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岩陰の少女

「えっ?」


 上下左右、見渡す限り土だらけの地下街道に(すばる)の驚いた声が響く。と、スクーターが急にとまった。

 

「ん? どうした? って、おい!」


 フロントバスケットから声を掛けたトンボは、そのままスクーターを放り出すように走りだした昴を見て慌てて飛び立つ。


「あぁ」


 スクーターから数メートル先で立ち止まった昴が落胆の声を上げる。昴の目線の先、岩陰に隠れていたのは一人の少女だった。


「えっと、あの、どうされました?」


 気を取り直して昴が少女に声をかける。恐る恐る昴を見上げる少女はどう見ても十代前半。腰に届きそうなほどの黒髪と零れんばかりの潤んだ黒曜石の目。探していた南斗(なんしゅ)には似ても似つかない容姿に、どうして彼女だと思ったのか、と昴は心の中でため息をついた。そんな昴の気持ちを知ってか知らずか。


「お願いします! 助けてください!」


 か細い腕のどこにそんな力があったのか。少女は昴の上着のすそをしっかりと掴んで声を上げた。


「いや、私たちは先を急ぎますので」

「そこを何とか! お願いします! 立ち止まってくださったのも何かのご縁!」

「何の縁ですか!」


 少女の告げるとんでもない理屈に昴の眉間に皺が寄る。


「お願いします! あなたしかいないんです!」

「いやいや、いるでしょ! ここは複数の町に繋がる地下街道。通る人だって多いはずです!」

「立ち止まってくださったのは、あなたが初めてなんです!」

「いや、岩陰に隠れていればそうでしょうよ! 立ち止まって欲しいなら街道沿いに目立つように立たないと!」

「そんなことしたら私の外見だけに惹かれた碌でもない奴がひっかかるだけでしょ! 可愛い見た目に惹かれるだけの奴に用はないんです! 岩陰で弱っている何の役にも立たなそうな人間に声を掛けてしまうようなお人好しを待っていたんです!」

「はぁ?」


 儚げな外見とは真逆の身も蓋もない発言に昴が目を丸くする。

 

「若干貧相で愛想がありませんが、そこそこの見た目! この際、贅沢は言えません! 時間がないのでぜひ急いでいただきたい!」

「意味がわかりません! 離してください!」

「一緒に来てくれると言うまで離しません!」

「何を考えているんですか! 離しなさい!」

「い~や~!」

 

 理不尽な物言いに、でも、どこかあの迷惑極まりない少女の面影を見てしまった昴は、思わずため息をついた。


「話くらいは聞きます。だから、その手を離してください」

「もう一声!」

「おいおい、こいつ南斗(なんしゅ)より上手だぜ」


 昴の頭の上をふわふわと飛びながらトンボが言う。面白がっているような物言いに昴は今度こそ大きなため息をついた。


「あなた一人なら目的地まではお送りしましょう」

「よし、その話、乗った!」

「ですが! 名前くらい名乗ってください。私は昴、頭の上に浮かんでいるのは」

「浮かんでいるんじゃねぇよ。ホバリング! 俺の技術力の賜物だぜ。俺はトンボ。見た目もクールなら、中身もイケメン。唯一無二のドローンだ。お嬢ちゃん、アンタの名前は」

五曜(ごよう)です。クールで素敵なトンボ様、どうか蝶子(ちょうこ)姉さんを助けてください」

「要求が増えてます! 目的地に送るだけですよ!」

「ちっ、だめか」

「ははっ、こりゃ、しっかりしたお嬢ちゃんだ」


 残念そうに舌打ちする五曜にため息をつきながら昴が再度たずねる。


「で、目的地はどこなんですか?」

「P-4706です。この街道を真っすぐ行った町なのですが」


 五曜の告げた目的地に昴とトンボが顔を見合せる。


「えっ、どうかしました?」

「いえ、なんでもありません。さぁ、乗るならさっさと乗ってください」


 何事もなかったようにスクーターに向かう昴とトンボを五曜は慌てて追いかけた。サイドカーのリュックサックを背負うと五曜に乗るように促す。


「ところであなたとの蝶子さんの関係は?」


 P-4706へ向かう道すがら、ほどなくしてサイドカーに収まった五曜へ昴が声をかける。世間話でもするかのように。

 

