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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第五章 王都動乱編
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第百羽. 哀れなる者の末路


 膝をついたままのネゼルが、力を振り絞り視線を足音のする方へ向ける。そして、ネゼルの瞳がその姿を見た瞬間、表情が驚愕に染まった。閉じ込めた空間の消滅とともに、この世界から完全に消えたはずの人物が、そこにいた。


 「セリア・・・なぜ、貴様がここにいる。あの空間と一緒に消滅したはずではっ!」


 なりふり構わぬ絶叫が、広大な空間に響き渡る。


 セリアは一歩も近づかず、ただ冷ややかにその言葉を受け止めた。


 「二人称が、貴様に変わっているわよ。よほど焦っているようね。」


 見透かすようなセリアのその瞳に、ネゼルは息を呑み、口をつぐむ。


 「しばらく、そこで・・・おとなしくしていなさい。」


 セリアはそれだけ言うと、ゆっくりと仲間のもとへと歩を進めた。


 ネゼルは歯を食いしばり、重圧に押しつぶされそうな自身の身体を無理やりに動かす。背を向けるセリアに向けて、腕を振り上げる。


 しかし、ネゼルの行動よりも早くセリアの指先が軽く鳴る。エーテルの鎖が地から伸び、ネゼルの四肢を絡め取り、瞬く間に動きを封じていく。


 「なっ・・・。」


 エーテルの鎖が完全にネゼルを拘束するのを確認したセリアは、そのまま歩き始めた。ラクスの張った結界をセリアが通過するとリュカとフレイアが駆け寄ってくる。


 「ママ・・・。」


 幼い声が響き、セリアの足にしがみついた。


 「大丈夫・・・ママ?」


 見上げる眼には涙が溢れ、僅かに手は震えていた。アヤメやテオドールがいたので道中が楽しかったのは確かだろう。それでもセリアがいないことに、一抹の寂しさ感じていたのも、また事実。セリアを見た瞬間にリュカとフレイアの心のたがが外れ、感情が溢れ出た。震える手にそっと重ね、セリアは膝をついて二人を抱き寄せる。


