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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第五章 王都動乱編
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第九十五羽. 悪夢を切り裂いて


 広大な空間を覆うのは、轟音と閃光の奔流だった。無数の円盤が唸りを上げて飛び交い、従魔たちの咆哮と衝撃音が重なり合う。金属が軋む悲鳴、エーテルが弾ける閃光、断続的な爆音、耳を(つんざ)く混沌があたりを満たしていた。


 その騒乱のただ中で、セリアの意識に静かな声が届く。


 『個体名:アルジェント、メルディナ。両名は精神拘束状態にあり、自我が埋没しています。』


 『・・・拘束の要因は?』


 『要因は二つ。精神領域に形成された制御核。そして胸元に刻まれた刻印。両者は連動し、外部干渉を遮断しつつ内部を縛っています。』


 剣戟と魔術が火花を散らす中、セリアはわずかに目を細めた。


 『どういうことだ?』


 『刻印が触手のように広がり精神領域に侵食し、そこから制御核を生成・強化。刻印はエーテルによる直接破壊が可能ですが、制御核は精神干渉術式やそれに類する攻撃による破壊が最善。二人を解放するには二つの破壊が絶対条件です。』


 『まずは・・・刻印から、というわけね。』


 『肯定。制御核を直接攻撃するには時間を要するため、先に刻印を排除することが効率的です。』


 セリアの視線がアルジェントの胸元に突き刺さる。刻印は確かに不気味な律動を刻み、虚ろな瞳と同調するように光を放ち黒々とした触手を全身に張り巡らしていた。


 セリアが一歩を踏み出せば、アルジェントの剣閃が容赦なく襲いかかり、さらには後衛に位置するメルディナは距離を取り、魔術による高火力な攻撃がセリアの接近を(はば)んでいる。


 セリアが攻めあぐねている次の瞬間、アルジェントの剣閃が閃光となって迫る。セリアは紙一重で刃を逸らし、僅かな隙間へ身体を縫うように滑り込ませてアルジェントの懐へと潜り込む。


 ーーーいまだ・・・。


 掌を突き出し、刻印へと衝撃を叩き込む。同時に、刻印にエーテルを流し込んだ。硬質な膜を貫くような手応えとともに、刻印が軋みを上げる。触手のように全身に広がる刻印の隅々にまで、一瞬にして衝撃とエーテルが行き渡り、胸元にある刻印を中心にひびが広がっていく。


 そして、砕け散る。


 『刻印の破壊を確認。』


 アルジェントの身体が一瞬硬直し、虚ろな瞳にわずかな揺らぎと光が生まれる。それをセリアが確認した次の瞬間、アルジェントの背後に魔法陣を多重に起動したメルディナの姿を視界が捉える。複数の火球が唸りを上げ、アルジェントごとセリアを焼き尽くそうと迫る。


 セリアは躊躇(ちゅうちょ)せずアルジェントの身体を蹴り飛ばして攻撃軌道から外し、自らは逆巻く炎を切り裂くように跳躍する。


 爆炎が空間を揺らし、轟音が大空洞に反響する。


 「次は・・・。」


 セリアは即座に視線をメルディナへと移す。距離をとるメルディナの周囲には幾重もの魔法陣が重なり、火球と氷槍と雷撃が連続して放たれる。殺到する暴力の奔流が、セリアの接近を阻む壁となる。


 その時。


 轟音にかき消されることなく、《オモイカネ》の声がセリアの意識へと割り込んだ。


 『マスター、警告。個体名:アルジェント。刻印の再生成を確認。』


 「・・・なに、再生、だと・・・。」


 振り返ったセリアの視線の先では、アルジェントの胸元で再び刻印が黒々と脈動を始めていた。消えたはずの刻印が、制御核から逆流するように再び形を取り始めていた。


 セリアは短く問いかける。


 「《オモイカネ》、刻印が消滅してから再生するまでの猶予は?」


 『推定三十秒前後。対象の精神抵抗値により変動。ただし制御核が健在である限り、再生成は確実。』


 「・・・つまり、その時間内に制御核を破壊する必要があるわけか・・・。」


 先ほどアルジェントの瞳に取り戻しかけた光が、再び虚ろな闇に飲み込まれていく。わずかな猶予。それを逃せば、すべてが振り出しに戻る。


 セリアは息を大きく吸い込み、再びアルジェントへと意識を向けた。


 その刹那。隔離されたこの空間に、セリアは微かな違和感を感じ取った。五感が何かを感じ取った訳でない。ただ何かが皮膚をざらつかせ、逆流するように冷たい何かが撫でる感覚。


