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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第一章 来訪編
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第十二羽. ギルドからの指名依頼


 翌日の昼過ぎ。


 セリアはアルジェントを伴い、ローレルの冒険者ギルドを訪れていた。そして今、セリアは理解に苦しむ状況に置かれていた。


 自分の身長を優に超える大男に、何故か耳を鷲掴みにされている。


 話は少し前に(さかのぼ)る。


 セリアたちは受付のティアから昨日の件について報告を聞くために、冒険者ギルドを改めて訪れていた。


 昨日、セリアたちが森から戻った後。ハロルド率いる冒険者たちは周辺を徹底的に捜索したが、半径一キロ圏内にゴブリンの姿はおろか、巣の痕跡すら見つからなかったという。


 さらに、セリアたちが討伐したゴブリンの中には魔石を保有している個体もあり、その処理と買い取りを済ませていた。


 ティアから一連の報告を聞き終えたところで、手続きはひと段落する。


 「今日は、どうなさるご予定ですか?」


 「今日は休もうかと思っています」


 そう尋ねられたセリアは、少し考える素振りを見せてから答えた。昨日の事を考えれば、妥当な判断だろう。ティアも安堵したように微笑み、頷いた。


 「そうですか。昨日は大変でしたからね。ゆっくり休んでくだーー。」


 ティアの言葉を遮るように、横合いから割り込む声。


 「よう姉ちゃん。」


 低く、粘つくような声。振り向くより早く、セリアの視界に巨躯(きょく)が入り込む。セリアの背を優に超える体躯に、分厚い肩、岩のような腕。顔を必要以上に近づけ、男は馴れ馴れしく笑った。


 「俺の名はゴズ。Cランクの冒険者だ。それと”獣の咆哮(ビーストロア)”のリーダーをやってるっ。」


 男は名乗りながら、品定めするようにセリアを上から下まで眺め回す。そして、何のためらいもなく、その手を伸ばした。


 「・・・っ。」


 セリアの腰から下、臀部(でんぶ)にかけて、下卑た感触が走る。


 「いい身体してるなぁっ。どうだ俺の女にならないか?なんなら、そっちメイドも一緒に面倒見てやる。冒険者なんぞやらなくても、遊んで暮らせるぞっ。」


 下卑た笑みが張り付き、相手を見下す視線。相手を対等な存在と見ていない。それは一目瞭然であった。


 ーーー面倒くさい。


 胸の内に渦巻く感情を隠そうともせず。セリアは自分のお尻を鷲掴みするゴズの手を思いっきり振り払う。


 「申し訳ありませんが、その申し出は断らせていただきます。」


 淡々とした声だった。


 「理由はいくつかありますが・・・まず一つ目、あなたの顔が私の好みではありません。」


 ゴズの笑みが、ぴくりと歪む。


 「二つ目・・・これが最大の理由ですが。」


 セリアは一歩だけ距離を取った。


 「あなたといるより・・・自分で冒険者として活動した方が、よほど稼げるからです。ですから・・・。」


 冷たい視線を向け、言い切る。


 「さっさと、その汚い顔を私の視界から除けてください。」


 一瞬、ゴズはその言葉を理解できず、言葉を失い沈黙する。だが、意味が脳裏に染み込んだ途端、顔を赤くし、青筋を浮かべた。


 「・・・虚仮(こけ)にしやがって!」


 怒号と共に、距離が一気に詰まる。


 「獣風情が調子にのるなよっ。こちらが下手(したて)に出ればっ!」


 ゴズの左手が、セリアの耳を鷲掴みにした。


 「その耳引きちぎって、一生、奴隷として飼ってやるっ!」


 微かな痛みと共に、周囲の空気が一変する。



 ◇◇◇◇◇◇


 そして、今に至る。


 ゴズと名乗る男に耳を鷲掴みにされ、唾を飛ばしながら暴言を吐き散らされている。


 実に理解しがたい状況だった。


 ーーーやれやれ、この男は下手(したて)という言葉の意味を本当に理解しているのだろうか?


