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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第五章 王都動乱編
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第九十八羽. 霧の中の集結


 幽都回廊・ノクタルナ。


 青白い燐光が岩肌をなぞるように流れ、壁面からは絶え間なく霧が滲み出していた。重く淀んだ空気が漂うなか、六つの影、それに続くように10人以上の影が列をなして静かに進む。


 六つの影、それはアヤメ、ヴェイン、テオドール、リュカ、フレイアの庭園(ガーデン)メンバー、それとこの迷宮(ラビリンス)探索に同行しているSランク冒険者であるエリー。後方の冒険者たちはセリアたち庭園(ガーデン)メンバーの昇格に疑義の目を向けていた者たちである。庭園(ガーデン)メンバーが先導として前線を担い、背後には冒険者たちが続いている。


 冒険者たちは先の戦闘において自分たちの力量が、庭園(ガーデン)メンバーに遙かに劣ることを目の当たりにした。そしてリュカとフレイアにすら劣るという事実に打ちのめされていた。そして自分たちが騒ぎ立てた結果として、この迷宮(ラビリンス)探索が計画され、そして4人が命を落とす結果になった事に暗い影を落としていた。


 斥候であるヴェインが一同の戦闘に立ち、深い霧をひたすら先へ進んでいた。転移により自分たちが現在どこにいるのかが全く分からないでいた。ただ、接敵する魔物の強さから、中層以降の可能性が高いというのが経験者であるエリーの予想であった。


 辺り一帯を包み込む霧に足音すら吸い込まれていく。そんな中、アヤメの声が短く奔る。


 「正面から来るよっ。」


 「了解だっ。」


 ヴェインの姿が霧の奥へと消えて行く。


 「分かったわぁ。」


 その後に続いてピンクの裾を翻しながらエリーが駆けていく。


 「はいはぁぁい、そこの坊やたちぃ。アタシが相手してあげるわぁっ。」


 エリーの蹴り霧を裂き、拳が一閃する。その度に粉砕音とともに霧が弾け、甲冑ごとアンデッドが吹き飛び壁にめり込む。


 「ぜぇんぜん、足りないわぁ。準備運動にもならないじゃないっ。次来るならぁ、もっと気合いを入れてきなさぁっいっ。」


 軽口を叩きながら、接近してきた最後の一体の顎を蹴り砕いた。


 「エリーさんって、本当にすごいですねっ。」


 テオドールは少し離れた位置で魔導灯を掲げ、戦況を眺めている。テオドールは部分的に戦闘に参加しているが、今は補助を兼ねて後方で待機している。リュカとフレイアはテオドールの後ろでエリーの戦いを見ながら騒いでいた。


 散発的な戦闘を繰り返しながら先へ進むと次第に霧が薄れていく。そして、その先には通路の新たな階段が姿を現す。


 そこを降りれば、また別の階層が待ち受けている。一行は迷うことなく進み、次々と階層を突破していった。


 「今のところ順調だな。転移に巻き込まれた時はどうなるかと思ったが・・・。」


 ヴェインの声に、アヤメが短く頷く。


 「ほんとに、最初はどうなるかと思ったよっ。」


 「アタシはぁ、おじさまと一緒でとぉっても楽しかったわよっ。」


 ウィンクをしながら自分を見つめるエリーに悪寒を覚えながら、ヴェインはただ前だけを見つめていた。


 「何で、おじさま、なの?」


 テオドールの素朴な疑問にエリーがクスクスっと笑いながら振り向く。


 「決まっているじゃないっ。ア・タ・シのタイプだからよぉ。」


 今のは答えになっていないのでは、テオドールがそんな疑問を抱いていると、霧の向こう、また新たな魔物の気配が立ち上る。


 敵を迎え撃ち、一向はさらに先へと歩みを進めていく。階層をひとつ抜けるたびに、霧の色が僅かに変わっていく。青から灰へ、灰から黒へと。深く潜るほどに光が奪われていくようだった。


