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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第五章 王都動乱編
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第九十七羽. 七分間の死闘


崩壊の轟音に重なるように、光の奔流が一直線に放たれた。白熱の閃光が石壁を薙ぎ、触れるもの全てを瞬時に溶かしながらセリアに迫る。空気は焼け焦げ、耳を裂く振動が空間を満たす。


 「っ!」


 セリアは直感に従い即座に身を沈め、脚に力を込めて跳躍する。翻った裾の端を掠めるように白光が背後を飲み込み、立っていた石畳が赤熱して融解していく。奔流に呑み込まれた箇所は表面がガラスのように変質し、灼け爛れた跡だけが残る。


 オルデシアは間を置かず両腕を振りかざす。鉤爪の隙間から圧縮されたエーテル弾が唸りを上げて射出され、青白い閃光が雨のように降り注ぐ。絶え間なく襲い来る攻撃は、セリアを追い立てていく。


 「っ、速い・・・!」


 地を駆け、跳躍し、時に壁を駆け抜ける。身体をひねり、わずかな隙間を縫うように光弾を紙一重で避けていくセリア。だが連射の軌跡は徐々にセリアを狭い一角へと追い込み始めていた。


 『警告。誘導されています。』


 《オモイカネ》の警告と同時に、オルデシアの細長い頭部の奥で赤光が凝縮する。収束した光束が逃げ場を狭められたセリアに向かって放たれた。


 「くっっ!」


 即座に展開された防御結界が光の奔流と激突する。押し寄せる轟音と衝撃に、防御結界に亀裂が走る。ひときわ眩い光が爆ぜる中、セリアは歯を食いしばりながら踏みとどまった。セリアの両足を支える石畳がミシミシと砕け、ブーツの底を通して足全体に振動が伝わる。


 「・・・まだっ!」


 結界が霧散するのと同時に、セリアの手に《ツクヨミ》が顕現する。赤光を反射した刃を振り構え、素早く懐へと潜り込む。鋭い弧を描いて《ツクヨミ》がオルデシアの胴へと吸い込まれるように切り込む。


 甲高い金属音。


 弾かれた刃が火花を散らし、その衝撃が腕を痺れさせる。


 「堅っ・・・!」


 その瞬間、思わず零れるセリアの言葉を掻き消すように、尾がうなりを上げて襲いかかる。セリアは《ツクヨミ》を即座に反転させ、刃で受け止める。その瞬間、重い衝撃が腕から全身へと駆け抜けていく。耳元で鳴っているかのように骨の軋む音がうるさく響き、セリアの身体が僅かに沈み込む。大きく一歩を踏み込むと尾をはじき返すセリア。


 「まだだっ!」


 セリアは《ツクヨミ》にエーテルを注ぎ込む。紅光を帯びた《ツクヨミ》が、閃光のように振り抜かれた。エーテルを纏った刃は装甲の表層を裂き、金属を浅く抉った。


 しかしオルデシアに怯む様子は全くない。両手の鉤爪が交差し、紐状の尾が重ねて襲いかかる。セリアは紙一重で身をかわし、刃を振り返す。尾を受け流し、爪をかすめるたびに火花が散り、金属音が轟いた。


 左の紅い瞳が閃き、冷たく敵影を射抜く。戦場を埋める閃光と轟音の中、攻防の応酬は止むことなく続いていった。繰り返される攻防の中で、突如オルデシアの肩部バインダーに走る赤い線が浮かび上がり、眩く輝きを増した。そして、低い駆動音とともに装甲が展開し、内部から小型の機構体が次々と吐き出される。


 「・・・っ、厄介な物をっ!」


 赤光を瞬く小型兵器は羽虫の群れのように宙へ散開し、セリアを取り囲む。


 次の瞬間、弾幕のごとく光弾を浴びせてきた。


 「数で圧倒するつもりかっ!」


 迫り来る小型兵器を《ツクヨミ》で切り捨てながら、セリアは地を蹴って跳び退く。だが光線と群れの射撃は絶え間なく重なり、回避の余地は急速に狭められていく。


 『警告。無線制御型小型兵器、二十を超過。なおも増加中。』


 赤光の群れは途切れることなく吐き出され、三十、四十とあっという間に数を膨らませていく。宙を漂う赤い光点が次第に密度を増し、セリアの視界を埋め尽くしていった。


 「ちっ!」


 セリアは一度大きく跳躍し、群れを引き離す。だが距離を取ったその刹那、オルデシアの頭部が正確にセリアを捉えた。細長い砲口に赤光が凝縮し、奔流が放たれる。


 崩壊の閃光が床を貫き、灼熱の裂け目を刻む。続けざまに、両腕の鉤爪から光弾の連射が解き放たれた。マシンガンのような火線と、宙を舞う小型兵器の群れが交差し、光の網が戦場を覆う。


