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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第五章 王都動乱編
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第九十一羽. 灯す小さな灯火


 Side:リュカ、フレイア、テオドール、アヤメ


 転移の光が消え、石造りの回廊に四人の姿が現れた。


 リュカが目を丸くした。


 「わぁぁっ、なんだか、ここ、ぜんぜんさっきと違うっ!」


 フレイアも壁を指さしながら笑う。


 「見てリュカ、壁が光ってるよっ。宝物みたいっ!」


 二人のはしゃぎぶりに、アヤメは呆れ半分に小さくため息をつく。


 「子どもってのは、どんな状況でも楽しめるんだね・・・。」


 その後ろで、テオドールが小刻みに肩を震わせていた。遠くから鳴り響く金属音や断末魔に、思わず後ずさる。


 「ひっ・・・な、なんか、すごく嫌な音がするよ。ぼ、ぼく、行きたくないよ・・・。」


 フレイアが笑顔で言う。


 「大丈夫だよ、テオお兄ちゃんっ、怖くても、リュカと一緒なら平気だよっ!」


 リュカもにかっと笑って手を握る。


 「そうだよ、テオお兄ちゃん! ママが言ってたもん、ぼくらなら絶対に勝てるって!」


 アヤメは二人の言葉に小さく肩をすくめる。


 「ほんと、あんたたちは・・・。まぁ、僕がついているし、心配ないよっ。」


 テオドールは立ち止まったまま、なかなか足を動かそうとしなかった。腰が引けているテオドールをちらりと見て、アヤメが口角を上げる。


 「このまま動かないんじゃ、セリアねぇとアルねぇにこのことに言いつけるよっ!」


 その一言に、テオドールの顔が青ざめた。


 「そ、それだけは、やめてくださいっ。修行量が・・・。」


 懇願するように言うと、アヤメは無言でテオドールをじっと見つめた。数拍の沈黙のあと、テオドールは唇をかみ、うつむいたまま小さく呟く。


 「分かりました。頑張ります・・・。」


 その声を待っていたかのように、リュカとフレイアが同時にテオドールの両手を掴んだ。


 「それじゃ、行くよっ。テオお兄ちゃんっ!」


 二人は嬉しそうに声を上げ、テオドールを引きずるようにして駆け出す。慌てて体勢を立て直すテオドールの背を見て、アヤメは思わず苦笑した。


 「やれやれ、いったいどうなるのやらっ」


 そう言いつつ、彼らの後を追って走り出すアヤメ。


 回廊の奥から、魔物が群れをなして迫ってきた。牙を剥き、咆哮を上げるその姿に、普通なら恐怖に(すく)む。だが、リュカとフレイアは(ひる)むどころか、笑顔を浮かべ目を輝かせた。


 「わぁっ、いっぱい来た!」


 「リュカ、あたしの方がたくさん倒すんだからね!」


その手に瞬く光が集まり、指先から伸びたのは鋭いエーテルの爪。二人は舞うように駆け、それは幼子の細腕に余るほどの力を秘め、迫りくる魔物を爪で切り裂いていった。


 リュカが駆け抜けざまに一閃する。魔物の巨体がまるで紙細工のように裂け、血飛沫と共に崩れ落ちる。フレイアも笑い声を上げながら爪を振るい、跳びかかってきた魔物を一瞬で切り伏せた。


 「もういっちょ!」


 「えへへ、やったぁ!」


 幼い声と無邪気な笑いが、断末魔の咆哮をかき消していく。そこには恐怖も躊躇もない。ただ遊びの延長のように、彼らは敵を次々と圧倒していった。喜々として双子が魔物を倒していく中、その度に回廊をテオドールの叫び声が木霊していく。


 後方から追いかけていたアヤメが、僅かに息を呑む。


 「・・・ほんとに、すごいなっ、あの子たち。」


 その引きずられるように走るテオドールは、青ざめた顔のまま声を震わせたる。


 「た、助かるけど・・・やっぱり怖いよぉぉっ。」


 その時、アヤメの瞳が細められ、遠くを射抜くように光を宿す。


 「・・・止まってっ!」


 その声に、リュカとフレイアは即座に足を止めた。だが二人に引っ張られていたテオドールは勢いの余り、そのまま前方へと放り出されてしまう。


 「うわぁぁっっ!」


 宙へと放り出されたテオドールの視界に、巨大な影が迫った。回廊を埋めるほどの巨躯、唸りを上げて振り下ろされる腕。


 テオドールの頭が真っ白になる。死の気配が肌を刺し、息が詰まる。


 ーーー・・・ダメだ、やられる。


 その瞬間、テオドールの身体は自らの意思を超えて動いていた。突き出した右手に、滑らかに澄み切った光が流れ込む。調和の取れた美しいエーテルが、まるで導かれるように淀みなく彼の腕を走り抜け、拳に収束していった。