 セリアは呆れた表情を見せ、冷めた視線をゴズに向ける。


 ーーー身体目当てで声を掛け、触れ、脅し、それで下手(したて)とは・・・そもそも、この誘いに応じる女性が存在すると本気で思っているのだろうか。


 後方を確認すると、そこでは二人の男がアルジェントを前後から挟み込むように囲んでいた。恐らくはゴズのパーティ、獣の咆哮(ビーストロア)のメンバーだろう。


 『アル、私が”いい”というまで手を出すなよ。』


 『承知しました。』


 念話が一瞬で交わされる。


 セリアは掴まれた耳に力が込められていくのを感じながら、鋭く言い放った。


 「俗物、私の耳から、その(けが)らわしい手を・・・今すぐ放せっ!」


 先程までの丁寧な口調が跡形も消え、表情が一変する。明確な敵意と冷気を帯びた声に、ゴズは一瞬だけ気圧されたように目を見開く。


 だが、それも束の間だった。


 「はっ・・・強がりか?」


 セリアの言葉に顔を歪めながら、さらに顔を近づけてくる。


 「お前が、俺の女になるなら放してやるって言ってんだよ。さぁ、言えっ、懇願しろっ、”女にしてください”ってなぁっ!」


 「やれやれ・・・」


 深く、呆れた息を吐く。


 「お前、ここが冒険者ギルドの中だということを・・・忘れていないか?」


 「問題ない!」


 ゴズは胸を張り、声を張り上げた。


 「俺はCランク。この街じゃ数少ない高位冒険者だっ。多少の揉め事くらい・・・どうとでもなる。」


 「・・・わかった。」


 それ以上、聞く価値はなかった。


 セリアは右手を伸ばし、自分の耳を鷲掴みにしているゴズの左手首を、静かに掴む。


 次の瞬間、一気に力を込めた。


 乾いた音が響き、複雑に組み合わさっていた手根骨が、まるで粘土細工のように形を失った。セリアの掌には、肉の中で骨が砂利へと変わる不快な振動が伝わってくる。


 「ぐあああぁぁっ!? お、俺の腕がぁぁ!!」


 悲鳴と共にゴズの顔が苦悶に歪み、涙と汗を撒き散らす。それでもなお、敵意を剝き出した瞳でセリアを睨め付ける。


 「き、きさまぁ・・・やりやがったなっ!」


 痛みに耐えながら、右手を剣の柄へと伸ばす。だが、ゴズが抜刀するよりも早く、セリアの左手がそれを阻止していた。


 「ギルド内で、それを抜く意味を・・・理解しているのか?」


 睨み返してくるゴズの瞳は、怒りと激情で濁っている。


 ーーー本当に・・・面倒くさいことこの上ないな。


 内心でそう吐き捨てながら、セリアは念話を飛ばす。


 『アル、やれ。ただし殺すなよ。タイミングは私が作る。』


 同時に剣の柄から、ふっと左手を離す。


 「ばかがっ、死ねぇっっっ!!!」


 手を放した瞬間、嘲笑と共に振り抜かれる剣。だが、その刃が捉えたのは、何もない空間だった。セリアはただ、ゴズの頭上を飛び越え、背後へと回っただけ。しかし、ゴズの目にはセリアが一瞬にして消えたように映った。


 セリアを見失い、理解が追いつかず呆然としているゴズ。セリアの正確無比な手刀が、首筋に叩き込まれる。意識は一瞬にして刈り取られ、巨躯(きょく)は糸の切れた操り人形のように重力に逆らうことなくその場へ崩れ落ちた。


 セリアの視線の先では、ゴズの倒れた姿に気を取られ、二人の意識がアルジェントから外れる。その隙を逃すほど、アルジェントは甘くない。


 まず左後方の男の顎に掌底を畳み込む。骨を打つ感触と共に、意識を刈り取る。間髪入れず、もう一人の男の鳩尾(みぞおち)へ左拳が突き刺さる。短い呻き声を上げながら、膝から崩れ落ちていく。


 ーーーこの状況下で、対象から意識を逸らすとは。本当に高位冒険者なのだろうか?