 足音だけが湿った石床に響き、背後では冒険者たちが隊列を保って進む。


 「・・・次の階層はもう少し先みたいだね。」


 アヤメが霧の向こうを見据えながら言う。


 「それにしてもぉ、セリアちゃんの仲間が、こぉんなに強いなんてぇっ。」


 「セリアねぇに、いやって言うほど鍛えられてるからねっ。」


 エリーの言葉にアヤメは笑いながらテオドールに目を向ける。


 「最近は、テオがこってりと絞られてるけどね。」


 「はっはっ・・・最初は死ぬかと思いましたけど、今は何とかこなしてます・・・。」


 テオドールが乾いた笑いを浮かべながら答えていると、突然、目の前に光が奔り辺り一帯を照らし出す。


 「な、何これ・・・!?」


 反射的に上げたアヤメの声に一同の間に緊張感が奔る。アヤメ、ヴェイン、エリーが戦闘態勢をとり、テオドールはかばうようにリュカとフレイアの前に出る。冒険者たちも武器を抜き警戒感をあらわにする。


 霧が波紋のように揺れ、それは何の前触れもなく、ただそこに何かが現れた。そして光の渦から、一つの影が飛び跳ねてくるのが見えた。


 重量を感じさせない軽い衝撃音。薄い青色をした半透明の球体が地面に着地し、表面がぷるりと震える。


 「・・・テトラ?」


 アヤメの声が、かすかに震える。


 その直後、ヴェインの声が響き渡る。


 「大丈夫だ、問題無いっ。こいつはセリアの従魔だっ!」


 光が次第に収束し、回廊は静けさを取り戻し複数の影が浮かび上がる。それはセリアの従魔であるイロハ、ラクス、ランスロット、ブリュンヒルデ、そして巨体のエルミオス。さらに、エルミオスの背には意識を失ったアルジェントとメルディナの姿があった。


 「アルお姉ちゃんっ! メルッ!」


 それを見たリュカとフレイアがエルミオスに駆け寄っていく。冒険者たちはヴェインの言葉と駆け寄っていくリュカとフレイアの姿を見て、構えていた武器を静かに下ろした。


 転移によって散り散りになっていた仲間が合流した。その事実に庭園(ガーデン)メンバーには安堵の色が顔に浮かんでいた。霧が立ち込める回廊で起こった出会いに、一同の間に安堵の気配が広がっていった。


 「ねぇ、ヴェイン。」


 「どうした、嬢ちゃん。」


 「魔物の姿もないし、一旦ここで休息しない。」


 「そうだな。アルとメルとも合流出来たし、ここで休息を挟むか。」


 黒に近い灰色の霧が立ち込める不気味な場所ではあったが、不思議とこの場所には魔物が姿を見せない。アヤメの提案を了承したヴェインはアヤメとエリーに指示を出す。


 「アヤメとエリーにも休憩を取って欲しいところだが、周囲の警戒を頼む。」


 「了解だよっ。」


 「おまかせぇ、おじさまっ。」


 返事をしたエリーはピンクのワンピースを翻しながら軽やかな足取りで駆けていく。


 「さて、二人をそのままにはしておけないからな。ランスロット、ブリュンヒルデ、二人を床に寝かせるから手伝ってくれっ。」


 ヴェインの言葉にブリュンヒルデがアルジェントを、ランスロットがメルディナを丁寧に抱き上げ、ヴェインが石畳に広げた敷物の上にゆっくりと寝かせる。


 「ランスロット、経緯を聞かせてくれるかっ。セリアと一緒だったんだろ。」


 ヴェインの要求に応えるようにランスロットが一歩前に出る。


 「説明いたします。我らはマスターと共に、階層の攻略を試みていました。ですが、敵の罠にはまり隔離空間に閉じ込められていました。」


 「隔離空間・・・?」


 ヴェインが短く反芻(はんすう)する。


 「はい。マスターはその空間で、操られていたアルジェント殿とメルディナ殿を取り戻そうと戦われました。二人を救出した直後に空間の崩壊が始まり、マスターは隔離空間から脱出を試みました。ですが転移が行われる直前に敵の攻撃を受けました。」


 「それで・・・セリアは?」


 ランスロットが短く首を振った。


 「マスターだけが弾き飛ばされ。我々とアルジェント殿とメルディナ殿の二人だけが、隔離空間からの脱出に成功しました。」


 ランスロットの報告に静まり返る一行。冒険者たち一行はヴェインとランスロットの話している内容に理解が及んでいなかった。ただ、自分たちがその状況に陥った場合、まず生きて抜け出すことは出来ない。それだけは確実に理解出来た。そしてこの事態を招いたのが、自分たちのちっぽけのプライドを守るためである。その事実に口を閉ざし、固く重い沈黙を強いることしか出来なかった。


