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不憫な先生  作者: 中野仮菜
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1,ホームレス教師ってアリなんでしょうか

4月某日。新名古屋学園の入学式を以て、海原瑛太は正式にこの学園の教師となった。


 こんにちは!僕は海原瑛太です!ついさっき着任式を終えたばかりの23歳新任教師です!

 ちなみに今の文は、副担任として配属された2年1組の前で喋った自己紹介です。子供たちの注目の視線は熱く、緊張のあまり目がイワシばりに泳ぎます。ここで失敗するわけにはいかないと思って練習してきたのですが、やはり本番はどの練習とも違いますね。

「それじゃ、瑛太先生に質問がある人は手を挙げてください。瑛太先生、NGはなしね」

「えへへ…頑張ります…」

初っ端から僕に試練を課したこの方は、洲崎孝二先生。中2という一番大変な時期の子供たちの教育と、この上なく面倒であろう新任の指導を同時に、嫌な顔一つせず請け負うスゴい人です!スゴい人の言う事ですからNGなしの質問攻めは黙って受け入れることにしましょう!

 まぁ中学生が教師との顔合わせでする質問の筆頭と言えば「恋人はいますか!?」でしょう。やたらとハイテンションで聞いてくるこの質問が最も答えづらいヤツです。つまり裏を返せば、これさえ乗り切ってしまえばあとはヌルゲーだということ!

 さらに僕にとっては、最難関である恋人いますかでさえ愚問でした。なぜなら僕は教師になるための勉強にこれまでの人生を全BETしてきたから!色恋沙汰にまるで興味を示さず、街でイチャつくカップルに歯ぎしりすることもない。そんな努力の末に勝ち取った教員免許。こんなところで怯む僕ではないのです!さぁかかってらっしゃい中学生!

「はいじゃあ田所くん」

「よっしゃー!」

あからさまにガッツポーズをして質問権を得たことに喜ぶ男子。見るからに陽キャな、過去の僕(教室の隅で本読み耽ってた系男子)に言わせればなるべく関わりたくないタイプです。今の僕は分け隔てしない博愛主義なので陽キャを敬遠したりはしませんが。

しかしこれで飛んでくる質問は分かったも同然。彼のようなクラスの中心人物がいの一番に聞くのは恋人云々しかありません。こちらも返答を準備。さぁ来い質問!

「先生はTSモノいけますかー?」

「いません!」

おっとぉ?????????

すごく会話が嚙み合わなかった上に絶対に公衆の面前でするものじゃない話が聞こえた気がするのですが僕の幻覚でしょうか?

「こら、田所くん。TSが地雷の人がいるかもしれないでしょう。配慮大事」

なんで冷静に諭してんの洲崎先生!?日常茶飯事なのコレ!?

「え~。じゃあ擬獣化はどこまでが好きですかー?」

「コラァ!下手すりゃケモナーに砲撃されるかもしれないナイーブな話題をここで出すんじゃありません!」

「僕が二次元コンテンツ好きな前提で話進めないでもらえます!?」

「えっ…好きじゃないんですか…?」

「好きですけど!上司に性癖についてで青ざめられるってかなりのダメージですよ!?お願いですからこれ以上は…」

「あの~瑛太先生」

「ヒャッハァイ!!(返事)」

「わぁギャグ漫画でしか見たことのない奇声」

 副担任になって10分、絶賛黒歴史製造中の僕に天の助けがやってきました。呼び声のした方を見やるとわぁ美少女!えっすごい美少女、あの子のまわりだけ爽やかな風が吹いている、マイナスイオン感じる、すごいなぁあまりに顔がいいと物理的に周囲の人間を癒すようになるのか。失礼、名前を呼んでくれた女の子の顔が良すぎて少々取り乱しました。

「…?なんですか先生、私の顔に何かついてますか」

「わひゃひゃあ声もいい」

「ねぇきそら助けて私の限界オタクいる」

「てるちゃんは顔がいいからね!!」

「既にもう一体いた」

 あまりの顔の良さに脳が焼き切れてしまいましたが、改めて状況把握すると「てるちゃん」なる碧眼の美少女が「僕」こと気持ち悪い限界オタクに迫られていることについて「きそら」なる碧眼の少年に助けを求めている最中でした。きそらくんも僕と同じくてるちゃんの顔の良さを称えていたのでそれだけが救いでした。

 いやいやいやいや待って???僕新進気鋭の活力に溢れたピチピチの新人教師だよね、なに生徒の限界オタクと化してんの?