 「・・・心配かけたわね。」


 そう言って、二人の涙を指で拭う。セリアが優しく笑いかけると、ようやくリュカとフレイアの二人に笑顔が戻ってきた。


 そのまま顔を上げ、アヤメとヴェインに目を向けた。


 「みんなも、大丈夫そうでよかった。」


 アヤメは微かに笑い、ヴェインは肩の力を抜きながら頷いた。安堵の表情を浮かべる二人を見て、セリアの瞳にも安堵の色が浮かぶ。


 続いて、後方で支えていたアルジェントとメルディナへ視線を向ける。


 「まだ・・・本調子ではなさそうね。」


 「まだ、何か歯車が噛み合わないような、そんな感じなのじゃ・・・。」


 メルディナが苦笑混じりに肩を竦める。


 「セリア様、大変申し訳ありません。セリア様の剣であり盾という立場でありながら、剣を向けるなどという失態を・・・。」


 セリアの前へと出てきたアルジェントが膝を付き、悔恨の情に顔を歪める。そんなアルジェントの肩に手をかけると、セリアは優しく声をかける。


 「私は、気にしていないわ。だから頭を上げて。」


 アルジェントは黙って頷き顔を上げる。その顔を見てセリアは、自分の中の何かに納得したように頷くと口を開く。


 「無表情な顔でアルが私に剣を向ける。その姿にものすごく・・・心が痛かった。だけど今、私の前には・・・いつものアルがいる。それだけで十分よ。」


 「勿体ない・・・お言葉、です・・・。」


 セリアの言葉に涙を流しながら、再び頭を下げるアルジェント。震えるアルジェントの声には確かな安堵が宿っていた。


 「そんなに泣いていると、リュカとフレイアに笑われるわよ。」


 「アルお姉ちゃん、何か悲しいこととでもあったの?」


 リュカとフレイアは心配そうにアルジェントに寄り添う。


 「いいえ・・・嬉し涙です。」


 目頭に涙を浮かばせながら、アルジェントはリュカとフレイアに笑顔を向ける。


 「セリアよ。妾の事ももう少し心配しても罰は当たらないのじゃっ。」


 「勿論っ、メルのことも心配しているわ。」


 「どこまで・・・本当なのか分からんのじゃっ。」


 頬を膨らましながら、そっぽを向くメルディナ。そして何かを思い出したようにセリアを睨めつける。


 「そういえば、セリア。おぬし妾の胸に《スサノヲ》を突き刺したであろうっ。」


 「な、何のこと? 別に傷もなければ、服も乱れていなかったはずだけど。」


 セリアの言い訳にも耳を貸さず、メルディナはじっと彼女を見つめる。だが、メルディナはセリアから眼を逸らすと肩をすくめセリアへの追求を止める。


 「まぁよい。今はそれどころではないのじゃ。」


 再びセリアに視線を向けると、眼を釣り上げて言い放つ。


 「だが、後でしっかりと聞かせてもらうのじゃっ。」


 「分かったは、戦闘の詳細も含めて、この戦いが終わったら話すわ。」


 従魔たちも静かに主のもとへ寄り添い、セリアの無事を確かめる。セリアは一通りの仲間たちの顔を見渡すと、再び立ち上がった。


 その眼差しが、拘束されたままのネゼルへと向けられる。


 結界の外に出たセリアが再び指を鳴らすと、ネゼルを拘束していたエーテルの鎖が音もなくほどけ、同時にこの空間を支配していた殺気という名の重圧も、はじめから何もなかったかのように消えた。


 「・・・私を解放でもするつもりですか?」


 ネゼルが口角を吊り上げ、挑発めいた笑みを浮かべる。セリアはその挑発を受け流すように、わずかに首を傾げた。


 「いや・・・なにかあるなら、早く出せ。」


 静かに返されたその言葉に、ネゼルの表情がわずかに歪む。


 「この私を前にして・・・ずいぶんと余裕ですね。」


 「それは・・・あなた自身が、一番よく分かっているでしょうっ。」


 セリアの挑発に、ネゼルの瞳が怒り染まり激しく揺れる。唇を噛み、声を震わせながら吐き捨てる。


 「・・・ふ、ふざけるなっ。なら、遠慮なく、カードを切らせてもらいます。」


 ネゼルが掌を掲げた瞬間、空間が歪みネゼルの前方に三つの黒い靄が生まれる。


 「来なさい、私の傀儡たち。」


 靄の内側から現れた影がゆっくりと輪郭を結び、セリアの前に姿を見せる。現れた三人に、セリアは見覚えがあった。記憶の片隅に、それは確かにあった。だが、セリアは全く思い出せずにいた。


 ーーー何処で会った・・・。


 セリアが記憶の糸をたぐり寄せていると、《オモイカネ》の声が静かに響く。


 『マスター、あの3人は冒険者ギルドで会っています。』


 『冒険者・・・ギルド?』


 『まだ思い出さないようですね。冒険者登録しに行ったときに・・・。』


 『思い出したっ。私の耳を鷲づかみしたっ。確か・・・。』


 『中央がゴス。獣の咆哮(ビーストロア)の元リーダー。そして右がバイル、左がグレイル。数々の差別的発言、問題行動、そして極めつけにギルド内で抜刀したことで除名処分。』


 ーーーそういえば・・・除名処分が下ったと、言ってたわね。


 『それにしても、よく覚えているわね。』


 『マスターもその程度の記憶力は、有していただきたいものです。』


 『・・・《オモイカネ》、あなた・・・言葉が流暢になってない?』


 『気のせいではないかと。それよりも目の前に集中してください。』


 ーーー絶対に流暢になってるわね。


 改めて三人に視線を向けるセリア。外見は確かに人であるが、セリアの眼にはそう映っていなかった。眼は虚ろで全く焦点が合っておらず、何より三人の体内は人のそれとは異なっていた。


 エーテルが通わず、違う何かで満たされていた。


 「ネゼル、この三人に何をしたの?」


 「気が付いたようですね。このお三方には・・・人の枷を外してもらいました。高濃度の瘴気を快く受け入れていましたよ。瘴気とは高濃度の魔素を含んだ大気のことです。それはいいとして、実験は失敗ではあるのですが、人の形を有しています。一歩前進といったところですか。自業自得なんでしょうけど、最後まであなたを恨みに思っていたようです。」