 「ママ・・・。」


 リュカとフレイアが不安げに互いの手を握る。


 そのとき、横たわっている二人がかすかに身じろぎ、声が漏れる。


 「・・・ん・・・ここは・・・?」


 メルディナがゆっくりと目を開け、息を吐く。そして続いてアルジェントも静かに瞼を開ける。


 「ここは・・・いったい・・・。」


 「意識が戻ったようだな。」


 「ヴェイン様、ここは・・・。」


 「無理はするな、しばらく横になってろ。」


 起き上がろうとするアルジェントに声をかけると、ヴェインは二人に経緯を尋ねる。


 「横になったままでいいから、覚えていることを教えてくれっ。ランスロットの話だとどうやら二人は操られてセリアと戦ったらしいのだが・・・。」


 「わ、わ、たしがセリア様に剣を・・・向けた・・・。申し訳、ありません・・・セリア様。」


 ヴェインから放たれた衝撃の言葉に、驚愕の表情を浮かべて顔を覆うアルジェント。意識が無かったとはいえ、自分の犯した罪にアルジェントは謝罪を繰り返す。


 アルジェントを横目で見ながらメルディナは少しの間、黙ったまま天井を見つめていた。


 そして、掠れた声で呟く。


 「・・・最後に、覚えているのは・・・セリアが妾の胸に、刃を突き立てた・・・。そうじゃっ、セリアのやつ、平気で妾の胸に刃を突き刺したのじゃっ。」


 その言葉と共にメルディナは慌てて自分の胸の辺りを触る。何度も自分の胸元を確認するが、そこには服の破れたあとも、一切の傷がなかった。


 「俺たちの前に現れた時には、何にも無かったぞ。」


 「確かに・・・そ、そうじゃ、セリアはどうしたっ!」


 メルディナの言葉にヴェインはランスロットから得た情報をそのまま伝えた。


 「そうか・・・行方が分からぬのか・・・。」


 その報告を聞いたアルジェントがふらつく身体で無理に立ち上がろうとする。


 「だから言っているだろっ。もう少し休めと。」


 起き上がろうとするアルジェントをヴェインが無理矢理に押しつける。


 「ですが・・・。」


 「アルよ、ここはヴェインの言うとおりなのじゃ。セリアを探しに行くにしても、今の妾たちでは足手まといにしかなぬ。体力回復する方が先決なのじゃ。まぁ、体力の回復よりも受けた精神的ダメージの方が深刻ではあるがな・・・。」


 「それ以外に何か覚えているか?」


 「そうじゃの・・・転移陣で飛ばされた後、階層を探索中でに出くわしたボスらしき魔物を倒したのは覚えているのじゃ。だがその後が・・・霧に包まれたように思い出せんのじゃ。この妾が・・・このような目にあうとはの・・・。」


 メルディナは決して自分の能力に傲っていたわけでは無い。それでもこの世界に自分の精神に干渉できる者がいるとは想像もしていなかったのは事実である。だがそれが出来る者がいる。その事実にメルディナは、背後で蠢いている者の正体に見当がついていた。