 そんな冷ややかな感想を抱きながら、自身が打ちのめした二人にアルジェントは冷酷な視線を向ける。


 ーーーセリア様に対する無礼。万死に値しますっ。手足の一本や二本は・・・。


 アルジェントが行動に移そうとした瞬間。


 「アルッ。」


 セリアの静かだが、確かな意思のこもった声が響く。アルジェントは即座に動きを止め、視線をセリアと向ける。そこには、静かに首を横に振るセリアの姿があった。


 そして、アルジェントに優しく声をかける。


 「アル、お疲れ様。怪我はないか?」


 「・・・お言葉、ありがとうございます。セリア様はお怪我などは・・・?」


 アルジェントの視線が、無意識に少しだけ上を向く。


 「私は大丈夫だ。多少は汚れただけで・・・ほら、この通り。」


 アルジェントの視線に気づき、セリアは小さく微笑みながら自分の耳に触れてみせる。その仕草に、アルジェントの表情が僅かに和らぎ、心配が解消した。


 そしてセリアは、騒然とする周囲の中で、ティアへと向き直る。


 「ティアさん、一悶着起こしてしまって申し訳ないのだけど・・・どうすればいいかな?」


 肩を竦めながら、ティアへと助け船を求めるセリア。その姿は、まるで些細な行き違いでもあったかのように、あまりにも落ち着いていた。


 それを受け、ティアは困ったように小さく肩を竦め、苦笑を浮かべながら口を開いた。


 「今回のセリアさんたちの行動については・・・不問となるでしょう。先日お伝えした通り、基本的に冒険者間の揉め事について、冒険者ギルドは関知しません。」


 一拍置き、事務的でありながら慎重な口調に変わる。


 「ですが今回は、ギルド内での出来事であること。そして、先に抜刀したのがゴズさんであること。この二点を踏まえると・・・ゴズさんを含む獣の咆哮(ビーストロア)のメンバーには、それ相応の処罰が下る可能性が高いです。それに、彼らは・・・」


 そこまで言いかけたティアの言葉を、低く落ち着いた声が遮った。


 「ティア君、その件については、私が引き継ぎましょう。」


 階段の上から現れたのは、金髪のエルフの男性だった。纏う空気は長年、組織の上に立ってきた者特有の重みを感じさせた。


 「お二人を、私の執務室までお連れしてください。」


 それだけを告げると、彼は踵を返し、何事もなかったかのように上階へと姿を消した。


 「承知しました。ギルドマスター。」


 ティアは一礼し、セリアたちに視線を向ける。


 「では、こちらへどうぞ。」


 案内された先は二階。


 静かな廊下の突き当たりにある一室。その前で、ティアは立ち止まり、扉をノックした。


 「入って下さい。」


 部屋の中からの返答を確認すると扉を開け、ティアはセリアたちを部屋の中へと促した。室内には、先ほどのエルフ男性が執務机に腰掛けていた。その傍らには、人族の男性が一人、控えるように立っている。


 そしてセリアたちの入室を確認すると、エルフの男性が口を開く。


 「ティア君、ありがとう。業務に戻って構いません。」


 「はい。それでは、失礼いたします」


 ティアが扉を閉めるのを確認すると、エルフの男性は、改めてセリアに視線を向け、穏やかな声で名乗る。


 「それでは、まず自己紹介を。私はヒルティリア。ヒルティリア・ウィルヘイム。この冒険者ギルド、ローレル支部のギルドマスターです。種族は・・・見ての通りエルフです。」


 続いて、隣に立つ男性へと視線を移す。


 「彼は、サブマスターのディノッゾ君です。」


 ディノッゾと紹介された男性は、一歩前に出ると、無駄のない所作で一礼する。


 「ディノッゾと申します。サブマスターを拝命しております。以後、お見知りおきを。」


 ティアもそうであるが、この男性の立ち居振る舞いは、よく教育されていることが窺える。


 ーーー人材育成に力を入れているのだろうか。


 セリアがディノッゾを観察していると、ヒルティリアが表情を引き締めた。


 「さて、先程の件ですが・・・まず、結論から申し上げましょう。セリアさんたちに対するお(とが)めは、一切ありません。その点は安心してください。」


 続けて、淡々と告げる。


 「そして獣の咆哮(ビーストロア)の面々については・・・冒険者資格の剥奪とします。」


 その言葉に、セリアは僅かに眉を上げた。


 「・・・随分と重い処分ですね。ゴズは自分を高位冒険者だと言っていましたが、Cランクの冒険者でも問題ないのですか?」


 問いを受け、ヒルティリアは少し間を置き、天井を仰ぐように視線を逸らした。


 「・・・抜刀だけであれば・・・セリアさん、あなた方が溜飲を下げて頂けるのなら、ランク降格処分で済ませることも可能でした。ですが・・・。」


 そう前置きして、視線を戻す。


 「今回は別の問題が重なっています。ゴズ君は、亜人族に対する差別発言を行いました。」


 その声には、感情よりも責任が滲んでいた。


 「ここエリトルス王国では、亜人族への差別を明確に禁止しています。もちろん冒険者ギルドも、それに準じています。どちらかと言えば、今回の件は此方の方が問題でしてね。その火消しの意味合いが大きい。」


