第七羽. 奴隷エルフの購入
昼食を終えたセリアは、再び応接室へと戻ってきた。ソファーへと腰を下ろすと、背にもたれ静かに息を整える。キースウッドの口から出た言葉が、セリアの頭からどうしても離れなかった。
奴隷という言葉が。
この世界に来てまだ一ヶ月、魔物だけでなく盗賊をもこの手にかけた。この点については前世での経験もあり、セリアの中でそれほど抵抗感は無かった。それでも今なお、現代日本で育んだ価値基準が大半を占めているセリアにとって、その言葉は強い違和感を伴って胸に引っかかっていた。
それが無意識のうちに、忌避感として表情に滲み出ていた。
「・・・セリア様。」
キースウッドが、静かに声をかける。
「セリア様の生まれ育った場所では、奴隷という制度は存在しませんでしたか?」
「・・・いませんでした。」
その問いに、セリアは一瞬だけ視線を落とし、短く答えた。そして、それ以上の言葉がセリアの口からは続かなかった。
その様子を察したキースウッドは、それ以上踏み込むことなく、穏やかな口調で話を切り出す。
「そうでしたか。それでは、この近辺における奴隷制度について、簡単にご説明いたしましょう。」
キースウッドは一拍置いてから説明を始める。
「この国では奴隷を扱う許可を得た奴隷商のみが奴隷を扱うことが出来ます。」
その声は静かで落ち着いていた。
「それゆえに、奴隷に対する過度な虐待や、不当な扱いは、法律によって一定の範囲ではありますが禁じられています。違反が確認された場合、奴隷商、あるいは所有者が処罰の対象となります。」
セリアはキースウッドの説明に黙って耳を傾けていた。
「また最低限の読み書き算術といった基礎的な教育は、売買の前に奴隷商が施しております。・・・言い方は良くありませんが、奴隷商も奴隷という商品にそれだけの付加価値を付けられるかを考えています。」
キースウッドは言葉を選びながら続けた。
「あと役割は様々で、戦闘を担う者、家事に従事する者、専門技術を持つ職人奴隷など、用途に応じて分かれております。」
セリアは、知らず眉を寄せていた。
惨い扱いを受け、鎖に繋がれて使い潰されている。そんなイメージを持っていたセリアにとって、その説明はとても意外な物だった。前世の世界での奴隷と比べれば、環境が雲泥の差であること。そして、管理された制度が存在することは理解できた。
それでも、人を物のように扱う発想そのものに抵抗感があるのも事実だった。
ーーー割り切らなければ、この世界では生きていけない。
そう自分に言い聞かせるように、セリアはキースウッドの説明に耳を傾け続けた。
「購入については料金さえ支払えば、どなたでも購入できます。購入時には奴隷が所有者に逆らうことが出来ないように奴隷紋が刻まれます。」
そこでキースウッドは、わずかに視線を和らげた。
「もっとも、その代わり所有者にはそれ相応の義務が発生します。衣食住の提供はもちろんですが、管理もその範疇となります。先にも申し上げたとおり、奴隷に対して惨扱いは法律で禁止されているため、違反した場合、所有者が罰せられます。」
キースウッドの奴隷についての説明が一通り終わるころには、セリアの持つ印象は当初よりも幾分良い方向へ形を変えていた。
「・・・分かりました。」
セリアは短く息を吐き、顔を上げる。
「であれば、奴隷の購入を検討したいと思います。資金については、先ほど頂いた報奨金がありますから。」
その言葉に、アインザックは満足げに頷いた。
「うむ。では、実際に見た方が早かろう。」
視線をキースウッドへ向ける。
「キース、日もまだ高い。このまま奴隷商のもとへ案内してくれ、」
「かしこまりました。」
一礼して答えるキースウッドを見ながら、セリアは静かに立ち上がった。こうしてセリアは、キースウッドの案内で奴隷商へ向かうことになった。
◇◇◇◇◇◇
キースウッドの案内で、セリアはこれまでに何軒かの奴隷商を見て回っていた。中には環境が劣悪と言わざるを得ない店もあったが、大多数は衛生的で管理も行き届いていた。
だが、セリアは何かが違う、そう感じていた。それは条件に合わないわけではない。決定的に何かが噛み合わない。