 「私もメル様と同様です。ボスを倒し、その部屋を出た以降が思い出せません。」


 「そうか・・・まぁ、それじゃしょうがないな。今はゆっくり休め。俺はアヤメと交代するかっ。」


 アルジェントが離れていくヴェインの背を眺めていると、次にはアヤメが駆け寄ってくる姿に切り替わる。アルジェントの横に座ると顔を覗き込むアヤメ。


 「アヤメさんも無事なようでよかった。」


 「何言ってるの。アルねぇの方が重傷なんだよ。目を醒まさなかったどうしようかと思ったよ。」


 「心配をおかけしてすみません。」


 アルジェントは涙を浮かべているアヤメの頬に手を添えながら微笑む。


 「アヤメよ、妾の心配もして欲しいのじゃ。」


 「メルの心配だって・・・当然してるよ。本当に二人とも無事でよかったっ。」


 涙を浮かべて笑顔を作るアヤメに二人は、胸が熱く一杯になり身体が軽くなっていくの感じていた。


 「ランスロットさんもセリア様との繋がりは、絶たれたままなのですよね?」


 アルジェントは横になったまま、ランスロットに問いかけた。


 「はい、マスターとの繋がりは、いまだに断たれています。」


 「そうですか・・・。」


 アルジェントは念話を送り届けているが、一向にセリアからの応答が無い。ストレージはかろうじて使用できるが、その他セリアとの繋がりは断たれたままになっていた。


 「まぁ、セリアの事は・・・そんなに心配しなく大丈夫だと思うが、これからどうするかかだな。」


 そこに戻ってきたヴェインが短く息を吐いた。


 アヤメがうなずく。


 「そうだよねぇ。でもさ、セリアねぇが戻ってくれば、きっと向こうから合流してくれると思うんだよね。だから、このまま最下層を目指す方が良いと思うんだっ。」


 アヤメの言葉にその場にいる全員が頷き同意する。そしてアルジェントとメルディナの回復を待って最下層へと歩みをはじめた。



 ◇◇◇◇◇◇


 崩壊が刻一刻と進む隔離空間。


 すでに半分以上が虚無に呑まれ、境界では物理的な意味を持つ物が次から次へとその理を失い消滅していく。そんな崩壊しつつある小さな世界で、セリアはオルデシアの紐状の尾に全身を絡め取られていた。


 「・・・っ、なんて・・・力だっ!」


 第三階梯までチャクラを解放し、さらに並行励起を発動させる。


 セリアの全身をエーテルの奔流が駆け巡る。だが、尾の拘束は緩まず、それを上回る力で締めつけてくる。尾の締めつけがセリアの全身を軋ませ、抵抗する力を奪っていく。


 ーーーまずい、このままじゃっ。


 『マスター、出力が限界域に到達しています。』


 頭の奥で、オモイカネの冷静な声が響いた。


 「分かってる・・・だが、このままではっ!」


 一瞬、セリアのエーテルが跳ね上がるが、それでも尾はびくともしなかった。力と力の拮抗はオルデシアに軍配が上がり、セリアの力が急速に衰えていく。


 その刹那、セリアの視界の端でオルデシアの内部構造が光を帯び、動力炉が自壊の前兆を見せ始めていた。


 『マスター、龍の因子の解放を提案します。』


 『・・・あれを・・・。』


 セリアは以前一度だけ龍の因子の解放を試みた事があった。だが力の制御が全く出来ず、自身の身体すら危うくする事態に陥ったことがあった。


 『現状で他に手段はありません。』


 セリアは瞼を閉じ息をゆっくり吐き、意識を沈める。自分の中にある龍の因子を見つめ意識していく。


 次の瞬間、胸の奥で何かが脈打ち、途方もないエーテルがセリアから溢れ出す。首筋や手首に龍鱗が浮かび上がり、右の瞳も紅く輝き出す。


 「・・・龍の因子、解放。」


 体内のエーテルが臨界を越え、爆発的な奔流が隔離空間に広がる。そしてセリアの背から伸びる光が形を取り、一対の光の翼が展開した。


 セリアを拘束していたオルデシアの尾が軋みはじめ、翼が閃光を放ちながら振り払われる。金属の悲鳴とともに尾は引きちぎられ、粉砕された。


 解放されたセリアは瞬時に距離を取る。セリアの目に映るオルデシアのエーテル炉は、白く膨張し既に臨界を迎えていた。


 「・・・こんなところでっ!」


 セリアは瞬時に光の翼を折り畳み、繭のようにセリアを包み込む。直後、臨界を迎えた動力炉が隔離空間を染め上げ、飲み込む閃光が全てを灼き、衝撃が駆け抜ける。光の繭を維持するセリアの身体は既に限界を迎えていた。身体が激しく震え、紅く輝いていた右の瞳は輝きを失い本来の色へと戻りはじめていた。


 「まだ・・・私は・・・。」


 一瞬とも永遠とも思える暴力の権化を、セリアは薄れゆく意識の中で耐え抜いた。オルデシアは跡形も無く消滅し、爆発の余波は隔離空間の消滅を加速させた。


 理が失われ光さえも無色に変える虚無の境界線が、セリアのすぐ目の前まで迫りくる。虚無がすべてを呑み込む直前、倒れゆくセリアの姿が輝きの中へと消えて行く。


誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。


【読者の皆様へのお願い】

作品を読み、少しでも「面白い」、「先が読みたいと」と感じた方は、ブックマークと評価をお願いします。

気合を入れて妄想に妄想を重ねて執筆する原動力になります。厨二病感満載の詠唱も考えて行きます。

改めてお願いします。

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