 一呼吸置いて、若干呆れが滲むような表情を浮かべ口を開く。


 「とは言っても、彼らは以前から問題行動が多くてね・・・次があれば処分を下す予定でした。なのでこちらとしては、渡りに船といったところです。」


 ヒルティリアの説明で多少とはいえ、この国の現状を理解できた。差別を禁じる法があるということは良いことだとは思うが、裏を返せば差別が存在している、ということだ。


 ーーーどこであろうと、人とは愚かな生き物だな。


 皮肉めいた感想を抱いていると、ヒルティリアは再び口を開いた。


 「それでですね・・・」


 一度言葉を切り、セリアを真っ直ぐに見つめる。


 「今回の件で、穴が空きました。その穴を・・・早急に埋めなくてはなりません。」


 意味ありげな間。


 「そこで・・・先程のセリアさんの質問につながるのですが、空いた穴をあなた方に埋めて頂きたい。」


 ヒルティリアの言葉に、慌ててディノッゾが声を上げる


 「ギ、ギルドマスター、何を仰っているのですかっ。昨日登録したばかりの新人ですよっ!」


 慌てた様子で一歩踏み出し、必死に異議を唱える。


 「ディノッゾさんの言う通りです。」


 すかさず、セリアもディノッゾに同調して言葉を重ねた。


 「私たちは昨日登録したばかりの新人です。残念ですが、お力になれないと思います。」


 既に十分過ぎるほど目立ってしまった。これ以上、余計な注目を集めるつもりは、全く無かった。そう判断したセリアは、ディノッゾの意見に乗る形で、この場を回避することを試みた、のだが。


 「ディノッゾ君。」


 低く、だが揺るぎのない声が室内に広がる。


 「君の言い分は・・・確かに正しい。だがそれは、私たちが知る普通の冒険者の話です。彼女たちは、Cランク冒険者を事も無げに制しました。それに、昨日はゴブリンの上位種を討伐しています。その時点で力量に問題ない。私は・・・そう、考えています。」


 ヒルティリアは鋭い視線を、ディノッゾに向ける。


 「それに、君は・・・私の勘が信じられない・・・と。」


 その一言で、ディノッゾの言葉が喉に詰まった。


 「・・・承知しました。この件については、異議を申しません。」


 ヒルティリアの圧に負け、視線を伏せ、ディノッゾはあっさりと引き下がる。


 ーーーなんて情けない・・・。


 内心でそう思いながらも、セリアは自分の願いが数瞬で砕け散ったことに小さく落胆していた。そもそもヒルティリアは、サブマスターの意見など、最初から聞くつもりがない。セリアの試みは初めから意味がなく、逃げ道など存在していなかった。


 そんな空気を察したのか、ヒルティリアは軽く息を吐いた。


 「あまりパワハラじみた事をしても、私の評価が下がりますからね。」


 そう前置きして、ヒルティリアは一枚の紙をディノッゾに手渡す。


 「ディノッゾ君、少し情報を開示しましょう。その書類にある通り、先頃、盗賊ガロアが捕縛されたという報告が上がってきました。そして・・・それを成し遂げた張本人が、そこのセリアさんです。」


 ディノッゾの肩が、目に見えて強張った。そんなディノッゾを一瞥すると、さらに続ける。


 そして、セリアの胸中など露知(つゆし)らぬ様子で、決定事項を告げる。


 「私の権限で、あなた達をDランクへ引き上げます。そして、私が提示する依頼をこなして頂ければ、Cランクへの昇格です。」


 その言葉に、セリアは黙って聞いていたが、ヒルティリアは構わず言葉を重ねた。


 「セリアさん、あなたはあまり目立ちたくないと・・・考えているのでは?」


 核心を突かれ、セリアはわずかに目を細める。


 「ですが・・・下の階で、あれだけの大立ち回りを演じたのです。今更無理ですよ。」


 微笑とも取れる表情で、追い打ちをかける。


 「よく”出る杭は打たれる”、と言いますが、打たれないくらいに突き出てしまえば、何も問題ありません。私は・・・あなた方なら出来ると考えています。その為のサポートも、(いと)いません。」


 ヒルティリアの言葉に、セリアは短く息を吐いた。


 「で、どんな依頼をこなせばよいのですか?」


 「受けてほしい依頼は数件あります。その中から緊急の依頼を一件受けて頂きます。ただ内容については明日以降にティア君から聞いて下さい。彼女にはあなた方の専属として動いてもらいます。あなた方ならそんなに難しい依頼ではないと思います。」