 「・・・っ、近づけないっ!」


 閃光の奔流と弾幕に押し込まれ、セリアは防御と回避に追われる。オルデシアは距離を支配し、迫り寄る隙を与えなかった。


 閃光と弾幕の嵐の中で、セリアは一瞬、呼吸を整えるように低く呟いた。


 『《オモイカネ》、この空間が消滅するまで、あとどれくらいだっ。』


 『推定、残り七分前後。戦闘の長期化は危険』


 「・・・そう。なら、これ以上遊んでやる暇は、もうないっ。」


 セリアはさらに後方へ跳躍し、これまで以上に大きくオルデシアとの間合いを広げた。その姿を追って群れの兵器が迫るが、セリアは視線を逸らさず、深く息を吐き出す。


 次の瞬間、セリアの手に握られた《ツクヨミ》の柄に赤く文様が浮かび上がり、それは血管のように脈打ちながら鎌全体へと広がり、淡い燐光を帯びていく。さらに、鼓動に合わせるように空気が震え、足元の石畳がわずかに軋み始める。


 《ツクヨミ》の刃の部分に収束したエーテルが凝縮し、黒を基調とした刃を覆うように紅を帯びた光刃が形成される。鋼を超える密度の光が凝縮され重なり合い、それは切断という概念そのものを形にしたかのようだった。


 燃え立つような紅の瞳が輝きを増し、セリアが纏うエーテルを戦場を支配しはじめる。《ツクヨミ》に宿る紅の刃光が強烈な輝きを放ち、刃から放たれる圧が空気を軋ませた。


 地を裂く勢いで駆け出すセリア。


 その速度は一瞬にして視界から掻き消えるほどで、紅く燃え立つ瞳が駆けるたびに宙に紅光の軌跡を刻む。《ツクヨミ》が軌跡を描けば小型兵器が両断され地へと落ち、爆煙と雷光が周囲の群れを次々と爆ぜ散らせた。紅の残光が宙を走り、群れを薙ぎ払いながら一直線にオルデシアへと迫っていく。


 群れを切り裂いて突き進むセリア。その接近を阻もうと、オルデシアは両腕の鉤爪を構え、爪の間から再び光弾を乱射した。残存していた小型兵器も連動し、雨のような弾幕がセリアを遮る。セリアは刃を振るい、迫る光弾を次々と裂きながら疾走する。


 《ツクヨミ》が届くほどの距離に接近したセリアに対して、オルデシアも迎撃に転じる。両腕の鉤爪が閃光のごとく振り下ろされ、鋭い金属音と衝撃がセリアに襲いかかる。


 「・・・っ!」


 セリアは爪を紙一重でかわし、反転し飛び上がると刃を振り抜いた。紅の光刃が閃き、オルデシアの左腕を肩口から切断する。断面からは火花と黒煙が噴き出し、切り落とされた巨腕が轟音とともに床へと崩れ落ちた。


 だが次の瞬間。


 紐状の尾がこれまでにない速度で振るわれ、ムチのように空気を裂いた。尾の先にある刃が唸りを上げて迫り、セリアは咄嗟に《ツクヨミ》で受け止める。


 「くっっ!」


 衝撃が全身を打ち抜き、セリアの体は大きく吹き飛ばされた。石畳を砕きながら転がり、辛うじて体勢を立て直す。


 口元を拭った手の甲が赤く染まり、口の中には鉄のさびた味が喉奥から広がっていた。


 直後、機械的な音声が戦場に響き渡った。


 「・・・リミット解除。」


 駆動音の低い唸りとともに、内部のコアが過剰なエネルギーを空間に吐き出し、オルデシアの全身から赤黒いエーテルが溢れ出す。今まで抑え込まれていた力が解放され、圧倒的な存在感が空間を震わせた。


 駆動音は一段と高まり、設計限界を超えた電子回路の焼き焦げるような高周波のノイズへと変質した。


 次の瞬間、オルデシアの巨影がセリアの視界から掻き消える。


 目にも止まらぬ速度で迫る鉤爪。続けざまに尾が薙ぎ払い、空気が震える。苛烈なまでのオルデシアの連撃がセリアを叩き潰そうと襲いかかった。


 オルデシアの全身から漏れ出したエーテルは隠すことなく周囲を満たしていた。だが、セリアの紅に輝くその瞳がその流れを余さず捉え、オルデシアの全ての攻撃を見切っていた。


