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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第五章 王都動乱編
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第九十二羽. 愛と癒やしの拳


 Side:ヴェイン、エリー


 光が弾け、石造りの回廊に二人の姿が現れた。


 薄らと瞼を開けるヴェインの視界に広がっていたのは、見知らぬ回廊。黒ずんだ石壁に燐光の線が走り、低い天井から水滴が落ちては乾いた音を響かせる。


 「転移、か・・・。」


 状況を即座に悟り、仲間の名を呼ぼうとしたその時。


 「んまぁぁぁ、ヴェインちゃん。こんな暗い場所でダンディーおじさまと二人っきりだなんてぇ・・・運命感じちゃうわぁっ。」


 振り返った瞬間、圧迫感に息を呑む。自分よりさらに大きな影が立っていた。二メートルを優に超える巨体。金髪のツインテールを揺らし、ピンクのワンピースをまとった異様な存在感。その人物が、蠱惑的に目を細めてこちらを覗き込んでいる。


 ーーーなぜ、俺の名を・・・。


 胸の奥にざらつく違和感。忘れようとしていたあの感覚が、鮮やかに蘇る。初めて視線を向けられたときに走った、全身を駆け抜ける悪寒。獲物を見定める猛獣に睨まれたかのような感覚を・・・。そして同時に、セリアと肩を並べ、楽しげに言葉を交わしていたあの巨体の姿が脳裏に浮かぶ。抱きかかえたリュカとフレイアと共に笑っていた、艶やかで異質な存在感。


 今まさに、その笑みと視線が自分に注がれている。わざとらしく唇に指を当て、艶っぽく細めた瞳でこちらを射抜く。


 「・・・っ!」


 ヴェインは無意識に一歩下がり、石壁に肩をぶつける。喉が渇き、全身が、そして、本能が危険を訴える。


 「あらやだぁ、もしかしてぇ・・・アタシの名前知らないのねぇ?」


 巨体の人物が楽しげに目を細め、胸を張る。


 「ごめんなさいねぇ、まだちゃんと自己紹介してなかったわぁ。アタシ、エリーっていうの。よろしくね、ヴェインちゃんっ。」


 艶めいた声が回廊に響いていく。


 「あ、あぁ・・・。それと、ちゃん・・・というのはやめてくれないか・・・。」


 ヴェインは息を呑み、ただ一言を絞り出すのが精一杯だった。


 「そうねぇ、なら・・・お・じ・さ・まは、いかがかしらぁっ。」


 「・・・好きにしてくれ。」


 頭を押さえたヴェインは、顔を引きつらせながら一言返すのみだった。


 「・・・ここに留まっていても仕方がない。探索を開始しよう。」


 ヴェインがエリーをなるべく見ずに静かに告げると、隣の巨体が大げさに肩をすくめた。


 「あらん、アタシはぁ、別にここで・・・おじさまと二人っきりでも一向に構わないのよぉ?」


 ヴェインはエリーの言葉を聞かなかったことにして、回廊の奥へ歩き出した。


 その背に追いすがるように、エリーが声を張る。


 「冗談はさておきぃ、リュカちゃんとフレイアちゃんが心配だわぁ。こんなところで、のんびりしてる場合じゃないわねぇ。」


 長い脚で先を行くヴェインに軽やかに並び立った。しばし進んだ先、ヴェインが不意に立ち止まる。


 「・・・罠だ。」


 「まぁ、どんな罠かしらぁ?」


 「矢が飛び出す系統だな。壁の溝と、踏み板の位置がそう告げている。」


 エリーはつややかに笑い、腰に手を当ててみせた。


 「なら、問題ないわぁ。」


 「待て・・・。」


 ヴェインが制止するより早く、巨体が一歩踏み出す。床石が沈む感触。瞬間、左右の壁が唸りを上げ、鋭い矢が一斉に放たれた。だが放たれた矢はすべて、エリーの体に触れた途端に弾かれ、金属音を立てて床に散らばった。肌にかすり傷ひとつなく、ピンクのワンピースも乱れすらしない。