 すべてを言い切ると、ヒルティリアは椅子に深く腰掛けた。


 「話は以上になります。ディノッゾ君、彼女たちを下までお送りしてください。あぁ、それと・・・」


 思い出したように付け足す。


 「下で、ティア君から新しい冒険者カードを受け取ってください。」


 セリアは一度頷き、アルジェントに視線を向けた。


 「アル、ディノッゾさんと先に行っててください。」


 「承知しました。それでは、下でお待ちしています。」


 アルジェントは一礼するとディノッゾとともに部屋から退出する。扉が閉まるのを確認すると、セリアは口を開く。


 「ヒルティリアさん、何が・・・目的ですか?」


 セリアの問いに、ヒルティリアは軽く笑みを浮かべた。


 「誤解を与えてしまったなら、申し訳ない。ですが安心してください。あなた方に、特にセリアさんに敵対する意図は全くありません。」


 顔の前で手を組むと、言葉を継ぐ。


 「むしろ手助けというか、協力体制を築きたいと考えています。立場上、色々な情報に目を通せます。例えば、昨日登録したばかりの新人冒険者の登録内容も例外ではありません。」


 視線が、セリアを射抜く。


 「その中に、今まで見た事も聞いた事もない職業(ジョブ)、二つの職業(ジョブ)を持つ新人が現れれば・・・注目するなというのが難しい。」


 核心を突く内容に、セリアの声が詰まる。


 「ならば、周囲に知られる前にランクを引き上げる。その方が、君も動きやすい。我々にとっても、都合がいい。」


 それが、ヒルティリアの示した答えだった。


 その内容は、確かに自分たちにとって悪い話ではなかった。


 「ヒルティリアさん。そちらの目的については、わかりました。」


 そう告げ、ひとまず了承の意を示す。そして、セリアは話題を切り替えた。


 「それと・・・女性のプライベートを、本人の許可なく覗くのは、マナーに反するのではありませんか?」


 セリアからの指摘に、ヒルティリアは内心の驚きを隠せずにいた。鑑定されたことを”察知する”、それ自体が、相応の技量を持つ者でなければ不可能だ。セリアは冒険者としては新人だが、先ほどの言動や実績を考えれば、額面通りには受け取れない。


 当然ながら、ヒルティリアはそう受け取っていない。感触としては、既にAランクに迫る、そう評価していた。それでもなお、ここまでの技量があるとは、想定外だった。


 「・・・私の鑑定を弾くだけでなく、鑑定されたこと自体を認識するとは・・・さすがですね。」


 苦笑を交えつつ、素直に言葉を続ける。


 「この点については謝罪します。これでも現役時代はシングルでした。その私の鑑定を弾くとは・・・セリアさん、あなたはいったい何者ですか?」


 ヒルティリアの質問にセリアは肩を竦めた。


 「それは・・・私も知りたいです。」


 短い返答。


 この件について、一つ言っておくとセリアは何もしていない。鑑定については優秀な《オモイカネ》さんの功績である。そこに何一つセリアは関わっていない。なのでセリアが優秀というわけではない。


 重要なのであえて二度言っておくが、優秀なのは《オモイカネ》であって、セリアではない。


 そして、《オモイカネ》の鑑定能力は高く、ヒルティリアの鑑定に成功していた。


 「実は・・・私もヒルティリアさんを鑑定したので、その点は・・・おあいこです。」


 その言葉にヒルティリアは目を見開いた。自分が鑑定されていたなど、思ってもみなかった。そして少し乱れた心を落ち着かせようとした、瞬間。


 視界に居たはずのセリアの姿が、突然消えていた。気配を辿り、ようやく探し当てたセリアの姿は、いつの間にか、すぐ隣で執務机に腰を掛けていた。


 そして、耳元へと顔を寄せ、低く囁く。


 「私も直感を信じるタイプです。私の直感は・・・あなたが信じるに足る人物だと囁いています。」


 言い終えると、セリアはすっと距離を取り、何事もなかったかのように歩き出した。


 ふと扉の前で立ち止まると、振り返るセリア。


 「これからも、良い関係を築きましょう。」


 一言残し、扉を閉めると、そのまま下階へと向かっていった。部屋に一人残されたヒルティリアは、しばらく天井を仰いだまま動けずにいた。


 「・・・とんでもない新人が、現れたものですね。」


 思わず漏れた独り言には、呆れと同時に、確かな興味が滲んでいた。

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