そんな感覚をずっと抱いていた。
「セリア殿、次の奴隷商に到着しました。」
その言葉に馬車を降りる。今までと同様に奴隷商であることを示す看板が掲げられ、綺麗で清潔感のある外観。見て回った中でも比較的、手入れの行き届いた部類に入る。
あと数軒、案内される予定の奴隷商は残っている。だが、この奴隷商を前にして、セリアの中の何かが囁き始めた。
それは確信めいた予感。ここで目的が達成されるという。
「・・・ここで見つかると良いのだけど。」
そう呟きながら、セリアは店内へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ。」
恭しく一礼する、男性がそこにいた。比較的背が低く小太りな男性。柔らかな物腰と、誠実そうなまなざしが第一印象。
「お客様、お初にお目にかかります。私、ネテロと申します。この店の店主をしています。当店では、各種族、老若男女、様々な目的に合わせた奴隷を取り扱っております。」
一通りの挨拶を終えると、ネテロは続けた。
「まずはお客様の要望をお伺いしてもよろしいですか?」
「性別は女性で外見は良いほうがいいかな、それと種族は人族以外でお願いします。目的は旅の同行者なので、それに耐えれる方をお願います。それと・・・もう一つ条件として口の堅い方を。」
セリアは淡々と、だが迷いなく条件を告げた。
ネテロは頷きながら、セリアの条件を手元の帳面に素早く書き留めると、すぐに一覧と付き合わせていく。すでに頭の中には何人か候補が浮かんでいる様子であった。
「・・・承知しました。それでは、ご案内致します。」
ネテロに案内され、幾つかの部屋に通された。最初に入った部屋は身なりの綺麗な女性奴隷達が並んでいた。奴隷の数としては人族が一番多く、それ以外は獣人族やエルフ族の姿も見える。
「ここにいる者たちは、没落した貴族の息女や外見が良いもの達です。身の回りの世話は出来るよう、仕込んでいますので、ご安心下さい。」
ネテロの説明を聞きながら、セリアは目の前の女性たちを鑑定していった。だが、先程の予感を満たす何かを全く感じなかった。
「・・・他にも見せて頂きたいのですがよろしいですか?」
「おや、こちらはお気に召しませんでしたか。であれば次に参りましょう。」
ネテロは条件からそういった趣味があるのだと思い、身なりの整った女性を選択するだろうと踏んでいた。だがネテロの予想は見事に外れた。
それをおくびにも出さず、ネテロは次の部屋にセリアを案内していく。
「こちらには、戦闘奴隷を取り揃えております。」
精悍な顔立ち、歴戦の兵といった風貌の者。女性の奴隷であっても体格が良く、鍛え抜かれた肉体を持つ者と様々な戦闘奴隷の姿があった。
旅を考えれば、先ほどの部屋より断然実用的だ。それでも、何かずれたピントが合わないような、そんな感覚をセリアは抱いていた。
「なにかが・・・違うような・・・」
小さく漏れたその呟きを、ネテロは聞き逃さなかった。一瞬だけ躊躇し、それでも意を決したように口を開く。
「次の部屋になりますが・・・正直全くお勧めしません。」
案内された部屋は、今まで案内された部屋とは明らかに違う雰囲気を呈していた。曲がりなりにも衛生的とは言えず、少し薄汚れた環境に力なく横たわり、虚ろな目をしている者が多くいた。
「この部屋にいるのは、当店に来た時点で回復不可能な怪我や呪いを抱えた者たちです。」
ネテロは苦い表情で続ける。
「もちろん、食事などは他の健康な者と変わらないものを用意しておりますが・・・商売としては成り立ちません。慈善事業として・・・最後を看取るつもりでおります。」
国から許可を得て仕事をしている関係上、こうした者たちが巡ってくることもある。商売として考えれば、歓迎できない存在であることは、言わずもがなだ。
それでも続けているのには理由があるのだろう。ネテロの悲痛な面持ちが物語っていた。
ネテロの話を聞きながら部屋の中を見渡していたセリアの視界に、ふと一人の女性が入った。
その瞬間だった。
今まで微妙にずれ続けていたピントが、何の前触れも無く、すっと合った。ぼやけていた像が焦点を結び、唐突に確かではっきりとした輪郭を描きだした。