 「・・・っ。」


 ヴェインの瞳がわずかに見開かれる。


 エリーはくすくすと笑い、矢を踏み越えて振り返った。


 「ほらねぇ? 言った通りでしょ。おじさまの心配は、無用よぉ。心配してくるのは、とぉってもうれしいけどねっ。」


 矢の罠を無傷で抜けた直後、ヴェインは思わず視線を横へ流した。


 「・・・傷ひとつ無いのか。」


 「当たり前じゃなぁい。美肌は乙女の命よぉ?」


 エリーは自慢げに笑みを浮かべ、何事もなかったように鮮やかな金髪を揺らした。その時、前方の闇がざわめいた。甲高い金属音と共に、崩れた鎧をまとった骸骨たちが現れる。十体以上のスケルトン兵が、錆びた剣や槍を掲げて回廊を塞いでいた。


 ヴェインは即座に短剣を両手に抜き放ち、低く腰を落とす。


 「やれやれ、随分と賑やかな出迎えねぇ。」


 エリーは足を一歩踏み出すと、拳を軽く握り直した。


 最初の一体が槍を突き出す。ヴェインは身を沈め、刃を交差させて槍を弾き飛ばし、逆手の短剣で胴骨を断ち切る。骨片が散る音と同時に、別の骸骨が迫る。


 「まとめて粉々にしてあげるわぁっ!」


 エリーの豪腕が唸りを上げ骸骨の頭蓋を粉砕し、そのまま二体まとめて壁際に叩きつける。石壁に砕け散った骨が、乾いた音を響かせて崩れた。


 二人は互いに背を預ける形で次々と群れを薙ぎ払い、狭い回廊を突き進む。ヴェインの短剣が正確に骨の関節を断ち、エリーの豪腕が残骸を粉砕するたびに、回廊に静寂が広がっていった。骨の群れを蹴散らし、二人はなおも回廊を進む。やがて湿った石壁は途切れ、視界が開けた。


 天井は高く、壁一面に燐光の刻印が並び、冷たい青の光が床を照らしている。石畳の中央は不自然なほどに何もなく、広々とした空白が広がっていた。


 「・・・とぉっても、嫌な造りねぇ。」


 エリーがわざとらしく肩を竦める。ヴェインとエリーの二人は周囲を警戒しながら、慎重に中央へと歩を進める。二人が空間の中央に差し掛かった瞬間。


 燐光が弾け、影が床からせり上がるように伸びた。呻き声が響き、腐肉の匂いが周囲に漂う。骸骨だけではなく、朽ちた肉を纏ったゾンビや、異形の獣の影までもが次々と姿を現す。あっという間に、十数体の魔物が二人を円形に取り囲んだ。牙を剥き、錆びた刃を振りかざし、喉を鳴らす。


 「・・・囲まれたな。」


 「人気者ってツラいわねぇっ。」


 エリーはおどけた口調で言いながらも、その巨体はゆっくりと腰を落とし、両拳を構える。ヴェインは短剣を交差させ、冷ややかに敵の動きを睨んだ。


 最初の一体が飛びかかってきた。ヴェインは短剣を交差させ、刃を交差させて槍を弾き飛ばすと、胴の付け根を斜めに走らせ脊椎を断ち切り、折れるように崩れ落ちる。即座に身を翻し、逆手の刃で背後の腕を落とす。骨片と腐肉が散り、床を汚した。だが間を置かずに次の魔物が迫る。四方八方から呻き声と武器の影。ヴェインは呼吸を極限まで削ぎ落とし、正確に、無駄なく刃を走らせた。


 一方で、エリーは豪快そのものだった。


 「ほぉらぁ、まとめて・・・いらっしゃいっ!」


 巨体が回転し、繰り出した蹴りが三体をまとめて吹き飛ばす。拳を振り下ろせば、ゾンビの頭蓋は熟れた果実のように砕け、腕で弾けば骸骨の群れが一気に壁へ叩きつけられる。石壁に衝突した衝撃で粉塵が舞い、広間は土気色の煙に包まれた。それでも次から次へと影が迫り、二人を取り囲む。