 怨嗟(えんさ)と瘴気が渦巻き、黒く濁った感情が人の皮を被った存在になり果て、セリアへの怨念だけが彼らを突き動かしていた。


 ネゼルが一歩前に出る。


 「えぇ、世間一般的には・・・これを哀れ、というのでしょうかね。」


 静かに笑うネゼルの声。その瞳は血走り、理性のたがが外れ始めている、セリアにはそう見えた。


 「けれど、私はそうは思いません。人の心ほど素晴らしい素材はありませんよ。」


 唇が引きつり、口角が不自然に吊り上がる。


 「彼らの負の感情は、美しいまでに純粋です。それを見るたびに、私は・・・歓喜を覚える。」


 自身の顔を覆う掌。そのその隙間からネゼルの瞳が妖しくも輝く。目が血走り、狂気、怒り、自己陶酔、あらゆる感情がネゼルを支配していた。


 ーーー狂ってる・・・。


 そんなネゼルを嫌悪感を抱いたセリアの瞳が射貫く。


 「ヴェイン、アヤメ、ここは私一人で十分。」


 二人が動き出そうとした気配を感じ取り、セリアの低い声が制す。


 「でも、相手は三人、いや四人だよっ。」


 「まったく・・・問題無い。」


 セリアの冷たく重い声に、ヴェインとアヤメは息を呑む。


 「・・・あれは、かなり怒ってるね。」


 アヤメがヴェインに耳打ちする。


 「そうなのか?よく分かるな。」


 「何となくね。だから、ここは・・・セリアねぇに任せよっ。」


 「あぁ、分かった。」


 納得したヴェインは抜き放った二振の短刀をしまうと、その場に腰を下ろす。アヤメもヴェインにならい、その場に座り込んだ。


 ーーー二人ともありがとう。アルに、あんな顔をさせた罪を・・・絶対に(あがな)わせる。私自らの手で・・・。


 突如として三人の身体が盛り上がり、獣ともつかない咆吼を上げながら駆け出す。足元の石畳が粉砕され、重い衝撃が空間を揺らす。


 セリアが視認するよりも早く、ゴスの拳がセリアの眼前に迫る。だが、その拳は空を切った。音を置き去りにして弾けた拳が捉えたのは、セリアの残像。


 セリアの姿が掻き消え、ゴスの背後に現れる。セリアの指先が軽く動き、残響のような光の線が走った。乾いた音が響き、エーテルの糸がゴズの全身を絡め取り、右腕が宙を舞う。全身には傷跡が走り、獣じみた悲鳴が空間を裂く。