説明のできない感覚に、セリアは無意識のうちにその女性から視線を離せずにいた。
「・・・この女性は?」
セリアは部屋の一番奥に横たわっている女性を指さして質問をする。
「種族はエルフだと思います。」
ネテロは少し間を置き、慎重に言葉を選ぶ。
「ただ、それ以外はよく分かりません。相当に劣悪な環境にいたようで、当商店に来た時には既にこのような状態でした。正直なところ・・・そう長くは持たないと思います。」
そう説明された女性はエルフを象徴する耳が両耳ともに欠損しており、顔も酷い火傷の痕。そして右脚と左腕も失われている。薄汚れてはいるが髪の毛は金髪、肌は色白であることが分かる。このような状況でなければ見目麗しいエルフであっただろうことは、容易に想像がついた。
それでもセリアは、このエルフの女性にすべきであると感じていた。そう直感が、セリアの中の何かがそう囁いている。
「・・・彼女の名前は、分かりますか?」
ネテロは静かに首を横に振る。
「喉が潰れていて声を発することが出来ません。そのため・・・。」
「そう・・・ですか」
短く応じながら、セリアはエルフの女性から視線を逸らさず鑑定を実行する。
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【名前】 :セフィリア・オルコット
【種族】 :エルフ
【性別】 :女性
【生年月日】:天輪歴1939年5月9日
【称号】 :なし
【スキル】 :なし
【呪い】 :虚蝕の呪い、封冠の呪い
【その他】 :ラトレア王国元近衛騎士団団長
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「・・・セフィリア・オルコット。」
呟くように発したセリアの言葉に、ネテロは首を傾げながら反応する。
「何か申されましたか?」
「あぁ、この女性の名前です。セフィリアというみたいです。」
「か、鑑定が使えるのですか? しかも名前を読み取るとは・・・」
その言葉に驚き表情を浮かべたネテロが、セリアの顔を凝視して言葉を続けた。
「当商店にも鑑定を使える者が数名おりますが、何らかの封印や呪いの影響で、名前すら分からずにいました。まぁ、鑑定の熟練度が足りないという理由もあるとは思います。それでも今までに名前すら読み取れないといったことはありませんでした。当店でもこの女性が初めてです。」
セリアは何も答えず、再びセフィリアへと視線を向けた。
確かにセフィリアには鑑定による情報漏洩を危惧してか強固な呪いがかけられていた。”封冠の呪い”は鑑定による情報表示を阻害するもの。セリアがセフィリアの鑑定を行えたのも《オモイカネ》の高度な演算処理により、阻害原因を解析したからに他ならない。この場にセリアが現れなければ、セフィリアは名前も知られずにただ朽ちていくのみ存在であった。
それよりも問題なのは、”虚蝕の呪い”。この呪いは、本人が積み上げてきた能力を徐々に蝕んで行くもの。最終的に生命力をも蝕まれ、死に至る。
セフィリアに視線を向けたまま、セリアは《オモイカネ》へと問いかける。
『《オモイカネ》、彼女を癒すことは可能か?』
『《グリモワール》に欠損部位をも回復する魔法が存在します。ただ未解析なため、今現在のマスターの魔法技量では成功確率は50%です。』
『半々といったところか・・・それでも、賭ける価値はあるか・・・。』
セリアの直感が囁いている以上、あとはそれに従うだけだった。
「ネテロさん、彼女のそばまで行ってよろしいですか?」
セフィリアを購入すると決めたが、それでも確認したいことがあるため、セリアはネテロに許可を求めた。
「構いませんが、何をなさるのですか?」
「ちょっと確認したいことがありまして。」
そう言ってセリアはセフィリアに近づき、耳元で何かを語りかけた。そして戻ってきたセリアは満足げな顔をしていた。
この一連の行動に疑問がないわけではないが、ネテロはただただ見ているだけであった。
「ネテロさん、いくらになりますか?」
ネテロのそばまで戻ってきたセリアは、値段の確認をした。
「へっ!!」
