気さえした。


 立ち上がり身体を軽く動かし状態を確認するセリアに。


 「セリア様、お身体に異常はありますか?」


 「あぁ、問題ない。今度こそな。それと三人には心配をかけたな。すまない。」


 セリアの返事にアルジェントとアヤメは心から安堵の顔を覗かせる。そしてセリアの肩に飛び乗るテトラも嬉しさを表現していた。


 「セリア殿が無事でなりよりじゃ。さらにエリクサーがセリア殿の状態でも回復可能と分かったのは僥倖(ぎょうこう)じゃな。」


 「サジ老師、心配をおかけしました。」


 「なに気にするな。それに弟子の心配をするのは当たり前じゃからな。」


 頭を下げるセリアの頭に手を乗せると、サジはわしゃわしゃっと頭を撫でながら言葉を返した。


 「さて、これからじゃが、どうする。」


 ぐぅうううううーーー!!!


 サジの言葉を遮るように音が響いた。


 「ご、ごめん。僕の、お腹の音、です・・・」


 顔を赤らめながらアヤメが名乗り出た。その様子に一同が笑いだすと、アヤメは恥ずかしさから身を縮めていた。


 「食事にしようか。」


 「やったー! 僕、お腹減ってたんだ!」


 セリアの一言に、アヤメはお腹に手を当てながら喜び一杯の顔ではしゃいだ。


 「アル、テトラ、この間と同じなるが、カレーでいいか?」


 「セリア様の手料理なら何でも!」


 『ぼくはカレーだいすきだからいいよ~』


 「セリアねえ、カレーってなに?」


 「それは出来たからのお楽しみだ。」


 アヤメの質問に答えながらセリアはストレージからテーブル、椅子、食器類を取り出し、


 「アル、アヤメ、これらを並べて」


 二人に支持を出す。次にカレーの入った鍋と簡易コンロをストレージから取り出し、鍋を火にかける。カレーを温めている間にオーク肉で作ったカツを取り出す。カツもカレー同様に前日に調理は済ませている。あとは切り分けるだけだ。


 この世界では魔物の肉は食用としても重宝している。魔物のランクが上がるとそれだけ美味しくなるらしい。その中でもオーク肉はわりと一般的に食される肉だ。


 カレーが温まると、食欲をそそらせる香辛料の香りが立ち込めてくる。それを皿に盛ったご飯、カツの上にかけていく。


 「出来たぞ!」


 カレーが盛られた皿をテーブルに並べ終わると、今か今と待っている面々に声をかける。


 意の一番に席に着いたアヤメはカレーを見て顔をしかめる。


 「セリアねえ、これ大丈夫なの?」


 聞いた事も見た事もない食べ物、しかも色が茶色。アヤメの反応は当然といば当然なのかもしれない。


 「騙されたと思って食べてみてください。美味しいですから。」


 アヤメの隣に座ったアルジェントは声をかけると、カレーを食べ始めた。それを見たアヤメもスプーンですくうと恐る恐る口へ運んだ。


 「美味しい・・・」


 その後は、何も言わず一心不乱にアヤメはカレーを食べていた。遅れてやってきたサジも初めて見るカレーに舌鼓を打った。


 食事の後片付けを済ませると各自の修行へと入っていった。アルジェント、アヤメはサジ指導の下全身にエーテルを巡らす修行を実施。何故かテトラも興味を持ち一緒にその修行を行うことになった。今でもテトラは貴重な戦力であるのは間違いないが、これがこの先の迷宮(ラビリンス)攻略に大いに貢献することになるとは、誰も思っていてなかった。


 その間、セリアは巡らせた状態を長時間維持するための修行を行っていた。セリアは修行に入る前にサジからあることを言われた。


 「セリア殿、自分で殆ど”気”の制御を行っておらんだろ。”気”の循環の修行は”気”の制御にも通じる。修行を通じて自分の力の制御を身に着ける事じゃ。さすれば、これからの戦いの幅も効率もあがるじゃろう。心して修行されよ。」


 確かにセリアはエーテルの制御を《オモイカネ》にほぼほぼ丸投げしていた。セリアのエーテル量はかなり多く制御だけでもかなりのリソースを要する、というのが《オモイカネ》の報告であった。そして全部ではなくてもセリアがある程度自分で制御すれば、その分他にリソースを回すことが出来る。要は”自分の事は自分でやってください”、というのが《オモイカネ》からの提案であった。


 あれから14日が経過していた。もう少し正確にいうと、14日と10時間32分といったところか。


 何故正確な経過時間が分かるのか、それは《オモイカネ》が正確に経過時刻を計測していたのだ。優秀なスキルである。


 アルジェント達の中で予想外の才能を見せたのが、テトラである。アルジェントとアヤメがまだ苦労しているなか二日ほどで習得していた。


 セリアは2日ぐらいなら、維持できるようになっていた。そしてエーテルの制御も通常戦闘であれば問題ないほどになっていた。何よりチャクラを解放せずとも、第二階梯と同等以上のエーテルが扱えるようになっていた。