 次の瞬間、轟音が回廊に響き渡り、閃光が辺りを埋め尽くす。巨獣の胸部が粉砕され、断末魔の咆哮を上げて崩れ落ちた。


 崩れ落ち消えていく魔物そばで、テオドールは呆然と自らの右手を見つめていた。


 「・・・ぼ、僕が・・・?」


 「すっごぉぉいっ。テオお兄ちゃん、かっこよかったよっ!」


 フレイアがぱぁっと顔を輝かせて跳びつくように叫ぶ。


 リュカも目を丸くしていたが、すぐに満面の笑みを浮かべた。


 「ねぇ、もう一回やってみてよっ!」


 二人に無邪気に褒めちぎられ、テオドールは顔を真っ赤にしながら首をぶんぶん振った。


 「い、いや・・・僕は、そんな、無理ですっ。 もう一回なんて・・・。」


 そのやり取りを見ていたアヤメは、半眼になって肩をすくめる。


 「・・・まったく、とんでもないな。あんなに怖がってたくせに、いざとなったらこれだっ。」


 からかうように笑いながらも、その視線は真剣だった。


 「でもね、テオ。いまのは偶然なんかじゃないよ。あんたの中に、ちゃんと力があるってことさっ。」


 テオドールは小さく息を呑み、視線を落とし、微かに震える握った拳をじっと見つめる。握った右手がまだ微かに温かいことに気づき、そっと胸に押し当てた。


 テオドールは小さく息を呑み、瞼を閉じる。


 ーーーぼくの中に、力が・・・。


 鼓動と微かに残るぬくもりが重なるたび、不安を埋めるように小さな灯火がともる。


 「・・・わかりましたっ。僕・・・もう少しだけ、頑張ってみますっ。」


 呟いたその声はまだか細かったが、確かな決意を含んでいた。リュカとフレイアが手を取り合って喜ぶ。


 「やったっ! テオお兄ちゃん、がんばろっ!」


 「うんっ! これでもう安心だねっ!」


 テオドールは照れくさそうに顔をそむけながらも、心の奥にほんの少しの自信を感じていた。


 得た自信を胸に秘め、テオドールは震える手を下ろした。すぐにまた魔物の気配が迫ってくる。今までなら身をすくめていたはずのテオドールは、小さいが確かな一歩を踏み出した。


 「・・・僕だって、できるはずだ。」


 体内をまるで血液のようにエーテルが巡り、テオドールの肉体を強化する。突き出した手から奔るエーテルの光が、群れの前衛を押し退ける。それを合図にリュカとフレイアが駆け出し、爪で敵を次から次へと切り裂いていく。アヤメは後衛に徹し、正確無比な矢で三人の負担を減らしていく。


 戦いの中でテオドールの動きはまだつたなく、攻撃もぎこちなかった。だが確かに、その一撃は仲間の背を押す力となっていた。少しずつ、ほんの少しずつ、戦いに順応していき確かな経験を得ていた。


 幾度かの交戦を越え、ようやく回廊の終端が見えてくる。壁には古びた装飾が刻まれ、重厚な扉が彼らを待ち受けていた。


 「ここが・・・終わり?」


 「おっきな扉だぁっ!」


 リュカは目を輝かせ、フレイアは無邪気に声を上げた。


 アヤメは真剣な眼差しで前に進んだ。


 「気を抜かないっ。ここから先は、遊びじゃ済まないからねっ。」


 テオドールは唾を飲み込みながら頷く。


 「・・・はい。」


 四人は並び立ち、力を込めて扉を押し開けた。軋む音と共に、暗闇の向こうがゆっくりと姿を現す。開けた空間は高い天井に黒い結晶が突き出し、淡い光が不気味に揺らめいている。ただそこに立っているだけで、肌を刺すような圧迫感が全身を覆った。