セリアのあまりに唐突な質問に、ネテロは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。まさかいつ死ぬともわからないこのエルフを選ぶとは、微塵も思っていなかった。
「お、お買いなるのですか?」
「えぇ、彼女を買います。いくらですか?」
本気なのかと問い返すネテロに対し、セリアは迷いなく答えた。その声からは、買う以外の選択肢が存在しないことがはっきり伝わってきた。
その言葉とセリアの真剣な眼差しから伝わる明確な意思。ネテロはそれを受け止め、ようやく事態を飲み込んだ。そして自分が死を看取ると誓ったセフィリアの運命を、セリアに託すことを決意した。
「値段ですが・・・金貨一枚になります。」
セフィリアの奴隷としての価値は、ほぼ無いに等しい。これまでにかかった食事代や最低限の管理費などを考えれば、それを回収するための額でしかない。あるいは、足が出ているのかもしれない。
仮に吹っ掛けられたとしても、セリアは迷わずに支払うつもりでいた。自分の直感を疑う気は全く無かった。
「わかりました。問題ありません。」
「それでは、書類などの手続きもありますので事務所までお願いします。おい、準備をしておけっ!」
セリアを事務所に促しつつ、ネテロは使用人の男達に声をかける。その声に男たちは、セフィリアを慎重に運び出していった。
運ばれて行くセフィリアの瞳は、まだ虚ろではあった。だが、ほんの僅かではあるが、当初に比べて生きる希望を抱いているように見えた。
少なくとも、セリアの瞳にはそう映った。連れていかれるセフィリアを、セリアは暫くの間目で追っていた。
「準備が整いましたら、事務所に連れてきます。それまでの間、事務所で諸手続きと諸注意について説明させていただきます。さぁ、こちらに」
最後まで看取るつもりではいた。だが、それでも買われて行くのであれば、それはそれだ。セリアの気が変わらないうち契約を済まさねばならない。ネテロは逸る気持ちを抑えながら、セリアを事務所へと案内する。
「それでは、こちらにお掛けください。」
事務所に到着すると、事務所の隅にある事務机の椅子を引きセリアに勧める。その後、ネテロは棚から二枚の書類を取り出し、必要事項を書き込んでいく。書き終えると、その二枚の書類をセリアの前に並べて置いた。
「それでは、セリア様から見て左にあるのが、契約書になります。そして右は簡単ではありますが諸々の注意事項が記載されています。契約書のこちらの箇所に名前をご記入して下さい。」
ネテロに促されて書類を覗き込むと、そこには見慣れた文字が並んでいた。そう書類は日本語で書かれていたのだ。今まで会話が成立している事に何も違和感を覚えていなかった。それでも文字が日本語であるという事実に大きな驚きと疑問がセリアの頭を過った。
ーーーやはり・・・私と同じような存在が、かなり昔からいたのだろうか。
そんな思考に沈むセリアを、ネテロは文字が書けないと勘違いをして声をかける。
「書けないようであれば、代筆いたしますが?」
「い、いえ。大丈夫です。問題なく書けます。」
生じた疑問を一旦頭の隅に押しやり、セリアは契約書に目を通し署名欄に自分の名前を記入した。次に注意事項が記載されている書類を手に取り読み始める。内容は契約者の義務や奴隷に対する暴力行為の禁止といった、キースウッドに説明された内容と同様のことが、より詳細に記載されていた。
「これで契約書については完了です。」
セリアが記入した契約書に目を通し終え、不備が無いことを確認してネテロは短く頷いた。
「準備が整うまで暫く時間がありますので、奴隷について簡単に説明いたします。注意事項にも記載がありますが、あらためて私から説明させていただきます。奴隷紋を奴隷に刻むことで、奴隷は契約主に逆らえなくなります。ただし、自害の要求や契約主による酷い暴力を加えられた場合などは、その限りではありません。奴隷には自身の命を守る権利があります。問題が発覚した場合、所有者には処罰が下ります。それと契約主は、奴隷に対して衣食住を提供する義務を負います。」
一旦言葉を区切り、ネテロがセリアに確認を取る。
