巨頭
「楽器始めたぁ?」
高3の頃の友人からメッセージが来たと思えば、楽器を買ったので見に来いという。あの子は熱しやすく冷めやすい子だった。どうせまた男の影響で始めたんだろうけど、長続きしないんだろうなと思ってしまう。
何の楽器始めたの? そう返信して返ってきた答えは秘密。見てからのお楽しみらしい。写真でも撮って送ってきてくれれば一発で終わる話なのだけど、向こうも寂しいのかもしれない。別々の大学に進学してからもう4ヶ月、私も久々に会いたくなってきた。
そうしてその週末、さっそくその友人の家を訪れることにした。どうやら今は閑静な住宅街に一人暮らしをしているらしい。辺り一帯はシンと静まり返っており、車の音どころか虫の声すら聞こえない。
本当はもっと早い時間に来る予定だったのだが、バイトの都合上すっかり遅くなってしまった。それでも今の季節なら明るいうちに到着できると思っていたのだが、まさかこんなややこしい地形だったなんて。気付けばすっかり日が落ちてしまっていた。
そうは言ってもまだ午後8時、こんなに人通りがなくなるなんて。少し異常さを感じてしまう静けさだ。地図アプリを頼りに間隔の広い街灯をたどっていくと、それは居た。
なんだアレは? 人じゃない。人のシルエットじゃない。人っぽいけど人じゃない。街灯を背に黒々としたシルエットが地面から生えている。
パッと見はヤセ型の男性のようなのだが、頭が大きい。スタイルが悪いとかそんな問題じゃない。普通の人の2倍はありそうだ。まるでコケシ、いや、マッチ棒。頭が大きすぎるためか、背も結構高く見える。
ジメジメとした暑さに焦りと恐怖が加算され、一気に不快感に満たされる。足がすくんで動けない。駄目だ、涙も出てきた。
50mほどの距離を置いてしばらくソレと対峙していると、不意にソレが手をあげた。気付かれた。たぶんあれは腕だ。体のめちゃくちゃ下の方から短い短い腕が生えている。ひょこひょこと振られる手は、それだけなら可愛らしくも見えたかもしれない。でも、おぞましい異形から生えていると思うと生理的嫌悪感が凄まじい。
そして……、近づいてきた!
私は踵を返して逃げ出した。アレに追いつかれたら駄目、本能的にそう理解した。後ろを確認すると、追ってきている! 大きな頭を左右に振って、小さな小さな腕をパタパタさせて追ってきている! 鈍重に見えて結構速い!
どこをどう逃げたのかも分からないまま走っていると、行き止まりに突き当ってしまった! 胃から絶望がかけあがり吐き気を催す。ああ、こんなことならバイトなんて休んでもっと早く来ればよかった。ちがう、こんなところ来なければ良かった!
振り返らなくても足音で分かる。アイツが近づいてきている。もう大分近いのだろう。ぜはぁ、ぜはぁ、という呪いのような息遣いすら聞こえてきた。心臓が痛い。なんで私がこんな目に……。涙が止まらない。
「もー、なんで逃げんのさー」
「……へ?」
振り返れば、ギターケースを背負った友人が居た。