 傷跡から流れ出たのは血ではなく、黒い靄だった。


 「ほぅ・・・とても、素晴らしい。」


 ネゼルの声が、愉悦を含んで響く。


 ゴズの傷跡は徐々に塞がり、切り落とした右腕は再生をはじめていた。グレイルが短剣を構え、バイルが後方から低い詠唱を開始する。


 瘴気が彼らの全身を覆い、地面から黒い棘が無数に伸び上がる。


 だが、セリアは一歩も動かない。


 闇を彷彿とさせる漆黒のローブがひらめき、セリアが一歩踏み出すと、踏み出した足を中心にエーテルが静かに波打ち、同心円状に広がっていく。


 波打つエーテルと、セリアに襲い来る棘が交差した瞬間、黒い棘は跡形も無く消えゆく。そのまま広がり続けるエーテルの波紋は、そのままグレイルとバイルの身体を包み込む。


 苦しみ藻掻く二人は、その場に倒れ込む。またセリアの後ろにいたゴズも倒れ込んでいた。


 ネゼルはその光景に微動だにせず、ただ興味深げに目を細めた。


 「やはり、あなたは面白い。殺すのは惜しい・・・ですが、これ以上は・・・。」


 セリアが振り向く。


 その瞳には、冷徹な理性と確かな殺意が宿っていた。


 「黙って見ていろ。この三人の後にゆっくりと・・・相手をしてやるっ。」


 その声は大気を震わせ凍てつかせるように、重く響いた。セリアの身体を中心に、淡い光が螺旋を描きながら立ちのぼる。


 だが次の刹那、セリアから全くエーテルが、感じられなくなる。まるで、存在という概念すら置き忘れたかのように。


 立ち上がった三人、ゴス、グレイル、バイルが同時に動く。再生した肉体を軋ませ、咆哮を上げてセリアへと飛びかかる。


 足元の石畳が砕け、瘴気が渦を巻く。


 迫り来る三人を前にしても、セリアは微動だにしなかった。ただ静かにゆっくりと一歩踏み出し、指先をわずかに払う。


 刹那、幾条もの光が瘴気を裂く。


 ゴスの両腕が弾け飛び、グレイルが放った短剣は空中で崩れ塵と化す。バイルの詠唱は途中で途切れ、口から黒煙を吐き出して膝をつく。


 それでも三人は止まらなかった。瘴気を喰らい、己の肉を裂いてでも進もうとする。今、彼らを突き動かしているのは、怨念と執着だけ。


 「静かに眠りなさいっ。」


 静かでいて、確かな意思のこもった言葉が放たれる。静かに眼を閉じ、胸の前で掌を合わせる。そしてゆっくりと構えをとる。


 「絶技(ぜつぎ)・終ノ型 神威(かむい)


 世界から音が消え、色が失われ、理が崩れ、無形無相(むけいむそう)へと沈んでいく。刹那とも永遠ともつかぬ時が止まり、再び世界が呼吸をはじめ、彩が戻りはじめる。


 黒い靄が弾け、三人の身体を満たしていた瘴気をエーテルへと還元しながら、彼らの身体がゆっくりと崩れ落ちていく。その顔には憎悪、怨嗟では無く、穏やかな表情が浮かんでいた。


 静寂の中、三人の姿は完全にエーテルの海へと還っていった。


 残るのは微かな残響。


 セリアは静かに息を吐き、眼差しをネゼルに向けた。


 「あの三人と同じように・・・死ねると思うなっ。」


 目の前で三人が霧散した光景を、ネゼルはただ呆然と見つめていた。目の前で起こった事象に対して分析も、理の中での説明も、すべてネゼルの中には存在せず、理解を遙かに超えた先にあった。


 「馬鹿な・・・この私が、理解できない・・・。」


 震える声が漏れる。額を伝う冷や汗が、背筋を冷たく滑り落ちた。やがて理性が悲鳴を上げ、恐怖がそれを飲み込む。


 「・・・まずい、ここはっ。」


 ネゼルを黒い靄が包み込むが、何かに干渉され音も無く弾け散る。


 「なっ・・・転移が・・・!?」


 ネゼルの顔に焦りと動揺が露わになる。


 「ここから・・・逃げられると、思うなっ。」


 冷えた刃のように響くセリアの声に、ネゼルの呼吸が詰まる。


 「・・・ならば、これしか・・・。」


 ネゼルは震える手で懐を探り、細い試験管のような瓶を取り出す。中でどろりと濁った赤黒い液体が揺れた。


 「私を嘲るなよ・・・私は、私は、人間などという不完全な器に縛られはしないっ!」


 叫びとともに薬を一気に飲み干す。


 次の瞬間、全身の血管が脈打ち、皮膚が裂けるように膨張した。


 「が、あぁぁああっっ!」


 絶叫とともに周囲の空気が爆ぜる。ネゼルの体表から黒紫の靄が溢れ出し、体内のエーテルを歪に染め上げていく。肉体が軋み、骨格が悲鳴を上げながら変形していく。


 「見ろっ! これが、人という存在の先にある、理を越えた力だっ!」


 その姿はもはや人ではなかった。人の形を保ちながらも、眼は濁り、声は咆哮へと変わる。だが、セリアの瞳は、一片たりとも揺れていなかった。むしろ、先ほどまで抱いていた怒りさえ消え去り、ネゼルにたいして哀れな眼を向けていた。


