第百十四羽. 贋金は沈黙の鐘を鳴らす・承
翌日、セリアは正午を告げる鐘が鳴るにはまだ少し早い時間に、聖ヴァレリオ大聖堂に向かっていた。空一面を覆う雲は厚く、王都全体が灰色に染まったような雰囲気であった。前夜に降った雪はすでに止んでいたが、王都の空気は冷たく澄み、大聖堂へと続く石畳の上にはうっすらと白い雪が積もったままだった。踏みしめるたび、セリアの足元で細かな雪が、シャリっと微かな音を立てる。
王立学院は一週間の最終日が休みとなっている。その日を利用して、セリアは記念硬貨偽造事件の調査を始める。
大聖堂に足を踏み入れると、外気とは対照的に温かい空気がふわりと頬を撫でた。セリアの視線の先では、ひとりの少女が祭壇の前で祈りを捧げていた。その少女は近づいてくる足音に気づき、後ろを振り返った。後ろで束ねた金髪が揺れ、羽織っている白いローブの裾がふわりと揺れる。
少女の名はクレア・フォルディス。フォルディス大司教の孫にしてセリアの担当クラスの生徒。セリアを見つけたクレアは、わずかに緊張を滲ませながら丁寧に頭を下げる。クレアは学院の制服姿ではなく、柔らかな色合いをした膝下丈のワンピースを身に付け、落ち着いた雰囲気が大聖堂の荘厳な空気によく馴染んでいた。
「セリア先生、おはようございます。本日は、私が案内を務めます。」
セリアは軽く頷き、クレアの方へ歩み寄る。
「おはよう、クレア。案内役、よろしく頼むわね。」
「はいっ。工房の取次と保管庫への案内、関係者への連絡を任されています。ご迷惑のないよう努めます。」
クレアは緊張を押し隠すように、真っ直ぐな声で返した。
「そんなに気負わなくても大丈夫よ。調査をするだけで、戦闘をするわけではないから。」
セリアのその言葉に、クレアはほっと息をつき、緊張の糸が少しだけ緩む。ちょうどその時、大聖堂の奥から落ち着いた足音が響いた。
姿を見せたのは、フォルディス大司教。昨日とは変わり金糸がわずかに輝く黒と金の神官服を纏い、重厚な存在感を放っていた。
「セリア殿、クレア。早い時間からすまぬ。本日の調査、どうかよろしくお願いする。」
フォルディスは深く頭を下げると、孫へ静かに声を掛ける。
「クレアよ。セリア殿の邪魔にならぬよう、しっかりと務めなさい。」
「はいっ、おじいさま。」
クレアが一礼すると、フォルディスは張り切る孫の姿に微笑み、セリアに視線を向ける。
「セリア殿。もし何か判明した際には、すぐに知らせてください。」
「えぇ。分かりました」
セリアは軽く頷くと、ローブの襟を軽く整えた。
「では行きましょう。」
クレアが頷き、セリアの隣へ並ぶ。
フォルディスは二人を見ると、ただ静かに微笑み、深い祈りのような眼差しで見送った。
◇◇◇◇◇◇
大聖堂を後にした二人は、石畳の続く街路へ足を踏み出した。相変わらず曇天が低く垂れ込め、底冷えするような寒さが二人を襲う。
クレアはセリアの横を歩きながら、進行方向を指さしながら説明を始める。
「工房街は商業施設などが建ち並ぶ南区にあります。南区はその場所柄から商業区とも呼ばれていますが、そのはずれに職人工房が集まっていて、記念硬貨の関連工房もその一角にあります。」
セリアは隣を歩きながら軽く頷く。
「西区から南区へ・・・位置としては大聖堂から南下すればすぐね。」
「はい。ちょうど西区と南区の境目あたりにあって、普段はかなり賑やかなんですけど・・・今日はまだ人が少なめですね。」
クレアが周囲を見回しながら呟く。
「この寒さのせいもあるでしょうね。」
セリアは空を見上げながら呟くと、クレアは小さく頷き、さらに続ける。
「工房街は、金属加工や細工師の工房が多いので・・・火を扱う場所が多いんです。だから冬でも他の区域と比べると一帯が少し暖かいんです。」
「あぁ、なるほど。」