 「数が多いなっ。」


 「数なんて関係ないわぁっ。求められればぁ、燃えてぇ、答えるのがぁ、このアタシッ!」


 エリーの声は戦場の喧噪の中で、なおも艶やかに響いた。一方ヴェインは黙したまま、次から次へと敵に飛びかかる。短剣の光と巨体の拳、二人の対照的な戦い方が、ただひたすら敵を削り取っていく。


 広間には骨と肉片の雨に沈み、やがて呻き声は一つ、また一つと途絶えていった。すべての魔物を斃し終えた瞬間、異様な静けさに包まれた。本来であれば、魔物は討たれた瞬間に霧散し、魔石を残して消える。


 だが、今回は違う。


 砕かれた骨も、腐った肉片も、そのまま床に転がり続けていた。ヴェインは短剣を構えたまま注意深く周囲を観察する。


 「・・・おかしいな。魔石が、一つも落ちていない・・・。」


 「ほんとねぇ。それにぃ、倒したアンデットも消えるのを拒んでるみたいねぇ。」


 エリーの声には、からかいを潜ませながらも微かな緊張が混じっていた。


 次の瞬間、足下の床が鈍く光を放つ。石畳に複雑な紋が走り、巨大な魔法陣が刻まれていく。その輝きに呼応するように、散乱した残骸がざわめいた。


 折れた腕骨が勝手に軋みを上げて動き出し、砕けた肋骨が軋んで互いに噛み合う。血で濡れた肉片がずるりと這い寄り、ぶちぶちと音を立てながら骨に貼り付いていく。まだ湿った臓器はどろりと赤黒い液体を滴らせ、腐敗臭を放ちながら頭蓋の空洞へと吸い込まれていった。


 広間に生臭い湿気が充満する。床石の上を流れる赤黒い血が魔法陣に吸い込まれ、ぬめる感触を残して消えていく。冷えた骨と温かい肉が擦れ合う、ぞわりとした嫌悪感が空気を震わせた。


 組み合わされた頭蓋が二度三度と砕け、より大きな骨格へと再構築される。肉塊が伸び縮みし、紫がかった腐敗液が滴り落ちては飛沫を散らす。その液体が足元にかかると、皮膚にざらつく冷たさが伝わるような錯覚すら覚えた。


 やがて、腐り果てた巨竜が姿を現した。翼は破れ、骨は歪み、肋骨の隙間からは赤黒い肉が脈打つように蠢いている。眼窩(がんか)の奥に、紅の燐光が灼けるように灯る。


 「・・・竜、だとっ・・・。」


 ヴェインは喉を震わせた。


 「ドラゴンゾンビ・ノクタルナ、ねぇ。」


 エリーは艶めいた笑みを浮かべながらも、拳を固く握る。


 「こんなもの作っちゃうなんて、幽都回廊・ノクタルナってホント、趣味が悪いわねぇ。」


 腐臭と圧迫感を伴う魔力の波動が広間を満たしていく。不死の巨竜が翼を広げ、広間全体を震わせる咆哮を放った。ドラゴンゾンビ・ノクタルナが眼窩(がんか)の奥を赤く燃え上がらせた瞬間、広間全体を震わせる咆哮が響き渡った。耳を裂くほどの衝撃音に、石壁が軋み、天井から破片がぱらぱらと降り注ぐ。圧迫感を伴う魔力の波動が肌を刺し、吐き出される腐臭が呼吸を奪った。


 次いで、竜の顎が大きく開く。腐り落ちた歯の隙間から、濁った緑黒の光が収束し、一気に吐き出された。灼熱でも氷結でもない、腐蝕のブレス。広間の床石がジュウと音を立てて泡立ち、赤黒い液が弾け飛んだ。