 振り下ろされる爪を、セリアは半歩踏み込み。また、巻き上がり迫り来る尾の刃は体をひねって半身でかわし、巨体の死角へ潜り込む。その度に閃く《ツクヨミ》の軌跡は、オルデシアの装甲の至る所へ十重二十重に傷を刻み込んでいった。


 装甲を裂く火花、巨体を貫く衝撃。


 的確に急所を狙った攻撃が確かにオルデシアを損耗させ蝕み、その巨体はすでに限界に達していた。駆動部は火花を散らし、軋む音が戦場を満たす。


 だが、その挙動は衰えるどころか、逆に狂気じみた勢いを帯びていく。駆動音はさらに甲高く、軋む関節を無理やり押し広げるように震わせ、赤黒いエーテルが奔流のごとく噴き出した。


 破壊と自壊の区別を失い、ただ目の前の脅威であるセリアを滅ぼすためだけに動いていた。


 限界を超えたオルデシアは、最後の悪あがきのように肩部のバインダーを展開する。内部から吐き出された小型兵器は赤黒いエーテルを纏い宙を覆い尽くす。


 「まだ放てるのかっ・・・。」


 無数の赤黒いエーテルが宙に妖しく揺らめく。至近距離で迎え撃つにはあまりにも数が多く、爆散の余波すら脅威となる。


 即座に判断したセリアは距離を取り、静かに《ツクヨミ》を掲げる。紅に輝く刃先が脈動すると、戦場の空間そのものが震えた。


 次の瞬間、宙一面に無数のエーテルの刃が顕現する。それらはすべて鎌の形状を模した光刃であり、セリアの意思に呼応して紅の輝きを帯びていた。


 「終わりだっ!」


 《ツクヨミ》を振り下ろす。


 それに呼応するように、宙に展開した無数の紅刃が一斉に落ち、赤黒い小型兵器を斬り裂きながらオルデシアを覆い尽くした。爆煙と閃光が奔流のように広がり、戦場全体を紅に染め上げる。


 瓦礫と光の雨が降り注ぐ中、オルデシアの殺意が僅かに感じたセリアは迷わず跳躍した。紅の瞳が閃き、振りかざした《ツクヨミ》が大気を裂く。


 「沈めっ!」


 セリアの叫びと共に紅光の奔流が一直線に走り抜け、オルデシアの巨体を頂点から地へと両断した。轟音とともに巨影が傾き、赤黒いエーテルを撒き散らしながら崩れ落ちていく。


 その刹那。


 セリアに生まれたわずかな隙を逃さず、紐状の尾が蛇のようにうねり、彼女の身体に絡みついた。


 「・・・っ!」


 全身を締め上げられる感覚。


 次の瞬間、オルデシアの巨体から赤黒い光が膨れ上がる。臨界を迎えたエネルギー炉の軋む音が、声なき絶叫のように響き渡り、戦場全体を衝撃が駆け抜けた。


 耳を劈く駆動音とともに、暴走兵器は自らを焼き尽くすかのように爆ぜた。業火の奔流が爆煙を巻き上げ、セリアの姿を呑み込んでいく。


 紅の残光すらも霞むほどの爆発が空間全体を震わせる。やがて、隔絶されたこの空間そのものが虚無に呑まれ、完全に消滅した。



 ◇◇◇◇◇◇


 幽都回廊・ノクタルナの入口は、ギルドのものとは異なる半透明の結界によって閉ざされていた。淡い光の膜が幾重にも重なり、外界との往来を完全に断ち切っている。


 「・・・駄目だ、まったく解けないっ!」


 結界に魔法をぶつけた魔術師が顔を歪める。アガレスはその様子を睨みつけ、苛立たしげに拳を握りしめた。


 「何度やっても同じことかっ・・・。」


 額に青筋を立てながら、結界を睨み続けるアガレス。その隣に立つナタリーは言葉を失い、ただ淡い光に覆われた入口を呆然と見つめていた。


 冒険者たちが閉じ込められているという現実が、ナタリーの胸を押し潰していた。


 周囲では冒険者やギルド職員が声を荒げている。


 「中の様子はどうなってるんだっ!」


 「連絡は? 王宮から何か伝令は来ていないのかっ!」


 王宮へも既に報告は上がっていたが、現場にはまだ具体的な指示は届かない。刻一刻と時間だけが過ぎ、焦燥と苛立ちが現場の中に広がっていく。


 結界を破れず、中にいる冒険者たちの状況を全く把握できない。その場にいる誰もが、無力感と混乱の只中にあった。


 淡い光の膜は静かに立ちはだかり、結界に触れた瞬間に霧散し周囲のエーテルに溶け込んでいくため、魔法をいくら打ち込んでも微動だにしなかった。苛立つアガレスの拳が石畳を叩き、重い音が響く。