セリアは工房街に近づくにつれ少し寒さが和らいでいくのを感じていた。街路の角を曲がると、煙突の群れと、白い煙が立ち上るのが見え始めた。金属を打つ鈍い音が、ぼんやりと空気を震わせている。
「ここら辺から工房街になります。」
クレアの説明の通り、無骨な石造りの建物が建ち並び、他の区域とは全く違う雰囲気が漂っていた。
「思ったより規模が大きいわね。」
「はい、武器や防具だけでなくアクセサリーなどの工房もあるので、職人さんの数がとても多いんです。記念硬貨みたいな国家行事に関わる工房は、その中でもとくに腕の良い職人が集まっています。」
セリアはその説明を聞きながら、周囲の様子を丁寧に観察していた。セリアは街路の汚れ、足跡の方向、往来する人々の背負う荷、微かな金属の匂いといった細かな情報を静かに拾っていく。
「あそこが今回、記念硬貨の製造に関わった工房のギリウス・クラフトワークスです。」
クレアは他の工房に比べて一際大きく、重厚な風格を漂わせる工房を指し示した。周囲の工房に目を向けていたセリアは、クレアの声に彼女の指し示した方へと目を向ける。煤でわずかに黒ずんだ石造りの外壁は、長年の使用に耐えてきた重みを感じさせる。正面には重厚な鉄扉が据えられ、その上には“Gilius Craftworks”と刻まれた金属製の看板が掲げられている。金槌と金床を組み合わせた紋章が打ち出され、職人たちの誇りを象徴するように静かに輝いていた。建物からは複数の煙突が伸び、白い煙が曇天に溶けていく。金属の匂いと熱気が仄かに漂い、工房街の中でも火の気配が強い一角であることがすぐに分かる。
「では、セリア先生。行きましょう。」
クレアの言葉にセリアが頷く。クレアが重い鉄扉を押し開けると、外とは対照的に暖かな空気がふわりと二人を包み込んだ。工房内には複数の炉が並び、赤々とした炎が揺らめいている。忙しなく職人が動き回り、金属を打ち付ける規則的な音が工房内に響いていた。
そのうちの一人の職人がクレアに気が付き、手を止めて声を掛けてくる。
「お、クレア嬢ちゃんじゃないか。今日はどうしたんだい。」
「お世話になっています。工房長のギリウスさんはいますか?」
クレアが問いかけると、職人は手ぬぐいで額の汗を拭いながら答える。
「おぉ、親方なら奥にいたと思うな。いま呼んでくるから、ここで待っててな。」
職人はそう告げ、奥へと消えていった。
やがて、どっしりとした足音がゆっくりと近づいてきた。現れたのは、分厚い胸板を持つ堂々たるドワーフの男だった。火除けの皮エプロンを身につけ、深紅の髭を編み込んでいる姿はまさに職人の親方そのものだ。
「おぉ、クレア嬢ちゃん。待たせたな。それで、今日はどういった用件だっ?」
クレアは姿勢を正し、はっきり答えた。
「今日はセリア先生の案内役として来ました。」
「先生?」
ギリウスが眉を上げると、クレアは続ける。
「こちらがセリア先生です。学院の臨時講師で、私のクラスの担任の先生です。」
紹介されたセリアはギリウスに向かって軽く頭を下げる。クレアはそのまま用件を話し続ける。
「・・・例の件の調査を依頼しているんです。」
「あぁ、そういうことか。」
ギリウスは納得したように頷き、セリアに視線を向ける。
「・・・あんたが、ベール老が言っていた、例の先生か。」
「ベール老?」
セリアが問い返すと、クレアがすぐ答えた。
「おじいさまの名前です。ベールライト・フォルディス。みなさんからは親しみを込めて、ベール老と呼ばれています。」
その説明を聞きながらも、セリアは、例の先生か、というギリウス言葉に少しの疑問を抱いた。その疑問を仕舞い込むと、ギリウスへと向き直り切り出した。
「ギリウスさん。記念硬貨について伺いたいことがあります。」
ギリウスは一瞬だけ周囲に視線を巡らせ、作業場の喧騒や他の職人の耳を気にするように眉を寄せた。