 そしてテトラも4,5時間なら維持できるところまで来ていた。そのためセリアとテトラはパワーレベリングも兼ねて迷宮(ラビリンス)を探索していた。


 襲い掛かる骨人(スケルトン)の群れを片っ端から消滅させ、魔石を回収していく。探索と殲滅(サーチ&デストロイ)を繰り返し、迷宮(ラビリンス)を突き進んだ。そして今セリアは6階層に到達していた。5階層までは、入り組んだ迷路のようではあったが、(トラップ)は全くなかった。階層が進むにつれ、骨人(スケルトン)の種類が増えて行った。今は弓兵(アーチャー)術士(メイジ)戦士ウォーリアなどが徘徊している。また、屍喰人(グール)動甲冑(リビング・アーマー)といった骨人(スケルトン)以外の魔物も姿を見せるようなった。


 探索中もセリアは徐々に流すエーテル量を増やし、経脈にかかるを負荷を少しずつ上げていた。そして傷んだ経脈をエリクサーで回復といった何とも贅沢な行軍を進めていた。


 マップを埋める事も目的の一つにしていたこともあり、そこに魔物がいない事が分かっていても、そこまで足を運んでいた。6階層を探索中のそんな折、ある袋小路に出くわす。周囲に何もないことを確認し引き返そうとした時、地面に魔法陣が浮かび上がり光だした。眩しさに腕で顔を覆うセリアと驚きにセリアのフードに逃げ込むテトラ。そんなセリア達を光が包み込む。眩しさが薄れセリアが目を開けるとそこには見知らぬ広い空間が広がっていた。そして自分達が転移させられた事に気が付く。


 暗闇が支配者しているその空間は、目を凝らしても周りの様子をうかがう事が難しかった。ただセリアの探知に周りに魔物がいない事だけは確かだった。


 突如、セリアの周りが明るくなる。それは松明による明かりで、それは左右の柱に設置されていた。松明が手前から奥に向かって次々と灯って行く。そして転移した場所の全容が次第に露わになっていった。最後まで灯り切ると、奥には玉座のようなものが数段高くなったところに置かれていた。


 それと同時に周囲のエーテル濃度が高くなり、セリアは圧迫感を覚えた。そして何処からともなく動甲冑(リビング・アーマー)が次々と出現し、目の前が埋め尽くされていく。


 セリア達が転移させられた部屋は、モンスターハウスだった。


 「さぁて、刈りつくすぞ、テトラ!」


 今までフードの中に隠れていたテトラが飛び出すと魔物の群れに向かい元素砲エレメンタル・ブラストを放つ。だが空いた空間がすぐに埋め尽くさる。


 そんな状況に笑みを見せると、セリアは動甲冑(リビング・アーマー)の群れに突っ込んでいった。今のセリアにとってこの程度は何の障害にもならず、一撃のもとに動甲冑(リビング・アーマー)は葬られていった。


 セリアの後に続いてテトラも群れの中に突入していく。テトラの目にも目の前の魔物は歯ごたえなく映っていた。


 どれぐらいの時間が過ぎたのか分からないが一向に状況が進展していなかった。そして徐々にではあるが敵の強さが増していた。


 そんな中、セリアは自分の後方に気配を感じ、抜き手で腕を突き出す。セリアの腕には何かを貫いた感触が確かに伝わってきた。姿を現したのは隠密系スキルを持つ動甲冑(リビング・アーマー)であった。これを皮切りに術士(メイジ)弓兵(アーチャー)暗殺者(アサシン)といった別種の数が目立ちはじめてきた。


 セリアはまだ余裕があり問題なかったが、今まで当たることの無かった魔物の攻撃がテトラに当たりはじめた。それはテトラと魔物との力の差が埋まり始めてきた事を意味していた。何よりもテトラに疲れの色が見え始めていた。


 近接だけでなく、遠距離からの弓矢、魔法による攻撃、見えない視覚からの攻撃、なによりこの戦闘がいつまで続くか分からない、そんな状況に危機感をセリアは感じ始めた。


 『敵個体数が減少に転じました。』


 そんな時、《オモイカネ》から明るい知らせが入る。


 危機感を抱いてはいたが、機械的作業になっていたこの状況にセリアは若干辟易していた。《オモイカネ》からの報告では、これ以上の出現がないと判断したセリアはこの戦闘にピリオドを打つべく殲滅行動を取る。


 『テトラ、さがれ!』


 セリアの言葉にテトラは素早く反応する。それを確認したセリアは詠唱を破棄して術式を行使する。


 「氷獄術式 氷釈」


 セリアの術式は目の前に幻想的な空間を作り出した。そこには美しく写実性の高い氷の彫像群が出現していた。セリアの術式は詠唱破棄でも眼前の敵をすべて氷つかせるだけの威力を有していた。


 パチン!


 セリアが指を鳴らす音が辺りに響く。その音と共に氷の彫像は次々と粉々に砕け散っていった。砕けた氷の破片が明かりを反射してダイヤモンドダストのような光景を目の前に作り出した。


 そして初めから何もなかったかのように全てが消えうせ、静寂が包み込んだ。


 転移の魔法陣が出現するかと思いきや、現状に何も変化が起きなかった。


 『テトラ、少し休んでから辺りを探索しよう。』


 『わかった~』


 テトラからの返事を受け、休憩を取ろうとセリアが気を緩めたその時。


 『今までよりも高濃度エーテルが玉座に集まっています。』


 『あぁ、わかっている。』


 セリアが玉座の方に目を向けると、今まで何もいなかったはずの玉座のその横に巨大な両手剣を携えた甲冑が佇んでいた。


 下を向いていた頭が上がり、こちらを見つめるその眼が怪しく灯る。



誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。

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