 そして、空気の密度が一瞬だけ歪んだような感覚が、背筋を走る。


 「・・・この空間、何かが・・・。」


 セリアの直感が囁き始めた。この違和感が何をもたらすのか・・・それを知る前に目の前の事態を片付ける必要がある。


 セリアは自身が感じた不可思議な気配を振り払うように力強く踏み込み、再びアルジェントに向かって一直線に駆け出した。


 アルジェントの瞳はすでに再び虚ろな闇に沈み込み、胸元では刻印脈動し、再び禍々しい触手がアルジェントの全身を浸食し始めていた。


 「・・・これで、終わらせるっ。」


 その言葉と同時に、セリアの内奥から奔流のような力が解き放たれた。第一階梯、第二階梯、第三階梯、三つのチャクラが次々と解放され、さらに三つのチャクラが連動して並行励起が実行された瞬間、爆発的なエーテルが迸る。


 白熱する奔流がセリアの全身を駆け抜け、周囲の空気が震え、轟音と共に光の波が走った。


 アルジェントの剣閃を力強く弾き返し、セリアは一気に懐へと踏み込む。掌を突き出し、刻印へと衝撃と溢れ出すエーテルを叩き込んだ。


 刹那、刻印がひび割れ、乾いた破砕音とともに、黒光が弾け飛ぶ。砕片は宙へと舞い上がり、黒色の残滓は周囲のエーテルと絡み合い白金に転じ、次第に花びらのような形を取り始める。白金に煌めく光片がひらひらと舞い降り、アルジェントの身体を包み込んでいく。


 この瞬間を狙っていたかのようにメルディナのエーテルがが膨れ上がり、再びアルジェント諸共セリアを射程に収める。だがセリアは振り返りもせず、軽く指を鳴らす。


 パチンッ。


 乾いた音がはじけた瞬間、周囲の空間に赤熱の光点が無数に生まれる。それらは次々と膨れ上がり、無数の炎弾となって一斉に放たれた。弾幕のごとき火球の雨がメルディナを覆い尽くし、迫り来る術式を強引に押し潰す。


 轟音と爆炎が後方を埋め尽くし、視界を赤く染め上げる。


 「・・・メル、お前の相手は後だっ。」


 セリアは低く言い放ち、再びアルジェントへと意識を戻した。


 「・・・。」


 セリアは息を整え、その光景を見届けた。


 光片はやがて吸い込まれるようにアルジェントの中へと消えていく。次の瞬間、精神領域に潜む制御核が軋む音を立てた。ひび割れが走り、まるでガラス細工が壊れていくように砕け散る。同時にアルジェントの身体に消えていった光片が、彼女の身体から溢れ出す。


 アルジェントの虚ろな瞳に、一瞬だけ確かな光が宿る。しかし次いで瞼が固く閉じられ、身体から力が抜け落ちていった。


 「・・・!」


 セリアは崩れ落ちるアルジェントの身体をしっかりと抱き留めた。セリアは腕の中でアルジェントの確かな重みを感じながら、彼女の顔を覗き込む。その周囲を白金に煌めく花びらが二人に降り注ぎ続けていた。


 大空洞に響く轟音のただ中、そこだけが異質な静謐(せいひつ)に包まれたかのようだった。従魔たちが円盤を打ち砕く衝撃音も、炎と雷が弾ける轟きも遠い。セリアとアルジェントの二人を取り巻くのは、まるで隔絶された一瞬の静けさ。


 その静寂を破るように、オモイカネの声が響く。


 『報告。個体名:アルジェント、制御核および刻印の完全除去を確認。精神領域に痕跡は存在せず、後遺症の懸念もありません。』


 セリアは抱きかかえる腕に力を込めた。微かに漂う髪の焦げた匂いが鼻腔をくすぐり、アルジェントの温もりを確かめるように強く。


 「・・・あぁ、わかっているさ。わかって・・・。」


 その声には、オモイカネの報告を聞くまでも無いという確信と、静かな安堵が滲んでいた。セリアは腕の中で気を失っているアルジェントを見つめ短く息を吐くと、静かに彼女を床に寝かせる。