「ここまでは大丈夫でしょうか?」
「はい、問題ないです。」
セリアの返答に頷き、ネテロは説明を再開する。
「次に、契約主が亡くなられた際の取り決めについてご説明いたします。今回の場合で言うと、契約主がセリア様に当たるわけですが、仮にセリア様が何らかの理由で亡くなられた場合、予め奴隷の扱いを取り決める必要がございます。例えば奴隷から解放する、といったことです。これは今すぐにというわけではないので、取り決め頂いたら再度お越しください。」
奴隷のその後については考えが及ばなかった。契約してこちらの都合で色々と付き合わせる以上、備えとしては重要な事だとセリアは心の中に留め置いた。
「これで説明を終えますが、何か疑問点などありますか?」
「いえ、大丈夫です。」
「それでは、説明を終了いたします。」
ネテロの説明が終えたところで、扉をノックする音が部屋に響いた。
「失礼します。準備が出来ましたのでお連れしました。」
入ってきたのは、先程とは異なる女性の使用人だった。彼女に抱えられたまま、セフィリアが部屋へ運ばれてくる。セフィリアを床に降ろすと、使用人は数歩下がっていった。
セフィリアはこちらに顔を向け、何かを言いたそうにしていた。喉も潰れているため、まともに話すことも出来ない。そんなセフィリアのもとに近寄り、しゃがみ込むとセリアは話かけた。
「私があなたの契約主、つまり主人になるセリアだ。」
そしてセフィリアの頬を軽く撫で立ち上がると、ネテロに向かってセリアは頷いた。
「それでは、奴隷紋の契約儀を開始します。」
そう言うと机の上に小さな魔法陣か刻まれた板と、その上には液体の入った小皿が使用人によって準備された。そしてネテロは先ほど署名した契約書をセリアに手渡した。
「ご自身の名前の箇所に血を垂らしてください。」
セリアは用意された針を指先に当て、血が滲むのを確認すると、指定の箇所に押し付けた。契約書に血がじんわりと染み込み、赤く広がっていく。
だが、暫くすると染まった色が徐々に抜けていき、血を垂らす前の状態と同じような状態へと戻っていった。そして、代わりに契約書全体が僅か光を帯び始めた。
それを確認したネテロは契約書をセリアから受け取り、魔法陣の上に置いてある小皿の上へ置いた。そして聞き取れない程の小さな声で何か呟いた。次の瞬間、契約書が突如燃え上がり、小皿の中には薄っすらと輝く液体が残っていた。
ネテロはその小皿を手に取ると、セフィリアのもとへ歩み寄る。そして小皿を傾けた。零れた液体はセフィリアの胸元に向かって落ちていく。床を濡らすことなく、全ての液体がセフィリアに吸収されていった。
次の瞬間、セフィリアが苦しみ始める。セフィリアの胸元には魔法陣が浮かび上がり、淡く脈打つように光り始める。だがそれもほどなくして魔法陣が消えると、苦しみも収まっていく。
「お疲れ様です。これで奴隷紋の契約儀は終了となります。」
セリアの方を向きネテロは契約儀の終了を告げた。
「胸元に浮かんだ魔法陣が奴隷紋となります。この奴隷紋は契約主の意思で消したり、浮かび上がらせることが出来ます。それでは最後に奴隷紋の確認を行ってください。奴隷紋の確認を要求される場合がごさいます。その際は契約主が念じれば出現させることが出来ます。ここで試してみてください。」
セリアは促されるまま、セフィリアに意識を集中し、奴隷紋が浮かび上がるように念じた。するとセフィリアの胸元に奴隷紋が浮かび上がる。再度念じると、今度はすっと消えていった。
「大丈夫なようですね。確認も終了です。それでは、金貨一枚となります。」
セリアはストレージから金貨を二枚を取り出し、ネテロに手渡した。
手渡された二枚の金貨を見て、ネテロはセリアへ問いかける。
「金貨一枚なのですが・・・?」
「それは今までセフィリアを見捨てずに面倒を見てくれたことへの、私からの礼です。サービスへの敬意だと思ってください。」
そう言って、セリアは横たわるセフィリアを抱きかかえ、店の出入り口へと向かって歩き始めた。
「またのご来店をお待ちしています。」
ネテロの声を背中に受けセリアは奴隷商をあとにした。