 リュカが小さく息を呑む。


 「うわぁ・・・ここ、なんだかすごいっ!」


 フレイアは目を輝かせ、無邪気に笑う。


 「宝物が隠れてそうだねっ!」


 だがアヤメは前に出て、ストレージから刀を取り出す。


 「・・・違うね。ここは・・・。」


 次の瞬間、石床を震わせる轟音と共に、禍々しい気配を纏った魔物が四人の前に姿を現す。二本の角を持ち、発達した分厚い筋肉、黒い水晶のように妖しく輝く外皮、そして赤く輝く双眸が侵入者である四人を射貫く。


 アヤメが目を細める。


 「ミノタウロス・ノクタルナ・・・。」


 名を呟くと同時に、ミノタウロス・ノクタルナが自信の存在を示すように咆哮を上げた。轟音が空間を満たし、共鳴するように壁面の黒結晶が鈍く光る。


 轟く咆吼にリュカとフレイアは思わず息を呑み、身を寄せ合った。


 「リュカ・・・こわい・・・。」


 「だいじょうぶ、フレイア。ぼくらはママの子だもん・・・。」


 幽都回廊・ノクタルナに潜り、いつも賑やかな笑顔を振りまいていたリュカとフレイアが初めて怯えた表情を見せる。


 即座にミノタウロス・ノクタルナの前に躍り出たアヤメが、振り返らずに叫ぶ。


 「テオッ、二人を連れて下がってっ。ここは僕が引き受けるっ。」


 「で、でも・・・。」


 言い淀むテオドールにアヤメの厳しい一言が突き刺さる。


 「はっきり言って、邪魔になるだけっ。」


 フレイアが泣きそうな顔で頷き、テオドールの腕を掴む。


 「テオお兄ちゃん、行こ・・・。」


 テオドールは唾を飲み込み、刀を構えるアヤメを振り返った。


 「・・・わ、分かりました。アヤメさん、気を付けてくださいねっ。」


 テオドールはリュカとフレイアの手を引いて後方へと走り出す。


 「さぁって、僕が相手だっ!」


 三人が下がったのを確認すると、ミノタウロス・ノクタルナに向かって駆け出すアヤメ。アヤメの言葉に呼応するように咆哮が広間を震わせる。振り下ろされた巨躯の腕は、周囲の空気を巻き込みアヤメに迫り来る。


 巨腕が直撃する瞬間、アヤメの身体は影のように横へと滑った。床石が粉々に砕け散り、破片が弾丸のように飛び散る。


 擦違様(すれちがいざま)に放ったアヤメの一撃は、ミノタウロス・ノクタルナの脇腹に向けて淡い光の軌跡を描く。だが、黒い外皮は傷一つ付いていなかった。


 「・・・なんて堅さっ。倶利伽羅(くりから)じゃなかったら・・・折れてたよっ。」


 アヤメは刀にエーテルを流し込む。


 「だけど・・・切れない、訳じゃ無いっ。」


 刀身が炎のように紅く輝き始める。


 アヤメに向き直ったミノタウロス・ノクタルナは、更なる咆哮を上げて躍りかかる。


 迎え撃つアヤメの刀が唸りを上げ、閃光のような斬撃がミノタウロス・ノクタルナを襲う。刃には硬質の何かを断ったかのような感触がのこった。


 「これで、小さな傷を付けるだけとか・・・。」


 刃はミノタウロス・ノクタルナの肩口に僅かな傷を残すだけであった、怯むどころか逆に腕を振り上げ、鉄槌のような拳が連続でアヤメを襲う。アヤメは身を翻し、全ての攻撃を紙一重でかわしていく。かわす度に鋭い斬撃を繰り出していく。


 刃から伝わる感触に違和感を覚えたアヤメは、眉をひそめ距離を取る。


 幾度となく斬りつけたはずのミノタウロス・ノクタルナの体表には、明らかに少ない数の傷しか残っていない。しかも、その傷口は黒く硬化し、さらに分厚くなり輝きを増していた。


 「これは・・・一気に片を付けないと、まず気がするなぁ・・・。」


 アヤメは刀を構え直し、低く呟いた。


 その顔には焦りはなく、むしろ愉しげな光が浮かんでいた。


 耳をつんざくような咆哮を上げたミノタウロス・ノクタルナは、さらに強靭になった肉体を誇示するように胸を叩いた。広間全体に圧倒的な威圧感が満ち、空気が張り詰めていく。