「・・・ここじゃ、なんだ。場所を移そう。」
そう言うとギリウスは工房奥の扉へ向かい、重い木扉を押し開けた。ギリウスはそのまま工房の奥へと向かって歩き出す。炉の熱が遠ざかっていき、代わりにひんやりとした空気が流れる通路に出た。
「ここなら話ができる。入ってくれ。」
セリアとクレアは、その先にある一室へと案内された。部屋の中は整頓され、作業台として使われる広いテーブルと、壁際に資料棚が並んでいる。テーブルの端には布をかけた金属箱がひとつ置かれ、慎重に扱われている様子が見て取れた。
二人が席につくと、ギリウスは深く息を吐き、低い声で切り出した。
「・・・偽造硬貨にすり替わっていた件なんだが、工房の連中にはまだ話していないんだ。」
セリアは一瞬だけ表情を引き締め、素直に頭を下げた。
「不用意でした。すみません。」
ギリウスは手を振り、首を横に振った。
「いや、いい。それで・・・俺に何の用だ?」
問いに対して、セリアは懐に手を入れ、ゆっくりと一枚の硬貨を取り出す。それは今話題に出た偽造硬貨。セリアは偽造硬貨を静かにテーブルに置くと、ギリウスの目の前へそっと押し出す。
「これについて伺いたくて。」
ギリウスは自身の前に差し出されてた硬貨に視線を落とし、分厚い指で硬貨をつまみ上げる。光にかざし、表裏をゆっくりと回しながら細部を観察した。
「・・・何が聞きたいんだ?」
問い返す声は低く、職人としての矜持を感じさせる眼差しをセリアに向ける。その眼差しを受けてセリアは姿勢を正し、落ち着いた調子で口を開く。
「ルーファウス殿下から、試作品を見せていただきました。試作品とはいえ、その完成度はとても高く、偽造硬貨との差は歴然でした。偽造硬貨が粗雑な作りなのは、私でも理解できました。それでも・・・これ単体を見れば、かなりの技術が必要になることは分かります。」
そこで一拍置き、視線をギリウスへ向け直す。
「これを作るためには、どれほどの設備や技術力、そして資金が必要になりますか?」
その問いに、ギリウスの表情がわずかに変わった。目を細め、口の端をほんの少し吊り上げる。
「・・・おまえさん、セリアだったか。いいところに目をつけるな。」
ギリウスは偽造硬貨を指で転がすようにしながら続ける。
「セリアの言ったとおり、本物と比べれば粗悪なのはたしかだ。だが・・・これ単体だけ見りゃ、相応の技術力は、間違いなく必要だ。」
ギリウスは偽造硬貨を指先で転がしながら、その視線に職人特有の鋭さを宿しながら表面の刻みや縁の磨き具合を丹念に確かめていく。
「・・・今回使ってる金属が特殊なだけでな。」
そう前置きしてから、硬貨の側面を親指で撫で、細かい凹凸の感触を確かめるように息を吐く。
「この硬貨に細工を施した奴は、アクセサリーや武器に使う一般的な金属だったら、間違いなくもっと細かい細工が施せるはずだ。刻みの深さも、線の滑らかさも、本来ならもっと綺麗にな。」
ギリウスの声がやや低くなる。
「これは素人の仕事じゃねぇ。見よう見まねで打てるもんじゃぁない。俺が言えるのは・・・この道で飯を食っていけるほどの腕があるって事だけだ。」
セリアが黙って頷くと、ギリウスはさらに続ける。
「本物は特殊金属のせいで重い。それくらいは説明されたんだろ?」
「はい。星銀と、雲淡金・・・でしたよね。」
「あぁ、その二つは密度が高い。だから同じ大きさでも重くなる。」
ギリウスは偽造硬貨を手のひらに乗せ直し、その重量を確かめるかのように軽く揺らした。
「この偽物も、それなりに重みを出そうとしてる。星銀や雲淡金には到底及ばねぇが、そこそこの密度を持つ金属を使ってる。」
表面をコンと指で弾き、音を確かめる。
「・・・俺の見立てだと、中核に使っている材質は灰銀と黒鉄鋼の合金・・・あたりだろうな。コーティングしている金属は金の合金だろうな。」