 「なんて・・・哀れな・・・。」


 次の瞬間、空気が静まり返った。


 ネゼルの腕が振り上げられ、瘴気の刃が幾重にも走る。だが、その全てがセリアの前で、音もなく消えた。


 「・・・ば、かな・・・この力をもってしてもっ!」


 呼吸は荒く、目は狂気と恐怖で濁っている。だがそれでも、なお抗おうとする意思が、ネゼルの身体を辛うじて動かしていた。


 「・・・たかが、人風情がっ!」


 ネゼルは再び手を掲げ、黒い瘴気を解き放つ。けれどそれは、セリアに届く前に静かに霧散していく。


 「・・・もう、終わりだっ。」


 淡い光がセリアの掌に灯る。それは、闇に近い透明。すべての色が、その一点に吸い込まれ、空気が震える。セリアが作り出す空気に、ネゼルは本能的に後退する。だが、今のネゼルに逃げ道はどこにもない。


 「や、やめろ・・・何を、する気だっ。」


 セリアは目を閉じた。


 その唇から、囁くように詠唱が紡がれる。


 「天高き塔の果て 闇を覆い 時を染める 終焉の歌」


 ネゼルの瞳が見開かれた。セリアが紡ぐ声は響くこと無く、ネゼルの内側に直接降り注ぐ。意識の奥底にまで()み入り、存在の境界を曖昧にしていく。


 視界が溶け、上下も距離も失われていく。足場の感覚が消え、身体という境界が曖昧になる。現実との境界も曖昧になり、認識の根幹と溶け合っていく。


 「這いし王女 狂える讃美歌」


 ネゼルの脳が直接震え、無数の声が反響する。声が内側から響き、顔が次々と走馬灯のように浮かび上がる。過去に(あざけ)った者たち、(さげす)んだ者たち、そして自ら見下してきた全ての顔。自己と他者の区別が曖昧になり、それらが重なり、混ざり合い、ひとつの旋律を形づくる。


 ネゼルは叫ぼうとしたが、声帯という概念すら思い出せなかった。


 「妬み 嫉み 呪い」


 過去の光景が、音のように脳裏で再生された。心の奥底で、嘲笑、侮蔑、快楽、支配、そして、それらが幾万、幾億の苦痛と共に一斉に押し寄せる。やがて意味すらない響きへと変わっていく。自らの罪が音律となって反響し、精神が限界を越える。意味を失い、自己と世界の境界が崩壊する。


 「沈みし塔を その手で 称え 奏で」


 世界は裏返り、光と闇が反転する。上下も時間も存在せず、意識だけが暗闇に浮かぶ。その暗闇の中で、セリアの声だけが旋律として残った。


 「朽ち果てろ」


 最後の詠唱が紡がれた瞬間、ネゼルの世界が静止する。音は死に、光は意味を失い、理そのものが崩壊していく。ネゼルの身体が一瞬で硬直し、次いで砕けた。だが、それは身体の崩壊ではない。存在という構造体が分解され、認識が崩れる音のない崩壊。


 ネゼルの内側から、声にならない悲鳴が溢れる。精神は何度も再生し、破壊され、再び組み直される。その苦痛は、永遠に続くかのように思えた。


 やがて、すべての思考が灰色の靄に沈み・・・終わりを告げた。ネゼルの身体は、内側から光に侵されていく。悲鳴を上げることすら叶わず、やがて肉体が霧散し、残ったのは、淡く揺らめくエーテルの残響だけ。


 訪れた静寂。


 セリアはゆっくりと目を開き、ネゼルの存在していた空間を静かに見つめる。その瞳の奥には光はなかった。ただ、無情の世界を見つめる冷ややかな瞳。


 「因果応報。これが、ネゼル、あなたのしたことに対する・・・世界の答えよ。」


 そう呟くと、セリアは背を向け、仲間たちのもとへと歩き始める。


誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。


【読者の皆様へのお願い】

作品を読み、少しでも「面白い」、「先が読みたいと」と感じた方は、ブックマークと評価をお願いします。

気合を入れて妄想に妄想を重ねて執筆する原動力になります。厨二病感満載の詠唱も考えて行きます。

改めてお願いします。

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