 アヤメはもう一振りの刀を取り出す。両手に刀を握りしめると、ふくれ上がったエーテルがアヤメから溢れ出る。


 「・・・ここからが本番だよっ。」


 次の瞬間、刀身が炎に包まれた。


 紅蓮の刃が二条の軌跡を描き、広間を灼き尽くすような熱が押し寄せる。アヤメの瞳は燃え盛る火と同じ光を宿し、巨体のミノタウロス・ノクタルナを真っ直ぐに射抜く。


 紅蓮の光をまとった二刀が交差し、アヤメの姿が一瞬にして霞んだ。次の瞬間、炎の残光が幾筋も走り、巨体の周囲を取り囲む。


 「斬っ!」


 アヤメの声と共に、交錯する炎刃がミノタウロス・ノクタルナの厚い皮膚を裂いていく。咆吼を上げ、振り下ろした鉄槌で炎の軌跡を叩き潰そうとするが、空を切るばかり。アヤメの身はすでに別の角度から飛び込み、容赦なく斬撃を叩き込んでいた。だが、切り裂かれたはずの皮膚は黒く硬化し、裂傷を覆うように変質していく。攻めれば攻めるほど、相手はさらに堅牢となっていくのだ。


 「やっぱり・・・硬くなる速度が上がってきてるな・・・。」


 額に汗を浮かべながらも、アヤメの口元はわずかに笑みを刻んでいた。


 「なら・・・。」


 二刀に宿る炎がさらに燃え盛り、広間全体を赤々と染め上げていく。


 「焔刃葬灯(えんじんそうとう)


 戦場の時が静止したような一瞬、アヤメは刀を交差し、焔の残光を一点に凝縮させる。


 次の瞬間。


 アヤメの姿が掻き消え、無音の踏み込みから放たれた斬撃は、ミノタウロス・ノクタルナの懐へと吸い込まれる。両の焔刃が描く十字の軌跡は空を裂き、敵の胸に刻まれる。


 斬り終えた刹那、十字の残光が閃き、光と共に爆炎が咲き乱れた。だが、ミノタウロス・ノクタルナは咄嗟に両腕を交差させて防御していた。轟音と共に爆炎が広間を呑み込み、巨躯の両腕は焼き切れ、胸には深々と十字の傷が刻まれる。


 「・・・仕留めたっ!」


 アヤメが息を荒げながら構え直した瞬間。ミノタウロス・ノクタルナは残る力を振り絞り地を蹴り、強烈な蹴りをアヤメに向けて放つ。


 アヤメに強烈な蹴りが直撃し、一直線に壁へと叩きつけられる。


 「アヤメさんっ!」


 テオドールが叫び、必死に身を投げ出してその衝撃を受け止めた。石床に二人が転がり、鈍い痛みが全身を貫く。テオドールの身を挺した行動によって、アヤメは致命傷を免れた。


 「アヤメさんっ、大丈夫ですかっ!」


 テオドールが必死に呼びかけると、アヤメは壁際で息を荒げながらも口角を上げてみせた。


 「なんとか・・・ね。でも、助かったよ。テオは大丈夫?」


 「僕は、何ともないです。」


 その時、リュカとフレイアが涙目で駆け寄ってきた。


 「アヤメお姉ちゃん! ケガしてない!?」


 「テオお兄ちゃんもっ! もう無茶しないでよっ!」


 アヤメは二人の頭を撫で、安心させるように微笑んだ。


 「心配かけたね。でも・・・大丈夫だよ。」


 テオドールも息を整え、二人を見て小さく頷いた。


 「僕も・・・平気です。二人とも、ありがとう。」


 ひとしきり言葉を交わすと、テオドールがふと真剣な表情を浮かべた。


 「・・・僕に、ちょっと考えがあります。」


 アヤメはその眼差しを見つめ返し、わずかに視線を下ろした。テオドールの震える手がアヤメの瞳に映った。それでも、確かな決意が宿った目に、アヤメは短く息を吐く。


 「・・・留めは任せたっ。」


 アヤメは短く言い、拳を突き出した。


 「・・・はいっ!」


 テオドールは迷わず拳を合わせ、強く頷いた。


 そして小さく続ける。


 「アヤメさん・・・あの巨体を膝つかせてください。それさえできれば・・・後は、僕がやりますっ。」


 「おぉ、言ったねっ。折角の後輩の決意だ。任せてよっ!」


 アヤメは即座に刀を構え直し、烈火のごとくに駆け出していった。疾駆しながら二振りの刀に再び炎を纏わせた。赤々と燃え上がる刃が交差し、残光の軌跡が宙を裂く。


 「さぁ、立て直す暇なんて与えないよっ!」


 両腕を失った巨体は咆吼を上げ、突進とそこから繰り出される蹴りを繰り返す。石床を砕き、衝撃波のような風圧が広間を揺るがす。だが、アヤメは単調な攻撃を着実にかわしながら、刃を閃かせて的確に脚部を狙っていく。