「蝶子姉さんと私は流しの旅芸人なの。姉さんが踊り、私が歌い」


 スクーターに乗ってしまえばこっちのものと思ったのか。急に砕けた口調になった五曜の返事に昴が一瞬目を見開く。フロントバスケットの中のトンボもビクッとなる。

 まさか探していた旅芸人の片割れにこんなところで出会えるとは。

 五曜に気が付かれないよう昴は慎重に次の言葉を選んだ……つもりだったのだが。


「ところで、その蝶子さんとやらの年齢は? 髪の色は? どんな踊りですか? 以前に他の人と組んで旅をしていたことはありますか? 出会ったのはいつ?」

「下手くそか!」


 矢継ぎ早に質問する昴にトンボが思わずつっこんだ。


「えっ? 何? どういうこと?」


 狭いサイドカーの中で何とか昴から距離をとろうとする五曜。外をうかがうその姿はサイドカーから飛び降りても大丈夫か見極めているようだった。


「あぁ、ちょっと待った! お嬢ちゃん、ちゃんと説明するから、飛び降りようとすんな」

「いや、だって怪し過ぎるでしょ」

「お前が言うな!」


 五曜の言葉につっこみながら、ボケ二人かよ、とトンボが呟く。


「すみません。悟られないように自然を心掛けたのですが」

「いいよ、いいよ。昴にそこは期待してねぇからよ」


 しょんぼりする昴にそう言うとトンボは自分たちが南斗という少女を探していることをかいつまんで五曜に説明した。


「なるほどねぇ。蝶子姉さんは、その南斗さんとやらではないわね」

「そうですか」


 期待はしていなかったものの五曜の言葉に昴から落胆の声が零れる。

 

「えっと、降りよっか? 私」

「えっ? なんでです?」

「なんで、って。目的の人じゃなかったんでしょ? じゃあ、P-4706に行く必要ないじゃん」

「何を言っているんですか? あなたをP-4706に送るんでしょ?」

「ん?」


 当然のように答える昴をキョトンした顔で五曜が眺める。そしてトンボにポツリと一言。


「あのさ、昴っていつもこうなの?」

「あぁ。俺の苦労がわかるだろ」

「ちょっと、そこ、二人で私を馬鹿にしてませんか!」

「いや、そんなことねぇよ」

「うんうん。昴の気のせいだよ。それより、蝶子姉さんなら南斗さんのこと知っているかも」

「その手には乗りませんよ」


 五曜の言葉に昴が呆れたように答える。


「いやいや、本当。蝶子姉さんは私より旅芸人を長くやっているし、顔も広いから、もしかしたら知っているかもよ」

「おい、本当だろうな」


 トンボも念を押す。


「本当だって。私が嘘をつくような人間に見える? こんなに可愛いんだよ」

「お前は鏡をみたことがないのか?」


 五曜の言葉にトンボがすかさず言い返す。


「まぁ、可能性があるなら調べないわけにはいきませんね。ついでに人助けにもなるようですし」

「ついでの方がオオゴトになりそうな気がして仕方ねぇがな」

「やった~! 昴、トンボ、大好き!」

「噓だったら承知しませんからね!」


 こうしてスクーターはP-4706を目指して進むのだった。

見た目は可憐な少女なのに、いい性格した女の子ってキャラクターが好きです。

次のお話は明日公開予定です!そのつもりはないのに巻き込まれていく昴たちにお付き合いいただけたら嬉しいです!


ちなみに「『相棒バディとつむぐ物語』コンテスト」に参加中です。よければ評価や感想、お願いします!

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