 「ラクスッ。」


 呼びかけに応じ、頭上からひょいと小さな影が降りてくる。ずっとセリアの頭の上で振動と閃光に晒され続けていたラクスは、目を回しかけていたが、それでも健気に頷いた。


 「アルを頼むっ。」


 ラクスは小さな体をふらつかせながらも、その瞳に確かな意思を宿らせて応える。額の紅い宝石が輝くと自身とアルジェントの周囲に結界が張り巡らされる。


 セリアは静かに立ち上がり、顔を上げる。まだ宙には、先ほど放った炎弾の弾幕の余韻が漂い、濛々(もうもう)とした煙が大空洞を覆っていた。


 やがて煙がゆるやかに晴れていく。


 そこに姿を現したのは、宙に浮かぶメルディナ。彼女の周囲には巨大な魔法陣が幾重にも重なり、淡い光を放ちながら回転していた。まるで空間そのものを呑み込まんとするかのような、圧迫感のある光景だった。


 幾重にも展開された魔法陣を背負い宙に浮かぶメルディナは、セリアを見下ろしていた。意思の宿らぬその虚ろな瞳で。


 「・・・なら、私も相応に応えようっ。」


 口角がわずかに吊り上がり無意識の笑みが浮かんでいた。轟音と閃光の中、戦いの只中に身を投じることを躊躇(ためら)わない、むしろ歓喜すら滲ませる笑みだった。心臓が大きく脈打つ度に昂揚感がセリアの身体を支配し、身体の芯から求めていることを自覚する。


 セリアの足元で淡い光が膨れ上がり、次の瞬間には身体がふわりと浮き上がる。エーテルを纏う風が彼女を押し上げ、同じ高度まで一気に舞い上がった。視線が交錯した瞬間、大空洞の空気が震え、火花が散るような圧迫感が走る。


 メルディナの周囲に展開された魔法陣が輝きを増し、雷槍が幾条も形成される。宙を裂くように放たれた光槍の群れが、容赦なくセリアへと襲いかかった。セリアは片手を翻し、エーテルを一瞬にして練り上げる。セリアの背後には数十の光弾が次々と形成され、閃光の雨となって迎撃する。空中で炸裂する雷槍と光弾、衝撃の奔流が空間全体を震わせた。


 一瞬の静止。煙の隙間から互いの影を認め合う。


 口元に無意識の笑みが浮かぶ。


 「漆黒の支配者ロード・オブ・ナイトメアの名は伊達じゃないようねっ。」


 その声にメルディナ対する畏怖はなく、昂揚し純粋に戦いを愉しむ者の感情が浮かんでいた。セリアの周囲で奔流のエーテルが渦巻き、空間を震わせていく。


 セリアは自ら先手を打つ。


 一閃、無数の光弾が形成され、矢継ぎ早にメルディナへと放たれる。その速度は先ほどの迎撃とは比べ物にならず、まるで宙全体が弾幕と化したかのようだった。感情がこもらぬ虚ろな瞳をセリアに向けながら、メルディナは幾重にも展開した魔法陣を輝かせる。雷槍と氷刃が同時に編み上げられ、光弾を切り裂きながら逆流のようにセリアへ襲いかかる。


 「あぁ、いいぞメルっ。だが、その程度じゃ・・・足りないっ。」


 セリアは一切退かず、光弾の雨に続けて炎弾を編み上げる。それはセリアの意思とのタイムラグを感じさせない鮮やかな動作。光と炎が一つに混じり合い、爆炎を伴った閃光が奔流となってメルディナを飲み込もうと迫る。


 轟音が空間を揺らし、宙を満たすエーテルの波動が次々と交錯していく。爆ぜるたびに白熱の残光が尾を引き、広大な空間全体を赤白に染め上げていった。対するメルディナの周囲では幾重もの魔法陣が脈打ち、追撃の雷槍と氷刃が次々と生み出される。


 鋭い閃光が矢のように走り、炎弾を切り裂いては爆煙の渦を作り出す。


 「いいわ、メル。その調子っ!」


 セリアの口元には愉悦を纏った笑みが浮かんでいた。セリアの背後ではさらに複数の魔法陣が展開し、光弾・炎弾に加え、鋭い風刃までもが編み込まれる。


 三属性が渾然一体となり、弾幕は次第に密度と苛烈さを増していった。


 轟音、爆炎、閃光。


 視界は霞み、空間そのものが戦場の奔流に呑まれていく。


 メルディナの反撃もまた苛烈だった。雷と氷が融合し、爆ぜるたびに凍結と雷撃を同時にもたらす。その嵐がセリアの攻撃と激突し、爆炎と氷結の霧が入り混じり、宙は混沌の坩堝と化した。