 「よけろっ!」


 二人は同時に横へ飛び退く。刹那、二人の直前を濁流のような腐蝕のブレスが薙ぎ払い、背後の石壁を融かして抉った。青白い燐光が揺らぎ、破壊の痕が禍々しく広がる。


 「ん、まぁぁっ・・・腐ってもぉ・・・竜、ってわけねぇ。」


 エリーは呟きながら、拳を握りしめる。


 「正面から殴るのは、ちょっと厄介そうねぇ。」


 ヴェインは息を吐き、冷静に敵を見据える。


 「翼は朽ちて飛べまい。だが巨体と範囲攻撃は脅威だ。俺が注意を引くっ。」


 次の瞬間、竜の尾が唸りを上げ、二人に叩きつけられようとしていた。鉄塊のような質量が横薙ぎに走り、空気を震わせる。


 「っ!」


 ヴェインは即座に床を蹴り、エリーの腕を引きながら逆方向へ飛ぶ。直後、尾が通過した空間を衝撃波が裂き、床石が粉砕されて破片が雨のように降り注いだ。転がるように着地したヴェインは、すぐに体勢を立て直し短剣を交差させる。


 「まともに受けるのは、まずいなっ」


 「あらぁ、さすがのアタシでも尻尾プレイはちょっとぉ、ご遠慮したいわねぇ。」


 エリーは豪快に笑いながらも、瞳の奥に戦意を光らせる。


 竜は振り抜いた尾を床に叩きつけ、粉塵を撒き散らしながら巨体を捻った。眼窩(がんか)の紅光が二人を射抜き、再び顎を開く。


 「また来るぞっ!」


 ヴェインは短剣を構え直し、竜の喉奥に生じる光を凝視する。


 ブレスの予兆。


 「ここはぁ、アタシに、おまかせぇっ!」


 艶やかな声とともに、エリーが構えを取る。


 「おじさまっ、腐ったブレスなんてぇ、アタシが正面からねじ伏せてみせるわぁっ!」


 竜の顎が大きく開かれ、濁った緑黒の光が喉奥で渦巻いた。腐臭を伴う風が逆巻き、床石が軋む。


 「何をしているっ、よけろっ!」


 ヴェインの叫ぶ声が響く。


 「だから言ったでしょぉ? ここはおまかせぇっ!」


 エリーは豪快に笑みを浮かべ、拳を正面へと突き出した。瞬間、吐き出された腐蝕の奔流が轟音とともに迫る。赤黒く泡立つ濁流が石を溶かしながら一直線に二人を呑み込まんとした。


 だが・・・。


 エリーの拳が空気を震わせるほどの速度で突き出される。拳と奔流が激突した刹那、轟音が反響し、広間全体が光と衝撃に包まれた。濁流は真っ二つに裂け、左右へと弾き飛ばされる。飛沫が壁を焼き、石床を爛れさせたが、二人の立つ場所だけはまるで結界に守られたかのように無傷だった。


 「ほらねぇ。アタシの拳はぁ、伊達じゃないのよぉっ!」


 エリーは肩で息をしながらも、艶めいた笑みを浮かべた。ヴェインはわずかに目を見開き、短剣を握る手に力を込める。


 「おいおいっ、嘘だろっ、竜のブレスを、しかも腐食の・・・。」


 ヴェインは目の前に立ちはだかるドラゴンゾンビ・ノクタルナよりも、得体の知れないエリーの力に脅威を覚えた。そう感じさせる圧を纏っていた。


 「おじさま、ちょっとは惚れ直したかしらぁ?」


 エリー挑発めいた声に、ヴェインは応じない。ただ、短剣を構え直し、冷や汗を滲ませた。そして、エリーに対する恐怖を振り払う。


 ヴェインの内心などお構いなしに、ドラゴンゾンビ・ノクタルナは咆哮を上げ、突如、尾を振り回し暴れ始める。石床を粉砕しながら迫る一撃に、ヴェインは素早く横へ飛ぶ。着地と同時に低く身を沈め、二本の短剣を閃かせた。狙うは竜の後脚。刃が骨の継ぎ目を正確に捉え、火花と血混じりの液体を散らす。巨体がわずかに揺らぎ、竜の体勢が崩れる。