ギリウスはそう結論づけると、硬貨を卓上へ置き、腕を組んだ。
「・・・で、だ。」
声にわずかな重みを乗せて続ける。
「問題は、この二つの金属を必要量だけ揃えるとなりゃ、それなりの金がかかるってことだ。安物の鉄や銅じゃねぇ。灰銀も黒鉄鋼も、加工に向いてるくせにまぁ高い。灰銀に至っては希少金属でもあるかならな。」
セリアは静かに頷き、次の言葉を待つ。
「硬貨一枚分ならまだいい。だが、今回みてぇに数を揃えて、全部入れ替えるだけの量を用意するとなると・・・相当な資金がいるな。」
ギリウスはテーブルを指先で軽く叩きながら言葉を続けた。
「しかも、この合金を扱うには、そこそこの設備が必要だ。」
「設備・・・ですか。」
「そうだ。俺の工房ほどでなくてもいいが、小規模でもちゃんとした工房並みの設備は必要になる。炉の温度管理、金属の精錬、鋳型の準備、どれも素人が庭先でやれる仕事じゃねぇ。」
セリアは目を細め、ギリウスの説明を慎重に噛みしめる。ギリウスは椅子の背にもたれ、ひと息つくと静かに続けた。
「つまりだ。この偽造硬貨を作った連中は・・・材料費を用意できる資金力と、小規模でも工房設備を揃えられる環境を持ってる。そして、それなりの腕を持った技術者が囲っているな。」
ギリウスは深く息を吐き、テーブルの上へ置いた偽造硬貨を再び手に取った。
「・・・そして、もう一つ重要なことがある。」
そう言いながらギリウスは指先で軽く回すと、セリアに見えやすいようにの目の高さに偽造硬貨を掲げる。そして偽造硬貨の裏表をゆっくり交互に見せる。
セリアは硬貨を見つめたが、ギリウスが何を言いたいのか最初は分からなかった。だが、次の瞬間、はっと瞳を見開き、ギリウスの顔を真っ直ぐに見つめ返す。
ギリウスはその反応を確認し、短く頷いた。
「・・・気が付いたようだな。」
二人だけで通じるような会話に、隣のクレアはまったくついていけず目を瞬かせる。
「せ、先生・・・何のことですか?」
クレアの問いに、セリアはわずかに表情を和らげ、生徒に教える時の調子で口を開いた。
「クレア、例えば。もし、流通している硬貨を偽造しよう、としたら・・・あなたはどうする?」
「えっ、私は偽造なんてしません!」
即答するクレアに、セリアは小さく苦笑して首を振った。
「あくまで例え話よ。答えてみて。」
クレアは真剣に考え込み、そしておずおずと答えた。
「・・・えっと、まず、材質を調べます。同じ金属を使えるように。それから、デザインも・・・流通している硬貨を見て、そのまま同じものを・・・。」
そこまで言ったところで、クレアの声がぴたりと止まった。
顔色がほんの少し変わる。
「・・・あっ。」
クレアの視線がゆっくりとセリアへ、そしてギリウスへと移る。二人が先ほど何を確認し合っていたのか、ようやく理解が追いついたのだ。
記念硬貨は市場どころか、そもそもまだ出回っていない代物。つまり、偽造犯があの精度で模倣できたのは、どこからか情報が漏れていたということ。そして、必然的にひとつの答えに行き着く。
ギリウスは重い表情のまま、深く唸るように言った。
「恥ずかしい話だがな・・・うちの工房から情報が漏れたのは間違いねぇ。」
その言葉が落ちた瞬間、部屋の空気は沈み込むように重く固まった。
ギリウスの重い言葉を聞き、セリアは静かに問いを重ねた。
「・・・既に、その事実に気づいていたんですね。」
ギリウスは短く息を吐き、頷く。
「あぁ、そうだ。報せが届いたとき、真っ先に悟ったよ。うちの工房から漏れたってな。」
セリアはさらに核心へ踏み込む。
「ということは・・・漏洩した人物についても、心当たりが?」
ギリウスは、わずかに眉間の皺を深くし、力なく首を振った。
「いや、それが分からねぇんだ。」
椅子の背にもたれ、重く続ける。