 「ちっ・・・。」


 アガレスは苦く顔を歪めながらも、結界の前に進み出た魔術師へと視線を向けた。ギルド研究部門に所属する中年の魔法師が、宙に複雑な魔法陣を描きはじめる。巻物(スクロール)を広げ、淡々と術式を重ねていくその姿に、周囲の視線が集まった。


 「力で破れぬなら、構造を解明するしかあるまい・・・。」


 魔法士の言葉にアガレスは深く息を吐き、苛立ちを抑え込むように低く言葉を発した。


 「・・・頼む。今は少しでも可能性に賭けるしかない・・・。」


 その言葉に応じるように、数人の魔法士たちも前へ進み出る。それぞれが魔法陣を展開し、研究部門の魔術法師と並んで複雑な解析の術式を重ねていった。


 複数の魔法士が並び立ち、宙に浮かぶ魔法陣を重ねていく。幾何学模様が幾層にも折り重なり、やがて結界表面に淡い波紋が走った。


 「・・・反応したぞっ!」


 研究部門の魔法師が声を上げる。


 半透明の膜に微細な揺らぎが生まれ、複雑な紋様が浮かび上がっていく。それは見慣れた結界の術式とは異質のもので、外側の誰もが息をのんだ。


 「こんな構造、見たことがない・・・。」


 研究部門の魔法師が額の汗を拭い、低く吐き出す。術式構造は、高次元の空間を三次元に投影したかのような複雑な非線形演算で構成されており、解析の起点が無限に分散していた。


 「糸口は掴めたが・・・解析だけでも途方もない時間がかかる。まして解除となれば、我々の手には負えるのか・・・。」


 周囲に重苦しい沈黙が落ちる。魔法士たちは魔法陣を展開したまま、互いに顔を見合わせるしかなかった。


 結界は確かに反応を示している。だがその複雑さは、現場の人間が突破できる領域をはるかに超えていた。



 ◇◇◇◇◇◇


 幽都回廊・ノクタルナの最下層。


 仄暗い地の底、死者の熱を体現したような冷たさと静寂に満たされた空間。


 その中心に、黒衣の男、ネゼルが一人佇んでいた。


 足元には光を失った魔法陣が描かれている。その魔法陣が一瞬だけ何かを検知したように光り輝いた。


 「どうやら、隔離した空間が消滅したようですね。」


 さらに魔法陣の中央に青白い小さなキューブ状の結晶体が現れる。隔離空間で戦闘を行っていたオルデシアの稼働データが格納された記録媒体である。本体が帰還する事無く、稼働データのみが転送されてきた。


 ネゼルはそれを拾い上げ、淡々と感情のこもらぬ声で呟く。


 「・・・依頼は最低でも稼働データは持ち帰るといった内容でした。機体本体は消滅してしまったようですが、これで十分でしょう。」


 拾い上げた記録媒体の周りに小さな魔法陣が展開していく。そして次の瞬間にネゼルの掌から記録媒体が消えてなくなった。


 「さて、これで依頼は完遂です。」


 求められたオルデシアの稼働データを依頼主に届け、仮面の奥で僅かに瞳が揺らぎ流石のネゼルにも安堵の色が浮かぶ。嘆哭者(クライアント)の上位存在である管理者(オルター)という地位に就いているとはいえ、組織全体としてみれば下位の存在、いやただの駒である。この依頼も上位者からの物であり、失敗はすなわち死を意味していた。


 「それでは、冒険者たちを迎える準備をはじめましょう。」


 ネゼルは仮面の奥で愉悦にまみれた歪んだ笑顔を浮かべる。その後ろでゆっくりと三つの影が浮かび上がり、徐々に輪郭を結ぶ。



誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。


【読者の皆様へのお願い】

作品を読み、少しでも「面白い」、「先が読みたいと」と感じた方は、ブックマークと評価をお願いします。

気合を入れて妄想に妄想を重ねて執筆する原動力になります。厨二病感満載の詠唱も考えて行きます。

改めてお願いします。

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