 セリアは瞳を細める。視界を覆う閃光と煙、嵐のような轟音。だが、その混乱こそが、セリアが求めていた接近の糸口だった。その混沌の只中、セリアはまるで光の裂け目を縫うように宙を駆け抜けていった。


 「これでチェックメイトよ、メル!」


 爆煙を切り裂き、セリアの姿が閃光の中から飛び出す。その掌には膨大なエーテルが収束し、白炎の奔流が迸っていた。


 迫る力の奔流にメルディナの虚ろな瞳が一瞬だけ揺らぐ。刻印が強く脈打ち、幾重もの魔法陣が瞬時に反応する。


 「遅いっ!」


 セリアは一気に距離を詰め、爆発的な力で掌を刻印へと叩きつけた。瞬間、轟音を凌駕する閃光が走り、空間そのものが震え上がる。


 刻印が砕け散り、メルディナの虚ろな瞳に一瞬だけ確かな光が宿った。


 だが、その刹那。


 セリアの周囲を取り囲むように、無数の魔法陣が浮かび上がる。術式の構築は止まらず、刻印の再生と共に新たな拘束の連鎖が始まろうとしていた。展開された魔法陣から幾条もの雷光がセリアに向かって一斉に放たれる。


 雷光に穿たれるセリアの身体。しかし、セリアの身体は霧のように掻き消え、残滓すらも宙に溶け消えていった。


 「本当に・・・これで終わりよっ。」


 低く響くセリアの声が、メルディナの背後から降りかかる。振り返る間もなく、閃光が収束した《スサノヲ》の漆黒の刃がメルディナを背から貫く。


 「奥技・壱ノ型 閃牙(せんが)!」


 背中から突き入れられ刃は、そのまま精神の奥底に潜み、自我を拘束していた元凶である制御核を正確に捉える。そして胸から突き出た刃先には、ひび割れたガラス玉のような核が突き刺さっていた。そして一瞬だけ脈動し、制御核は粉々に砕け散ってく。その片は一瞬宙に散ったかと思うと、やがて掻き消えるように消失していく。


 メルディナの全身が大きく震え虚ろだった瞳にかすかな光が戻りはじめた。


 「ま、さか・・・妾に、平気で刃を、突き立てるとは・・・。」


 メルディナは一言絞り出すと、そのまま身体から力が抜け、やがて静かに瞼が閉じられていった。《スサノヲ》を引き抜いたセリアはそのままメルディナの身体を抱き留めた。


 ゆっくりと地上に降り立ったセリアに、《オモイカネ》の声が響く。


 『報告。個体名:メルディナ、制御核および刻印の完全除去を確認。精神領域に痕跡は存在せず、後遺症の懸念もありません。』


 その報告に、セリアは深く息を吐き、ようやく肩の力を抜いた。


 アルジェントの横にメルディナを静かに横たわせると、セリアは従魔たちの状況を確認するために周りを見渡す。そこには、ブリュンヒルデとランスロットが最後の一枚を斬り裂く姿が見えた。空間を覆い尽くすように出現した円盤の全てが砕け散り、残骸だけが無残に散らばっていた。


 「・・・よくやったわねっ。」


 駆け寄る従魔たちは、セリアの言葉にそれぞれが応えるように鳴き、吠え、そして静かに寄り添う。こうして激戦は、ようやく終焉を迎えた。


 セリアの下に集まった従魔たちが、いまだに目を醒まさないアルジェントとメルディナを心配そうに見守り輪を作る。横たわる二人の隣に腰を下ろしたセリアが吐息を漏らし、小さく呟く。


 「さて、ここからどうやって・・・。」


 全てを言い終わる前に、空間がわずかに震えた。床石を伝い、細かな振動がセリアの身体にも波紋のように広がり、甲高い音が耳の奥で鳴り響く。振動を感じ取った従魔たちも一斉に警戒を露わにして、セリアを守るように身構える。アルジェントとの戦闘中に一瞬だけ感じ取った違和感。それが今、現実のものとしてセリアたちを包み込みはじめる。


誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。


【読者の皆様へのお願い】

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気合を入れて妄想に妄想を重ねて執筆する原動力になります。厨二病感満載の詠唱も考えて行きます。

改めてお願いします。

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