「デザインは工房で厳重に管理してる。持ち出しの記録もねぇし、保管庫の鍵も問題なかった。この案件を受けてから辞めた奴もいない。行方が分かんねぇ人間もひとりもいない。」
セリアは黙って耳を傾ける。
ギリウスは手元の偽造硬貨をひっくり返し、眺めたまま言う。
「試作品の硬貨も、全部そろってる。紛失も盗難も確認されてねぇ。」
肩を落とし、低く唸る。
「・・・現状だけじゃ、どうやって漏れたかが・・・まったく掴めねぇんだ。」
工房長としての無念さと苛立ちが、言葉の端に滲んでいた。そのまま無意識に、手に持っていた偽造硬貨を裏返す。
硬貨の裏面。
中央に大きく王家の紋章が描かれた盾が配置され、その周囲を囲む正十二角形。ギリウスは視線をそこに定めたまま、ほんの一瞬動きを止めた。
「・・・っお?」
小さな声だったが、明らかに何かに気づいた声だった。セリアがそれに気付き、静かに問いかける。
「ギリウスさん・・・?」
ギリウスは答えず、硬貨を目の高さに掲げ、角度を変えながら裏面を凝視する。やがて、低く押し殺した声が漏れた。
「・・・頂点が、縁に接してやがる。」
クレアは意味が分からず瞬きを繰り返す。
「えっ・・・?」
ギリウスは視線を硬貨から離さずに続けた。
「この裏面の正十二角形の頂点が縁に接している案は・・・最初の頃に提案した旧デザインだ。」
セリアの目がわずかに細められる。
「では・・・これは、最終案ではない?」
ギリウスは大きく頷いた。
「あぁ。何度か図案に変更が入ってな。最終的には十二星を現す刻印を頂点の小さな円に収めて、その円を結ぶ案が採用されたんだっ。なんですぐに気づかなかったっ。」
クレアはハッと口に手を当てた。
「・・・じゃぁ・・・。」
ギリウスは静かに目を閉じた。
「そうだ。偽造犯は最終デザインを知らない。工房の最終図案は漏れてねぇ。」
拳をゆっくり握りしめ、苦く続ける。
「漏れたのは、途中工程のデザイン案だ。」
ギリウスのその言葉にセリアはすかさず疑問を問いかける。
「・・・ギリウスさん。その古い図案を、工房の外に出した覚えはありますか?」
ギリウスは一度目を閉じ、記憶をなぞるように短く息を吐いた。
「あぁ・・・ある。」
ゆっくりと目を開き、苦々しい声音で続ける。
「最終案ってのはな、細けぇところに修正が入る可能性がある。だから、王家へ見せる確認用として、その時の図案で外部提出用の資料を一度作ったんだ。」
セリアは静かに息を吸い、その言葉を噛みしめ、ギリウスは苦笑に近い表情を浮かべながら、短く呟いた。
「考えたくはないが・・・偽造犯が参考にしたのは、王家に提出した確認用の旧図案・・・あれを盗み見たってことだ。」
部屋の空気がぴんと張り詰めたものへと変わる。セリアは静かに目を閉じると思考を巡らせはじめる。王家に提出した旧図案が漏れたこと。その一点からセリアの脳裏に、ひとりの人物の影が浮かぶ。そして、その人物から連なるように、大物貴族の名が浮かんでくる。
セリアは目を開けると深く息を吸い、ギリウスへ向き直った。
「・・・ギリウスさん。本日は情報提供、ありがとうございました。」
ギリウスは無骨な表情のまま頷き、わずかに肩を落とす。
「力になれたかどうか分からねぇが・・・必要なことがあれば、いつでも言ってくれ。」
セリアは軽く頭を下げ、クレアとともに工房の扉へ向かう。
工房の重厚な鉄扉を開けると一気に外気が流れ込む。工房の熱が外気を柔らかくするが、数歩も進めば次第に冷たさが肌を刺すようになる。それでも今のセリアたちにとって、その冷たさはむしろ心地よいものだった。
誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。
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