 炎刃が太腿を打ち据え、火花と爆炎が散る。だが、厚く硬化した皮膚は容易には崩れず、斬撃は深手には至らない。それでも刃の衝撃に巨体がわずかにぐらつく。


 「まだだっ!」


 アヤメは間髪入れず体勢を低くし、全身の力とエーテルを込めて渾身の一撃を脚へと叩き込んだ。轟音と共に爆炎が弾け、巨体が大きく揺らぐ。


 床が砕け散り、広間全体が激しく震える。ついにミノタウロス・ノクタルナは膝を石床へと突き立てた。


 「テオッ!」


 「今だっ!」


 アヤメの叫びと、テオドールの小さな呟きが重なった。


 次の瞬間、テオドールの全身を濃密なエーテルが包み込む。圧縮された力が震えるほどに高まり、普段の彼からは想像もつかない輝きを放っていた。


 リュカとフレイアが息を呑む。


 「・・・テオお兄ちゃん・・・!」


 その視線を背に受け、テオドールはただひたすら前を見据える。巨体が膝をついた今、その瞬間を逃すまいと、テオドールは地を蹴った。爆ぜるような勢いで駆け出し、一直線にミノタウロス・ノクタルナへと迫っていく。


 一瞬にして巨体の懐に潜り込んだテオドールは、力強く床を踏み抜いた。


 石床が砕け、全身に反動が走る。その刹那、耳の奥にセリアの声が響くように蘇った。


 「震脚によって得られた力を、螺旋を描くように腰から肩へ伝え、最後に腕へと収束させる。同時に、全身のエーテルも同じ流れで掌に集めろっ。」


 テオドールは無意識のまま、まるでその場で手ほどきを受けているかのように正確に実行していた。腰から肩、肩から腕へ、螺旋を描くように力とエーテルが重なり合い、掌へと凝縮していく。


 「うおぉぉぉっ!」


 全身の震えを押し殺し、放たれた一撃。


 掌から放たれた力の奔流はミノタウロス・ノクタルナの体表を突き破り、その内部を隅々まで駆け巡った。硬化した皮膚すら意味をなさず、内側から伝わった力が巨体を破壊していく。轟音と共にミノタウロス・ノクタルナは絶叫を上げ、巨体がゆっくりと沈んでいく。


 その光景を見ていたアヤメの瞳が見開かれた。


 「・・・あれは、セリアねぇの技・・・。」


 信じられないものを見たかのように、アヤメはテオドールにセリアの姿を重ねていた。


 崩れ落ちたミノタウロス・ノクタルナは黒い靄となって消え去った。その場には、淡く輝く巨大な魔石だけが残されていた。


 アヤメは深く息を吐き、肩で荒い呼吸を整えながらそれを拾い上げる。


 「・・・これだけで、しばらくは生活にな困らないね。」


 冗談めかして言った声に、緊張の糸がほどけていく。


 リュカがぱっと駆け寄り、テオドールの腕にしがみつく。


 「すごかったよ! テオお兄ちゃんっ!」


 「うん! ママみたいだったっ!」


 フレイアも続ける。


 テオドールは顔を赤くし、視線を逸らした。


 「そ、そんな・・・ただ、僕は必死で・・・。」


 言葉に詰まるテオドールを、アヤメはにやりと笑って背中を軽く叩いた。


 「謙遜しないっ。あれは本物だったよ、テオッ。」


 四人は自然と笑みを交わし合う。重苦しかった広間に、久しぶりに安堵の空気が流れた。その時、背後の扉が鈍い音を立てて開き始めた。


 そこには入ってきた時とは、全く異なる光景が映し出されていた。その光景に、アヤメは慎重に目を向け、リュカとフレイアは互いに手を握り、テオドールは唾を飲み込みながらも前を見据えた。


 「みんなを探しに行こうっ。」


 テオドールの言葉に三人は頷き合い、開いた扉の向こうへと一歩を踏み出した。


誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。


【読者の皆様へのお願い】

作品を読み、少しでも「面白い」、「先が読みたいと」と感じた方は、ブックマークと評価をお願いします。

気合を入れて妄想に妄想を重ねて執筆する原動力になります。厨二病感満載の詠唱も考えて行きます。

改めてお願いします。

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