313/317
【プロット】青いインクの記憶 青春篇
埃と、微かなインクの匂いが混じり合う書斎。
古びた万年筆のペン先が、まるで渇きを癒すように、インクをゆっくりと吸い上げる。
紙の上に広がるのは、夜明け前の空よりも深く、しかし星の瞬きを秘めたような、静かなブルーブラック。
卓上のランプの頼りない光が、そのインクに宿る青の深淵を照らし出そうと揺らめいている。
彼、水島 聡は、まるで古い宝箱を開けるかのように、この万年筆を引き出しの奥から取り出した。
最後に握ったのはいつだったか。
十年？
いや、もっと前かもしれない。
軋む音と共に開いたインク瓶から漂う、甘く懐かしいインクの香りが、封印していたはずの熱い記憶を呼び覚ます。
――あの青臭く、がむしゃらだった日々。忘れたはずの、青春の残照を。
この万年筆とインクは、聡にとって単なる思い出の品ではなかった。
それは、学生時代の憧れ、夢、そして挫折の象徴。
聡が密かに、しかし太陽のように眩しく見上げていた先輩からの卒業祝い。
いつも飄々として、それでいて確かな意志を瞳に宿していた先輩。
彼がこのブルーブラックのインクで手帳に綴る言葉は、聡にとって、まだ見ぬ未来への海図そのものだった。
「いいか、聡。
ただの黒だと思うなよ。
光を求めれば、必ず青が見える。
夜空の果てにも、深海の底にも、無限の可能性が広がっているように。
これは、そういう色なんだ。
諦めない限り、道は拓ける」