「あの、瑛太先生?大丈夫ですか?今正気に戻れば見捨てないであげますけど」

「あ、あぁ…はい…大丈夫です…」

あまりにも顔の良い美少女ことてるそらちゃんは御心の広い御方のようです。初対面で狂い出した成人男性を見限らないでいてくれるのですから。

「急に性癖トーク展開されたら狂うのも分かりますよ。かわいそうだったので助け舟出したんですけど救助できてます?」

「うん…まぁ、助かりましたかね…」

 肉体労働をした訳でもないのにゼェハァ息をつく僕を見て「なんとかなった」と判断したのか、てるそらちゃんは「それじゃあ仕切り直しで、頑張ってください」と優しく僕を突き放しました。ウエーーンさようならヨーロッパ一周助け舟クルーズ。

 しかし、教師とあらばこの程度の無茶ぶりは軽くいなせるようになっておかねば。きっと神々が僕に課した試練なのでしょう。そういうことにしておきましょう。決して先輩がなんか変な物言いしたせいでこうなったとか怒ってるわけではなく、決して。てるそらちゃんも背中を押してくれたことですし、ここら辺でちゃんとした自己紹介をしなければいけませんね。

「ん、んん…改めて、このクラスの副担任です、海原瑛太です。質問がある人は『良識の範囲内』で」

「海原せんせーい、電話が」

「なんだよもおおおぉぉぉっっっ!!!!!!」

「!?!?!?」

教室のドアからひょっこりと顔を出したのは教頭先生でした。つまり僕は先輩、いや大先輩に向かって「なんだよもおおおぉぉぉっ!!!!」と叫び散らした社会不適合者レベル999生きるセンスなし受精卵からやり直した方がいいタイプの人間ということになります。もう助けて。

「え、えと、海原先生に電話が来てて…職員室に…」

「ハァイ!!承知致しましたごめんなさぁぁい!!!!」

もうこれ以上人前にいたらダメな気がしたのでマッハで職員室に向かいます。竜巻さえ起こしそうなスピードで真新しいデスクに到着し、コードを引きちぎらんばかりの勢いで受話器を引っ掴み、

「はいこちら海原瑛太好きな野菜はくったくたのタマネギ!!」

「あ、瑛太ちゃん?すまんな、仕事中に電話しちまって」

「! その声は…大家さん?」

 電話の奥から聞こえたのは、僕に格安アパートを紹介してくれた大家さんの声。この街に来たばかりの僕を手厚くサポートしてくれた、豪快なナイスガイです。

「それで、どうしたんです?」

「あぁ、大したことじゃねぇんだけどよ」


「アンタの家、燃えちまったんだ」


 この人の「大したことじゃない」を信じた僕が悪かったのでしょうか。

「……は?」

「あぁいや、混乱するよな。よくわからんがなんか不審火で全焼しちまってな」

「全焼!?!?」

「おう。骨組みすら残ってねぇな」

 あまりの事態に本日2回目の思考回路ショートを起こしてしまいました。え、僕なんかした?国を揺るがすほどの大犯罪犯したりした?それぐらいしてないとこんな仕打ち受けないよ神々の試練どころじゃないよ。僕ここに来て1週間だよ?昨日ようやく家電の搬入が終わったんだよ?え?まさか僕がエデ〇オンの店員さんにおすすめされて買った新生活スタートパック(ホワイト)も全焼してんの?散歩ついでに寄ったスーパーで買ったちょっと高いプリンも蒸発してんの?楽しみにしてたのに?

「あ、あの、僕はこれからどこに住めば…あの、家賃高めでもいいので今日雨風凌げるところはありますか…?」

「あぁ、それについてなんだけどよ…」

もう何言われても驚かないぞ。僕は覚悟を決めて大家さんの言葉を待ちました。


「今どこにも空き部屋がねぇんだ!悪いけど、今日は野宿だな!」


驚くとか、そういう次元を超えてきました。

僕の教師生活、いや、人生は僕に別れを告げてどこかに行ってしまいました。

ふざけんなよ世界。

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