 「いいわぁ、その隙・・・。」


 エリーが前へ躍り出る。地響きを立てて踏み込み、巨腕を大きく振りかぶると、ドラゴンゾンビ・ノクタルナの胸郭(きょうかく)へと渾身の一撃を叩き込んだ。


 轟音。


 肋骨がひしゃげ、腐肉が弾け飛ぶ。広間の空気が揺れ、巨竜の咆哮が木霊する。


 「まだ終わらないわよぉっ!」


 エリーは次々と拳を繰り出し、ヴェインはその隙を逃さず要所を切り裂く。咆哮と共にドラゴンゾンビ・ノクタルナが暴れ狂う。尾が広間を薙ぎ払い、石床を砕いて破片を撒き散らす。


 「おとなしくしなさいってぇのぉっ!」


 エリーがドラゴンゾンビ・ノクタルナの咆哮にも負けない声を張り上げ、迫る尾を真正面から受け止めた。巨体が軋み、床がひび割れる。だがエリーはびくともしない。そのまま両腕で尾を掴み上げると、獣のような気迫で地を蹴った。


 「そりゃぁぁぁぁっ!」


 エリーの筋肉が爆ぜ、ドラゴンゾンビ・ノクタルナの巨体が信じがたい勢いで宙へと振り上げられる。


 宙を舞うドラゴンゾンビ・ノクタルナ。


 「幻影奇襲(ファントム・ブリッツ)!」


 刹那、ヴェインの姿が掻き消えたかのように揺らぐ。残像が幾重にも重なり、前後左右、上下から無数のヴェインが襲いかかる。実体を帯びた残像は錯覚を超え、ドラゴンゾンビ・ノクタルナの眼窩(がんか)に、本当に複数の刺客に囲まれている、と錯覚させた。


 防御の判断が遅れるドラゴンゾンビ・ノクタルナ。


 四方八方から斬撃が奔り、ドラゴンゾンビ・ノクタルナの胸郭に幾筋もの閃光が刻まれていく。骨が砕け、腐肉が裂け、緑黒の液体が飛沫となって広間に散った。最後の一閃が十字を描くように胸を裂き、ドラゴンゾンビ・ノクタルナは地面へと叩き落とされる。


 地面に叩き落とされたドラゴンゾンビ・ノクタルナの巨体が、なおも蠢こうとした。


 その前に、エリーが一歩踏み出す。


 「アタシの愛で・・・昇天させてあげるわぁっ!」


 軽く息を吐き、正拳を突き出す。瞬間、エリーの拳から溢れるエーテルが奔流となって広がっていく。淡いピンクに染まるエーテルが真っ正面からドラゴンゾンビ・ノクタルナに直撃した瞬間、聖属性の魔法を受けたかのように効果を発揮する。骨も腐肉も光に包まれ、灼けるような音を立てながら崩れ落ちていく。紅の燐光がかき消え、ドラゴンゾンビ・ノクタルナの巨体は粉々に崩壊した。


 エリーは拳を引き、艶めいた笑みを浮かべる。


 「アタシの愛はぁ・・・全てを癒やすのよぉっ!」


 粉々に砕けた竜の残骸が、ゆっくりと光に変わって消えていった。広間に残ったのは、大きな魔石が一つだけ。先ほどまでの圧迫感が嘘のように消え、静けさが広がる。


 「・・・やったのか。それにしても、今のは・・・。」


 ヴェインは短剣を収め、深く息を吐いた。


 「んまぁぁ、やっぱりアタシの愛は最強ねぇ。おじさま、惚れても、いいのよぉ?」


 エリーは頬にかかった髪を払いつつ、艶めかしい笑みを浮かべる。ヴェインは返す言葉を飲み込み、ただ小さく首を振った。その時、広間の奥で鈍い音が響く。反対側の扉が重々しく開いていく。安堵に浸る暇もなく、新たな道が提示された。


 「・・・まだ、先があるのか。」


 ヴェインは歩み寄り、床に残された魔石を拾い上げる。冷たい輝きが、手に重みをもたらした。


 「さぁて、行きましょ。リュカちゃんたちを探さないとねぇ」


 エリーは胸を張り、迷宮の奥へ視線を向ける。その姿に小さく息を吐き、ヴェインも後を追った。こうして二人は、休む間もなく開いた扉を抜け、仲間を探す旅路へと踏み出していった。


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